47.さらばだっつってんだろ 残留思念最強バーニング
「…素人の観察眼で失礼だが、君は恐らくギフテッドだ。状況適応能力のな」
それを聞いたミカは、目を見開いて固まってしまった。
「ぎ…ギフテッドって何すか?悪いモンっすか!?」
ミカがガタッと姿勢を変え、シルドにど突き寄ろうとしていた。
「悪いものではない。才能というやつだ」
それを聞いて、安堵の息を洩らしながらエルの近くへ戻って行く。
エルはまだやる気が無さそうにしており、もはや寝ているようにも見えてきた。
「俺も、ラッシュ・アウトが何故作用するのか知らずに使っているように、君の物覚えの良さと勘は才能なのだろう」
「そ、そうっすか。あんま気にしたことなかったっすけど…」
「俺も同じだ。ラッシュ・アウトなんて、俺にとっては全力で剣を振り回していること以外の何物でもない」
すると、ミカは少し引き気味に言った。
「えぇ…やっぱ、次元が違う気がしてきましたよ。アタシら庶民と、魔王討伐部隊の人達って…」
「何故だ?」
「全力で剣振り回したらラッシュ・アウトができるとか、アタシが振り回した所で、できるはず無いんですもん」
言われたことをよく考えてみたら、その通りとしか返せない。
全力で剣を振ったら、複数の斬撃が同時に発現するということが意味不明だ。
魔法でもないのにそれを実現している辺り、ラッシュ・アウトが何なのか分からなくなってしまいそうだった。
「俺の全力の攻撃はラッシュ・アウトだが、全力の攻撃は人それぞれのはずだ」
「じゃあアタシだと…アサルト・フレアっすね」
「何も、ラッシュ・アウトが他の全てを無にしているわけではない。原理が解明できていないだけで、その威力には迫れるだろう」
レイネが使っていた魔法であれば、ラッシュ・アウトと明確に拮抗できていた。
原理が解明できないことは確かだが、問題はそこではない。
その攻撃に、どれだけの実用性、威力が有るかということだ。
ハードアタッカーとは、そういう者のことを指す。
「そういえば…シルドさんの剣って、何か名前付いてたりするんすか?」
「名前…?」
「そうっす!アタシの剣は見ての通り、シルドさんの剣に似せて作ってもらったんで、名前も似せたのにしようと思ってたんすよ!」
武器に名付ける層が居るのは知っているが、シルドはその考えがよく分からない側の人間だった。
「別に、これと言った名前は付けていない。”右”と”左”だ」
そう言って、鞘から両方を抜いて置いた。
「スッッゲェ!本物だ!」
ミカは二振りの剣に近寄り、嬉しそうに観察し始めた。
「おー……こうして見ると、やっぱめっちゃ似てて良いな……」
別に何てことも無い、ただ頑丈に作られた長剣だというのに、ミカは片目を瞑ったりして細かく観察していた。
「…良ければ、君の剣も見せてくれないか?」
「何かムズ痒いっすけど…もちろん良いっすよ!」
すると、ミカは謎に固い動きで鞘から剣を抜き、俺の剣と連なるように置いた。
「ど…どうっすかね……?」
「確かにそっくりだが…細かい所が違うな。埋め込まれた赤い宝石に、ストップが強く掛かるような柄頭…」
「柄頭は多分、あえてそう作ってくれたんだと思います。このサイズの剣を、小柄なアタシがまともに振れるとは思わなかったんでしょうね」
剣身に付けられている宝石は、火属性の魔法を増強させる効果があるようだった。
「良い剣だ。手入れも十分に施されている」
「シルドさんの剣も…っていうか、シルドさんの剣っていつから使ってるんすか?」
「丁度1年くらいだ」
「1年!?全盛期からラッシュ・アウトで酷使してるはずのに、全然摩耗しているように見えないんすけど…」
装備店に行った時にはよく聞かれる。磨いてやろうか、と。
だが、シルドにはゴレモドという確かな腕の鍛冶師がおり、剣を作ってもらったと同時に手入れの仕方をこれでもかと叩き込まれた。
「…昔に、ゴレモドという鍛冶師と知り合ってな。本場の手入れの手法を仕込まれたからか、大した故障を起こしたことは一度も無いんだ」
