95.セトランシース/名も無き岩
「もう一方は、ゴーレムだった。だが、俺達がよく知っているゴーレムとは全く違う」
「常に体を変化させられる特徴があった。大岩だろうが、小石だろうが、木だろうが、何でも体に取り込んでいた」
「私達が作れるゴーレムの進化版みたいなものかと思っていたけど、奇妙ね。何のためにそんなことを…?」
「あれの最も厄介だった所は、普通のゴーレムとは違って、核が存在しない。つまり、大岩であればそれを砕くまで、小石であれば小石を一つ残らず砕くまで、活動が止まらないという所だ」
エラはその話に全く興味が無いのか、シルドの足を背もたれにして座り込んでしまった。
シルドは預けられている体重に持っていかれないようにと、足に力を込める。
「それだと、ゴーレムを相手にしているというよりも、新手の厄介な魔物と戦っているのに近いんじゃない?よく倒せたわね…」
「特殊な特性であるのは間違いないが、何よりも面倒だったのは、セトランシースと共に急襲してきたことだ」
セトランシースは、魔物や魔獣の使役に長けていて、底なしの数でプレッシャーを掛け続ける戦法だった。
何かを使役するという点で言うなら、ヴィアヴェルベイパロと瓜二つの能力だと言える。
ただ、ヴィアヴェルベイパロと明確に違う点は、魔物や魔獣を自由に召喚できる所だ。
しかも、その召喚の根源は魔王にあると、セトランシースが自ら明かしていた。
つまりは、実質無限に魔物、魔獣を呼び出せるということでもある。
「本当に、よく勝てたわね…というか、どう戦って勝ったのよ?」
「簡単に勝てたわけじゃない。俺達は最初、撤退戦を選んだ。だが、あまりの数に押されてな、交戦から10分も経たずに追い込まれた」
「他にも策はあったが、追い込まれた中で咄嗟に出たのが切り札だった。運良く、宙に浮かんでいたセトランシースに命中して、不意打ちに近い形で無力化させたんだ」
「無力化?」
”倒した”ではなく、”無力化した”と言った事に、エルは違和感を感じた。
「ああ。俺達は、セトランシースを完全には倒していない。俺は確かにセトランシースを撃墜したが、その後のゴーレムの相手をしている内に、いつの間にか姿をくらませていたんだ」
「じゃあ、そのセトランシースは、今もどこかで生きているかもしれないってこと…?」
「そうなると思うが、四天王として魔王に貢献できるほどの力は、今は無いと見ている」
セトランシースの行方については、当時から今現在も調査中であり、その情報は真っ先に魔王討伐部隊に属している者に伝達されるのだそう。
そして、セトランシースに関する新しい情報は、未だに何も伝達が無いとのこと。
故に、今は表に出ていないという結論を出しているらしい。
「それと、アイツの魔力は羽に集中していると、交戦した時にレイネが言っていた。あの羽を人間で例えると、心臓に似ているらしい」
「一度壊れたら、元に戻らない可能性がある。レイネは、そう言っていた」
それを聞いたエルは、言うまでもなく重大な欠陥だと感じた。
シルドの口振りからして、羽に重傷を負わせたという解釈で良いのだろう。
「…なら、ゴーレムはどうなったの?」
セトランシースが逃げたという前提がある以上、ゴーレムのその後が気になった。
そして案の定、シルドは微妙な表情に変わった。
「一応、倒したものとして、正式に処理がされている。だが、いざ戦い終わってみれば、つい先ほどまで魔王軍四天王だったゴーレムは、ただの石ころになっていた」
「あまりにも後を引かないわけだが、アルサールとレイネも、当時は本当に倒したのかと疑っていた」
「じゃあ、やっぱり……?」
エルは、少々不安そうに聞いた。
「実際に倒しているのかいないのか、その答えは今も出ていない。ただ、すぐに人前に現れることは無いと言って良いだろう。ベルニーラッジを始めとして、色々な国が見張っているからな」
