12.新たなスキルはまさかの…?
報酬の受け取りと、エルに発現したスキルの鑑定をしにギルドへと足を運んだ2人。
せわしなく動き回った後の、静かな日常が流れていく。
ひと悶着が終わった後、俺達は町に戻り、エルが所属するギルドの前に来ていた。
「俺は外で待っている。スキルの鑑定で、参考人が欲しいと言われたら呼んでくれ」
「分かったわ。少し待っててね」
そして、ギルド内へと足を踏み入れた。
ここは、シルドの所属する集合施設型のギルドとは違い、独立したギルドでもあるため、清潔感があり、たまり場にもなりにくい。
「お疲れ様です。どのようなご用件でしょう?」
「捜索依頼完了の切符受付と、スキルの鑑定をお願いしたいんですけど…」
「承知しました。資料を持ってまいりますので、少々お待ちください」
職員は受付の奥へ行ってしまった。
「………」
少し辺りを見回してみるが、やはり人数は少ない。
あまり大きな施設ではないからだろうが、シルドが所属しているギルドと比べると、どうしても少し違和感を感じてしまう。
ギルドの職員が書物をめくる音や、数少ない人の足音しか聞こえない。
「お待たせしました。切符の確認が取れましたので、報酬の金貨3枚をお渡しします」
「ありがとうございます」
静かな雰囲気で、職員の対応も物静か。
不思議と落ち着くのは、森の中で暮らしていた時と共通する点が多いからだろうか?
「スキルの鑑定ですが、まずは聞き取りでの判別が可能か調査したいのですが、よろしいですか?」
「はい。えっと…」
(とは言っても、自分としては、ただ剣を振ってたとしか思い出せないんだよね…)
「私がスキルっぽいものを発動した時に、傍で見ててくれていた人がいたんですけど…その人が言うには、ステータスに見合わない連撃を放っていた、とか…?」
「なるほど…ちなみに、何の武器を使用していた時に発動したのですか?」
「剣です。今日、初めて剣で魔物と戦ったんですけど、それも相まって鑑定してもらえって…」
すると、職員はせわしなく手を動かし、幾つかの資料を手に取った。
「そうですね…登録されているステータスを拝見すると、どうしてもお聞きしたような動きは難しいと思われますが……」
「ちなみに、その傍にいた方というのは、現在この場所に来てもらうことは可能ですか?」
まさかの、シルドの読み通りの展開に少し驚きつつ、エルはシルドを呼びに外に出る。
「なんと、シルド様でしたか。となると、面白いスキルの可能性もありますね」
職員が驚きながらそう言うも、エルは何が何だか検討もついていない。
「確かに、斬撃を素早く出すために使うスキルなどは多々ありますが…」
そう言うと、職員は1枚の資料を手に取った。
「シルド様。あなたの代名詞にもなっている、ラッシュ・アウトも、似たような発現だったのではないでしょうか?」
「…あぁ。戦闘中ではなかったがな」
「え…?」
ということはつまり、もしかしたらシルドのラッシュ・アウトを、継承できるのかもしれないということだろうか。
「不思議なことに、具体的に何なのか確定はしていないものの、そういったスキルの継承が発生することがあります」
「普段から、よくコミュニケーションを取ることが多い師弟に起こりやすいそうですが、当てはまっているのかもしれませんね?」
職員は、ニッコリと笑いながら、2人の方に向く。
何か、意味有りげな笑顔に見えなくもないが、実際のところは果たして…?
