表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/124

真実ー1

我々がもし天に抗する気力がなければ、天は必ず我々を滅ぼすだろう。

諸君、必ず天に勝て。

by福島泰蔵

ふと、俺は目を覚ました。

どうやら寝ていたみたいだ。

あれ?

俺……一体なにをしていたんだっけ?

えーっと……。

確か、魔物共に襲われて……。

襲われて……。

襲われて!?

次の瞬間、俺の脳裏には迫り来る魔物共の映像がフラッシュバックした。

はっと驚き、思わず上体を起こす。

しかし。


「ぐっ……!」


激痛を体中に感じて、たまらず上体を戻した。


「はぁ……はぁ……」


息を整える俺。

その時。


「マスター! 気が付いたのですね!」


リコか。

リコの様子からして、今は安全なのか?

俺は首を動かし、辺りを見渡してみる。

辺りは薄暗い空間で、外ではなかった。

その証拠に、空が見えない。

天井がある。

だからといって、ここは建造物内ではないな。

察するに洞窟か?

薄暗い中でも、僅かな光を感じた。

その光の正体は火だった。

俺の寝ている直ぐ側で、ぱきぱきと薪が音を立てて燃えている。

この世界で火を見たのは初めてだった。

ニルバニアでは熱を扱う類には、どれも魔法が用いられていたからだ。

その篝火には、枝が無数にくべており、その上には鍋らしきものが置かれていた。

どうみても人工的に作られたものだ。

間違ってもリコにできる芸当ではない。

俺がさっきから寝ている場所にも、獣の毛皮で作られた布団が敷かれているし……。

生活感半端ねぇな。

誰かいるのか?

俺が状況の把握をしている時。


「いやー マスターが意識を失った時はどうなる事かと思いましたよ

私はもう心配で心配で……」


リコがなんか色々喋っている。

そうか、リコならなにか知っている筈だな。

俺は疑問を一つ一つ聞いていく事にした。


「リコ ここはどこだ?」


「はい! ここはですね――」


リコが俺の質問に答えようとした時。


「ほう 気が付いた様だな 哀れな人間よ」


洞窟の奥から、なにかが聞こえてきた。

誰だ?

声からして女性の様だ。

落ち着き凛とした雰囲気の、大人の女性の声だ。

第三者の登場に驚いた俺は、すぐさま声の聞こえた方向を確認した。

しかし、洞窟の奥は暗くそこにいるであろう人物の姿が確認できない。

俺は痛みを我慢し、今度はゆっくりと上体だけをなんとか起こした。

目を凝らしつつ、万が一に備えてホルスターへと手を伸ばす。


「誰だ?」


極力冷静を装い、尋ねた。

すると。


「誰か……だと?

人に名前を尋ねる時は、先ず自分からと教わらなかったのか?

古き良き礼儀は守らねばならぬぞ、哀れな人間よ」


…………。

な、なにを言っているんだこいつは。

なんか、話し方が面倒くさいな。


「あ、えっと……」


予想外の返答に、俺が困惑している時。

ひたひたと、こちらに歩いて来る足音が聞こえてくる。

素足なのか?

しばらくして、その女性は暗闇から、ぬぅと姿を現した。

現したのだが……。

なにこいつ……。

真っ黒なローブに身を包み、顔も目深に被ったフードで確認できない。

全身真っ黒なその姿は、辺りの薄暗さと同調し、体と空間との境を曖昧にしていた。

やべぇ、怪しさがすごい。

ここは、下手に逆らわない方が良さそうだ。

そう思った俺はホルスターに伸ばしていた手を引っ込め、言われた通りに自己紹介をする。


「サハラ・カズヨシだ カズと呼ばれている」


どうだ?

俺は女性の顔を見る。

まぁ、顔は見えないのだが。

すると。


「ほう 私に敵意を示さぬとは賢明なやつだ それに奇妙な名だな

格好も面妖だ ふふっ なかなか面白い拾い物をしてしまった」


俺が珍しがられるのはいつもの事だが、なにか引っかかる言い方だな。

でだ。


「あんたの名前をまだ聞いていないぞ」


言うと。


「そうであったな 我が名は❝ミリア・イグニス❞ お前を助けてやった者だ」


なに?

俺が助けられただと?

この怪しいミリアとかいう女性にか?

それを聞き、俺は頭を働かす。

確かあの時。

俺は魔物共に襲われて、絶体絶命の危機に陥っていた。

意識を失う直前、凄まじい火の渦が魔物共を葬っていたのを思い出す。

その時の火の渦は、まるで操られいるかの様な動きを見せ、確実に魔物共だけを仕留めていた。

まさか、それをミリアがやったっていうのか?

にわかには信じられないが……。

そもそもミリアの醸し出す怪しさ全開のオーラが、❝助けた❞などという好意的な感情を俺に受容させない。

俺が疑念を抱いている時。


「マスター! この方が言っているのは本当です! この方はマスターの命の恩人ですよ!」


リコがそう説明してきた。

まぁ、俺は気絶してしまった後の事を知らないからな。

その後の事を知っているリコが言うなら、それで間違いないのだろう。


「そうだったのか それは助かった 感謝する えっとミリア……さん」


俺が礼を言うと。


「ミリアでよい 助けたといってもたまたまだ 気にしなくてよい

カズは素直に礼を言える人間の様だな 安心したぞ」


うーん……。

やはり、どこか引っかかる言い方をしている。

まるで、俺の良心を確かめているみたいだ。

なにか、人に対して不信感でもあるのか?

