46.ありがとう最強バーニング さらば最強バーニング
寝ぼけたミカを連れながら歩いたその距離は、あまり遠くなかったというのに数分を掛けて移動することになった。
「ん、お前たちか。朝から留守にして悪かった」
「はよざいやす、シルドさん…」
「…おはよう。まだ眠いか」
それに返事はなく、見てくれの通り眠そうだった。
「眠いなんてものじゃないわ。体内時計が完全におかしくなってるもの…」
「その割には、お前には意外と余裕があるように見えるがな」
「…本当に言ってる?」
すると、エルは恨めしそうな顔でシルドを見た。
「…昼まではまだ余裕がある。寝る時間は確保できると思うが、帰る準備は済ませたか?」
「ある程度はね。ミカさんはまだだけど…」
「─♪」
スノウクロウがご機嫌に喉を鳴らしていた。
気の所為か、その巨体を揺らして喜びを表しているように見える。
「…スノウクロウと一緒にご飯を食べていたの?」
「ああ。軽く手合わせをしてもらったから、そのお礼だ」
「へぇ……」
人間味溢れるスノウクロウに見惚れるが、エルはシルドが食べている物にも目をやった。
「串焼きのお肉?私も食べたい」
「んぅ…肉……?」
エルの言葉に釣られてか、俯いていたミカが沈黙を破った。
「もう2人分頼めるか?」
「はいよ~」
店番の男に注文すると、早速作り始めてくれた。
男の話によると、最近は村に訪れる冒険者が少なくなってしまったため、屋台も時期外れとして閉める所が多いのだとか。
(毎年一定数が証明書を取るために訪れるものの、イエーヌスノーの外も寒くなり始める時季だからな…)
寒い環境が苦手な人が多いのだろう。秋から冬の一定期間では、ホワイトテラーが更に活発になる。
「そういえば、何でスノウクロウと手合わせしたの?」
「スキルの開発でもしようと思ってな。スノウクロウと戦うことで、何か見出せないかと思ったんだ」
「────??」
スノウクロウも、”そうだったの?”と言いそうな反応でこちらを伺う。
「すきる!?ラッシュ・アウト…!」
ミカは寝ぼけながらも、何とかその言葉に反応を見せる。
「へぇ、かなり意外かも。前に、数百種類以上のスキルを開発したとか言ってたけど、それでも足りなかったっていうこと?」
「ああ。300以上作ったとは言っても、それには完成度の低い物なども含まれている。実用性があるのは、その内の数十個くらいだろう」
それに関しては、魔法も同じことだ。
特に気にせず使っているものの、エルの使う魔法には型落ちの魔法が多くある。
それらは意図的に習得したものではなく、エルが160年前から生きていることに関係している。
古くに作られた魔法は、魔力の消費量が最新世代の魔法と比べて高く、人間が使うとなると問題点になってしまう。
エルは、その点を種族の利点で補っているため、気にせず使い続けているということだ。
「大抵の相手なら、ラッシュ・アウトで解決できちゃうのに。研究熱心な一面があるって本当なのね…」
「……まあ、片腕の剣使いとして足りてない点が見つかっただけだ。特に重大な物ではない」
「お待ちどうさま。ウチ定番の、雪原焼きだよ」
話している2人の間に、丁度良く料理が差し出された。
その串焼きは見た目が面白く、凍った食材に焼き跡が付いただけのように見える。
「不思議な見た目…」
そう言って口に入れると、冷たい物を食べているような感覚が口の中に広がった。
「んんっ……!?」
だが、それと同時に焼き跡の通り、火が通された証拠である熱も感じ取れた。
見た目との差異に驚き、思わず籠らせた驚きの声が出る。
「俺も初めは驚いた。それに加えて、味も良いと来るのだからな」
「伊達に来訪者向けの屋台やってないからねぇ~。ありがとうよ」
「………」
エルはしばらくの間黙り込み、咀嚼に集中しているようだった。