「そ、そうなのシルド?貴方のラッシュ・アウトも、最初の頃は私みたいな感じだったの?」
「どこか似ているとは思っていたが、まさか継承の可能性があるとはな」
奥義ラッシュ・アウト。シルドが名を挙げるに連れて、彼の代名詞にもなった、広範囲に無数の斬撃を繰り出すスキル。
彼が言うには、"ただ力一杯に剣を振り回しているだけ"とのことだが、あのスキルはそんなに単純なモノではない。
最後にラッシュ・アウトの話を聞いたのは、彼が腕を失くした時期辺りだったと思うが、自分を囲うように使うなら半径20m、範囲を絞って使うなら40m以上先まで届いたとか。
そんな、全世界に知れ渡っているラッシュ・アウトだが、シルドが魔王討伐部隊を退いてからは、あまり聞かなくなってしまった。
「何にせよ、スキルが手に入ったのは良いことだな」
「私も、自分の周辺にいる魔物を、一気に倒してみたいなぁ…」
「あれは、ステータスで無理矢理規模を広げているんだ。もし今の状態で同じことをやろうとしたら、きっと全身が潰れるぞ」
(なるほど。だから私のラッシュ・アウトは、ちょっと速い2連撃なのか)
今のところは2連撃が限界だが、シルドも同じところから始まったと思うと、自分にも可能性があるのではないかと期待感が高まる。
「本当にシルド様と同じ物になるのかも断定できませんし、長い目で見るべきだと思いますよ。将来有望という物ですね」
できれば、シルドと同じラッシュ・アウトになると嬉しい。
それが、憧れとして剣を使い始めたことに関係しているし、普通に攻撃手段として便利過ぎることも関係している。
逆に、ステータスさえあれば、あれほど広範囲への攻撃ができるなんて、叶うのなら誰もが取得したいスキルなのではないだろうか?
シルドと同等のステータスを手に入れるためには、どれくらいの年月が掛かるのか、想像もつかないけど…
「もし次回、スキル鑑定でいらっしゃる場合は、よりシルド様のラッシュ・アウトに近づいていることを、心より応援しておりますよ」
職員からの暖かい言葉を受け、2人はギルドを後にした。
正直、今日のところは他にやることもない。そもそも、今が夕刻時だというのも関係しているが、如何せん微妙な時間帯だ。
「帰ったら、また少しだけ素振りを教えてくれる?」
「…そうだな、少しだけならいいだろう」
素振りに、スライムの討伐に、人攫いの確保など。今日は色々なことが起きすぎな気がする。
無理は良くないが、少しだけの素振りであれば、問題はないだろう。
~~~~~
そうして、エルの剣の修練が始まってから、1ヵ月の時が過ぎた。
3日魔物を狩っては1日休むを繰り返し、エルの剣技の基礎は、実戦を交えて固められていった。
今日もまた、朝から素振りと手合わせに励んでいる。
「はあっ!」
しかし、手合わせ初日の頃とは違い、エルの攻め手が見て分かるほど豊富になっている。
右も左も分からなかった初日とは違い、素早くシャープな斬撃に、間合いの保ち方も自分本位に運べられるほど、エルの成長は著しく感じ取れる。
早いテンポで、木刀同士がぶつかる音が聞こえてくる。
この1ヵ月間、特にスキルを覚えられたわけでもないが、間違いなく剣における基礎は修了したと言えるだろう。
「っ!」
教育目的程度とはいえ、シルドの攻撃を受け流したり、回避することもできるようになった。
「…よし、ここまでにしておこう」
「ふぅ…いつもより、積極的に動けた感じがするわ」
彼女の言う通り、エルは俺が想定していたよりも、攻撃的なスタイルへと成長していっている。
だからと言って、何か問題があるのかと言われたら違うが…少なくとも、攻撃型に寄せたつもりはなかったんだ。
その他の点が、成長していないわけではないというのが幸いだが、接近戦はリスクが多い。
俺みたいに、体が不自由になるリスクは、なるべく背負わせたくない。
体の傷は治せても、完全に切断された物や、死んだ者が蘇ることはない。
俺がエルに対して、今一番恐れているのは致命傷を食らうことだ。
積極的に動けているのは良いことだが、それを越して自意識過剰になると、接近戦では絶対に致命傷を負う。例外は無い。
そして、致命傷は放っておくと後遺症や、冒険者生活の引退、死亡にも直結する。
俺が魔法を使えないため、急所を刺されるなんてことがあれば、回復のポーションが無ければ看取ることしかできなくなる。
そんな、最悪の結末を辿りたくないが故に、エルを鍛え始めてからはポーションを多めに持つようにしているが…
「エル。疎かにしてはいないだろうが、防御の重要性については理解しているか?」
「え?もちろんだけど…」
