49.弱点
「やあッ!!」
ミカは攻撃の手を止めることなく、だからと言って手を抜いているわけでもなかった。
気の所為か、スノウクロウの時よりも気合が入っているように見える。
一方のシルドはと言うと、涼しい顔をしてはいるが、同時に厳しい顔つきでもあった。
「………」
ミカが繰り出す重い一撃を、いなすか剣をぶつけるかで防御しつつ、言われた通り全力で戦っていた。
「よっ…!」
だが、流石は実力派。
シルドの全力の攻撃を軽々しく避けては、反撃に重い一撃をお見舞いする。
剣とミカがアンバランスであるため、攻撃をする時は動きが遅いのだが、単に体を動かすだけならそうではない。
恐らく、素早さだけならシルドを超えているだろう。
(…もし、ミカが相応の剣を手にしていた場合、俺は攻撃の全てをラッシュ・アウトにする必要があったのかもしれないな)
素早い攻撃は威力に欠けると言われるものの、その分を鋭さや貫通力で補えば良いだけだ。
むしろ、効率的に命を絶つのであれば、絶大な威力よりも素早さとナイフに軍配が上がる。
「───舐めんじゃないわよおおおおおおお!!!」
「っ!」
当たりの木々が揺らぐほど、ミカとシルドが鮮烈な戦いを繰り広げる中、ミカの援護をするようにエルが入ってきた。
しかも、その両手には剣が握られていた。片方はエルので、もう片方はシルドの剣だった。
ヤケクソ気味に叫びながら突っ込んで来たエルだが、シルドにとっては非常に良くない状況になった。
「…オルト・ウォーロック」
シルドがそれを発動したということは、被弾する状況に身を置いたということだった。
「サンミシリズ…ッ!」
ミカの剣が、まるで熱された鉄のように赤く光り始め、辺りの空気が熱くなったように感じた。
その剣を、シルドはさも当然かのように剣でいなそうとした。
(……?)
シルドは防御に成功したが、ミカの剣と当たった部分を見てみると、融解とまではいかないものの、ミカと同じく赤く光るようになっていた。
(当たるだけでもマズいのか……っ!?)
戦いつつ分析していると、ミカとエルがいつの間にか呼吸を合わせて、コンビネーションを発動してきた。
「はあっ!」
エルのアンバランスな2つの剣に、ミカの独特な魔法と剣の振り方。
実質、4つの攻撃手段を持つ2人に、シルドは苦戦を強いられた。
「くっ…!」
エルに片足を蹴られては、地面に片膝を着きつつ反撃をし───
「オラァッッ!!!」
───ミカにガントレットごと殴られては、エルが反撃を仕掛けてくる。
シルドは阿吽の2人に押され、久しぶりにダメージを負っていたが、後ろに下がることだけはしなかった。
手合わせという制約があるからこそ、自身の弱点に挑戦してみたいと思ったからだ。
「───ガアアアアッ!!!」
シルドが乱雑にラッシュ・アウトを放ったことにより、2人は後ろに押し返される。
弟子の目前であるにも構わず、初めて出したシルド自身の雄叫びに、ミカとエルは一層攻撃の手を強めた。
「ぬァああああッッ!!!」
その2人も、初めて見る憧れの全力だった。
シルドが雄叫びを上げながら剣で地面を叩くと、その衝撃はミカに向かって行った。
世界最強が剣で地面を叩くと、地面一帯が火山噴火のように盛り上がるなどと、誰が想像しただろうか。
「ぐッ!?」
その強い衝撃に、ミカは空高く跳んでいった。
逆に、エルは上手くかわして剣を振りかざしていた。
「はあああっ!!」
そして、対を成す剣同士がぶつかり合う。
「勢いのまま持ったのか知らないが、名案だな。お陰で苦戦させられたぞ」
「貴方こそ、全然本気で戦っていなかったじゃないの…!」
一見冷静に見える2人だが、実は目の前の戦いに猛烈に興奮していた。
「せいっ!!」
エルが両剣を活かして2度振り、シルドも応じて一撃一撃に全力を込める。
2種の剣はリーチが異なるのはもちろん、エルの剣には魔法の効果がある。
高度な対処が必要なのに加えて、止まることの無い2つの剣からの攻撃。
「っ…ふんッッ!!」
シルドは、ただただ嬉しかった。
自分の弟子が、自分の知らぬ間にここまで強くなっていたことに。
自分の全力を受けても怯まず、立ち向かってくれる弟子に対して、インスピレーションとは無縁の嬉しさを感じていた。
「ラッシュ・アウト!」
エルは、凄く楽しかった。
手加減をされて精一杯だった憧れと、剣で対等に戦えているこの状況が、楽しくてたまらなかった。
隻腕というハンデがあってこそと知っていても、それでも楽しくてたまらなかったのだ。
「────爆発魔法って200種あんだよおおおオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
空から爆発音が聞こえたと思ったら、もの凄い勢いで豪炎を纏ったミカが降ってきた。
エルが何かを察し、その場から離れた瞬間───。
ミカの衝突地点は、当然と言わんばかりにシルドの居た位置だった。
