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69.魔王軍四天王ヴィアヴェルベイパロ

突然の魔王軍四天王の襲来。

癖の強い言動だが、シルドとエルはどう戦うのだろうか。


魔王軍四天王とは、魔物軍の中でも群を抜いて強い4人のことを指す。


そして、そのほとんどは人間に瓜二つの人型であり、他の魔物を従える権利を持っている。


(ま、魔力量が…!)


エルから見て、ヴィア・ヴェル・ベイパロと名乗る角と翼が生えた女性は、魔力量が人間の比ではなく、エルフである自分ですら超えていた。


今まで出合ったことが無かった、自分よりも魔力量が多い相手に、エルは威勢を失ってしまいそうだった。


(それに、あの格好は…?)


ヴィア・ヴェル・ベイパロは角と翼もそうだが、服装も疑問に思う所があった。


それが、何故か布面積が圧倒的に少ない服装をしていることだ。


ほとんど局部しか隠していないような、かなり際どい服装をしていた。


「んふ…♡」


身に付けている幾つもの宝石を光らせながら、ヴィア・ヴェル・ベイパロはシルドを見つめている。


エルには見向きもしないのに、シルドに対しては執着していると言えそうなほど、妙に気持ちの籠った視線を送っていた。


「何故ここに居る。何が目的だ」


シルドは珍しく、敵意剥き出しの声調で言った。


「そんなにこわぁい顔をしないで?素敵な英雄さん♡」


「ここにはぁ、魔王様に言われて来たの。妖怪とか、怪異とかにごしゅーしんみたい」


思いの外、あっさりと目的を話した。


しかし、シルドとエルはその回答を受けても、特に反応はしなかった。


それは、ヴィア・ヴェル・ベイパロを信用していないが故の行動だった。


「聞いていたよりもぉ…すごくステキ♡」


そう言いながら、ヴィア・ヴェル・ベイパロはシルドに歩み寄る。


「男前でぇ、余裕があってぇ…」


「横の娘みたいな、ちょっと面倒そうな女の子も、優しく見てあげられる…♡」


その言葉を聞いたエルは、少し顔をしかめた。


ヴィア・ヴェル・ベイパロは、一歩また一歩とシルドに近付く。


「ソルジャー・オルタナティブ」


「スイッチ」


すると、互いの距離があと数歩といった所で、シルドがある技を繰り出した。


シルドの剣から緑色の光が溢れ、風属性の魔法の力を感じる。


ヴィア・ヴェル・ベイパロは、両手を軽く見せてその場に留まった。


(シルドが魔法を…?剣に属性を掛けたみたいだけど、ステータスも上がってる…)


シルドがそうまでしなければならないということを考えると、今の状況がどれだけ危険なのかがよく分かる。


「ふふっ♪血気盛んな一面も好きよ。会ったばかりなんだし、いきなり攻撃するようなつもりは無いから安心して?」


そして、また足を進めようとしたヴィア・ヴェル・ベイパロを、シルドは剣を突き出して制止した。


両手を見せることで、敵意は無いということは表しつつも、シルドの警告には一切怯えていない。


掴みどころのない行動に、2人は警戒が全く解けずにいた。


「実はね?アナタに会ったら、伝えて欲しいことがあるって、魔王様から言われてるの~」


「それがぁ…私達と手を組まない?ってこと」


途切れることなく言うと、突き出されているシルドの剣先を優しく掴む。


「な、何を言って…!」


「魔王様が言い始めたことなんだけどぉ…私も、アナタと触れ合えるなら、そっちの方が良いと思ったの♡」


「あっ。英雄なら誰でも良いってことじゃないのよ?アナタだから良いの♡」


困惑している2人を余所に、ヴィア・ヴェル・ベイパロは話を続ける。


「手を組んでくれるなら、報酬は文字通り、何でも。魔王様に用意できないものは無いの」


「全く、馬鹿馬鹿しい交渉ね。それがどう証明できると言うのかしら?」


すると、ヴィア・ヴェル・ベイパロはエルと目を合わせて言った。


「人間側にも、挙って国の宝とか、秘密兵器と呼ぶ物があるでしょ?それと同じことよ」


(…明かしていない秘密の何かがあるってこと?)


