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別離ー1

可能なら実行する。

不可能でも断行する。

byマルセル・ビジャール

ニルバニア祭が終了し、数日が経った。


――任務中。

俺達の戦力は上昇していた。


「おらぁ!」


ガルムという仲間の加入。


「ガルムどいて! 拘束魔法――魔術❝光輪の枷❞!」


ティナは❝魔晶石の杖❞を手に入れ、魔法が強化され一般的な叡人並みには強くなっていた。


「よくやったわティナ じゃあ私は付与魔法――魔術❝氷の刃❞!」


ノエルもティナから譲渡された❝魔樹の枝❞で、強い魔力を引き出せる様になっていた。

そして俺は――。


「よし、後は任せろ」


言って、討伐対象に向けて小銃の引き金を引く。

俺達が相手にしていた❝緋狡猩❞≪フラムー≫は銃撃後、その場に崩れ落ちる。

俺は相変わらず最強だった。

だが、任務に行く度に刻一刻と俺の❝強さ❞は失われていた。

弾薬の減少。

その数、拳銃、小銃それぞれ残り弾倉1つ分になっていた。

やべぇ。


任務が終了し、家で集まっていた時。


「いやー 今日も順調だったね」


「俺の陽動がうまくいったからな!」


「街では私達の評価も上がってるみたいだしね! ま、私がいるから当然だけど!」


こいつ等は完全に調子に乗っていた。

実際、俺が止めを刺さなければ、戦いの行方はあらぬ方向へ行っていたかも知れない。

そんな危機感を持たず、こいつ等は俺の強さに頼り、持ちうる実力より格上の任務ばかり受注していた。

だが、全てつつがなく済んでしまうのでたちが悪い。

かといって、任務に手は抜けないし困ったものだ……。

俺はそんな心配事ばかりしていた。

そして、こいつ等は違う心配事をしていた。

いや、心配というよりは悩みか。


「それよりさー いい加減に❝これ❞決めようよ」


言ってノエルは1枚の書類を取り出し、机に置いた。


「あー それな」


「案外難しいのよね」


俺はその書類を見る。

その書類とは……。


――――――――――

――パーティ申請書――


リーダー:ノエル・ヴィンター

メンバー:サハラ・カズヨシ

    :ティナ・ヴェール

    :ガルム・オーガスト


パーティ名:


――――――――


こいつ等が悩んでいた事。

それは、パーティに付ける名称だった。

実に下らん悩みだな。

パーティは4人の人員が集まれば、結成する事ができる。

目的を同じくした組織みたいなものだ。

メリットは、任務の度に同行者を集めなくて済む事と、知った仲間だから単純に連携が取り易い事にある。

つまり、俺達が今の仲間でパーティを立ち上げる事は可能なわけだ。

立ち上げた暁には、受注できる任務の幅は更に広がる。

そこで実績を積んでいけば、いずれは未開の地である❝禁足地❞に行けるかも知れないらしい。

ノエルの目的は、その禁足地に行って人間という人種の根源的な事を知る為だった。

しかし、ここで1つの問題にぶち当たる。

それは……。


「じゃあパーティ名は……❝冷たい氷❞!」


「いいや、❝黒い毛❞だな」


「あなた達、それは本気で言ってるの? ❝翠の眼❞でしょ!」


…………。

こいつ等のセンスが絶望的だったという事だ。

って、いやいや。

よく聞いてみると、自分の容姿を強調している節が見受けられるな。

目立ちたがり屋ばかりかよ。

俺は手で顔を仰いで、呆れる素振りを見せる。


「却下だそんな名前 真面目に考えてみてくれよ」


俺がそう要求すると。


「でも名前って、いざ決めようと思うと難しいんだよね 何かいい案ないの?」


ノエルは俺に振ってきた。

まじかよ。

自慢じゃないが、俺だってセンスがある方じゃない。

そうだな、こいつ等の思想で共通している点を考慮して、敢えて名付けるとしたら……。

❝強くなり隊❞とか?

いや、ないわ。

こういう場合は、なにか参考になるものがあれば捗る筈だ。

そう思って、俺は提案する。


「既存のパーティはどんな名前のがあるんだ? それを参考に考えようぜ」


ノエルは俺の提案に応えた。


「あー よくあるパーティはね、魔物をイメージした名前を付けているのが多いかな」


「魔物?」


「そ! ティナが解雇されちゃった医術院直属のパーティ❝白の翼❞は、❝白凰鳥❞≪アルニクス≫をイメージしているし」


「ちょっと、解雇って言わないでよ 私のイメージが崩れちゃうじゃない」


ティナの文句をあしらってノエルは続ける。


「事実でしょ で❝黒の角❞は❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫を❝朱き爪❞は❝朱剛蜴❞≪エリサルス≫をイメージしているってわけ」


「へぇー」


こうやって改めて聞くと確かにそうだな。

ノエルが例に出したパーティだけでも、名前に魔物のイメージを起用している。

そしてそのパーティは、ギルド成績上位に君臨していたよな。

しかもイメージしている魔物が、軒並みSランクの魔物だ。

なにか関係があるのか?

