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隻腕になった元勇者パーティーの火力役。  作者: Nekag
【番外編】AlterEgo ≒ Möbius
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80.AlterEgo ≒ Möbius 4

2人はカルスという女性の元に向かい、シルドの中に潜む獣について尋ねようとする。


「この人がカルスさん。一応、村で最年長なのよ」


「どうも~」


「初めまして…?」


カルスが思いの外フランクに話すため、シルドは少々困惑した。


(この人は…エルと見比べると、何かが違うように見える)


金より白に近い髪色に、消え行ってしまいそうな透き通った肌。


髪色だけではなく、まつ毛や眉までもが白くなっている。


綺麗なことには変わりない。変わりないのだが…


(…人間の老化現象に見えなくもない)


若く美しい姿であるのに、どこか老いているようにも感じるのだ。


何歳なのかはマナー的に聞けないが、エルも言っていた通り、最年長ということで間違いないのだろう。


「じゃあ、見てみるよ。シルドくん、私の正面に来てくれ。茶は持ったままで構わないよ」


言われた通り、そのままカルスの前へ進み、用意されていた椅子に腰掛ける。


「改めて、私の名はカルス。言うなれば、呪術師として食べている者さ」


「シルドと言います。元は軍人でしたが、今は引退してエルの指導を──?」


そう話していると、カルスは片目を閉じた。


そして、みるみる内に色素を失っていた髪色が部分的に黒く染まり、開いている片目が赤黒くなった。


その目には、何かの模様が刻まれているように見える。


「気にしないでくれ。これは呪いを診る時専用のモノだからね、少々不気味が過ぎるかな?」


「いえ、目に模様が浮き出ているので…痛くはないのですか?」


「よく分かったね、当然痛いとも。目の奥が焼かれるような感覚さ」


「…今すぐ止めた方がいいのでは…?」


シルドは、エルの方にゆっくりと向きながら言った。


エルは菓子をつまんでいた。


シルドと目が合ったが、口に菓子を詰めていたので何も言えなかった。


「ふふふ…私はこれも仕事だからね、もう慣れて平然としていられるものだよ。若い頃こそ耐え難かった」


「だが、耐えられない痛みではなかった。それこそ、呪いで苦しんでいる人がいるのなら、幾らでも使いたいと思うほどにね」


カルスは穏やかな表情をしている。


「君はきっと、良い人間なんだろうね。長いこと生きているが、私のこれを見て心配した者は、片手で数えられる程度居たかどうかだ」


「そして、そういう良い者こそ早死にしていった。他者を優先するあまり、自分を蔑ろにしがちだからね」


カルスが何年生きているのかは分からないが、長く生きているということは、それ相応に万物との別れも経験しているはずだ。


その言葉の重みは、他種族の生命全てを出し抜いていると言っていいだろう。


「私は良い者と出会った時に、いつもこうして言うようにしているんだ。別に深く捉える必要はない。どんな者でも、生きたいように生きればいいんだ」


「………」


かつて、そうして友を失ったがために、経験を基に他の誰かに伝える。


そう考えると、シルドは言葉が出てこなかった。


「エルフの村は初めてだろう?何か面白いものは見つけられたかな?」


「あまり外の世界と変わらないように見えました。建物とか、農業だったり…その気になれば、もっと大きな文明になるのではないかと」


「そうだねぇ…私達は木材を消耗品として使用できないし、不思議なことにしようとも思わない。本能的に、原始的な生活を求めているのかもしれないね」


カルスは、シルドの胸元を見詰めたまま話を続ける。


物理的な魂の位置も、その辺りということなのだろうか。


「建築技術についてだが、確か他の種族を頼ったという話を聞いたことがある。森しか知らない種族が石造の家を建てるなど、流石に無茶があったようだ」


「あとは…グアルダイアンはまだ目にしていないかな?あれは不浄を断つという伝承があったり、ここ以外だと絶対に存在しないから、遠目からでも見ておくことをお勧めするよ」


「守り神と呼ばれているものですよね?エルから簡単な概要は伺っています」


「ああ。この診察が終わったら、2人で見に行くと良い──!」


話を続けていると、突然カルスが驚いたように目を見開いた。


そのまま固まってしまい、何が起こっているのか分からなかった。


「……エル。君はこれを知っているのかい?」


数秒後、カルスはシルドではなく、エルに話を振った。


雰囲気が只ならぬものに変わり、思わず冷汗が出そうになる。


「え…?」


「知っているよね。君ももう子供ではないのだし、むしろ知らないのなら今すぐこの男との関わりを断たせる所だよ」


(バレている…のか…?)


空気が張り詰める中、首元に冷たい空気を感じた。


冷気を感じる方に視線を動かすと、そこには小さく丸まった氷のようなものがあった。


(これは……??)


