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14.シルドと一緒に荒稼ぎ!

遠征とオーダーメイドの費用を稼ぐ為に、2人は中難易度の依頼を受けることに。

1ヵ月の修練により剣技に磨きが掛かったエルだが、とある事からピンチに陥ってしまう…


フェアニミタスタ遠征が決まり数時間、エルと俺は岩場の中を進んでいた。


エルの資金調達のために、少し難易度が高い任務を受注し、俺と一緒に討伐することを決めたのだ。


遠征を伝えて以来、エルはウッキウキで元気良く歩く状態になっている。


気の所為なのか、先ほど下級の魔物と遭遇した際も、いつもより剣の振りが素早かった気がする。


「フェアニミタスタだけど、実は知り合いが1人居るのよね。別に親戚とかじゃないんだけど、同じ故郷出身の人なの♪」


「………」


「その人にメッセンジャーを送って伝えたらね?検閲を通り易い様に、先に入国申請の予約をしておいてくれるんだって!」


「良い人だと思わない?数えるくらいしか話したことが無いんだけど、同族の繋がりは大切にするものね~♪」


俺は先ほどから相槌すら打たないが、エルは構わずに話を続けている。


モチベーションの上昇を誘えたのだろうが、ここまで上がるものなのか?


…今後、定期的に旅行にでも行かせるべきか?モチベーションは修練の効果の上昇に繋がるし、本人のストレス解消にも繋がるだろうから、考えておこう。


「あっ!シルド!また魔物が居るけど、倒しちゃって良いかしら?」


「ん、あぁ…」


魔物を倒すと言いながら、ここまで目が輝いている様に見えたのは、今までに一度でもあっただろうか?


問い掛けられた俺は、少し戸惑いながらも許可を出す。


「でも、体力は大丈夫なのか?既に何度か下級を潰しているが、討伐対象はまだ先なんだが…」


「全然平気よ!下級なら苦労することなく倒せるようになったし、残りの体力も考えているつもりよ!」


そう言いながら、エルは魔物に向かって走り始めた。


魔物は見たところ、スライム2匹と雷鳥の組み合わせで3匹らしいが、1人で大丈夫だろうか…


スライムはまだしも、雷鳥は雷の魔法を使ってくる鳥形の魔物だ。


まだ人類が使いこなせていない魔法であり、雷鳥や自然現象から研究が進められているものの、現在分かっていることは魔物の近くで育ち、その上で雷に打たれた鳥が雷鳥になるということだけだ。


攻撃は雷を纏った突進と、ただ雷を出現させると案外単純だが、物理攻撃型の俺達は雷を纏われると厄介だ。


鉄製の剣を持っている以上、雷鳥は相性の悪い相手と言わざるを得ないだろう。


「イチ!ニッ──!!」


「…おい待て。雷鳥はマズい──」


「──サンッ!」


三を数えると、雷鳥はばさりと地面に倒れ、すぐに灰となって消えてしまった。


「………」


俺は声に出てしまった不安を、どう取り消すべきかで悩んでいたが、エルの方が先に言葉を並べた。


「大丈夫よ。これでも、雷耐性のスキルを持っているもの。伊達に160年生きてるわけじゃないんだから!」


そう言えばそうだったな。


人で言う16歳程度の容姿で度々忘れるが、エルは160歳だ。


それだけ生きているからこそ、知識・スキル・魔法を豊富に扱えるということなのだろうか?


