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人類、滅亡させてみました  作者: No.0
一章
25/66

女心

★★★

一一次の朝、酒場兼宿屋である二階の窓から陽光が漏れ目が覚める。


 こんなに疲労感のある目覚めをしたのははじめて王都に来た時以来である。しかし、レナはそんなに悪い気分ではなかった。


それはなぜであろう?生まれて初めて心に宿った希望のせいであろうか?レナは窓の外を眺めるといつもより世界が輝いて見えた。


レナは心持ち一つでこんなに変わるものなのかと一人ベットの上でほくそ笑みながら、アルベールの手のひらで転がされてる気がしてならない現状に少し複雑であった。


朝から、いや、アルベールと出会ってから考えることが多くなった。その影響かこのところ時間がすぎるのが早い。


王都にいた頃の溜息とともに朝がきたあの日々が遠い昔のようである。当時の癖、もはや習性にも似た行動パターンを思い返すとなんとも頭が痛くなる。


なぜあの頃の自分は現状を打開しようとしなかったのか?おそらく慣れてしまっていたからだろう。良くも悪くも人間は慣れる生き物だ。


出歩く度に正門まで向かい、王都に入国する人々の顔色ばかり伺い諦めきれない少女心がまだ見ぬ英雄を探したものだ。


もしかすると、アルベールとあの日あの場所で出会ったのは運命だったのではないだろうかとまで考えてしまう。


そんな可愛らしい考察をしていると、下の酒場から声が聞こえた。時計がないこの部屋では自分が寝坊したのかさえわからない。


しかし、下から聞こえる住民達の人数からしておおよその推察はできた。寝坊したレナは焦る素振りを見せず身支度を整えると、階段を下りながら酒場を見渡す。


すると、既に酒場にはアルベールが優雅に食事を取っていた。レナはもう一度酒場を見渡すと溜息をついた。


酒場だからなのか、それとも王国から解放された影響かわからないが朝からお酒を嗜む者が多くいた。このまま空いている席に座れば違いなく絡まれる。


レナの今までの経験則から深いため息を落とすと、レナは首を振って仕方なくアルベールの向かいに座った。


すると、レナがアルベールに話しかけるより早くネーゼがちょろちょろと注文を取りに来た。


「ご注文はどうなさりますか?」


 元気に注文を取りに来るネーゼに左手を上げ、いらないと言わんばかりにあしらう。アルベールはその様子に笑みを浮かべ、レナはネーゼが苦手なのだろうと密かに納得していた。


レナはそんなアルベールが気に食わなかったのだろう。すべてを知った風なその態度と、まるで値踏みするかのような笑みに。


レナは何?とでも言いたくなる気持ちを抑えアルベールが紅茶へと手を伸ばしたタイミングで無言の抵抗とばかりに紅茶を引く。


そして、ネーゼが「かしこまりましたー」と笑顔で立ち去るのを確認すると話を切り出す。


「おはよう、よく寝れたかしら?」


「ああ、よく寝られたとも。でも、美女の添い寝か膝枕を期待していたのにそのサービスがなかったのはいただけないな」


「そう。それで?」


「そうだな。さすがに君が昨日言っていたように、今のままで王国と戦うのは無理だと確信した。そこで、南にあるという小さな森に行こうと思う」


「それ、どこ情報かしら?モンスターの生態や習性ならいざ知らず。この辺りの地理なら私の方があると思うのだけれど生憎聞いたことがないわね」


「そこの飲んだくれの親父から聞いた」


 ………。本を片手にひどく曖昧な情報を悪びれた様子もみせずあっさりと答えた。今までのレナなら怒るか呆れるかしたが、昨日のアルベールを知って無作為に怒ることできず今の今まで黙って聞いてきた。


しかし、昨日語った口から出た言葉がそれ?と文句の一つでも言いたくなったのも事実である。レナは呆れたように溜息交じりに告げた。


「とてつもなく胡散臭い情報なのだけれど?」


「そうかな?」


「そうでしょ?」


 アルベールの瞳からは確信めいた絶対の自信が見て取れた。おそらく、彼は何かを隠していた。でなければ、彼のこの顔は説明できない。


レナは短い付き合いながらもアルベールという人間がどういう人間かなんとなく理解していた。臆病にして大胆。


人々が想定する不可能を可能とし実践しながらも彼は必ずそこに希望を指し示す。差し詰め彼は英雄の導き手といったところか。


一旦頭の中で整理すると物事は良く見えるものだ。レナの中でアルベールという人間への理解度が深まったことで今までのアルベールの発言に納得した。


まだアルベールがどんな英雄を待ち望んでいるのかレナにはわからない。それでもアルベールは誰かを探し続けておりレナに何かを伝えようとしている。それだけは理解していた。


「いいわ、続けて」


「少人数ではあるが、森に暮らしている者がいると情報があったのでね。おそらくエルフだろう。気高い彼らがなぜこんな辺鄙な場所にいるのかは気になるけどね。」


 アルベールの言う通り、その僅かな情報だけでまず人間ではないことは理解できた。モンスターが蔓延る外界で人間が生き抜くことなど不可能だからだ。


仮に人間なのだとしたら、それは英雄級の存在であり仲間にできればこれ以上ない戦力である。


「まさか協力してもらおうとでも?」


「そんなところだな。それに、世間知らずの潔癖エルフに会えるかもしれないのだから行く価値はある」


「……そう。わかったわ」


 彼女はそれ以上なにも言わなかった。少し抵抗されると思っていただけにアルベールとしては拍子抜けといった感じだったがさすがに空気を読みなにも言わなかった。

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