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人類、滅亡させてみました  作者: No.0
一章

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見えない希望

一一 酒場

 アルベール達が戻った時には日が完全に沈み、殆どの者が寝床についていた。帰宅してすぐに食事をとる気にもなれなかったレナは寝室に戻り、一休み。


しかし、未だ拭い取れない吐き気と恐ろしい惨劇が脳裏を離れない。この辺りの部屋で一番いい部屋を使わせてもらっているレナの部屋は二階。


窓から見える廃墟の数々の方が数段マシだと思わせ、窓を全開に開き夜風に当たる。滅んだ国で営む酒屋の上の部屋。


そこから見える光はほとんど皆無だった。連れてきた住民達はいるが、なにぶん崩壊している国にまともな家などない。


明かりを求める方がどうにかしている。それでも、レナには何か明るい話題がほしかった。心の底まで塗りつぶされてしまう前に、ちょっとでもライトな話題が欲しくてたまらなかった。


例えそれが偽りでも、救われた命がここにあるのだと感じていたかった。そこに冷たい風が通り、レナの綺麗な髪がなびくと共に月明かりが照らされた。


光があまりないせいか、月明かりが思いのほか明るいことに感謝しつつ視線を一周。すると、破壊された噴水の前に人影が見えた。


破壊されているのだから、無論水は出ない。そこに奇妙にもたたずむ誰か。レナは少し急ぎ外へと出て、その人の元へと向う。


が、レナの歩みは遅い。王国と酒場の長距離の往復で、レナの足から悲鳴が上がっていたのだ。しかし、そんなことは詮無きこと。


それ以上に重症な精神を落ち着かせるため、無理やり前へと押し込む。謎の人物の背後を進み、呼吸を少し整え声をかける直前で、月明かりがその人物を照らした。


「どうしたんだい、レナ。そんな嬉しそうな顔を浮かべて」


 振り向きざまに声をかける謎の人物ことアルベール。レナはアルベールと理解した途端、自ら笑みが落ちたことに気づいていた。


「笑顔?笑わせないでくれる?あなたの顔を見て笑う女がいるとでも?」


 内心レナは確信していた。どんなときでも、彼ならば私を変えてくれると。


帰路につく際あまりに自分が落ち込んでいるせいで彼から語ることはなかったが、こちらから接触しさえすれば彼はいつも通りくだらない夢物語を語り聞かせるに違いないと。


レナは普段の冷静な自分を取り繕いながら、心の底から彼を欲した。『偽りでもなんでもいい。今すぐ私に希望を謳いなさい!』と。


「そんなことより、今の心境を聞こうかしら?」


 レナは自分でも驚くほどわかりやすく回答を急かし、確信を通り越して安心したようにただただ待った。


「そうだなぁ。偵察とはいえ、美女とデートはなかなかそそるものがあった。次回は、もう少し色気のあるデートを検討しよう」


 レナはこれを求めていた。例え会話が成立していなくても、今の自分を紛らわしてくれる存在を。しかし、ここでレナは欲を出した。


「あの光景を目の当たりにして、まだ狂言をのたまわるつもり?私が言っているのは、勝つ算段を思いついたのかと訊いているのよ」


 偽りでいい。希望を!私が想像もできない明るい未来を提示して!希望を聞くために、あえて絶望を口にした。


そして、絶望以上の希望を待ちわびる。しかし、アルベールはキョトンとした顔を浮かべた。数秒の沈黙ののち、やっと言っている意味を理解したかのように口を開く。


「……?ハハハハ!なるほどなるほど!まさか君は、私があの国に勝つために動いているとでも思っているのかい?」


 嘲笑が轟いた。面白可笑しく、愉快に。純粋な子供の無邪気な正論を聞き、世間を知る汚い大人が思わず吹き出してしまったかのような嘲笑。


「何を一一。」


 驚きと、戸惑いと、絶望。そして僅かな幸福。それらを含む感情が一斉に交差した。王都ヘ踏み込んで以降始めて見せた笑顔だからなのか、それとも別の理由なのか。


それを知るすべはないが、刹那の一瞬でも喜んでしまったことに酷く苛立ちを覚える。そして、その苛立ちを隠すことなく本心を探る。


「何?もしかしてあなた、私達が負けるとわかった上で戦いを挑もうとしているの?」


「当然だろ?モンスターに勝てない私達が、モンスターより強い男に勝てるわけがないだろう?」


 言われてみればその通りである。むしろ自分はなぜそんな事を必死に問いただしているのだろうか?レナは自分に思わず問いかけたくなってしまった。


本来なら『そうでしょう?人類がモンスターに勝つことは不可能だわ。』とでも言い放ち不敵な笑みを浮かべるところだが、彼女の心境は異なる。


……なぜだろう?なぜその言葉が出てこない?ようやくこのいけ好かない男との舌戦に決着がついた。王都にいた時から変わらずアルベールに説いてきた予定調和を、彼自ら口にしたのだ。


なのになぜ焦っているのは自分なのだろう?……もしかすると私は、彼に否定してほしかったのだろうか?そもそも私は、彼にこの噴水であった時に彼に何を望んだ?


