表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/95

10.完全ソロで対魔物

シルドから簡単な手ほどきを受けたエルが、初めて剣で魔物と戦うことになる。

苦戦するかと思っていたシルドだが、以外にも悪くない動きを見せるようで…?


あの後、マメができた手に包帯を巻いたエルは、シルドと共に魔物が出現する目的地へを向かっていた。


利き手にマメができたこともあり、シルドはあまり強くない魔物を選んでくれるとのこと。


今は住んでいる山を出て、町からも少し離れた平原の道路を歩いていた。


(この辺の魔物なら、剣術ド素人の私でも、何とかやれるかもしれないわね…)


大昔なら違っただろうが、この辺りは人間によって開発された平原でもあり、現在いる魔物は弱い個体ばかりである。


平原と言えど、木や草が一切ないわけでもない。ここにいるほとんどの魔物がシルドを警戒し、その茂みに身を隠している。


「よし。ここら辺で良いだろう」


シルドは歩みを止めて振り返った。


「っていうことは、スライムと戦うってことね?」


「そうだ。その中でも、できればコピースライムと戦ってほしい」


コピースライムとは、その名の通り、外敵と見なした者の姿を自身に投影して戦うスライムである。


真似できるのは外見までなので、ステータスがコピーされることはなく、のっそりとした動きをするのは変わりない。


下級の魔物ではあるが、普通のスライムより希少性があり、見かける頻度は多くはない。


おまけに、普通のスライムと外見での見分けがつかない。


普通のスライムは地域によって赤・緑・青と分かれているが、コピースライムもそれとまた同じ。


普通のスライムとの違いが少ない為、突然変異型のスライムなのではないかとも言われている。


「俺は、ここから動かないでおく。警戒されているせいで、まともにスライムと交戦できなかったら嫌だからな」


「え?私が戦うところは見ないで良いの?」


「いや、少し離れた所から見ておくだけだ。危なかったら加勢するが、まあ大丈夫だろう」


「でも、見回した感じ、スライムが見当たらないんだけど…」


それはおそらく、ここ一帯をうろついていたスライム達が、俺の気配を警戒して物陰に隠れてしまったのだろう。


「隠れているだけだろう。そこら辺の木陰とか、茂みの近くにでも寄ってみろ」


レベルの低い相手であれば、下級の魔物は強く出る。


エルが1人で、そこら辺の陰にでも近寄れば…


「わっ…本当にいた!」


「───」


どうやら、本当に接敵したみたいだな。


スライムは発声器官がない為、レベルが低い内は不意打ちを食らうこともある。


挙動を読むには、逐一スライムの動作を見るしかない。


「や、やっちゃって良いのよね!?」


…何故か、こちらに確認を取りながら、スライムに切りかかっている。


スライムに対して、剣で挑む…試し切りというか、切り方を覚えるには丁度良いかもな。


「えいっ!」


「───」


不思議な感覚…


スライム相手だから当然だろうけど、剣先からでも伝わる、粘度の高い体。


私が切りつける度に体がぐにゃりと曲がり、攻撃は仕掛けてこないものの、こちらの体力が減る一方。


(”当てて切る”ができないと、一生核は潰せないだろうな…)


後ろにいるシルドも、少し呆れ気味に私を見ている気がする…


「ふんっ!」


上から剣を振り降ろすも、粘度の高い体で核は左右にずれるし、スライムは無傷のままだ。


シルドが私とスライムを戦わせたのは、私が既に剣でスライムを倒せると見込んだから。


なら、今さっき教わった剣の扱いの中に、ヒントがあるはず。


彼に教わったこと…”当てて切る”!


そして、一番最初に教わった、剣の出し方!


「ふぅ………っ!」


エルが呼吸を落ち着けてから、素振りの時と同じく、剣を腰の位置まで持ってくる。


そして、自分に向かってきたスライムに対して、素振りで練習した一線を放つと、スライムの体がぱっくりと割れた。


しかし、核までは届いていない。それは、先ほどの一振りが撫で斬りに近いことを意味する。


(まだまだっ!)