それを聞いたエルは、多少安心したものの、結局は二つに一つの可能性で生きていることに不安を感じた。
(ヴィアヴェルベイパロだって、そんな感じで急に出てきたもの…シルドが居なかったら、私は絶対に東之国から帰ってこれなかった)
シルドは強いから、未知数の力を持っているからと、今まで多大な信頼を寄せていた。
それが間違いだとは思わないが、ヴィアヴェルベイパロの事があった以上、シルドに庇ってもらい続けるのは違うのではないかと考えた。
(…例え何が襲ってきても、撤退できるくらいにはならなくちゃ…)
危機感を持ったエルは、新たな志を持つのであった。
「……結局、さっきの技は何なの?」
シルドの足にもたれかかっているエラが、あからさまに不機嫌な顔で口を開いた。
つい今までシルドとエルが四天王について話していたが、エラは未だにシルドの切り札が気になっているようだ。
「そう言われてもね……私も使えるけど、私のはシルドのものと違うし…」
「使えるの?でも、同じじゃないってどういうこと?」
先にシルドがそうしたように、エルも自身のラッシュ・アウトを再現して見せた。
剣の属性が関係し、紫色の斬撃が七つ、宙に向かって放たれた。
「速い…私、そんなに速く攻撃を繋げられない」
七連撃とは言っても、その斬撃は目で追える速度ではない。
見る人によっては、七つの斬撃を一度に繰り出しているように見える速さだ。
その精度に、シルドも分かりやすく反応を示した。
「また腕を上げたか?もう10連撃も狙えそうだな」
「最近は、斬撃を一つずつしっかり振るようにしていたの。浪人の太刀筋から、少しだけ影響されてね」
「確かに、あいつの刀の振り方は、基礎に沿った鍛錬の末に手に入れたものだと、あいつ自身も言っていたからな。考え方としても良い例だ」
「………」
シルドとエルが話し始めると、エラの雰囲気ががらりと変わった。
無言だというのに、ただならぬ圧力を感じた2人は会話を中止する。
「…どうやってあの技を放っているの?」
平然としている声色だが、表情はそうではない。
上から見下ろすような視線と、明らかに機嫌が悪そうな顔つきになっている。
威圧感を放つエラを前にして、エルは恐れながら口を開いた。
「ま、まぁ実際、私も感覚9割くらいで使うし?論理的に教えられるかと言ったら、絶対に無理というか…」
「俺もエルも、ラッシュ・アウトを使う時に意識していることは、同時に複数の攻撃を出すことだ」
「じゃあ、魔法なの?」
「違うのよ…スキルらしいの…」
「………」
エルから改めて確認を取ったエラは、シルドに無言で顔を向けた。
”それは本当か?”と言わんばかりに、片方の眉と瞼を釣り上げて、シルドの顔を覗き込んでいる。
「お…俺の魔力量を見れば分かるはずだ。そもそも、俺は魔法をほとんど会得していない」
エラは、しばらくシルドを見つめ続けた。
すると、シルドの魔力量を見て納得できたのか、威圧的な態度を改めた。
「…じゃあ、どうやって使えるようになったの?」
雰囲気が元に戻ったエラからは、先ほどまでよりも遥かに答えやすい問いが飛んできた。
「実は、元から今のラッシュ・アウトと同じ形をしていたわけじゃないんだ。エルだって、最初は2連撃だった。俺もそうだ──」
そんな風に、ラッシュ・アウトについて根掘り葉掘り聞かれながら、3人は帰路についた。
フェアニミタスタ城下町までの道中、エラがラッシュ・アウトを真似しようと躍起になったり、それに疲れて幼い姿に変わり、シルドにおんぶを要求したりと、大変な道のりだった。
「真似できないし、もう疲れた。おんぶして」
「…右腕しか無いんだが」
「わ、私がしようか…?」
そうして振り回されつつ、3人は無事に城下町へと戻って行った。
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