相違ー3
❝やぁ❞だと?
ガキのクセに、なんて口の聞き方だ。
敬語使え敬語を。
って、そうじゃないだろ俺!
なんだ?
レイナの奴。
俺を見ても、ラクトみたく驚かないのはどういう事だ?
それに、❝待ってたよ❞だと?
その言い方だとまるで、俺がここに来る事を知っていたみたいだ。
やはりレイナは妙だな。
取り敢えず、聞いてみない事には話が見えない。
「お、おう」
「いやー よく無事だったね カズの元気な姿を見れて安心したよ」
言いながら、レイナは俺に近付いてくる。
その様子は、不気味な程に平然とし過ぎている。
違和感半端ねぇぞ。
「おい、ちょっと待て なんだその反応は?」
「え?」
「❝え?❞じゃねぇよ レイナ、お前には俺がここに来る事を知っていたのか?」
俺の疑問にレイナは。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
そう言って、すっとぼけた。
何をだよ。
こちとら何も聞いてねぇぞ。
「なんの事だ?」
俺は首を傾げる。
するとレイナは、とある事実を伝えてくれた。
「私の一族は王族でしょ? だから代々❝玉璽❞を授かるんだよね」
❝玉璽❞?
そうか。
レイナは王様だったな。
王たる所以を、その身に宿しているわけか。
でだ。
「それが、なにか関係あるのか?」
「まぁね 私の玉璽は、特別な魔力の❝既視❞って言うんだけど
簡単に言えば、未来が予知できるんだ」
ほぅ……。
「つまりレイナは、既に俺がここに訪れる未来を視ていたって事か?」
「そういう事!」
なるほどな。
だから、俺の突然の登場にも驚かなかったわけか。
合点がいったぜ。
合点はいったが……。
待てよ。
俺の疑問は払拭されたが、それによって疑念が生じた。
それを確かめる為、俺は再確認する。
「おい待て 未来が予知できるって言ったか?」
「うん それが?」
ちっ……!
そうか。
「だったら、なんで俺達に任務を依頼した?
俺達が魔物共に襲われるのを、知っていたって事だろ?」
未来が予知できるにも関わらず、俺達を危険な目に合わせた。
つまりレイナには、悪気があった事になる。
ふざけやがって!
怒りがこみ上げてきそうになった時。
俺の疑念を聞いたレイナは。
「あー 微妙に勘違いさせちゃったね」
「なんだと?」
「私の❝既視❞は、不完全なものでね 特定の未来を予知する事はできないの
だから、カズが魔物達に襲われた事は全くの予想外だった訳なんだけど……
それでも、私のせいで危険な目にあった事には変わりないよね
本当にごめんなさい」
レイナの謝罪に戸惑う俺。
未来予知が不完全なものだと?
それが本当だとすると、確かにレイナを責められないな。
それにラクトの情報からして、レイナはノエル達の強行を抑止してくれたと言っていた。
悪意があれば、そんな行動はとらないだろう。
だが、責任逃れの為の嘘だという点も留意しておきたい。
まぁ、レイナには俺からも謝らなければならない事があったし、それでおあいこにしてやるか。
「そういう事なら仕方ないな」
「え? 許してくれるの?」
「結果論だが全員無事だったし、俺は寛容だからな」
「良かったー もっと責められるかと思って、びくびくしちゃったよ」
「そうは見えなかったけどな
後な 俺の方からもレイナに謝らなきゃならない事がある」
「え? なに?」
俺はレイナに謝罪を述べた。
それは……。
「レイナに借りた❝伏獣❞≪スレイポス≫を殺してしまった すまなかったな」
そう。
俺はレイナのペットを、意図的に殺した。
あの❝伏獣❞≪スレイポス≫に構って、ノエル達がさっさと退避しなかったからだといっても、他人のペットを殺してもいい正当な理由にはならない。
ペットとは、飼い主にとっては家族も同然だ。
俺は、レイナからの侮蔑を受けるつもりだった。
