それぞれの想い
一一古びた町一一
アルベール達は森へと向かう道中、一休みのため古びた町へと足を踏み入れていた。寂れきったがらんどうの空間からは、人の営みの痕跡が遠い昔の出来事だったことを如実に理解させる。
各々が好き勝手休憩する中で、アルベールは一つ一つ崩壊した家々を見て回った。そして、小さな町を軽く見回りまだ読めそうな本の回収などを行っていた。
だが、アルベールのお眼鏡にかなう物が小さな町で見つかることもなく、アルベールは井戸へと腰を掛けた。
「ねぇ、少しいいかしら?」
そこに話しかけてきたのは、レナだった。休憩中話しかけるのは少し気が引けたが、疲れた素振りを見せない様子を確認し話しかける。
「別に、構わないが」
そう言うと、アルベールはルートの確認をしていたであろう地図をしまうためバックを開くと、数え切れないほどの異国の本と珍妙な物をのぞかせた。
「どうかしたかい?」
「なにも」
レナはバックから覗かせた珍妙な物に視線が思わず目が惹かれた。見たことがない形状をした品々に、一体誰がどんな目的で生み出したのか想像しただけでワクワクした。
その他にも、異国の書物を解読しながら作者が込めた想いや技術を知ることがレナは比較的好きだった。
が、それについて言及するとレナの本題からそれて途方の方へと誘われる気がしてやめた。
「それでは、君の問いを聞こうか」
「ええ」
レナはここで一呼吸。緊張のせいか呼吸が少し浅くなり、少し弱々しい印象だった。
「エルフって、どういう種族なの?」
「急にどうしたんだい?」
アルベールはレナの顔が少しこわばっていることを察すると、視線を落とす。レナは両手で二の腕を掴み、少し震えていた。
自分より上位の存在に恐怖を感じていたのだろう。アルベールは自分の問いを無かったように取り下げ質問に答える。
「まあいいか。最も人間に近い見た目と体つきをしている種族であり、知識の種族と呼ばれることもある。また、他種族との交流をよしとしない文化や肌の接触を極めて拒絶する風習がある。挙げたらきりがないが、エルフにもさまざまな種類がいるなど性質的にも人間に近いものがあるな」
未知の存在と対面する恐怖を和らげるためか、なるべくわかりやすく共通点を多く伝えた。
目の前に立っているのはただの少女、レナの大人びた雰囲気と凛とした態度でついつい傭兵仲間と同じように接してしまうが、改めてか弱き少女であることを再認識する。
「実際に会ったことはあるの?」
「いや、ないが何かの書物で読んだことがある」
レナはアルベールの書物というワードに反応し、先程のバックへ視線を戻す。
そして、レナでは読めそうにない文字で書かれている本が今一度目に止まった。
「あなたの無駄に知識がある理由がなんとなくわかったわ。ありがとう」
レナは薄っすらと感づいていたことを、ここで確信へと変えたようだった。
そして、不安を解消したというよりもそれを受け入れたように思えた。
「さて、そろそろ出発でもしますか」
アルベール達は再び森へと動き出す。