「ねぇ?英雄さん…♡」


剣先を掴んだまま、下に降ろして足を進めようとした瞬間、今度は首に刃が突き立てられた。


「次は止めないぞ」


「…んもう、ガードが固すぎるわ。もっと近くで顔を見たいのにぃ」


ヴィア・ヴェル・ベイパロは、不満そうに進みかけていた足を元に戻した。


そして、首に突き立てられていた剣を掴むと、一気に自分の胸元へと向けさせた。


「それでも、私はアナタに魅力を感じているわ」


「アナタが仲間になってくれるなら、私はアナタのイヌになってあげる…♡」


「っ!」


ヴィア・ヴェル・ベイパロの力は凄まじく、シルドの制御を無視して、器用に剣を動かした。


剣先が向かうのは、ヴィア・ヴェル・ベイパロの胸を隠す数少ない布であり、自分で自分の服を切り裂こうとしている。


「英雄色を好むという言葉の通り、一線を退いた英雄と呼ばれる者達は、その大抵が大金を使って女に溺れるようになる」


「だというのに、何故アナタは溺れないの?堕落しないの?」


「何故もう一度戦うことを選んだの?」


ヴィア・ヴェル・ベイパロは息巻き、言動が狂気を帯び始めた。


「それに、サキュバスが相手でも堕落しないの?」


「それとも、その強さや威厳、風貌とは一切関係無く、あっさりと蕩けた表情に変わっちゃうの?」


「私はそれが知りたい。そのためなら、私は何だってしてあげる」


「私に乗りたい?それとも、乗られたい?」


(…あの女とそっくりの狂気だな)


サキュバスとしての片鱗を見せ始めたヴィア・ヴェル・ベイパロに、エルは俯瞰している身ながら動揺していた。


しかし、シルドは違った。


「スイッチ」


剣から溢れていた光が、緑色から赤色に変わった。


「スプロカリアス・オーバーダン」


「!」


すると、シルドとヴィア・ヴェル・ベイパロの間に、水と火の属性を持った斬撃が無数に現れた。


それにいち早く気付いたヴィア・ヴェル・ベイパロは、軽快なステップでシルドから距離を取った。


(あの軍勢を解析するために、ずっと探知魔法を使ってたけど…今の技、剣を振っていなかった…?)


それに、魔法とスキルを併せて使うという、巧妙な手口にも驚きだった。


「どぉーしてもダメ?できることなら、アナタには死んでほしくないんだけどなぁ…」


ヴィア・ヴェル・ベイパロは、寂しそうな表情になっていた。


「私の名前、3つに分かれてるじゃない?本当は分かれてないんだけどぉ、アナタへの敬意を込めて3つに分けたの」


「それなのにぃ…本当にダメ…?」


再度媚びるように言ったが、それがシルドに届くことはなかった。


「…なら、お前が魔王を裏切り、人間側に付け。それなら、お前の要望も多少の無理は聞く」


(えっ……)