確か、彼には希望を………。……………………。レナは自らが導き出した結論に納得できず途中で思考を放棄した。そして、理性と感情の整合性がうまくとれず軽いパニックを起こしながら今度はアルベールに問い投げた。


「じゃああなたは、一体何のためにこんなことをしているの!多くの者を騙し、こんなところまで何のために連れてきたの!?」


 レナは余計にわからなくなる。誰よりも現実を見ていた自分が、誰よりも絵空事をのたまわる男に現実を突きつけられたことで。


だが、よい機会だとも感じていた。普段こんなことを聞こうにも、彼が素直に答えるはずがない。おそらく、このあとの彼の言葉からは彼の本心。また、彼の理想が詰まっているのだろう。レナは王に敬服する臣下が如く静かに傾聴した。


「『英雄を見つけるためだ』」


「英雄……?」


「……ああ、そうだ。君の言うとおり、今の我々にあの男に勝てる道理はない。だが一一あの男が見せたのは絶望だけじゃない。人類がモンスターを、竜をも超える事ができるという希望。我々が想像もしていなかった現実を彼が示したのならば、我々の中にも彼を超える者がいるという証明」


 レナの腹の底から怒りが湧き上がる。何を言うかと思えば、口から出るのは虚言妄言の類い。そんな僅かな可能性のために、一体何人の人間を殺すつもりなのだろうかと。


「それこそが狂言だと言っているのよ!!あの男がモンスターより強いから何だっていいたいの!それはあの男が特別なだけ!皆が彼のようになることは不可能だわ!」


 アルベールは失笑し、呆れたように肩を竦める。


「だから諦めるのか?あの男がモンスターより強いのは特別だから、だから勝てないと言いたいのか?まったく、これだから人類ってやつは」


 ここでため息を一つつき、続ける。


「断定に予測。そんなくだらない事をお前らはしてるから人類はここまで追い詰められるんだ。なぜ信じない?なぜ挑戦をしない?君は見たはずだ。人間がモンスターを狩り殺すところを。暴力を得意とするものを、暴力を以て粉砕した人類を。勝てるはずがない?負けるかもしれない?それも結構。いつか勝てる誰かをなぜ探そうとは考えない。生きるために、死なないために、自分ができることはなんだ?なぜそこまで思考が届かない?……まったく、だからお前らは滅びるんだ」


「一一ッ。」


 血に染まった手、古き記憶がレナを縛る。彼女とてまだ少女。絵物語に登場する勇者様が現れて、不幸な自分を救ってくれないかと。そう遠くない記憶が願った時期があった。しかし彼女には見えすぎた


―――人の心が。業が深い貴族達の陰惨な計画から、騎士道精神にかけた愚かなオスの執着まで。彼女はあまりに多くのものが見えすぎた。


その彼女が世界を知った日、悟ってしまった。人類は滅びると。小さな領土を求め争う貴族達の無能さと、戦うべき敵を己で見定められぬ愚かさを知った彼女は人類に絶望した。それなのに、この男は違う。一人で世界をつくり替えようとしていた。


世界を知らせ、人類の可能性を提示し、英雄を作り上げようとしている。先が見えない見果てぬ夢。それを一人で始めたこの男、知れば知るほど壊れていた。


「だが私は嬉しい。勝てないと諦めていた君が、勝つ手段を模索しているのだから」


「なっ!?それは」


 レナは思わず動揺を見せた。考えればそのとおりであった。でなければ、アルベールの行動に怒りなど湧くはずもない。その様子を見て不敵に笑う。


「ようは実績が欲しいのさ!まだ諦めていないという実績が。ここにいる者が高みへたどり着けなくても、その可能性があるというね」


 やはりこの男はイカれていた。目の前の数千人を犠牲にして、まだ見ぬ英雄を探そうというのだから。


おそらく彼は信じたのだろう。『いつの日か、誰かが人類を救ってくれると。』そして気づいてしまった。数千の凡人の命より、たった一人の英雄にこそ価値があると。


「はぁ……もういいわ」


 彼女はそれ以上何も言わなかった。これ以上彼と話したくなかったのか、それとも否定したくなかったのかはわからない。


ただ一つわかるとすれば、彼の行動により一人の少女が変わりつつあるということだけだった。

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