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人類、滅亡させてみました  作者: No.0
一章
2/66

格差

★★★

 アルベール達が村をあとにして数時間後、彼らは馬車に揺られていた。傭兵である彼らだが、その力を頼る者はあとを絶たない。


彼らの次の雇い主、名前どころか素性すらろくにわからないが彼らに断ることなどできなかった。生活がかかっているからだ。


それに、雇い主の正体がわからないなど今更だった。貴族たちから他の貴族の暗殺依頼など、匿名で依頼されることはごく普通に行われていたからだ。


彼らが向う地一一プレリアス王国。数多の種族の侵略を退けてきた強国であり人類の最後の砦とまで謳われる国である。


「あー、まだ着かねぇのかよー」


 馬を操る業者のおっちゃんと、その後ろから顔を出すアルベールの更に後でぼやく女が一人。彼女の名前はセレン。


細身でスレンダーな体つきだが、程よく筋肉がついている少女。髪を後ろで束ね、軽いパーマがかかっているのが特徴だ。歳は17歳、身長は165センチとちょっとくらいありそうだ。


発言と態度は完全におっさんだが、それに似つかわしくない綺麗な顔をしている。アルベールの部隊では、近距離を担当している。


「静かにしなよ。お客は僕らだけじゃないんだから」


 セレンに反応した男、名前はカゲミツ。アルベールの部隊の魔法使いである。歳は18歳の身長は172センチくらいの男性。涼し気な顔に、若干の気だるそうな顔をしたイケメン。


 「そうですよ。私達はただでさえ人気がないんですから、不用意に目立つことはしないほうがいいですよ」


 肩にかかるかかからないくらいの髪の女性。名はフィナ。身長は164センチくらいで、黒いローブを纏った気品のある女性。彼女のミステリアスな風貌と、気品漂う所作からは育ちの良さを感じさせる。


「何だよフィナまで」


 セレンは『はぁ』っと少し大きめのため息をつき大人しく外を眺める。そんな会話を背中越しに聞きながら、アルベールは業者のおっちゃんと会話を続けていた。


「客少なくないか?それとも、いつもこんなもんなのかい?」


 アルベールは顔だけを後ろに向け、自分たちを除く二人の客へと視線を向ける。一人はどこかの貴族だと思われる男。


服装から指にはめられた小物の細部まで貴族としての矜持が行き届いており、一つ何かしらのアイテムだけでアルベール一行の総額を上回っていそうだ。


もう一人の男は、短めのマントを羽織り、深くフードを被って項垂れていた。貴族とは打って変わって小汚い格好をし、両手両足で抱えるように汚いズタ袋を大事そうにしていた。


「いやね、本当はもっといたんですがね。最近ほら、モンスターが多くて」


 業者のおっちゃんは明るくフラットに話したが、間接的な情報しか寄越さなかった。まるで、それで十分わかるだろ?と言わんばかりに。


「モンスターが多いと客が減るのかい?」


 アルベールの中で嫌な考えが巡った。しかし、あえてアルベールはとぼけっ面で問う。


「ええ、まぁ……。」


 少し罰が悪そうに答えた。おっちゃんはそろりとアルベールへと視線を向け様子を伺ったが、何やらアルベールが納得いかなそうにしている事を察し続けた。


「お客さん、乗るときお金払ったでしょ?」


「あぁ」


「あれ、実は半分しかもらってないんですよ」


「ほう。してわけは?」


「半分は乗車料金。残りは成功報酬みたいな感じですかね」


 業者のおっちゃんはやけに的確に答えた。動揺こそあったものの、聞かれたことに素直に答えてくれた。


そして、少し憐憫めいた目つきでアルベールをハンチング帽の下で覗き込んでいた。


一一「ちょっと!危ないでしょ!何考えてるの!」


 アルベールが乗る馬車にいささか微妙な空気が漂い始めた頃、突如女性の声が響き渡る。


「何だ!どこからだ!」


 後ろでセレンが立ち上がり、彼女が持つ双刃刀ではなく足につけたダガーナイフを抜き出した。


「あぁ、ありゃだめだ」


 馬車にいる中で最も早く声の主に気がついた業者のおっちゃんがそう告げた。続いてアルベールがその業者のおっちゃんが向けた視線を確認すると、トカゲ型のモンスターが数十匹単位で右斜め前を走る馬車を追撃していた。それを確認した業者のおっちゃんは、左へと寄せる。


「ねえ!何考えてるの!モンスターが来てるのよ!何でこんなことするのよ!お願い!お願いだから!」


 アルベールは数秒理解に苦しんだが、今も叫ぶ女性の状況が何よりもその状況を説明していた。隣の馬車では、一人の女性を他の客が落とそうとしていたからだ。


「何だ……………、あれ?」


 後ろでセレンも見たのだろう。すぐ近くで行われている人ならざる行為を。カゲミツはアルベールを一瞬見て、微動だにしないことを確認するとセレンの肩に手を置いた。


フィナは下を俯き、貴族は耳を塞ぎ目を見開いていた。セレンは歯を食いしばり、左手で馬車の幌骨を力強く握りしめた。


「待って……………………お願い!助けて………………」


「うるさいんだよ!」


「お前が囮になるんだよ!」


「何!?ちょっと!やめてよ!ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」


 抵抗し、必死に懇願する彼女であったが、ついに外へと突き落とされた。モンスター達は女性にむらがりグチャグチャと喰い荒らされていた。


アルベールをはじめとする馬車に乗る者たちも何も言わなかった。王都行きの馬車がこの馬車内でも行われていたのならば、アルベール達の乗っている馬車の人数が少ないのも納得だ。


アルベールは女性が突き落とされた馬車が逃げおおせるのを確認し、ため息に限りなく近い吐息を吐き出す。


 そして、アルベールと業者のおっちゃんとで話していた会話以上に深妙な空気が漂う中で。


「どうやら、あの人が囮だったようですね」


 少しでも場の空気を和ませようとしたのか、業者のおっちゃんは会話を続ける。 


「お客さんはまったく運がいい。あのモンスター達がこちらに来ていたら、次はお客が飛び降りることになっていましたよ」


 アルベールはおっちゃんの話を話半分に聞き、その発言に苛立たせているであろう仲間達を一瞥した。


また、逃げ延びた馬車へ視線を向けると彼らはなんとハイタッチしているのが見えた。おそらくあれも貴族達だった。歪んでいる彼らに今更呆れすら出ない。


他種族、または同じ貴族同士で行われる小競り合いで奪われた土地の八つ当たりに住民達をイタブリ遊んでいる事を知っているアルベールには、今更のことであった。


 そして、その類いの者たちばかり乗せているこの業者もそれに毒されてこの発言が出てしまったのだろうと理解した。


唯一救いだったのが、同じ貴族でありながら今も恐怖で身を震わせている貴族の男が、あの悪行に愉悦を得ていないことだった。


「何だ?次に飛び降り人間はもう決まっているのか?」


「ええ、さっきの話を覚えてますかい?乗車料金のやつ。あれ、料金はだいたい多めに支払うんですよ。自分が囮にならないように」


「なるほど。つまり、金が無い平民から死んでいくのは道理ってことか?」


「まぁ、いいたくないですがね」

お読み頂き、ありがとうございます。


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