しかしレイナは。
「あ、いいのいいの あれはただの家畜だからねー
それよりも、ノエルちゃん達を咄嗟に逃がした機転には脱帽だよ」
侮蔑どころか、俺を賞賛した。
「は? 許してくれるのか?」
「私は寛容だからね」
うるせぇよ。
俺の台詞をパクりやがって。
しかし以外だな。
レイナの反応は、ノエル達とは明らかに違っていた。
❝家畜❞なんて言い方は、俺があの時に表現したまんまだ。
前々から思っていたが、レイナは俺と似ている節が見受けられる。
まぁ、なにはともあれ、レイナの❝俺を危険な目に合わせた❞事と、俺の❝レイナのペットを殺した❞という、お互いのわだかまりは解消された。
さて、本題に入ろうか。
俺はレイナに早速尋ねた。
何故、ダグ博士に会わせたのかという事を。
もしかしたら、レイナの宿している玉璽の❝既視❞が、なにか関係しているのかも知れない。
❝既視❞によって、現在までの俺を予知していたのだとしたら。
それに至る、ダグ博士との会合を勧めてきた事は納得できる。
つまり、レイナは太古の事を知らない可能性があるわけだ。
まぁ、現実的に考えればそっちの方が普通だよな。
今いる世界が、元々は違う文明を築き上げ発展していたなんて、夢にも思わないだろう。
いや、夢にくらいは思えるだろうが……。
いずれにせよ、それは夢物語で終わるものだ。
本気にする奴はまずいない。
レイナが俺をダグ博士に会わせた理由が、❝既視❞による未来予知だけだったのなら、大して聞く事は少ないかもな。
「ところでレイナ お前は、俺にダグ・フェルゼンに会う様に言っていたな?」
「うん、言った言った 会えたの?」
「あぁ ウルバキアに寄った時にな」
「ふーん…… そうなんだ で、どうだった? カズの❝知りたがっている事❞は分かった?」
「あぁ おかげさまでな」
「それは良かった!」
「そこでだ 俺をダグ博士に会わせたのも、その❝既視❞でなにかを予知したわけなのか?」
俺が核心を尋ねるとレイナは。
「いや違うよ カズにダグ・フェルゼンを会わせた理由に、❝既視❞は関係ない」
予想外の発言をした。
は?
どういう意味だ?
「なんだと? なら、どういう理由で、俺をダグ・フェルゼンに会わせたんだ?」
「それはねー カズを初めて見た、決闘の時に既に決めていたんだよ
❝あ、このカズって人間は、ダグ・フェルゼンに会わせるべきだ❞ ってね」
ん?
だから、なんでそういう考えに至ったんだよ。
俺が尋ねているのは、その理由だ。
「なぜ、そう思った?」
俺の問い掛けに、レイナはまたしても予想外な発言をした。
予想外には変わりなかったが、その発言はあまりにも予想外過ぎた。
「うーん…… だって、カズってさ ❝自衛隊❞の人だよね?」
…………。
は?
レイナのやつ、今なんて言った?
俺の聞き間違いじゃあなかったら、❝自衛隊❞だと言っていた様な……。
いやいやいや!
そんなわけないな!
俺の聞き間違いだ!
レイナが❝自衛隊❞を知っている筈がないからな!
困惑のあまり、俺はそんな現実逃避をしていた。
気が動転すると、逃げてしまう癖は治ってないみたいだ。
そんな時。
「カズのそれってさ! 鉄砲でしょ!? 私、本物は初めて見たよー」
レイナは容赦なく、俺に現実を突きつけた。
くそっ……!
その発言を聞いて、もはや確定的だな。
やはりレイナは、自衛隊を知っているみたいだ。
「レイナ! なぜ、それを知っている!?」
俺は冷静を保てなかった。
思わず声が荒ぶる。
俺の様子とは対照的に、レイナは冷静に答えてくれた。
「え? なぜって言われてもなぁ……
カズは、ダグ・フェルゼンに会ったんでしょう?」
「あぁ、それがどうした?」
「その時に聞いたんだよね? この❝今の世界❞が、どうやって造られたか
そして、カズ自身の正体も」
「…………っ!?」
こいつ……!