「さっ。先を急ぎましょ!今すぐにでもフェアニミタスタに行きたいんだから」


エルは雷鳥のドロップ品である羽を腰の物入れに仕舞うと、何事も無かったかの様に再び歩き始めた。


モチベーションがここまで影響するのなら、今度からは絶対に旅行の期間を設けよう…



──それから歩いて30分ほど 目的の魔物は2人の目の前に居た


「バンシーズ・シャウト!」


息を合わせ、開戦の合図と言わんばかりに挑発の魔法を仕掛ける。


エルから発せられている不協和音が、魔物の意識を混濁させ、足元を狂わせる。


その魔物の名前は、マンウィズバッド。


動物の蝙蝠が洞窟に潜んでいるとしたら、この魔物はかなり異様で、生物が良く通る森の木の枝などにぶら下がっている。


自分の間合いに来るまでほとんど動くことが無く、罠に引っかかるように襲われることが多い。


そして、その攻撃の手法も見つけにくいものとなっていて、上級冒険者でも引っかかるケースがあるほどだ。


マンウィズバッドは、自分とは別の人影の様なものを使って攻撃を行い、対象を弱らせた所に本体が息の根を止めに来るという生態を持っている。


それに対して、エルが使ったバンシーズ・シャウトという魔法は、聴覚が鋭いマンウィズバッドからすれば難聴を引き起こすレベルの音が鳴る。


結果、俺達の前を塞いでいる人影は本体に効果があった為だろうが、千鳥足になっている。


「ふんっ!」


「───!」


エルが怯んでいる人影に切りかかり、人影は朧の様に消えていった。


しかし、人影を倒した所で本体とは別であることに変わりはない。このままだと討伐完了にはならない。


エルが人影を倒した後、本体が俺とは反対側…つまり、エルの正面から突進してきた。


「───!!」


「エル__!」


慌ててシルドが駆け寄ろうとするも、エルが何かしらの攻撃を食らうことは免れない。


エルが上手く避けるか、タイミングを合わせて切ることでしか無傷で済む方法は無い。


だが、エルの反応速度だと厳しいはずだ。


「ラッシュ・アウト!」


高速の2連撃が放たれ、マンウィズバッドの本体は体が3つに裂けて灰となった。


その太刀筋は、1ヵ月前に会得した時より速度も精度も上がっている様に見える。


「………」


俺は、再び何とも言えない様な気持ちになってしまう。


(もしや、不安がっているのは俺だけなのか…??)


自分が過保護だったのではないかと思うほど、先ほどからエルが思いの他に魔物と戦えている。


ヒヤッとする判断以外なら、今の所の戦い方は理想的と言って良いだろう。


蝙蝠の様な姿をしていると言っても、中級の魔物だぞ?それを、ここに来るまでの道中で蹴散らしてきた下級の魔物と同じく、パッと剣を振っただけで倒した。


ラッシュ・アウトを使ったと言っても、今のエルのラッシュ・アウトは高速の2連撃のみ。俺のものとは違って、しっかり狙ったタイミングじゃないと当てられない。


それも含めて、中級のマンウィズバッドをあれほど簡単に倒せたと言うのは、一体何だと言うんだ?急成長でも遂げたのか??


「シルド―?マンウィズバッドのドロップ品ってどれなのー?」


エルはそれを自覚していないらしく、呑気に少し声を張って話しかけてくる。


コイツなら、もしかしたら────


「………」


いや、これはきっと、俺の問題だ。


俺がまだ答えを出せていないが故の、俺だけが関わっている問題だ。下手にコイツを絡ませるべきでは無いな。


「シルドー?」


「…そいつは、牙と羽先の爪がドロップ品だ」


シルドはエルに歩み寄りながら指示を出す。


エルもまた、シルドが何を思っていたのか気にせずにその指示を聞き入れる。


「えっと…報酬は銀貨50枚だったかしら?ここまで来るのに倒した魔物のドロップ品も加えたら、一体幾らになるのかしら♪」


「全て下級だったし、銅貨数十枚が良い所なんじゃないか?」


50体は流石に倒していないだろうが、それに近い数を倒しながら来ていたのは事実。


下級の魔物のドロップ品は、市場に溢れ返るほど入荷していることが多く、普通はあまり高値で売買されない。


冒険者であれば、誰もが初めは下級のドロップ品を市場に出して換金する。下手をすれば、少し腕に覚えのある子供にだってできてしまう。


「………ん?」


エルが周囲を見回し始めたと思ったら、再び人影が現れた。


数は2体。ということは、どこかに本体が2体居るということだ。


「あー……シルド?私達、やらかしたかも…」


気まずそうに強張った声色でエルが言う。


俺は何を言っているのか意味が分からず、ドロップ品の入った袋を手に持ったまま、フリーズしてしまった。


「───!」


葉の揺れる音が聞こえる方に向くと、そこには3体目の人影が立っていた。


そして、同じ様な音がもう一つ、一つと増えていき…


「……なるほど」


あっと言う間もなく、俺達2人は大量の人影もとい、マンウィズバッドに囲まれてしまった。


”やらかし”と言うのが合っているのかは分からないが、中級冒険者だったら確かに苦しい場面だろう。


「ど、どうすれば良いのシルド…!?」


エルは顔を真っ青にしながら、カタカタと震え始めてしまった。


こんな状況になって考えているのも何だが、少し思う所がある。


それは、マンウィズバッドが群れているという所だ。


マンウィズバッドが群れるという話は聞いたことが無い。その特性からも、群れるというよりかは個々として戦った方が彼らにも合っているはずだ。


人影の数からして、全員で一斉に襲い掛かったとしても多すぎて無駄数が出るほどだ。本体の超音波による攻撃も、これだけ群れているのであれば本体が巻き添えになってしまうはずだが。


