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人類、滅亡させてみました  作者: No.0
ニ章
59/66

一休み

――王城


  アルベールがモンスターを誘き寄せてから数時間後。

 もう住民達の悲鳴すら聞こえない。

 今聞こえるのは、モンスターの息遣いぐらいだ。


  ちなみに、アルベールが誘き寄せたモンスターのうち3割ほどがアルベールの支配下に入っていた。

 当然のことながら、アルベールが直接従わせているわけではない。

 彼の部下、信者の方が正確なのかもしれない。


  その彼らに、合図を出しモンスターに王都を襲わせたのだ。

 合図はあれだ。王都をはじめて襲撃した時にも使った大砲である。

 しかし、ここにいるモンスターはアルベールが意図的襲わせたモンスターの他にも7割の化け物がいる。  

 

 それらの化け物が一斉に王都へと集まったのは理由がある。

 それは、こちらも大砲に仕掛けがある。

 大砲の中にあるパウダーを仕込んでいたからだ、大砲が打ち上げ玉が散在する拍子に、そのパウダーが散らばりモンスターを引き寄せたのだ。


 無論、こんなことを一人で出来ようはずもない。

 しかし、彼には王国に数え切れぬほどの手足がいた。

 メイドから始まり、兵士に、秘書官に、貴族に、ありとあらゆるところにいた駒を使いこなし今日という日が訪れた。


  今彼がいる王城には、その一端を担った者たちが集結していた。

 そして、その中の一人。

 小汚い格好をしたどこか見に覚えのある男がいた。


  そう、彼を覚えているだろうか? 

 アルベールが王都へ向う道中にいた男である。

 馬車の中で、小汚い格好で大事そうに足と腕で抱くような形で座り込んでいたあの男である。 

 業者のおっちゃんが言っていた。


 『いやね、本当はもっといたんですがね。最近ほら、モンスターが多くて』

 あれは、この男が大事に抱きかかえていたパウダーが原因であった。

 彼、つまるところアルベールであるが、彼の計画は王都へ来る以前から始まっていたのだ。



 「ふぅ。」


  玉座に座るアルベールが一息つく中でも、飛び切り疲労困憊な一息だった。

 それは、一段落仕事を終えた時のものだったからだ。

 アルベールがこの国を、いや、この瞬間を成し遂げると誓ったその瞬間まで、必死に一人歩んで来た男の吐露そのモノだ。


  だがアルベールが目指したものは、たった一つの国を潰すといった矮小なものではない。

 彼はその軌跡の途中。

 こんな中途半端なままでは終われない。


 「久しぶりに見ましたよ、あなたのそんな顔」


  玉座に座り、目を覆うように疲労困憊な姿を晒すアルベールにそう告げた女。

 髪がふわりとしたあの女だ。

 母性を感じさせる雰囲気と、品と知性を感じさせる孤児院にいた女が優しく告げたのだ。 


 「あぁ、ミアか。俺になんかようか?」


 「……。いえ。お疲れのようでしたので、お部屋でお休みになられてはいかがですか?」


 「……。」


  アルベールは鼻から空気出し、少し鬱陶しそうに思案を巡らした。


 「なんですか?言いたいことがあるならハッキリ言ってください」


 彼女が優しく言葉を並べ、如何にも優しいお姉さん代表の佇まいでいるのにも関わらず、アルベールは相変わらず不服そうである。

 そして、アルベールは目から指を離し彼女を見る。

 すると、彼女と目が合いニコッと笑う。


 「いい加減その芝居はいつまで続けるんだ?」


 「さぁ、いつまででしょう。あなたがアルベールを辞めるまででしょうか?」


 「ほんと、勘弁してくれ。女ってやつはなんでこんなに面倒くさいんだ?私の事が嫌いなのか?」


 アルベールが彼女の目を見ながら問う。


 「私はあなたの言いつけ通りの仕事をしただけですよ。それとも、私と会話をしたいのですか?」


 アルベールは本当に面倒くさそうに彼女を見る。


 「そうですか。では、これより私は、ミランダ・レースとしてお話させていただきます。コホン」


 彼女は可愛く咳払いをすると。


 「久しいな、フェイカー。いや、フェイカーとすら呼びたくないな。ゴミムシ」


 彼女の声色は一瞬のうちに変化した。

 冷静にメイドバリに気を遣った喋り方から、低く落ち着いた声へと変わり、見下すような表情となる。  

 「ふぅ。まったく、君の男嫌いも相変わらずのようだね」


 「いい加減その言葉遣いを止めろ、不快だ」


 彼女の眼差しはより一層曇った。


 「すまない。君と違って、私はこの喋り方を十年近く使っているんだ。そう簡単には戻せない。まぁ、少しは意識して戻してはいるが」


 アルベールは肩肘を付き頬杖をし、空いている右手で難しいから諦めろとでも言いたそげに上げる。

 というのも、アルベールが証言したように彼は愚者として十年を過ごしている。

 考え方から言葉遣いまで、すべてが彼が作り出した虚像ではあったが、それは今も彼の身体に染み付いている。

 それをおいそれと捨てることなどできない。


 「……」


 「……。」


 「それで、お前が連れていたあの凡愚共はどうした?捨てたのか?駒にするのか?」


 「君が指しているのがどっちかはわからないが、あれらはすべて駒だよ」


 「で、どこにいる?」


 「?」


 「駒なのだろ?」


 「フッ。おいおい、まさかうちの駒だと思っているのかい?そんなわけがないだろう。君ほどの化け物がいるだけでも勝率は絶望的なのに、彼らをこちらに引き込んでどうする?」


 「口の聞き方には気をつけろよ。私がその気なら、この国ごとお前を吹き飛ばしてもかまわないのだぞ」


 「おぉ怖い怖い。」

 

 アルベールはそう言いながら時計を確認し、


「さてと、そろそろ時間か?」


 と、一休み終えたように肘掛けを掴み立ち上がる。


 「君も来るかい?墓参りに行くが」


 「ああ、付きやってやるとも。護衛にしろ、散歩にしろな」


 「何だ、まだ直ってなかったのか。好きな相手に理由がなきゃ相変わらず会えないのかい、君は」


 「違う。ただ……、懐かしい顔を見に行くだけだ」


 「そうかい」



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