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93.BEAST


「くっ…!」


シルドは痺れが残る体のまま、目の前の魔物から放たれる、容赦のない雷光を寸前で躱した。


何故痺れているのかと言うと、それは魔物と接敵した瞬間にあった。


3人は意気揚々と魔物の前に姿を現したはいいものの、一目散に攻撃を仕掛けに近づいたシルドが、予想外の攻撃を受けることになったのだ。


シルドの身体能力は、同じ人間と比べても人並み外れたものであるため、ただ接近して切るという行動だけでも、並大抵の魔物には不意打ちを思わせるほどの素早さがある。


シルドもそれを理解しており、小手調べのつもりで接近したのだが、魔物は3人の予想を遥かに上回っていた。


シルドが攻撃の射程範囲内に入った瞬間、魔物は後方へ下がりながら、紫色の眩い閃光を繰り出した。


既に切りかかっていたシルドは、その攻撃を目で追えてはいたものの、回避が間に合わずに被弾。


結果、今の状況に至る。


「シルド!無理しないで、こっちに下がってもいいのよ!」


真面に剣の柄を握れないため、ただひたすらに魔物の攻撃を回避し続ける中、エルが声をかけてきた。


「俺が下がったらっ…エラだけに負担がかかるだろう!」


そう言うと同時に、エラがシルドと入れ替わりで魔物に切りかかった。


「っ…!」


「────」


エラは何度か攻撃を命中させるも、あまり効いているようには見えない。


物理攻撃に耐性があるのか、それとも身に纏っている雷光が関係しているのか、それも分かっていない状態だった。


そしてそのまま、エラが攻撃をしつつ、2人で相手の注意を分散させている。


「私が前に出るわよ!感電したまま前に出続けるなんて、タンクじゃないんだから危ないわよ!」


「俺は弓を引けないし、魔法も使えないんだから、後方に回ったらただの荷物持ちだぞ!片手で持てる量限定のな!!」


(…それはそうかも)


「石ころでも投げてみるか!??雷を通さないだろうし、意外と効くかもなあッ!!」


そう言うと、シルドは地面に転がっていた石を手に取り、本当に魔物に向かって投げてしまった。


「───……!」


何故かは分からないが、本当に貫通しているのか、石を投げられた魔物は身をよじらせ、割と痛そうにしていた。


空気を裂く音が聞こえていたとはいえ、本当に貫通するとは、その場に居た誰もが信じていなかった。


緊迫した状況のはずが、シルドの言動でエルの思考は妙に冴えてしまった。


弓を引き、火属性の魔法を籠めた矢を放つ。


それは、シルドとエラが戦っている合間を精巧に縫って入り、一直線に魔物に命中した。


「!」


すると、ミカの爆発魔法を彷彿とさせる、中規模の爆発が起きた。


その爆発は、魔物が纏う雷光と融合して発動したように見えた。


雷特有の破裂音と、爆発から成る風圧と空気の揺れが収まると、魔物が纏っている雷光の一部が剥がれていた。


「…───」


丁度牙の部分が剥き出しとなっており、その周囲の体毛も確認できた。


(黒と、赤か…?)


全貌は見えないものの、その一部は大部分が黒い体毛で、他には線状の赤い体毛が確認できた。


色合いからして禍々しく、いかにも魔物らしい姿が頭の中に浮かんだ。


そうして注視していると、魔物から火花のように小さな雷光が、ほんの一瞬だけ放たれた。


「…ぐッ──!?」


気付けば、シルドは魔物に追突されていた。


「───」


魔物の唸る声が、目前で聞こえる。


また気付くと、いつの間にかエルの真横を通過していた。


僅かな時間の中で見えたエルは、こちらを見ていなかった。


超高速の突進を仕掛けられたのだと、シルドはエルの横と木々の間を通り過ぎ、それらの更に奥にあった壁に衝突してから認識した。


これは、何らかの影響によって、シルドの認識能力に遅れが出たなどというわけではない。


シルドの認識に遅れが生じる程、魔物の突進が高速だったのだ。


「シルド……!?」


「───」


いつの間にか自身の背後に回っている魔物に、忽然と姿を消してしまったシルド。


幸いなのは、その魔物は奥にある木々を眺めていること。


「テト・エンティツィア……!」


エラが何かを唱えると、場の空気が変わったように感じられた。


(…何だか、魔力の流れが…)


いつでも魔法を放てるようにと、常に魔力に意識を割いていたエルは、何らかの違和感を感じた。


そして、エラが魔物の間合いに入ると、魔物の纏っている雷光が弱まっていた。


それも、所によっては雷光が剥がれている。


(魔力を抑制している…?それも、空間的に?)


