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20.続 金貨100枚何して稼ぐ?


──大鷲の魔獣を倒した日の夜 町の飯屋にて


大鷲の魔獣を倒し、ギルドで換金を済ませた日の夜。


エルが”初めて魔獣を倒せた祝い”とか言って、以前カラアゲの材料を買いに来た飯屋に来ている。


「はい、かんぱーい!」


「………」


俺は水、エルはワインが入ったグラスを手に持ち、謎にテンションの高いエルが率先して晩餐が始まった。


ご飯を食べ終えた後のエルの姿が目に浮かび、少し心配になりながらも偶の外食を楽しむ。


「んふー…いつでも7連撃が出せる様になりたいな~」


「ラッシュ・アウトのことか?今の限界が7連撃だから、4、5連撃が実用的だろう」


「えっ。何で7連撃だとダメなの?」


「手合わせで、7連撃を見せた後に倒れたのを覚えていないのか?精神力を限界に消費して放てるのが7連撃だから、そこから少し減らした4、5連撃が精神力の消費と比べて丁度良いはずだ」


エルは残念そうな表情に変わってしまった。


俺も経験したことだから分かる。俺の場合、ラッシュ・アウトを使える様になってすぐ、調子に乗って12連撃を放ったことがある。


結果は察しの通り、当然に精神力の全耗で倒れ、指一本でも動かしたら気絶する状態になった。


「まぁ、1ヵ月に一度くらいのペースで限界を試してみるのが良いんじゃないか?俺は開発者だったから、かなりのペースで何連撃も上げていったが…ポーションを消費してまでやっていたから、当時は仲間に病気だと思われてたな」


「魔法使いでもないのに、ポーションを飲んでまでスキルの開発って…」


エルはクスクスと笑っている。


…笑い話になっているのなら良かったな。


「俺がラッシュ・アウトの開発者として分かっていることは、ステータスも大いに影響して効果が変わるということだ。初めて使った時は今よりも斬撃が浅く、今のお前と同じく数も少なかった」


「私も地道に頑張っていくしか無いってことねー…かなしい~」


テーブルに横たわりながら、エルはだらしなくなった。


「…真剣なことを言うと、お前は俺を超えるかもしれない。お前がラッシュ・アウトを覚えたからか、お前を見ていると昔の自分を追って見ている様で面白い」


「まーたそんなこと言って…褒め過ぎは自意識過剰の元になっちゃうのよ~師匠~」


ふむ…信じていないか。俺は本当にそう思っているんだけどな。


人間は酒を飲んでいる時に本性が出る、と言われているが…それがエルフにも当てはまるのなら、テンションがおかしかったあの時から信じていなかったのだろうな。


エルが俺を超えると考える根拠として、エルの剣技の成長速度とラッシュ・アウトの継承、この2つで十分過ぎる。


1ヵ月足らずで俺の中程度の力と対等に打ち合えるばかりか、2連撃だったラッシュ・アウトを7連撃に進化させた。


剣技だけなら中級冒険者だが、そこにラッシュ・アウトを加えるなら評価がまた変わってくる。


「…お前には、元から剣の潜在能力があったのかもしれないな」


「んんー?まだそんなこと言ってるの~?私、貴方を超えられるとは思っていないわよ」


「何故だ?自分に素質があることは、お前が一番分かっているんじゃないか?」


「だって貴方、私の指導ばかりで、自分の為の鍛錬をしていないじゃない」


確かに、自分の実力を上げる為の行動は一切行っていない。


それは、エルと出会う前からそうだ。魔獣を倒しては貯蓄にしてを繰り返し、それが日常的な作業になるほど繰り返していた。


自分と同等か、それ以上の強さを持つ敵とは長らく戦っていない。


理由があるとすれば、それは片腕になったからだ。次に四肢のどこかでも欠損すれば、日常生活を送ることすら難しくなる。


だからこそ、魔獣を狩って金を稼ぐ安定した道を辿っていたわけだが…


「んーお肉が美味しい~」


(コイツと出会ってからは、それが変わったんだよな…)


機械的な日常を繰り返していた所に、やさぐれ者の弟子にしてほしいだなんて言う、珍しいエルフが居たお陰だ。


今は、エルを鍛えることにだけに集中している。挑戦することが0か1の大きなリスクになってしまった今の体なら、誰かを鍛えたり安定する道を選んだ方が自分の為だとも思っている。


「そういえば私、意外と恵まれた環境に居るわよね。世界最強だなんて呼ばれていたシルドに、面倒を見てもらっているんだもの」


「何だ急に?…俺はそんなに高貴振る様な人間じゃないぞ。修道院の出身だしな」


「いいえ~?一般人からしたら、勇者一行の元一員という事実だけで、十分高貴に感じるものよ?」


ほどよく酔いが回っているのか、先ほどから変な話題になったり口調がおかしかったりと、知性は保っているが酔っていることは見て分かる。


俺はまだ飲めないが、ワインはそこまで酔いやすい酒なのだろうか?