スライムが修正しつつある、斬撃の痕に狙いを定め、今度こそ”当てて切る”を実行する。


「─……」


すると、2つに分かれたスライムの核が地面に転がり、その体も灰になって消えた。


「き、切れた…切れたわシルド!!」


嬉しくなったあまり、離れた所にいるシルドに声を掛けてしまう。


シルドが頷くと、エルも達成感で満ち溢れた気持ちになった。


素振りを教えてもらった時とはまた違い、本当に最初の一歩を踏み出した様に感じる。


初めて剣をまともに使えたという、実践による達成感が大きいのだろう。


そこからのエルは、大いに自信を持って剣を振った。


1匹を倒しては、すぐ次の1匹へ。更にスライムを倒す速度を縮めていき、遂には一振りで核を潰せるようになってしまった。


いくら素振りを教えたとはいえ、実践での飲み込みが速すぎないか?


もしかしたら、エルには本当に剣の才能があるのかもしれない…


「コピースライムは見つかったか?」


離れた所から、声を大きくしてエルに話しかける。


スライムをいくら倒してところで、本来の目的はコピースライムだ。今のところ6体を倒したようだが、恐らくその中にコピースライムは含まれていなかったはずだ。


「まだ見てないわー!」


やはり、まだ見つかっていないか。


希少性があると言っても、中々見つからないというわけでもないはずだが…


(誰かが、ここら辺のコピースライムを狩り尽くしてしまったのだろうか…ん?)


「───」


シルドが何かの気配を察知し、後ろを振り返ると、そこには──


「コピースライム……だな」


そこには、既にシルドの姿を模倣した、コピースライムが立っていた。


(このままエルの方に寄るか…)


せっかく見つけたコピースライムを自分が倒すわけにもいかないため、コピースライムからつかず離れずの距離を保ち、エルがいる方に近寄っていく。


「エル。コピースライムを見つけたぞ」


エルの方に振り返りそう伝えると、丁度7匹目のスライムを倒したところだった。


戦いながらも話を聞いていたのか、エルは素早く振り向き、俺の方にいるコピースライムに剣を構える。


自信がついて、倒す意欲が溢れているのか、戦う直前とは別人レベルの対応力だ。


「シ、シルドの姿になってるのね。どうすればいいの?」


「少し待て」


シルドがエルの言葉を遮ると、瞬きする間にエルの視界から消えていた。


「えっ…」


当然ながら、エルは気付けば目の前にコピースライム。それも、シルドの姿を模倣した個体だ


そのコピースライムは姿を変えようとしているのか、シルドの姿が崩れ始めている。


「エルの姿の真似をするぞ。ある意味では初の対人戦だな」


「シルド!?な、何で後ろに…??」


瞬きをする前まで目の前にいた人物が、いつの間にか私の背後に立っていた。


何かしらのスキルを使用したのか、状況をいまいち理解できていない私を置いて、シルドは話を繋げる。


「人型になる分、普通のスライムとはまた違った動きを見せてくるぞ。気を付けろ」


すると、私の目の前で、ガサッという音が聞こえた。


振り返って見ると、それはコピースライムが前に一歩を踏み出した音で、既に私そっくりに姿を変えていた。


(ど、どう仕掛ければいいのか分からない…私が持ってる剣も真似してるけど、スライムなんだったら痛くないんじゃ…?)


後退しながら、相手の弱点になりそうな場所を観察するが、特に何か有るようには思えない。


(それなら、軽く一撃…っ!)


エルは素振りと同じ姿勢で、斬撃を繰り出した。


しかし、コピースライムは模倣している剣で、エルの斬撃を防御した。


「なっ…!」


まさか、剣自体も同じような材質で再現されているだなんて。


コピースライムの体は、硬質化もできるのだろうか?火花こそ散らなかったものの、”カンッ”という音が聞こえたほどだ。


(よろけているから、体がスライムだということは間違いなさそうね)


剣で防御をするということは、こちらが攻撃を当てるためには、防御を解いてからじゃないと当てられないのだろう。


防御した上から斬撃を与えた際、よろめいていたことから、防御はそこまで固くないはずだ。


先ずは囮の一線。


「───」


(よろけた。ここですぐにもう一度…!!)