そして、一口の串焼きが喉を通る音が鳴った後、エルは再び口を開いた。
「本当だ…ちゃんと美味しい!」
「───」
冷たい感覚で眠気が覚めたのか、エルの顔には生気が戻っていた。
スノウクロウも頷くように喉を鳴らす。
「ミカさんも食べてみてください」
そして、もう一つ置かれていた串焼きをミカの口の近くに持ってくる。
「んー……あむっ…!?」
ミカが寝ぼけながら口でつまむと、口に入れた瞬間から驚きの表情に変わった。
「ん?…何だこれ。美味い…???」
咀嚼しながら、ミカは口の中に広がる感覚が何なのか、理解できていない様子だった。
目の前に差し出されている串焼きであることは間違いないものの、あまりにも不思議な感覚に理解が及んでいないようだった。
「よく分かんねぇけど、美味ぇなこれ!」
「────!」
またしても、スノウクロウが喉を鳴らした。
ミカは飲み込んでから、エルと同じ表情に変わっていた。
今までエルに介護されていたのが嘘のように、自分の手で串を持って食べ始めた。
その切り替え様を見た2人+1匹?は、全員が似たような考えを持った。
(((愛らしいな…)))
そうして、3人+1匹?によって、串焼きは売れに売れたのだった。
──帰りの馬車内にて
串焼きを食べた後、名残惜しいながらもスノウクロウに別れを告げて、昼丁度にイエーヌスノーを出た。
馬車に乗り込み、イエーヌスノーを出てから早数十分、3人は交代で外を伺いながら雑談をしていた。
「あ、そういえば…シルドさんのラッシュ・アウトって、今はエルにも受け継がれてるんっすよね?」
「そうと言えばそうだが…」
受け継いだはことまでは合っているが、実現した形は大きく違う。
「どうやって継承したんすか!?っていうか、アタシも教えてもらっちゃダメっすか!??」
目を輝かせながら質問責めをしてくるが、エルでさえ完璧な継承ができたわけではなく、仕様が少し変わったものとして会得している。
ギルドの職員が、”師弟関係であれば継承が発生しやすい”と言っていたが、生憎エルの面倒を見るだけで精一杯だ。
「継承の仕方は俺にも分からない。エルが受け継いでいたのは、偶然知ったことだったんだ」
「それに、君の使っていた…アサルト・フレアだったか?あれも十分な威力を持っていたじゃないか」
そう言うと、ミカは少し恥ずかしそうな顔をした。
「へへ…実はあれ、シルドさんのラッシュ・アウトを真似して作ったんですよ。アタシのステータスじゃ無理があるとこを、火属性の魔法で補ってるんです!」
かなりの威力を持っているとは思ったが、まさかそういった魔法だったとは。
「えっ?あれって、そうだったんですか?私はてっきり、ミカさんのオリジナルだと思ってましたけど…」
(…エルが驚くのも無理はない)
シルドの全盛期かつ、奥義のラッシュ・アウトを知らないのだから。
ややこしい話に発展するのが目に見えていたため、あえて簡単に説明することにした。
「俺が二刀流だったというのは知っているだろう?だから、ラッシュ・アウトもその分威力があったんだ」
「……待ってどういうこと?まさか、”腕が2つあるから今の倍強かった”、なんて意味じゃないわよね…?」
「いや、単純なことだ。腕が2つあるなら、その分もう一本の剣が振れるだろう?何だ、急にどうしたんだ…??」
シルドは、その質問を不思議に思いながら答えた。
それを聞くと、エルは頬杖を突いてしまった。
(…シルドってさぁ……ミカさんなの???)
幾ら何でも、その理論は脳筋が過ぎると思う。馬鹿と紙一重な話だ。
二刀流…つまり、右半身と左半身を同時に動かすというのは、それだけ脳に負担が掛かるはず。
しかも、ラッシュ・アウトを同時に繰り出すとなるのであれば、一体どれほど速い動きになるのやら。
(一振りで無数の起点が2つ…頭が壊れそうな話ね)
エル は 思考 を 放棄 しちゃ !!!