シルドは、それに手を伸ばした。


「それは極めて殺傷力の高い魔法だ。特に、人型の対象にはね」


「そうやって下手に解除を試みるなら、今すぐにでも発動させることだってできる。死にたくなければ、簡単に触らないことだ」


「な、何でここまで……!」


突発的な出来事に、エルは焦りながら止めようとする。


それを聞くと、カルスはシルドの方に向き直った。


「もしこれを私以外に見られていたら、即処刑執行に持ち込まれてもおかしくないからだよ。それで、何故先に言ってくれなかったんだい?」


「まさかとは思うが、この私から呪いを隠し通せるとでも考えたのかな?…いや、これは呪いと呼ぶべきではないね」


「ち、違うの!下手に言うと大事になると思ったから…」


「それは間違っていない。今まさに、大事になろうとしているのだからね」


カルスは溜息を吐くと、シルドの首元にあった氷の魔法を解除した。


「…まぁ、私には言ってほしかったが、他の人に言わないようにしていたことは評価できる。子供ではないが、大人でもなかったな」


「いえ、私がうっかりしていたわ。今まで誰に対しても隠していたから…ごめんなさい」


「謝らないで良い。だが…エル、君はこれをどう思っているんだい?」


エルはシルドを見たまま、少しだけ口を閉ざしてしまった。


「…分からない。森の声を頼りに少しだけ知っているくらいだから、何故そうなっているのかは何とも…」


「待ってくれ。結局、どういう話になっているんだ?」


1人だけ取り残されていたシルドが、ついに口を開いた。


「君はキメラに近い存在だという話だ。1つの体に、2つの魂が宿っている」


「なっ……」


言葉が詰まった。


しかし、自身の体の異常性を認識していたため、さほど驚いたわけでもなかった。


「心当たりはあるようだね。なら、何があったのか聞かせてもらおうかな?」


言われた通り、シルドは”獣”の発現によって、今までに経験したことを話した。


いつ頃からあるものなのか、自我がなくなることとか、死が”獣”に切り替わる条件だとか、発現している時の記憶がなくなることなど。


フェアニミタスタで発現した際のみ、記憶を保持した状態で自我を取り戻したことも話した。


エルからは、魔力を通さない黒い霧のような力についても話された。


「──残念だが、言われたことのほとんどは答えることができない。単純に、私の知識が及ぶ範囲ではないからね」


「しかし…死から蘇るというのは、間違いなくもう一つの魂が関係しているのだろう。記憶が保持されないのは、魂が違うからだ」


「疑っているわけじゃないけど、何でそう思うの?」


それにカルスは一息ついてから答える。


「昔も昔、私がまだ若かった大昔の話だがね、キメラを一度目にしたことがあるんだ」


「それも、意図的に作り出されたものだ。現代なら禁忌とされるが、そうでない時代のものを見たことがある」


「…それと、シルドが一致しているということなの?」


「概ね一致している。2つの魂がそっくりなせいか、本物のキメラほど無茶苦茶な魂の形ではないがね」


カルスは再び、シルドの胸元を凝視した。


「…ふむ。これはむしろ、綺麗と言えてしまいそうだ。よくここまで綺麗に融合を果たしたものだ」


「融合…?俺の魂は、何かと混ざっているということなのか…?」


「ああ。でなければ、キメラと見間違えるはずがない。そこで聞きたいのだが、体に何か異常は発生していないのかな?」


シルドは、ここ最近で起きたことを思い返す。


「異常……なのかは分かりませんが、魔王軍四天王を致命傷まで持ち込む攻撃が放てた。本来なら、持ち合わせていない力量を発揮することができた」


「……それが異常ということかい?」


「直近で起きたことと言えば、それが一番思い当たるかと」


シルドがそう答えると、カルスは短く笑った。


「言うまでもないはずだ。それは、情に駆られたというものだろう。だが確かに、もう一つの魂が干渉した可能性はある」


カルスは茶を一口飲み、極めてリラックスした状態で話を続ける。


椅子の背もたれに体を預けると、軋む音が響いた。


「君の魂はキメラに近い状態でありながら、芸術品のように綺麗だ。人間の魂だと見て分かるし、それこそ自然形成されたもののようにね」


「その魂は、君の魂と強く似た部分があったのだろう。故に違和感なく融合し、まるで1つの魂のように生成された…ただの呪術師だが、私はそう結論付けるよ」


(俺に、もう1つの魂が……)


信じ難い話を聞いて、自分の胸元に手を当ててみる。


…当然だが、心臓の鼓動に違和感はない。


「身に覚えのない記憶があるというわけでもないのだろう?」


「ええ」


「なら、この話はこれまでだね。もう私にしてやれることは何もない。まぁ、茶でも飲んでゆっくりしていくといい」


そう言うと、カルスは席を立とうとした。


「…俺は異常なのですか?本当に、人間なのですか?」


すると、シルドが足止めするように質問を投げかけた。


それにカルスは振り返り、不思議そうな顔をしていた。


「ああ。もちろん人間だとも。異常ではあるが、確かに人間だ」


異常であるという言葉に、シルドは少し不安を覚えた。


「魂が2つあると言っても、今はシルドという男が意識を持っているのだろう?なら、自分が人間かどうかの認識は、シルドくんが一番分かるはずだ」


「キメラと例えてしまった私が悪いが、そこまで恐れることでもないんだよ。キメラは滅茶苦茶な魂が故に、短命であることが多いとされていたけど、君はそうじゃない」


「魂の結合の崩壊でただの人形になることもないだろうし、精神ががんじがらめに混ざり、自我が引き裂かれることもないはずだ」


色々と恐ろしい話が出てくると、シルドは頭が真っ白になりエルはドン引きしていた。


そんな反応を見てか、カルスは鼻でクスッと笑った。


「断言してあげよう。君の魂は、他の人間と比べたら異常も異常だが、同時に絶対的に安定している。魂が2つあることで、キメラとしての苦しみが君に降りかかることはないよ」


「………」


不思議と、その声からは安らぎが得られるような気がした。


年長者の言う言葉とは、ここまで格言のように聞こえるものなのか。


「自分が何者か分からないのなら、何にでも挑戦してみればいい。自分探しは生きている限り終わらないものだからね、私でさえ、まだ分からないことの方が多い」 


「だが、それで疲れてしまうのが生物というものだ。たまには足を止めて、エルに相談でもするといい。それがお互いの成長に繋がるだろうさ」


そう言うと、カルスは今度こそ部屋を出て行った。


(自分探し…)


今まで考えたこともなかった提案に、シルドは考え込んでしまった。


https://x.com/Nekag_noptom

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