「き、来たわよシルド!」


エルの正面にいた人影が、3人ほどで一斉に襲い掛かってきた。


エルなら何ということも無いだろうが、一応俺も剣を抜いて攻撃する。


まずは俺が1体、エルが2体倒した。そして、周囲から夥しい数の足音が聞こえてきたということは…


「乱戦になるだろうな。訓練の為に、あえて受けてみるか」


「そんな簡単そうに言わないで!?中級で数をこなすなんて戦い方、私はしたことないのよ!!!」


エルは剣を持つ手が細かく震えており、不安な気持ちが強く有る様子だった。


「そんなに怯えなくても、別に1人で戦わせるわけじゃない。難しく考えず、できるだけ相手を倒せば良い」


そう言う間に、再びエルに目がけて3人の人影が順番に向かってきた。


それを、態度が打って変わったエルは焦り迷うこと無く、冷静な太刀筋で切り倒していく。


実際どうなのかはさておき、しっかりと剣を振れていることは伺える。


これなら問題ない様に見えるが…俺の方からも、エルの倍である6体の人影が迫って来ている。


更に加えて言うなら、俺達から見る360度全方向から人影は迫って来ている。


「………」


真っ先に走って向かって来た1体目を叩き切る。エルの状態をいつでも確認できる様に、背中は触れるギリギリの所で合わせる。


その次に2体目、3体目から5体目は一斉に薙ぎ払い、6体目は軽く突くだけで事足りた。


エルも俺と同じく、5体を相手にラッシュ・アウトを上手く使い分けて戦っていた。


すると、6体目と言うべきだろうか。エルの右方向の死角から人影が走って来ており、当人は更に追加で向かって来ている人影を相手にしていて、余裕が無さそうだった。


俺は軽くエルの右に拳を出し、迫っていた人影を頭から地面に伏せさせた。そうしている内に俺の方も、再び何かの気配を感じる。


だが、俺はラッシュ・アウトほどのスキルを使う必要は無い。中級の魔物ということもあり、ステータスと慣れがあれば簡単に倒せる魔物だからだ。


「ソードルイン」


言葉を唱えた後、薙ぎ払う様に地面を切りつける。


すると、切りつけた場所から透明な壁の様な物が出現する。このスキルは切りつけた場所に実際の斬撃を残す効果があり、人影の様な知能が無く突進してくるだけの魔物に対してはかなり有効だ。


(これで、エルの援護に集中できるな)


そう思い振り返ると、エルの少し後ろにいた俺の視野には、明らかにエルを潰しに来ている量の人影が見えた。


「くっ…!!」


エルも目の前に来た人影から切り倒すが、それでもこの量は多すぎる。


どれか1匹を相手している内に、横槍を入れられて面倒なことになるかもしれない。


取り敢えず簡単にエルの左右を薙ぎ払い、ざっくりと頭数を減らす。


残りはエルが相手している行列だけだが…ここまで来れば大丈夫だろう。


「レイズ・スピリット」


今度はエルに向かってそう唱えた。


別に何て事の無い無駄スキルだと思っていたが、誰かに使ってやれる機会が来るとは。


「…はああああっっ!!!」


ただの士気を向上させるスキルだが、気持ちというのは人体に影響を及ぼすほどの効果を持っている。


その証明として、エルはラッシュ・アウトを使っていない状態で、およそ20体以上の人影を切り捨てた。


その剣の振りは修練で見た時よりも速く、5秒も経たない内にエルの正面を塞いでいた人影の軍勢が消え去った。


残り2体が残っていたが、あれだけの数を高速で切り捨てたエルの敵では無かった。


先ほどと同じ様に、残った2体も灰となって消えた。


「はあっ、はあっ…」


相当疲弊していた様で、エルは膝に手をついて息をしている。


無理もない。俺がエルに使ったスキルは持久力を向上させる様なものではなく、ただ気分を良くする、士気を高めるだけのスキルなのだから。


「良く頑張った」


───俺がそう言って直ぐ、再び葉の揺れる音が聞こえた。


今度は近い場所からではなく、少し離れた位置から聞こえた様だが…


(羽音……本体か)


エルの方向の更に遠く、林木の茂みから本体は羽ばたいて来ていた。


距離は、恐らく20~30mほどだろうか。


エルは気付いているものの、疲労が抜けずに同じ姿勢を保っている。


「…エル。身を任せてくれ」


「え………?」


俺はエルが持っている剣を、彼女の握っている位置より少し下の方を握った。


「動かさなくて良い。このまま、手を離すなよ」


エルは、何が起ころうとしているのか想像もつかない様子だった。


傍から見れば、シルドのしていることは剣を背後から盗もうとしている何者かに見えただろう。


「───!!」


マンウィズバッドの本体が迫る。


エルは呼吸の整理がまだつかない中、身を任せて正面を向くしか選択肢はなかった。


シルドが剣先を少しだけ上げた思ったら───


「ラッシュ・アウト」


──瞬間、剣を握っていた右腕に衝撃の感覚と、目の前にはとんでもない光景が広がった。


疲労の所為で見せられているのかと思うほど、それは自身の目が捉えたものだと信じ難い様な光景だった。


”ラッシュ・アウト”


それは、かつて世界に轟いた英雄の技。


私が知る限り、その技を使えるのは世界でたった1人だけ。


最後まで閲覧いただき、ありがとうございます。

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