そんな事が気になったが、俺には更に気になる事があった。

それは、ミリアの素性だ。

特徴を見る以前に、顔すらまだ見えていない。

人間なのか、叡人なのか、獣人なのか、そんな人種さえ一切分からなかった。

尋ねてみるか。


「それよりミリア 助けてくれた事には本当に感謝している

だが、顔も見せてくれないんじゃあ、俺はあんたを信用しかねるな

無理にとは言わないが、顔を見せてくれないか?」


女性だし、顔を隠しているとなると、なにか訳ありかも知れない。

でも気になるものは気になるのだ。

だから無理強いしない程度に俺が頼んでみると。


「我は構わぬが…… よいのか?」


え、どういう意味?

良いも悪いも、俺が頼んでいるのだから確認されても困る。

顔を見せる事に、なにか特別な理由でもあるのか?


「別に良いけど?

それに、古き良き礼儀は守らなきゃなんだろ? だったら挨拶する時は顔を見せるものだ」


とりあえずミリアの確認に、もっともらしく言ってみると。


「ふふっ なかなか言ってくれるではないか 後悔せぬ事だ」


そう言って、ミリアは顔を隠すフードに手を触れた。

フードの縁を掴むと、それを持ち上げ外す。

そして遂に、ミリアの容姿が露わになった。

ミリアの容姿は、とても珍しいものだった。

白髪のセミロングヘア。

凛とした顔立ちには、透き通る様な白い肌に、真紅な瞳が確認できる。

先天性白皮症――いわゆるアルビノか?

だが、そこに目が向いたのはほんの一瞬。

ミリアの目立つ白髪頭には、それ以上に目立つものが確認できた。

黒い硬質的な物体。

それは見間違えようもなく❝角❞だった。

小さい角だ。

頭に左右2本生えている。

獣人?……ではないな。

だが叡人でも、ましては人間である筈もない。

一体なんだ?

まぁ、なんでもいいか。


「へぇ ミリアには角が生えているんだな そんな人は初めて見た」


俺は感じた感想を率直に言ってみた。


「ほう 我の容姿に恐れを成さぬとは、カズは随分と変わったやつだな」


俺は別に変ったやつではない。

こんな世界に来てからというもの、様々な人に会い、見た事もない魔物とも遭遇してきた。

それに魔法とかわけの分からない事象も目の当たりにしてきた。

今更、ミリアの容姿に驚く程、俺の感受性は豊かではない。

慣れって恐いな。

でも、恐れを成すってどういう意味だ?


「変わってるとはよく言われるよ で、ミリアってどういう人種なんだ?」


「なるほど カズは我の人種を知らぬのだな」


「世間知らずなものでな」


「ならば教えておこう 我は……❝魔人❞よ」


❝魔人❞だと?

そんな人種がいたのか。

いや、そういえばいた気がするな。

ノエルの実家で、本を読んだ時の事だ。

このアストランに住まう人種についての情報を得た時。

❝魔人❞という人種についても、記されていた。

確か内容が……。

忌み嫌われる不気味な魔法を扱うとか、身体的特徴に角と奇妙な尻尾が生えているとかだったか?

思い出して、ミリアの尻を見てみる。

いや、邪な考えとかではなく。

そこには、先端が矢印型の黒い尻尾がローブからちょろっと覗かせていた。

ふむ、確かに、獣のどの尻尾にも該当しない変わった尻尾だな。

想像上の悪魔とかがこんな形の尻尾をしてそうだ。

ミリアは確かに、魔人の身体的特徴と合致する。

つまり、ミリアの先程からの発言を鑑みるに、己は畏怖な存在だと認識していたんだろう。

だから、俺に気を遣って姿を隠していたというわけか。

姿を隠している理由は、世間から隠れる為でもあるのだろうが、だが世間が恐れるほどの人種とは到底思えないな。

少なくとも俺にとっては、レアキャアとの遭遇きたぐらいな認識だ。

自らの正体が❝魔人❞だと明かしたミリアは、俺に語りかける。


「いくら世間知らずと言えど、流石に魔人の存在くらいは聞いた事があるだろう?」


「あぁ 思い出したよ」


「驚かせたか?」


「少しな」


「すまぬな だから後悔するなと警告したであろう?

我もカズを恐がらせるつもりはなかったのだ」


ん?

ミリアのやつ、なんかおかしな思い込みをしていないか?


「別に恐がってなどないが」


俺がそう言うと。


「――! なに? カズは魔人を恐れぬというのか?」


うーん……。

確かに、ミリアは見た目の醸し出す雰囲気も少し不気味だ。

だが俺は人種そのものを非難したりしない。

あくまでも個人を見ているからだ。

潜在的に差別意識はあるのだろうが、それをしてしまわない様に自分に言い聞かせている。

俺は素晴らしい人間だから、人類、人種を差別しないと。

ミリアがいくら世間から恐れらている魔人だからといっても、俺を助けてくれた事実だけは揺るがない。

だから俺はミリア個人を見て、その上で恐れる理由など微塵もないのだという事を伝えた。


「だって助けてくれたんだろ? なんで恐がらなきゃならないんだよ」


「…………」


ミリアは目を丸くして、俺を好奇な目で見ていた。

そして。


「あっははは!! 面白い!! カズとやら、我は貴公を気に入ったぞ!!」


と、豪勢に笑った。

なんかクールな人かと思ったが、なかなか良い笑顔で笑うんだな。

なんか俺の物珍しさって、色んな人に気に入られるな。

もてもてかよ。


「そいつはどうも それで、ここは一体どこなんだ?」


俺は次なる疑問を尋ねた。



熱や光を発生する。 燃焼時に発生する現象。


火は危険であり、全てを燃やし尽くし灰と化す。

火を忌み嫌い畏れた神は、世界から火を消し去ろうとしたが、強過ぎるその存在を消す事は叶わず、1つの種族の中に封じ込めた。

以来、火を扱う魔人は神の嫌われ者とされ、神の信奉者達からも魔人は忌み嫌われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