「人間って変よね~。シルドって私より大人っぽく見えるのに、まだお酒が飲めない年だなんて」


「一定の年齢以下で酒を飲むと、何らかの病気に掛かりやすいなんて研究結果があるからな」


後は、単にエルフ種が長寿過ぎるだけだと思うが…


エルの外見は俺と変わらないくらいだ。実年齢は160歳だが、人間の基準で言うなら16歳前後に見える。


恐らく、それはエルフにとっても同じ様な感覚なのだろう。だから、俺の外見でお酒が飲めないということを、不思議に感じているのかもしれない。


「ふーん。私達で言うなら、120歳になったら飲んでも良いみたいなー?」


「…やはり、人間とエルフだと基準が全く違うな」


一応、エルフにもそういう決まり事がある事に驚いてしまった。


「魔獣のお肉って、ステーキにしたら美味しいのかしらね~??明日の牛の魔獣の討伐とか、少し気になってきちゃった~」


彼女は手元にあるステーキ肉を切り分けながらそう言った。


状況が状況の為、俺はそれが冗談に聞こえなかった。


「絶対に止めておけ」


酔ったエルの介錯をしながら、その夜はのんびりと過ごすのだった。



──次の日の朝 平原と森の狭間にて


「────!!」


「えっ、何でもう起きてるのよ…!」


平原で他の動物達を追いかけ回っている牛の魔獣は、まだ朝7時頃だというのに活発に動き回っていた。


牛の魔獣で、体長は4mほどと記載されていた。それが事実なのであれば、その巨体で行う突進はとてつもない力を持っているのではないかと考えていた。


その為、俺たちは奇襲を仕掛けるのが正解だろうということで早朝から来たのだが、この通り牛は既に活動を始めていた。


「魔獣化による闘争心の向上と、周囲に居る生物への感知が敏感になっているのかもな」


牛の挙動を眺めていると、自身の近くに来た羽虫にすら腹を立てている様で、地面に頭から突っ込む様子も伺えた。


「エルは一旦、離れた所から弓を使って戦え。前の大鷲とは違って、こいつの突進はかなり強力そうだから、後ろを庇えるか分からん」


「分かったわ」


「どうにかして動きを抑える。そうしたら剣で倒しに来てくれ」


エルが頷いたのを確認し、俺は平原に堂々と出ていく。


「───……!」


牛の魔獣も俺に気付いた様で、こちら側に踏み込んで来るなと言わんばかりに睨んできている。


それを気にせず歩みを続けていると、牛が少しずつこちらに寄って来た。


俺は歩みを止めない。牛は速度を増していく。


「───!!!」


牛は開戦の合図と言わんばかりに咆哮を上げ、全速力で突進してきた。


(地面が揺れている…やはり、あの突進はかなり強力だな)


間近に迫っている角を跳んで回避し、牛の突進してきた方向へ着地する。


牛も体勢を変えて、再び突進する準備をしている。


(正面から受けて、力比べをするのも良いが…)


だが、それは”挑戦”になってしまう。片腕になった俺にはどうしても、大きなリスクがついてしまう。


辺りを見回すと、手ごろな3mの岩を見つけた。あれを何かに活かせないか、思考を巡らせる。


「────!!」


再び突進を仕掛けてくる。


回避の姿勢を整えていたが、エルが放った矢が牛の胴体に直撃した。


「──!」


ほんの少しではあるが、牛の速度が落ちた気がする。矢に魔法を纏わせていたのか。


それこそほんの少しの変化ではあるが、突進を避けやすくなった。


(体を傾かせるだけでかわせる…)


牛は再び俺を通り過ぎ、更に後方で足を止める。


流石に学習したのか、牛はこちらを睨んだまま動かなくなっている。


俺が何かを仕掛けてくるのを待っているんだろう。


なので、俺はあえて牛に背中を向けて走ってみる。向かう先は、先ほど見つけた3mの岩がある場所だ。


「────!!!」


牛も興奮気味に追いかけてくる。


エルが幾らか矢を命中させているが、皮膚が丈夫なのか気にすらしていない。


俺は岩の横で牛の方を振り返った。


牛は追いかけていた勢いのまま突進してくるが、魔法のお陰でまたもや難なくかわせた。


牛が振り返る前に、俺は岩を持ち上げる。


「えっ」


…エルから腑抜けた声が聞こえた気がするが、俺は岩を持った状態でエルの方向に寄っていく。


「───!」


動きの遅い俺を見て、牛は安直な突進を仕掛けてきた。


(この辺りか…)


突進で一定の距離まで近づいてきた牛に、俺は岩を投げつけた。


角を前に突き出す様に突進していた牛は、死角から投げられた岩に頭から突っ込んだ。


「─……──…」


かろうじて立っているが、明らかに脳震盪を起こしている。歩こうと出す足が小刻みに震えている。


「エル!今だ!」


(そういうことね…)


木の上に居たエルは、幾つかの木を跨いで大きく跳んだ。


空中で弓から剣に切り替え、勢いをつけて落下してくる。


「りょー……かいッ!!」


エルは、牛の首に剣を突き刺した。


矢がほぼ効いていないことを見て、切るより勢いをつけて突き刺す方を選んだのだろう。


お陰で、その一刺しで牛は倒れた。


「これで、金貨20枚が手に入るな」


「”手に入るな。”じゃないわよ。何涼しい顔して大きな岩を持ち上げてるの!?」


「ん?何か良くなかったか?」


「…そうよね、もうそういう人だったわよね、シルドって…最早、人間のフリをしている様にしか思えないわ」


エルは溜息を吐きながら、頭を抱えてそう言った。


「岩を投げただけなんだが…」


「常識を考えたら、3mの岩を振り回すって狂気の沙汰だと思うんだけど??」


「まぁ…確かに?」


言われてみれば、格闘術の使い手以外でこんな戦い方をする者はいないか。


というか、格闘術のみで上級冒険者になっている者がほとんどいない。魔法の発達が著しく、基本的にアタッカーも魔法で済んでしまうことが多い。


そういったパーティーの場合、物理系で採用されるのは壁役のタンクのみとなる。


(何だ、驚いていただけか…)


俺は心中で、そう自己完結した。


エルの現所持金 金貨50枚と銀貨65枚

目標金額まで 残り金貨49枚と銀貨35枚


最後まで閲覧いただき、ありがとうございます。

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