接近戦における防御の重要性については、既に何度か説いている。
俺とエルは剣1本しか使えるものがないため、それを使って防御することが多いが、本来はそれでも足りないほど、俺たちは防御が弱点だとも言える。
剣での防御となれば、相手の攻撃を上手く受け流すだけとなる。それが、他職業の何倍のリスクを持っているのか、意外と自覚を持っている人は多くない。
剣で受け流すということは、少なくとも相手の間合いに入らなければならないということ。これを聞いただけでも、剣での防御がどれだけリスキーか解せるはずだ。
おまけに、相手が自分よりもステータスが高かった場合、防御をすることは叶わなくなる。
自分のパワーや防御力の上を行く攻撃でも食らえば、体が吹っ飛ぶか剣が折れるかのどちらかだ。
「…そういえば、俺の”今の戦い方”で手合わせをしたことは、まだ無かったな」
丁度良い。エルは、格闘術を使ってくる相手とは、まだ戦ったことが無いはずだ。
防御の重要さというものを、少し本気を出すことでより深く考えてもらおう。
「そうね?」
「この際だ。格闘術を使ってくる敵の経験も、しておいた方がいいだろう」
すると、シルドは傍に置いてあったガントレットを、魔法の力のようなもので引き寄せた。
物体を移動させているところから、おそらく風魔法の応用か何かだろう。
金属音を立てながら、部品一つ一つが組み合わさり、数秒の後にいつものシルドの姿になった。
「そのガントレット、絶対高かったでしょ?最新の魔法って感じがするわ」
「まぁそうだな。特殊効果が今のと合わせて2つあるから、それなりの値段はした」
確か、身に付けているブレスレットとガントレットが、同期しているという話をシルドから聞いたことがある。
その時点で滅多に見ないものだから、絶対に高いとは感じていたものの…
(リッチに見えてくるわね…必要な買い物なんでしょうけど…)
「それじゃあ、俺が格闘で、エルが剣で手合わせを始めよう。スキルや魔法も有りで、実戦に近いものを想定していくぞ」
「ええ。この1ヵ月、伊達に過ごしていたわけじゃないもの。そう簡単には負けないから!」
自信有り気で何よりだ。
俺としては、その自信が、自意識過剰にならないことを願うまでだが。
「お互いに急所を突かれたら終わりだ。俺の場合は、腕に突かれても終わりにしよう」
「何で腕なの?調子に乗ってるつもりじゃないけど、かなりのハンデになっちゃうんじゃない?」
「ただでさえ、左腕を失くしてしばらくは、戦闘も日常生活も苦しんでいたんだ。両腕を失くせば、戦う者としては致命的だろう」
「もしそうなれば、流石の俺も引退する」
エルは”なるほど”というような表情に変わり、同じくして複雑な表情に変わった。
「貴方がそうなるとは思えないけど…」
「未知とは絶えないものだろう。俺のガントレットがどれだけ固かろうが、それを超えて切り落としたり、そのまま叩き潰される可能性だってある」
魔法が発展したのも、ここ数百年での出来事だ。それ以前は、誰も日常生活に魔法を組み込もうなどとは考えていなかった。
そもそも、この世界におけるほとんどのことは、まだ細かく最後まで究明されていない。
ポーションを使うと傷が急速に治るというのも、ただの偶発的な発見に過ぎなかったとされている。
まさか、自分が腕を切られるなんて思っていなかったことも、未知に含まれるのではないだろうか。
「開始の合図はどうする?」
「いつも通り、石が落ちたらにしよう。エルが投げてくれ」
開始の合図に関しては、未だに士官学校で手合わせをしていた時と、同じ手法を使っている。
石を上に投げて、地面に落ちたら開始だ。シンプルな上に、意外と音も鳴るので分かりやすい。
「投げるわよ。それっ!」
エルが落ちていた適当な石を拾うと、そのまま空に向かって投げた。
投げたばかりだが、既に剣を構え、呼吸を落ち着けている。
1ヵ月前に比べると、かなり手早く事をこなせるようになったものだ。
「俺が今立っているのは、剣での間合いだ」
「格闘術は、有効範囲が体格である分、剣以上に近距離での戦いになる」
そう話しかけるが、エルは構わず目を閉じて深呼吸をする。
これ以上話しかけるのも気に障ると思い、俺も口を閉じて、石が落ちるのを待つ。
(……思いの他、今日は静かだな。木の葉の音すら聞こえない)
シルドがぼーっと辺りを見回している中、石は地面に落ちた。
「っ───!!」
先に剣を動かしたのはエル。だが──
「くっ!?」
気が付けば、シルドが至近距離にまで迫っていた。
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