(空間に物質をどれだけ設置できるとか、そういうとこ関連の話とか常識とか、何もかもが通じて無さそう…)
エルは溜息を吐くと、脳から思考を抜き取ったかのように弛んだ表情になった。
それはそうだ。片腕の今でも無数を生み出しているのだから、2つになったら威力が倍になるという脳カラ理論も、今なら理解できる気がする。
(あーはははははあーうーあうあーいあーめけめけどんかすぷちばっちょかんぬあれんばさだーすぴゅん!ぴゅんぴゅんぴゅんぴゅんぴゅんぴゅんぴゅん!!ぴゅぴゅぴゅぴゅぴ(略)
頬杖以外全てから力を抜いたエルは、なおさら弛んだように見える。
「何だよエル?お前、一発で敵がブッッチブチになるラッシュ・アウトは見たことねぇのか?」
「えっ…て、敵がブッチブチになるって…一発??」
エルから弛みが消え去り、慌ただしく質問を返す。
案の定、シルドの予想していたややこしい話に発展した。
「そうだぞ。ざんばらだった2つをこう、ググッ!キュッキュッキュッ!って1つに持ってくんだ。すると、ブッッチブチ!!!!みたいな音が鳴って超大爆発だぜ?」
ミカはそれを体で表すために、一体どれだけのエネルギーを筋肉に割いたのだろうか。
(あは語彙)
語お彙んぐすとれいと たあんわんえいてぃ だっしゅあんどげとあうとおぶざかあ そおほわいとてらあおんゆあすたんど なうぷろぶれむそるぶど(語彙)
残念ながら、エルは体内時計が狂っている所為か、意味の分からない解説を前に深夜テンションを発動してしまった。
シルドの超理論と同じように、脳カラ発言しかできなくなってしまったのだ。
「話が変わるが、ミカ。スノウクロウとの戦闘中のことで、気になったことがある」
疲れた様子で倒れているエルを放置し、”よかった。これでややこしい話は終えられる。”と、シルドは神妙な面持ちに変わる。
「えぇっ!アタシに質問っすか?上手く答えられっかなぁ…」
憧れの人物に質問され、照れながらも正面を向いた。
「エルを模倣して使った、”相手の攻撃をいなしたこと”なのだが、あれは本来とても難しい技術なんだ。それも、勇者アルサールですら真似できないほどにな」
「は!?あっ、いや…そうなんすね!」
ミカの驚きをよそに、アルサールの酷いいなし方を思い出す。
そう。彼が剣と”盾”を扱うのは、シルドが直接指導しても習得できなかったから、という理由がある。
『一向にできそうにないんだが…ていうか、普通剣でやる奴なんて居るか?盾使えよ!文明の利器!』
『………』
『…そうだわ、お前がそうだったわ……じゃあシドって何なん……何お前…お前こわ…』
『やーいへたっぴ~』
『ウッセェよお前!?肉弾戦ゴミカス吐き溜メガトンの癖に!??何言ってんだよ根暗!!???!?!??』
『アンタさ…?私のスーパーギガトンミックススターゲイザーライナーキリングオールキャノンを耐えられない癖に、何…?カマすよ…??(ガチトーン)』
『はいすみません』
__と、あいつらとのふざけた会話を思い出すのはここまでにしておこう。
「…使えたのなら分かっているかもしれないが、あれは魔法でもスキルでもない。当人の実力技なんだ」
「はぇ~…」
「それを感覚だけで使った君には、何か特別な能力があるのではないかと考えている。心当たりはないか?」
それを聞くと、ぼんやりとした表情で考え始めた。
「う~ん……物覚えとか勘が良い方だとは思いますっけど、何か関係あったりするんすか?」
「物覚えと勘か…例えば?」
「魚の捌き方を一発で覚えたり、今日の夜に何の星が見えんのか覚えてたり、使い方すら知らない機械を直したりとか…っすかね?」
「戦闘面は?」
すると、ミカは少し考え込んだ。
そして、数秒空けてから口を開いた。
「ぶっちゃけ、さっきのとは違ってはっきり言えないっすけど…まぁ、大抵のヤツらには負けてないとか?あーあと、アタシって滅茶苦茶な戦い方してんのに、ダメージもほとんど食らってないんすよね」
確かに滅茶苦茶だ。ミカの剣の使い方を表すなら、”剣に振り回されている”。
だと言うのに、スノウクロウ相手でもほとんど傷を負わず、今もこうしてピンピンしている。
そこまで聞くと、シルドの疑問は確信に変わった。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
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