表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

『貴女』に全てを捧げたい

最初の違和感は、淀みなく流れる魔力の動きを見た時だった。


「………彼女が、噂の?」

「え?………ああ!そうですわ!先日、浮浪児から伯爵家の養子になったという聖女ですわね。確か名前は、イリス?だったかしら」

「イリス……あれが、聖女」

「そうですわ……レイド様もお可哀そうに、()()()()が聖女などと呼ばれて仕えなくてはならないなど、不快ですわよね……よろしければわたくしがお父様にお願いして」

「失礼、用事があるので………それと、淑女でありたいならそのような行為はやめたほうが良い。少々下品に感じる」

「なっ………!」


……自分よりも二つも年下の少女が、あれ程の力を既に身につけているなどどのような経験をしてきたのだろうか……

不安、心配、好奇心、様々な思いが胸に渦巻いている。


(今回の件は元々護衛も兼ねている……少し様子を見るか)


勝手に聖女に期待をして、これまた勝手に裏切られたと感じるのはすぐだった。

同年代の王子や、宰相の息子、既に騎士団に内定している上級生などがすぐに聖女の周りを取り巻いた。


(……所詮はこんな程度か……こうなると実力があるのが問題だな)


これまでとは違って、誰からもちやほやされる生活、勘違いするのも無理はない。

そう思って、自分の中の熱が一気に引いていくのを感じる。


(何を期待していたんだか……)


取り敢えず、聖女に仕えるものとして挨拶はしておこう、と近くに向かうとすぐに取り巻きが守るように立ちはだかる。


「そう殺気だたないでください………はじめまして聖女様、私は次期筆頭神官として聖女様に仕えることになりました。レイドと申します」


ガヤガヤとうるさい取り巻きを無視して挨拶をすると、二つ目の違和感はすぐに浮かんで、同時に失望した。


(なんだ?この女は……王子も含めて、その瞳に何も映していない……まるでここではない何処か遠くを見ているようだ)


失望するのは、自分に。

勝手な期待も、それを裏切られたと感じるのも、その全ては自分が彼女を見ていなかったからに他ならない。


(嗚呼………私の運命はここに居た………)





しばらく彼女を見ていると、どうやら我々には見えないナニカと行動を共にしているらしい事が分かった………おそらく、敵対しているであろう事も。


「力になりたい、ですか」

「はい……私の全てを捧げて貴女の力になりたいのです。」


思えば、この時の彼女は随分と冷めた目をしていたと思う……まあ、取り巻きが増えて面倒だと思ったのだろう。しかし、それも私の提出した資料を見るまでだった。


「……魔族の呪い、いたずら精霊に……魂の二重構造……」

「おそらくナニカ不穏なモノと戦いになっていらっしゃると感じました。少しでもお役に立てればと、私なりにまとめてみました」

「レイドさん、でしたっけ」

「レイドで構いません。イリス様」

「……………ええと、まあいいや………私と一緒に、ちょっと世界救ってみます?」

「お任せ下さい。イリス様の為なら世界の一つや二つ救いましょう」

「もうやだ、なにこの人」




目の前の扉をノックすると、小鳥の歌声のような可憐な声が私に掛けられる。

その事に深く感激しながらも出来るだけ顔に出さないように努める。


「失礼します……?お取り込み中でしたか」

「いいえ、もう終わったところ」


コトリ、と彼女は小瓶を机に置くと私に手を差し出してくる。


「進捗は?」

「革命派の貴族や、燻っていた平民との交渉は終わりました……合図さえいただければいつでも始められます」

「そうね、すぐに………いえ、もう少し待ちましょう。まだちょっと早いわ」

「承知しました」

「………理由は聞かないのね」

「大方の予想はついていますし……何より、私はイリス様に全て捧げると誓いました」


先程婚約を破棄された令嬢(アウローラ)の事だろう、とはすぐに分かる。随分と気にしていた様子であったし。そんな事を思っていると天使が呆れたように私に声を掛ける。


「………聖女に仕える貴方の意思は分かりましたが、そこまで自分を殺さなくていいですよ」

「?どういう事でしょう」

「疲れるでしょう。そんな風にずっと肩肘張っているのは」


私に慈悲を掛ける女神のなんと麗しい事か………しかし、聞き捨てならない言葉があったので心を鬼にしてもう一度告げる。


「私は、()()に全てを捧げたのです」

「……?はあ、知ってますけど。何度も言われましたし」

「何度も言いました、ですが分かってくださらないようなので……私は、聖女ではない、イリス様に全てを捧げたのです」


一目で運命と感じたのは、国に決められた聖女ではなく、ただ全てを救おうとする聖女(イリス様)なのだ。


「私が勝手に感じただけでなく、貴女は行動で示した………全てでは足りないくらいです」


だからこそ、必要な手段と分かっても王子には殺意が湧いたものだ……脳内で何度魔法をぶつけた事か。


「………これからも何度でも言いますよ。私は、貴女に全てを捧げます」

「………っ意味が、分かりません……私には……」

「私が勝手に捧げているだけなのでお気になさらず」


人が誰かを想うことには、誰の許可もいりませんからね。


(ただ、まあ、滅多に見れない()()が見れた事は内緒にしておきましょう……その方がこの先の楽しみが増えますし)




「なんか急にレイドを殴りたくなってきた」

「それがイリスの愛ならば是非」

「無敵かこの人」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 聖女ちゃん頭お花畑の悪霊みたいなのに憑かれても真っ直ぐな道を進めたのは本物の聖女ですねぇ。 アウローラちゃんも幸せそうで良かったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