「ぐう──ッ!?」
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
シルドとミカは衝突し、超大爆発が起きた。それこそ、ブッッチブチという音が聞こえたほどだ。
ミカがシルドの真上に来てから衝突までの時間は、1秒も無かったはず。
距離が近かったわけではなく、目視した時は米粒程度の姿形をしていたことから、ミカの速度が異常だったのだ。
シルドは咄嗟にガントレットで防御したが、その後の爆発に耐え切れず吹っ飛んでしまった。
ミカも同じく吹っ飛んだのだが、迫真の叫び声を上げていた辺り、無事だろう。
「な……なにそれ………」
エルは最初から最後までその光景を俯瞰していたが、意味不明な規模過ぎて、思考も挙動も全てが停止してしまった。
「こっこれが…クリムゾン・メテオだ……!」
息切れ気味に戻ってきたミカは、爆発の影響でかすす塗れだった。
自分自身もダメージを負う技なのか、少し体力が落ちている。
「い、いくら何でもやり過ぎでは?シルド、あそこの断崖に激突するまで吹っ飛びましたよ…??」
「アタシの持つ魔法の中で、最強の技なんだぜ…へへ……」
魔力も大方消費してしまったのか、正常な思考ができていないように見える。
流石に心配になったエルは、ミカに魔力を分けた後、シルドの落下した所へ向かおうとした。
だが、その瞬間、爆発とはまた違う地震が起きた。
崖の方から、何かが弧を描いてこちらに跳んできている。エルは、その光景に見覚えがあった。
それは、着地したと同時に地面に手を着き、黒いガントレットの金属音が響く。
そして、それはゆっくりと立ち上がると、再び剣を抜いた。
「…とんでもない魔法だな。単なる威力だけでなく、ウォーロックを無視して入る火傷のスリップダメージとは」
「シ、シルド…大丈夫なの?」
「無事だと思うか?」
もちろん、探知魔法で見れば分かることだが、本人にも確認しておきたかった。
探知魔法によると、シルドの体力は6割にまで落ちている。
逆に、何で質量と速度と引力と爆発魔法とで強化されたあの大衝突で6割なのか、その意味も分からなかった。
外見としても、ミカと同じく黒いすすが付いているのはもちろん、あらゆる所に細かい傷があった。
体力が満タンではないことも驚きだが、こんな状態になったシルドを見るのも初めてだった。
「俺はまだやれる。お前達はどうするんだ?」
「流石っすねシルドさん…タフさじゃ、敵いっこなさそうだ……」
いつの間にか回復したミカが、いつもの調子で話し始めた。
「ここが、ハードアタッカーの正念場ってヤツっすよね。あらゆる攻撃をハードに行う…なら、アタシもまだやりたいっす…!」
ミカが剣を構え、意思を表明した。
すると、シルドはエルの方に顔を向けた。
「…まぁ、貴方が大丈夫なら、私も続けたいけど…」
その時のシルドの顔は、少し楽しそうに見えた気がする。
エルに回答を急かしたのも、その表れだったのだろうか。
3人が剣を構えると、今度は合図も無しに戦いが始まった。
ミカとエル対シルドの、二対一が再び。
「ってやあッッ!!!」
ミカは魔力も体力も消費しているはずなのに、疲れを感じさせない攻撃でシルドに迫る。
何の魔法を使っていなくても、剣1つでシルドと対等に渡り合えるというのは、率直に言って尊敬できることだ。
ラストスパートと言わんばかりに、ミカの攻撃速度は上がっていた。
「くっ……!」
だが、それは今のシルドも同じだった。
体力を6割まで落とされたシルドが、黙ってその攻撃を防御するはずがない。
何せ、その場に居た3人は、全員が同じことを思っていたから。
”楽しい”
たったこれだけの感情で、3人の体力の差とは関係無しに体が動き続けた。
ミカとエルが、本気のシルドの攻撃を食らうのも───
シルドが、ミカとエルのコンビネーションを食らい続けるのも────
──そのどれもが、互いの闘争心を刺激し合い、滅茶苦茶な戦いを繰り広げさせた。
再戦が始まってから数分。突如、ミカが攻撃しながらシルドに話しかけた。
「シルドさん!アタシぁ、次で打ち止めだ!」
打ち止めということは、魔力が切れる寸前なのだろう。
もう攻撃手段が無いという意味と、もう一つ”別の意味”を込めて言ったものだった。
「受けて立つ!!」
シルドは、その”別の意味”を快諾し、剣をしっかりと構え直した。
その3人の一致具合からして、最早合図などというものは必要無かった。
「ラッシュ・アウト───!」
「アサルト・フレア───ッ!!」
違う名前で、違う機能を持つ2つではあるが、その由来はどちらも同じだった。
そして、シルドももちろん────
「ラッシュ・アウト」
───鼓膜が張り裂けるような、途轍もない破裂音が辺りに響いた。
3者は、そこで意識を失った。
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