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人類、滅亡させてみました  作者: No.0
一章
22/66

最強3

「さすが王国の守り神!」


「我らの救世主!」


「ドン!ドン!!ドン!!!」


「何!?何が起きているの!?」


 状況を把握できていないレナの目に映ったのは、モンスターをねじ伏せる男の姿だった。


全身を鎧で覆い、大剣を指揮棒のように軽々振い剛腕から振り下ろされる度に事態は一変する。


ありえるのか?レナは思わず自分の目を疑った。相手はモンスター。人間が勝てるはずがない……。


いや、勝っていいはずがない。それは理から逸脱する行為だ。ましてや、暴力でモンスターを上回ることができるのが驚きだ。


知略で、戦術で、魔法で、人間が勝てる手段を根本から外れていた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 だが、さすがはモンスター。生存本能とでもいうのだろう。兵達が落とした大剣を振り上げ、奇声気味に上げた声とともに渾身の一撃を鎧の男に振るう。


「グァァァァァァァァァァァ!?」


「違うな。こいつも違う」


 角が一本生えたゴリラのようなモンスターの攻撃を意図も簡単に受け止めると、握力だけで大剣を握りつぶす。


そのままモンスターに睨みを利かせ、ゆっくりと距離をつめる。


「グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ………!」


 モンスターが怖じ気づき、ニ、三後退りする。


「凄まじいな、モンスターが恐怖を感じている」


 おそらくではあるが、この男が初めてだろう。モンスターに恐怖を抱かせたのは。


「構えろ。知能も理性もないお前らが、恐怖を感じてどうする。今まで、散々鏖殺してきたのだろう?」


「グッ…!グアアァァァァァァア!!」


 モンスターは角を突き出し、手を地面につけ軽く地面を蹴る。その後、鼻息をフン!とつくと「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」と唸り声を上げ突進する。


が、それをたった一刀で斬り伏せる。戦闘とは思えないほどあっさりとした決着した。それをきっかけにモンスターにも恐怖が伝線した。


しかし悲しきかな。彼らはモンスター、意思の疎通は勿論のこと命乞いの手段すら持ち合わせていない。


彼らは生まれて初めて抱いたであろう恐怖に呑み込まれながら、血の雨が降り続く処刑台を待つことになる。


これはある種英雄の一つの在り方であった。モンスター達には恐怖を与え、兵士達からは憧憬の眼差しを集める。


絶対たる羨望の勇者になれずとも絶対の強者として存在していた。


「強い……強すぎる!?」


 その常軌を逸するほどの強さにレナが驚愕していると、ここで疑問が浮かぶ。なぜ王都はこの男の存在を隠しているのか?


だが、その疑問は簡単には解けた。彼は英雄の器ではなかったのだ。


この国に勝利をもたらすために殺すのではなく、もしてや英雄になるためでもない。ただ、目の前にいる誰かとひたすらに戦うことを願うただの狂戦士にすぎなかったからだ。


一つ謎が解けるとそれに続いて新たな謎が現れた。モンスターを凌駕する男がいて、なぜ住民達は生贄にする必要があるのか。


芋づる式に出てきた謎ではあったが、こちらもすぐに謎が解ける。王国側をよく見ると、明らかに兵士ではない者たちがあちらこちらに存在した。


「これが平和の正体か?」 


 アルベールの一言に、レナはアルベールの目線を追った。すると、またしてもレナは自分の目を疑うことになる。


王国兵とモンスターが繰り広げ戦場の後方。丁度モンスターの背後をとったところに一般人が横一列に並んでいたのだ。


そしてそのさらに後方に王国兵が何やら奇怪なアイテム片手に待機していた。


「アルベールあれは………。」


「ああ。あれが生贄の用途。そして、彼らの選択なのだろう。」


「…………。」


「目を逸らすなよ。これが彼らの生き様だ。そして、君があの国で生きながらえてきた正体にして君たちのだ」


 …………………。罪………。そう、確かに罪なのかも知れない。どんなに善人を演じようと、あの国に住み恩恵を受けてしまったレナにもその一端はある。


常人が曖昧にして、言い訳をして慰め合い責任転換をする中アルベールは断言した。


『罪』であると。そしてその言葉を唯一この男だけが口にする権利がある。


誰もが敬服する王にたてつき、この国の人々に手を差し伸べた。その彼が偽善者を演じていたレナに断言した。


『罪であると。』レナをはじめ多くの者がこのイカれた男を道化だと嘲笑った事だろう。しかし、真の道化はどちらであろうか?『死んだように服従し、命を浪費する者』と、『不可能を可能とし常に挑み続ける者』と。


もしかすると、アルベールの普段おちゃらけているあの態度は道化などではなく。生存をあきらめた者達への嘲笑だったのではないだろうか?


レナは嫌な真実が見えたことに若干の恐怖を感じながらもう一度戦場に集中する。


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