虐殺
生きたまま喰われる者はグシャグシャと自分が喰われる音を聞きながら絶命し、またある者は内側だけをドロドロに溶かされジュースの要領にチューチューと吸われる。
そう一一誰の目から見ても明らかなほど、人類はモンスターに蹂躙された。引き裂かれ、潰され、喰われる。
まるで食物連鎖を見ているようだった。この場でいた全員が同じ恐怖に染まったが、一人驚きの表情を浮かべた。
「あれれー、おかしいぞー!?なんで人間のピンチなのに、神々は現れないんだ?」
バカにしたように、それでいて愉しそうに煽る。
「そうだ!いつ来るんだ!」
「我々を守ってくれるのではなかったのですか!?」
アルベールの言葉に続き、住民達も王に助けを求めた。
この状況においてなお、王に何を期待しているのか知らないが彼らにはそれしかなかった。
「……っ!?」
先程まで誇らしげに語っていた男はどこへやら?とでも言いたくなるど、王の心中は穏やかじゃなかった。
歯を食いしばり、ギシギシと音を立てていた。数百年続いた王国が衰退の一途を辿る中、自分の手で最盛期へと導いた自分が一一この国を潰す?ありえない。
あってはならない。そうやって自問自答していると。その様子を見て嘲笑し、トドメでもさすかのように質問をする。
「どうしました?顔色が悪いですよ。そうそう。私の記憶が正しければ、今日は何でも答えてくださる日ではなかったのですか?皆は待っていますよ、王の言葉を」
アルベールは王を見上げているのにも関わらず、まるで俯瞰しているようだった。諧謔にしてはたちが悪い。己が命が危機に瀕してなお、安全圏から見下ろす王を煽る。正しく愚者の所業。ヘラヘラと、次の手をこまねく王を肴に冷笑する。
「きーーーーーさーーーーーまーーーーーっ!!」
王としての自負があった。常に最善の手を探し、王国が崩壊しないように立ち回りつつ貴族達への牽制もけして緩めなることはなかった。
優秀な者なら平民だって取り立てここまで来た。そうやって推し進め、ここまで成し遂げて来た。
それなのに、どこでしくじった?何を間違えた?国民をはじめとするすべての者達から、畏怖と敬意を集めた自分が今向けられている視線の正体はなんだ?
打つ手が見当たらない現状を前に、これまでの行いが頭を巡る。そこに投げつけられた嫌がらせ以外の何ものでもない問いが決壊させた。
「全兵に告ぐ!この私を全力で護れ!住民達{お前達}もせめて!戦えないのなら肉壁として護って見せろ!」
住民達はもちろん。兵達でさえ動揺を見せた。稀代の謀略家として名を馳せた王から放たれた一命は、それを狂信した住民達を絶望へと突き落とす。
何も神々など本当に信じていたわけではない。ただ、王としてのあり方。彼が取る一手一手が、この国の最盛期へと導いたその手腕を信じていた。
だからこそ、この状況もどうにかしてくれるのではないか?そんな甘い希望にすがっていた。
「さて、仕上げと行こうか」
アルベールは再び手を掲げると、自分を中心とした半球状の雷の檻を作り出した。しかし、誰も彼がやっていることに気づかない。魔法そのものを拒絶してきた彼らに、それを感じとるすべがないからである。