どこまで知ってやがる!?
❝今の世界❞?
この表現をするところを鑑みると、レイナが❝地球❞を知っているのも確定的だ。
自衛隊を知っていたのも、それに繋がっているのか。
「びっくりした? その事は、私も知っていたんだよ?」
あぁ、びっくりだよ。
そして、問題なのは。
「だから! なんでその事を、レイナが知っている!?」
思わず声量を上げた俺にレイナは。
「まぁまぁ。落ち着きなよ 焦らなくたって、ちゃんと教えてあげるから」
そう言って宥めた。
そうだな。
先ずは落ち着かないといけないよな。
年下に宥められるとは、情けない。
俺は深呼吸をした。
「じゃあ、教えてくれ なんでレイナは、❝地球❞を知っている?」
レイナは、少し間を開けて言った。
「それについてはちゃんと教えるよ でも、それは今じゃないの」
なんだと?
もったいぶりやがって。
俺をおちょくってんのか。
「なんでだよ」
「これはとっても大事な話なの だから、カズだけの問題じゃないのよ」
ん?
「言ってる意味が分からん」
俺が首を傾げると、レイナは。
「とにかく! 今から、私と一緒に城に来て
会わせたい人達がいるの この話は、その人達にも聞いてもらうから」
そう言って、俺の手を強引に引っ張ると歩き出した。
「お、おい!?」
手を引かれるがまま、俺はレイナに連れて行かれる。
俺の呼び掛けなどまるで無視して、レイナはぐいぐいと城の中に入っていく。
立派な門をくぐると、そこはドーム状のロビーだった。
その高い天井に臆しながら、階段を上り、横は広く、縦に長い廊下を進んで行く。
その廊下には、豪華な装飾やら高価な置物やらが、そこかしこで確認できた。
1つくらい盗む――じゃなくて拝借してもバレなさそうだ。
って、今はそんな事どうでもいい。
「レイナ! 会わせたい人達って誰だよ?」
「カズにとって大事な人達だよ その人達と一緒じゃなきゃ、この話はできない」
あ?
俺の大事な人達だと?
そんなやつら、今の世界にいたか?
っていうか。
「なんで、その大事な人達とやらと一緒じゃなきゃ、その話はできないんだ?」
「その人達には、カズの正体を知る権利があるからよ」
言ってレイナは、1つの扉の前に立ち止まった。
そして、続ける。
「だって、❝仲間❞でしょ?」
言い終わり、レイナはその扉を開いた。
部屋は割と普通だった。
広くも狭くもない。
部屋の中には、長机があり、それに椅子が用意されている。
が、俺の目線がいったのはそんなところではない。
俺が気になったのは、その椅子に腰を下ろしている、3人だ。
3人は、俺の姿を確認した途端慌ただしく席を立った。
そして、震える声で言葉を発する奴もいれば、10m離れていても、聞こえてくるんじゃないかと思える程、大声の奴もいた。
言い方は違えど、そいつ等の発した言葉は一緒だった。
「カ、カズ……」
「カズ!」
「おう!! カズじゃねぇか!!」
俺の名前を呼んだそいつ等は、レイナの言う通り確かに俺の仲間だった。
「ノエル…… ティナ…… ガルム……」
固有魔力――玉璽❝既視❞
未来を予知する事ができる。 ニルバニア王家に代々受け継がれるという玉璽。
未来を予知できる魔力は、しかし望んだ未来を狙って予知する事はできない。
既視は任意で発動するわけではなく、睡眠時に、近く遠い未来を突如として視るのだという。
ニルバニア王、バニッシュ家は既視によって、幾度となく国の窮地を救った。
ニルヴァーナへの信仰心が特に高かったという初代ニルバニア王は、元は平民であり、既視を賜った事から民を導き、故に王となったという。