今度は強気に、前に踏み出しながらの一線を描く。


それはコピースライムの前を通過し、傍から見れば攻撃を外した様にすら見える。


しかしその実は、エルが剣における基本の扱いを、修了したことを意味していた。


(驚いたな…俺でさえ、たった1日でここまで早く上達できた覚えは無いぞ)


数秒の後、核を含め、コピースライムの体を上下に分ける亀裂が走り、溶けてなくなるようにコピースライムは消滅した。


「シルド!わ、私…!」


「…才能が有るんだろうな。俺が初めて剣を持った時より、上手くできていたぞ」


エルは、自分がコピースライムを切ったという事実が、シルドの方に振り向いてから実感が湧いたらしい。


シルドからは、らしくもない誉め言葉を貰い、実感はなおさらだった。すごく嬉しそうに足踏みをしている。


(この短期間……いや、素振りを教えた当日に、スライムを一振りで両断するとは…)


スライムと言えど、あれが魔物であったことには変わりない。


それも、素振りを教わった当日に一刀両断に成功する素人など、一体どこに存在するのだろうか?


そして、最後の防御を崩してから振りまでの速さだが、あれが本当に成功するのだとしたら、スキルか何かを会得したのだろう。


あの速さばかりは、いくら才能があろうと、エルのステータスでは絶対不可能のはずだ。


「お前の剣に関する悩みは、意外と杞憂だったのかもしれないな」


「そ、そう?そうだったら本当に良いんだけど…ね?ふふっ」


照れ笑いか何かなのか、顔を赤らめながら笑みを浮かべてそう答える。


「帰りにギルドに行った方が良いかもな。何か、新しいスキルを覚えたのかもしれない」


「剣のスキル!?私に!?」


何をそんなに驚いているのか知らないが、あれだけの動きができるのだから、何かしら手に入れていてもおかしくないはず。


見た所、魔法を使っているわけではなさそうなので、身体強化系のスキルだとは思うが、大衆化していないスキルの可能性もある。


ギルドでも未登録のスキル。つまり、レアスキルの可能性だ。


(俺も数多くの剣のスキルを開発、会得してきたが…何にせよ、判断材料が少なさ過ぎる)


一瞬たりともエルから目を放していない。それなのに、防御を崩してから一刀両断までの流れ全てを見ても、異常な速さを持っていた。


事前に発動するスキルなのか、それとも相手に接触してから発動するスキルなのか、それすらも判別できなかった。


「……?」


想像をやめて、道路が続いている森の方に目をやると、数羽の鳥がざわつきながら飛び立っていく姿が見えた。


俺が住む町の方向ではないが、町に繋がる道路であることには間違いない。


「どんなスキルなんだろうな~♪」


「…エル。森の声とやらは、今も聞こえるのか?」


嬉しそうなところに申し訳ないが、ここはエルに協力してもらおう。


「えっ?何か気になることでもあるの?」


「あの位置辺りから、鳥が一斉に飛び立つのを見た。何か起こったのか知りたい」


「分かったわ。ちょっと待って…」


エルは目を閉じ、森の声を聞くために集中を始めた。


状況が違えば、俺も似たようなことができるんだがな…


「馬車がある…」


目を閉じたまま、ボソッと呟くようにそう言った。


「拘束されてる人が3人いる…でも、馬車から飛び出してて……人攫いよ!」


「…まさか、捜索依頼を出されている者はいるのか?」


「女の人が1人いるけど…もしかしたらそうかも。当てはまってる特徴が多いわ」


それを聞くと、シルドは剣を抜いた。


「少し離れた所から、弓で援護してくれ。接近戦に持ち込まれたら、俺の方に逃げてこい」


「戦うのね。分かったわ!」


エルは剣を鞘に収め、背負っていた弓に持ち変える。


(どこか高台になりそうな場所は…)


辺りを見回して探していると、近くにいたシルドの方から、強い振動が感じられた。


振り向くが、シルドの姿はそこには無く、爆発的なパワーによって掘り返された土と、その真ん中に足跡だけが残されている。


それを認識できた瞬間、人影のようなものがエルの近くを通り過ぎた。


それを不思議に思ったエルが、大空が広がっている上を向くと、そこにはシルドがいた。


「え…」


その姿はまるで、空を飛んでいるかの様にすら見える。


ものすごい速度で空間を移動しているが、あれがステータスの高さによってもたらされているものだと言っても、誰も信じないのではないだろうか。


(ステータスお化けめ…)


エルは、もはや呆けることすらできなくなり、皮肉交じりの言葉を内心に思った。


最後まで閲覧いただき、ありがとうございます。

詳細告知などはX(Twitter)まで!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