「ゴレモド…?確か、装備店でそんな銘を見たような…??」
「彼はヴォーラックで俺達と別れて、鍛冶師もとい後方支援に注力することにしたんだ。俺も最近知ったが、かなり名を上げたようだな」
実際、エルの武器を作るために行った城下町の装備店でも、ゴレモドの銘が入った武具が多く並べられていた。
「ヴォーラックで鍛冶師やってて店に並べられるって、滅茶苦茶成功してるじゃないすか。シルドさんの人脈って、マジどうなってんだ……??」
ミカは、ボソッと独り言のように呟いた。
”ヴォーラックの鍛冶師は次元が違う”と言われることがあるが、それはヴォーラックが魔王城の近くであっても、人類の都として存在し続けている事に関係している。
ヴォーラックの正式名称は、”巨城長壁国ヴォーラック”。
そして、城の武装や兵器などは全てヴォーラックの鍛冶師が制作しており、100年前の名匠が作った防衛兵器が未だ有効であるほどだ。
そんなこともあり、ヴォーラックの鍛冶師は次元が違うと呼ばれている。
「とは言っても、今は疎遠だ。俺は部隊を抜けて、ゴレモドは継続して支援と鍛冶に勤しんでいる」
すると、ミカが不思議そうな顔で言った。
「…シルドさんって、何かに罪悪感みたいなのあります?」
急な指摘に、シルドは少し驚いてしまった。
「何故そう思うんだ?」
「何て言うか…シルドさんが仲間の話をする時、自然とシルドさんの格が下がるような話し方をしている気がするんすよね」
本意とまでは行かないが、それは鋭い指摘だと思った。
「当然、罪悪感は感じている。抜けた部隊の安否は、報道を聞いて待つしかなくなったんだ。俺がその場に居たら変えられたかもしれない運命を、報道という既に確定した状態で聞かされるのを待たないといけないからな」
そう言うと、ミカはニッコリと笑って返した。
「アルサールさんとレーネオラさんのこと、めっちゃ好きなんすね!どんな人なんすか?」
シルドはそれを聞くと、少し遠くを見るような目に変わった。
「……馬鹿だ。救いようの無い、阿保と間抜けな奴らだ」
「ばっ、馬鹿!?そんなにっすか……??」
馬鹿、阿保、間抜け。これでも足りないと感じるほど、あの2人を特別に蔑視しているようだった。
だが、その語気に悪意は無く、むしろ愛称としてそう呼んでいるように見える。
「アルサールは不倫した父親を守り、それで家族関係が気まずくなったから家を出て、国を渡って魔王討伐部隊になった男だ」
「それに加えて、自分の犠牲を考慮していない戦略を立てる。大号令を使いながら、自分の身は自分で守るとか言い出したこともある。丸めの三角盾でな」
大号令とは、主に軍隊の指揮を執る者が用いる魔法であり、対象者の士気とステータスを上昇させる技だ。
この魔法は発動まで時間が掛かるため、使用者はその間の魔力を集中させる必要がある。
普通であれば、隙だらけの使用者を他の者が守るというのが基本だが、馬鹿には盾が替えになると思ったらしい。
「レイネは、近衛兵に選ばれた兄姉の面子を潰さないために才能を努力で補い、その2人に恥じない名声を得るために出家し、魔王討伐部隊になった」
「兄姉とは対照的に根暗な性格で、何をするにも優柔不断だったと言っていたが、一家で自分だけが何も持っていないことが嫌だったそうだ。家族の面子のために泥臭くなる令嬢なんて、笑える阿保だろう?」
その”笑える阿保”という言葉からは、侮辱的な意味ではなく賞賛の雰囲気が感じ取れた。
「俺が家族の認識に疎い所為か分からないが、”父母兄姉の誰からも愛されていたのに、迫害されているような気がした”というのは、本当にあるのか疑問だ____」
それを口にした時、シルドはふと言い過ぎたと思った。
ずっと聞いていたであろうミカを確認すると、普通に笑顔だった。
「…悪い、話が長すぎた」
「へへっ…アタシが見たシルドさんの顔の中で、今のが一番良い顔でしたよ!」
「?…ただ思い出話に浸っていただけだが…??」
