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人類、滅亡させてみました  作者: No.0
一章
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女心3

一一酒場。

 先程とは打って変わって、誰一人客がいない酒場。そこに、テーブルを拭く少女が一人。ネーゼである。


「あらお客さん。また食べるの?意外に食いしん坊さんなのかな?」


 キーッと、ベニヤ板のような扉を開けるアルベールに背を向けるようにテーブルを拭くネーゼは、扉が開いたことを確認すると小動物のようにキュッとそちらへと振り向く。


「いやいや、ちょいと質問を一つね」 


 アルベールは周囲を見回し他に誰もいないことを確認したあと、ピカピカに拭かれているテーブルに遠慮し立ったまま話し始めた。


「もしかして恋のお悩み?いいよー。そのお悩み、私が取り除いてあげる」


 自信ありげに、堂々するさまにアルベールは鼻を鳴らす。


「それはありがたい。時に、君は私たちの旅についてくる気はあるのかい?」


「なになに?デートのお誘いか何か?」


「まあ似たようなものだ。」


「そうね。あなたが私をどうしても必要っていうのなら仕方なくついて行ってあげるわ」


「そうか。では、ここからが本題なのだがなぜ私達について来る気になったのかな?」


「違うよ」


「ん?」


「私達にでもないし、ついて行く気になったわけでもないよ」


「すまない。女心がわからないから来たんだ。わかりやすくしてくれると非常にありがたいのだが」


「君、私達の事もちゃんと見てないでしょ?」


 少女から出たその言葉は、アルベールにとって侵害であった。アルベールは誰であろうとけして見くびることもなければ、卑下することもない。


いつだって全身全霊で会話を望んでいたからである。


「そうかな?私は見ているつもりだけど?」


「それが駄目なんだよ。女の子が変わる原因はいつも男の子なんだから、そこを見てあげないと」


 アルベールの言葉に明るく返す少女。正直、アルベールには少女が何を言っている意味がわからなかった。


いいや、正確には意味はわかる。現に、レナがアルベールが引き起こすあらゆる事柄に影響し変化していることも理解している。


しかしながら、彼女が述べているそれはまったく違う何かを指している気がしてならなかった。


「……。」


「君、意外と鈍感じゃない?」


 沈黙し、思考を巡らせるアルベールにまたしても心外な言葉が飛んできた。鈍感……私が?


「……。」


 言葉が見つからないアルベールが黙りこくる中で、仕方なく助け舟を出す。


「君はまったく仕方がないやつだなぁ。うーん、そうだなぁ。なんて言えばわかるかな。君が見てるのは、君が知りたい部分だけなんだよ。女の子を、女の子として接してあげてないからわからないだけなんだよ。そもそも、女の子の事を同じ女の子に聞き出そうなんてちょっと無粋じゃなくって?」


「……。」


 アルベールは思わず息が漏れる。呆れと面倒の境目の感情が、図らずも滲み出たような様子だった。


「あ。今、面倒くせーなコイツって思ったでしょ?」


「いや、私は何も」


「わかるんだよ、女の子だもん」


「……。」


 根拠もなく、えらく自信アリげに答える彼女の底知れない傲慢さは、アルベールをさらに困惑させた。


しかし、彼女が放つカリスマとも呼ぶべきその空気感には思わず首を縦に振った。何より、彼女の言葉は意外にも的を得ている気がしていた。


「じゃあ、私から一つアドバイス。女の子は面倒臭いよ。特に、女の子になればなるほどね」


「……はぁ、勘弁してくれ。謎解きに来たのに、謎を増やさないでくれ」


 少し大人びた雰囲気を纏わせ、正解を告げるように言い放った彼女はとても可愛く美しかった。そして、その彼女を見ていると力が抜ける。


女心の片鱗とでも言うのか、男には到底理解できない面倒くささに頭が痛くなったからだ。ネーゼとの会話を終えてアルベールが部屋へと戻ってくると、部屋の扉が開いていることに気がつく。


アルベールは何か特別力を有しているわけではなかった。故に彼が傭兵として生き残るために身につけた能力は、戦闘とは違うところにある。 


その彼が、数分前にいた自室の部屋の違和感に気が付かないわけがなかった。アルベールは気配を完全に絶ち、扉へと指をかけ部屋の気配を探った。


しかし部屋の中から気配を感じることができなかった。常人がその行為を見れば、普通に扉を開けるまで有した時間と変わりない。


自室へと入ったアルベールは、数分前までホコリが舞う部屋とは違う空間に驚いた。ホコリ一つないとまではいかないが、ざっと部屋の掃除をしてくれたような感じだった。


どうやら、この部屋の掃除を行った人物はアルベールを理解している人間でもあるらしい。キレイすぎる部屋が苦手なアルベールのためにあえてそこそこの掃除をした形跡が見えたからだ。


さらに、アルベールはあまり自分の物を不用意に触られるのが好きではなかった。それを理解してなのだろう。


バックなどのアルベールの私物には一切触れていなかった。


「ふぅ。まったく、見かけによらず気が利くな」


 換気のために全開になっていた窓から空気を吸い込み、伸びをするように吐き出した。そして、背を窓によりかかり一息をつく。


すると、バックに見覚えのないアイテムが二つほどついていることに気がつく。一つは小包がつけられており、もう一つは手作りのお守りのような物だった。

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