敵意剥き出しのシルドだが、交渉を返したのは意外だった。


それも、先ほどのヴィア・ヴェル・ベイパロが言ったことを、否定しないような言い方だったがために、エルは内心驚いていた。


「ん~…それじゃー無理ね。私って四天王だしぃ、魔王様にはいつでも監視されてるようなものなのよ」


「そう切り出されちゃうとぉ…今だけは四天王の称号が恨めしく思えるわ?」


魔王に対して意外と忠誠心があるのか、ヴィア・ヴェル・ベイパロは提案を聞き入れることはなかった。


狂気的に交渉を仕掛けたのは向こうだというのに、理性のすみ分けはどうなっているのだろうか。


「本当にいいの?分かってると思うけどぉ、死んじゃうわよ?」


「お前を道連れにできるのなら、俺は地獄にだって落ちてやる」


「あら…?それってぇ、同じ墓に入ってくれるってこと?」


2人の間に、険悪な雰囲気が立ち込み始める。


シルドとヴィア・ヴェル・ベイパロは、しばらく互いを見つめ合った。


そして、開戦の合図はいきなり告げられた。


「”行きなさい。私の軍勢”」


すると、ヴィア・ヴェル・ベイパロの前方に陣取っている少数勢力が、シルドとエルににじり寄る。


「エル。この軍勢の正体は分かるか?」


「まだ全部は分かってないけど…あのサキュバスと、何かの強い関係があるのは分かるわ。主従関係とかじゃなくて、魔力でも繋がりがあるみたい」


「全部が分かるまではどれくらい掛かる?」


「……そんなに掛からないと思うわ。2分くらいかしら」


「よし。お前は最低限の支援をしつつ、解析に力を入れてくれ。2分なら、切り札で繋げられる」


そして、エルが弓を構えて後方に下がり、シルドは剣を抜いて大軍の前に立った。


「ちょっと無謀過ぎない?そもそも、私の軍勢って───」


「タッチアップ」


そう唱えると共に、シルドは足を踏み込み、大きく横に剣を振った。


「カットスタンプ」


すると、振っていた剣が壁とぶつかったように跳ね返り、その場に衝撃波が発生した。


それも、ただの衝撃波ではなく、衝撃と斬撃の2つの性質を持ち合わせていた。


このまま連続して振り回すのかと思いきや、今度は目の前に居る大軍を抉るように、2つ目のカットスタンプが放たれた。


2つ目のカットスタンプでは、ヴィア・ヴェル・ベイパロの目の前に居た軍勢も吹き飛ばした。


しかし、シルドは1つ目のカットスタンプを放ってから、もう一度カットスタンプを放つようには動いていない。


それどころか、軍勢から距離を取っている。


「…わぁ~」


ヴィア・ヴェル・ベイパロが驚いたような素振りを見せるも、空いた穴は直ぐに他の甲冑によって埋められてしまう。


先ほどの魔獣退治など、比にならない数の甲冑がシルドに向かっていく。


「モッシュピット」


すると、シルドの周りを囲うように、渦巻く炎が現れた。


その渦はシルドを中心に留まり続け、シルドが動けば共に動くという、自分に近付けさせないための技に見える。


切り札と言っていた通り、どれもシルドのオリジナルの技なのか、見聞きしたことが無いような物ばかりだった。


(流石に、魔王軍四天王の駒か。切り札でも、攻撃の一発くらいでは止まらないな…)


(シルドの技を受けて止まらない敵って、何気に初めて見るわね。あのサキュバスから、ステータスを援護されているのかしら)


シルドの切り札の行使により、エルは矢をたまに放つ程度で、軍勢の解析に力を注げていた。


今の所、エルの間合いに近付けた甲冑は、1人たりとも居ない状況だった。


「スイッチ」


モッシュピットを収めて唱えると、今度は剣が青い光を放ち、水の属性を帯び始めた。


シルドは軍勢に向かって駆けると、剣を振りかぶったまま飛び蹴りのような勢いで突っ込んだ。


「チャリオット」


そう唱えると、軍勢に向かって宙を舞っていたシルドの姿が一瞬だけ消え、剣の青い軌跡と爆発の如く粉塵が舞った。


地面は抉れ、甲冑は空高く飛び上がっており、そうでないものは軍勢の後方へと吹き飛ばされた。


「乱暴さんねぇ。元からそういう戦い方をしていたっていうのは聞いてたけど…優雅さに欠けて、何だか悲しいわ?」


「ガリバー」


その苦言に対し、シルドはヴィア・ヴェル・ベイパロへ瞬時に距離を詰め、その勢いの中で体を捻らせ、剣身が見えなくなるほどの一撃を繰り出した。


その一撃を放つシルドの姿に、ヴィア・ヴェル・ベイパロは見惚れそうになりつつも、すぐに顔をしかめた。


「…何かしら、これ。魔法防御の無効化?私のシールドを無視するなんて…」


体勢を変えて、シルドの剣を直接防御したヴィア・ヴェル・ベイパロは、正にシルドの思い通りになっていた。


「意表を突かれ、顔をしかめる奴のどこに優雅さがあるんだ?」


「……あらあら♪」


ヴィア・ヴェル・ベイパロは、薄ら目でそう答えた。


最後までご覧いただき、ありがとうございます。

趣味垢としてX(Twitter)もやってます!

https://x.com/Nekag_noptom

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