具体的な効果範囲は掴めないものの、魔力を抑制するという、魔法ですらないのかもしれない行為に困惑を隠せなかった。


エルが考えを奪われている内に、エラは魔物に対して二度剣を振るい、当てていた。


剣が当てられた所を見ると、丁度雷光が纏われていない部分であり、有効打と言えそうな切り傷が付いていた。


(凄い技量…”状況を教えて”)


エラの戦闘技術に感心しつつ、自身も負けじと行動を起こす。


『シルドは軽い脳震盪を起こしてる』『凄く怒ってる』『おこている』


『魔物の攻撃、凄く強い』『体力は普通』『素早さと攻撃力が発達してる』


(………何で怒っているのかしら?)


途中で聞こえた情報に、思わず引っ掛かってしまった。


「エル!そっちに行く!」


「!」


油断していると、魔物はいつのまにかエルを標的としていた。


(”戦闘のサポートをして!”)


『剣を構えたまま右に避けて』


「っ…!」


森の声の指示に従い、目に負えない速度の攻撃を何とかかわす。


森の声の支援があるとはいえ、それ以外はエルの身体能力に依存するため、行動の一つ一つを必死の思いで繋げなければならない。


「───」


真横を通り過ぎる唸り声に、軽く恐怖を感じる。


(森の声のサポート無しだと、あの速度には追い付けない。正面衝突だけは、絶対に避けないと…!)


「ステップバースト」


エルは静かに魔法を唱え、その足元は緑色の光を帯びた。


こちらをじっと見つめる魔物に対して、エルは横方向に足を進めることで、魔物に対して正面から向き合わないようにしていた。


『跳ねるように右に回避して』


「っ!」


言われた通りに動くと、目の前を閃光が通過した。


最早、ただの雷光ではなかったそれは、シルドを吹き飛ばした突進攻撃だった。


しかし、エルも呆気に取られたままではない。


「クオンタム・キルショット!」


魔物が振り返る前に矢を放った。


放たれた矢は1本だけだが、魔物に向かって飛んでいく中で段階的に増殖し、魔物の眼前に至ればその姿を覆うほどの数になっていた。


物量的に見ると、その攻撃はエラの目にも有効そうに見えたが…


「──…」


魔物が何か特別な事をしたわけでもなく、ただ纏っている雷光に身を任せるだけで、雷光に触れた矢は失速し、魔物の体に触れることなく地面に落ちてしまった。


『多分、属性付きの魔法じゃないと、あまり効かない』『恐らく、火が一番有効』『水は、却ってこっちが不利になる』『風は効果が薄い』


(かなり攻撃手段が縛られるわね…)


再びエラが魔物の前に立ち、自分に注意を向けさせる。


持ち前の独特な剣術と身のこなしによって、エラの方が魔物に対して優位に戦えている気がする。


「………?」


エラのサポートをしつつ、戦術を練っていたエルの背後の森の奥から、何かの振動が感じられた。


その振動は強く、瞬間的に発生しており、まるで巨人が足を踏み鳴らしているようだった。


(………!)


足を踏み鳴らしているような振動で、その振動は森の奥から発生している。


よく考えずとも、この振動が起こっている原因については、思い当たる節しかない。


(…本当に怒ってそうね)


「────」


離れた所から、目の前にいる魔物とは違う、”獣”の啼く声が聞こえる。


それも、他のどんな生物とも似つかない、唯一無二の咆哮だった。


(今のは…?)


振動と共に、”獣”の啼き声を聞いたエラは、魔物と同時に動きを止めた。


自然豊かな環境で育ったエラでも、その啼き声を表せる”獣”が思いつかなかった。


次の展開が予想できるのは、その啼き声の主を知っている者のみ。


その啼き声が聞こえて、次に何が起きたのかを目にした者。


つまり、エルだ。


「────!!!!」


先程よりも近くなった振動・咆哮と共に、木々の奥から突風が吹いた。


不思議なことに、今しがた聞こえた咆哮は”獣”の啼き声のようでありながらも、シルドの絶叫のようにも聞き取れた。


そして、金属が肉を叩く鈍い音がその場に響いた。


「ッ───!!」


音が聞こえた場所を見れば、雷光の上から魔物を殴っているシルドの姿があった。


その姿は、エルが見覚えのある”獣”とは違っていた。


体格に変化は見られず、雷光の上から魔物を叩くという無茶な攻撃以外は、シルド本人にしか見えなかった。


「シルド…!?」


魔物を挟み、シルドの向こう側に居たエラは、シルドの小さな変化に気づいた。


「───」


それは、シルドではないと断言できる程、異様な雰囲気を放っていた。


シルドではなく、明らかに別人の、紅の瞳が見えたからだ。


https://x.com/Nekag_noptom

お久しぶりです。ゆっくりと投稿再開していきます。

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