シルドは、思い出話をしていた自分の表情を、微塵も想像できなかった。
てっきり無表情なものかと思っていたが、無意識にでも表情を変えていたらしい。
「お~いエル~?いつまで寝てんだー?」
ミカは倒れているエルの体を揺さぶった。
「ダイジョウブです…ちゃんと起きてるので…」
(起きていたのか…)
反応が即座に帰ってきたと思えば、その声は寝起きと同様に掠れていた。
ずっと床に寝そべっていたから、本当に寝込んでいるものだと思っていた。
そして、ミカが御者に軽く尋ねると、あと10分もすれば目的地に着くとのこと。
「ほぼ直進しかしてませんしね。イエーヌスノーを出てから、まだ1時間も経ってないっすよ」
「もう着くんですか……?」
エルがのそのそと体を起こしながら言った。
そして、体を起こしきったエルの視界には、並べられたシルドとミカの剣が映った。
「えっ…何これ…」
「お互いの剣を鑑賞していたんだ。そっくりだと言うから、どのくらいのものなのか気になってな」
「そうだぜ!シルドさんの剣の良いとこっつったら、やっぱ無駄な物が何も無いってことなんだよな!」
そして、エルは再び剣を眺めた。
(ミカさんの剣は…水属性の攻撃されたら良くないだろうなぁ…)
露骨に火を連想させる赤い塗装に、火属性魔法の効果を増幅させる赤い宝石。
誰がどう見ても、”火属性の何かをしてくる”と気付ける外見をしていた。
(シルドの剣…何気に、まともに見るのは初めてね)
ゴレモドさんに作ってもらったという剣。
ミカも言っていた通り、無駄な装飾は一切なく、ただの無難な長剣にしか見えなかった。
(……ん…?)
剣身が白く、どのような製造過程でこんな色になったのか気になっていると、使っている探知魔法が変な反応を示した。
反応が有るのは剣身の部分のみで、その他の部分からは変わった反応は無かった。
(何か、魔法が通りにくい…?)
別に、そこから危険信号が察知できたわけでもないが、少しだけ魔力の通しが悪いように感じた。
「…シルド?この剣って、魔法耐性とか付いてたりする?」
「正しく言えば、魔力耐性が付いている」
(何でそんな、魔法が使えなくなるようなことを…というか、そんなこともできるのゴレモドさん…?)
魔法を一切使わないシルドらしいと言えばそうだが、魔力耐性を付けるということは度合によって魔力が通らなくなる…つまり、魔法が効かなくなるということだ。
これをミカで表せば、アサルト・フレアが使えなくなることになる。
(……そういえばシルドって、迎え討つ時はよく地面に剣を刺してたわよね…?)
探知できる耐性度合からして、強力なものではないものの、剣の周囲に集まった者を守ることくらいはできそうだった。
つまり、剣を地面に刺していたあの行為は、奇襲から自らの身を守るものであり、同時にエルのことも守るつもりで刺していたのかもしれない。
「………」
エルは、何だかいたたまれなくなってしまった。
もう一方の剣を見るも、こちらには特別な効果は無さそうだった。
(左は魔力耐性だけど、右は完全に見た目通りの長剣ね…)
すると、今度はシルドが口を開いた。
「…なぁ、こんなことを言うのは悪いと思うが、良ければこの後手合わせしてくれないか?」
それは、ミカに言っているのかエルに言っているのか、判断できない言い方だった。
「あ、アタシとですか…?」
「いや、ミカとエルの2人共だ」
(えぇ………)
まさかの申し込みに、エルは驚きを通り越して呆れを感じてしまった。
「じ、じゃあ、アタシからやってもいいっすか…!」
「いや、2人同時が良い。スノウクロウと戦った際に、俺の防御を剥がすほどの脅威を感じれなかったからな」
(ぶぁ………)
エルは深夜テンションが再来しそうになったが、何とか持ち堪えた。
そして、2人はソワソワしながら馬車が止まるのを待つのだった。
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