まぁ強い魔物のイメージをパーティ名に起用している点を鑑みるに、相応の実力を有している故だろう。

つまり、強いパーティは強い魔物のイメージをパーティ名にしている。

よし、これでパーティ名を考える方向性は決まったな。

俺達の強さに相当する魔物をイメージし、それを名前に起用すればいいわけだ。

と、思ったが。


「まぁ、これはあくまでも例えね 大抵のパーティは❝色❞と❝象徴❞を組み合わせてる名前だから

私達もその方向で考えましょう!」


あ、さいですか。

ノエルは俺とは違う方向性を導き出した様だ。

余程変な名前じゃない限りそんなに気にしない。

こいつ等にひとまず任せてみるか。

そして、ノエルは自信あり気に言った。


「じゃあ……❝青い水❞!」


意味そのままかよ。

なんだよ、その安直な名称は。

流石におかしいだろ。

ティナとガルムはどうだ?


「❝緑の森❞はどう?」


だから、意味がそのままだろ。

その内❝白い雲❞みたいな事を言い出すんじゃないだろうな?


「いや、❝白い雲❞だな」


ガルムのやつ言っちゃったよ。

分かり易いやつだな。

小学生の日記みたいな事いってんじゃねぇ。

そして、一周回って再びノエルの番。


「❝赤い血❞なんか良くない?」


良くない。

なんでそれを良いと思っちゃったんだよ。

色んな意味で痛々しいから却下だ。


「次、ティナ」


「❝黄色い星❞なんてどう? 煌びやかな私にぴったり!」


意味が分からん。

パーティ名なのに、自分を主張してどうするんだ。


「次、ガルム」


「❝茶色い糞❞!」


馬鹿やろう。

本格的に小学生かよ。

お前は、それがパーティ名になって良いのか?

もはや、ただ単に❝色❞と❝象徴❞を合わせるだけになっている。

こいつ等に任せていると、先が思いやられるな。


「却下だ却下 もっとましな案はないのか?」


俺が言うと。


「もう! カズってばさっきから否定ばっかり カズも少しは考えてよ」


ノエルがふくれっ面で言ってきた。

そうだな。

確かに、同じ仲間として俺も考えないといけないよな。


「分かったよ」


ノエルにそう返事をすると、俺はパーティ名を考えた。

先程の話を参考にするならば、俺は自分の定めた方向性に従い、魔物をイメージしてみるか。

俺達のパーティの強さに相当する魔物か……。

よし、これだな。

俺は思い付くと、とある魔物のデータ開示をリコに頼んだ。


「リコ このアストランで❝一番弱い魔物❞ってなんだ?」


「❝一番弱い魔物❞ですか?」


俺の発言の疑問を思ったのだろう。

リコは復唱して、俺に聞いてきた。

だが、俺だって考えがある。

まぁただ率直に、俺達のパーティが弱いと思っただけだが。

だから、弱い魔物のイメージを俺達のパーティ名に起用しようというわけだ。


「あぁ 弱い魔物でいい」


「分かりました! データベースから検索してみます! ふむふむ……」


そしてしばらくして……。


「検索終了しました! このアストランで一番弱い魔物は……

❝灰子≪グレイス≫という魔物ですね!」


「❝灰子❞≪グレイス≫? 一体どういう魔物だ?」


「危険度Dランクの魔物です 大きさは❝脂獣❞≪ウーム≫の半分程ですね

腐敗した魔物の残骸を喰らい、洞窟内の汚泥を住処にして、攻撃性はなく、極めて脆弱な生体をしています 地球でいうところの鼠みたいな魔物ですね!」


ふむ、鼠か……。

それは確かに弱そうだ。

リコから聞いた❝灰子❞≪グレイス≫のイメージから、そのまま❝色❞と❝象徴❞を考えてみる。

そして、それを3人に提案してみた。


「じゃあ…… ❝灰の泥❞なんてどう?」


俺が提案すると、先ずはノエルが。


「なにそれ 全然ピンとこない」


そして、ティナは。


「嫌だわそんな汚らわしい名前 私に相応しくないじゃない!」


で、ガルムが。


「なんだその弱そうな名前はよ 俺はごめんだね!」


と全員が否定した。

ま、そりゃそうか。

だが、否定されるのは想定済みだ。

俺に抜かりはない。


「待て この名称にしたのにはちゃんとした理由がある」


俺の発言に、ノエルは反応する。


「理由? 一応聞いてあげるわ」


お、どうやら頭ごなしに否定はしない様だ。

理由を聞いて納得してもらえれば、パーティ名は決まったも同然だな。

ティナとガルムも、俺の話を聞く気ではいるみたいだし、俺はパーティ名に敢えて弱い魔物のイメージを起用した理由の説明を始めた。


「敢えて弱いパーティ名にする事で、俺達の強さを主張し易くする為だ」


先ずは結論から言ってみた。

そうする事で、話の着地点を明確にする。

後はそれに準じて、説明していけばいい。

聞く側にも、俺がなにを言いたいのか分かるしな。


「どういう事?」


ティナが聞いてきたか。

まぁ、自尊心の強いティナだからこそ、俺が提案したパーティ名に一番の不満を抱いていたのかも知れないな。


「俺達はそこそこ強いが、だからといって強そうなパーティ名を起用したら、周りはどう反応する?」


「え? そりゃ、それなりに期待するんじゃないかしら?」


「その通り だが期待されて期待通りの活躍をするだけじゃあ俺達の評価は弱い」


「つまり?」


「つまり 敢えて弱そうなパーティ名を付ける事で、俺達の活躍を大きく見せられるわけだ」


「あ……」


お、気が付いたみたいだな。

ここで、俺が弱そうなパーティ名を提案した理由が明確になる。

最初に言った、結論に辿り着くわけだ。

❝敢えて弱いパーティ名にする事で、俺達の強さを主張し易くする為❞だと。


「俺達の活躍が世間に広まれば、パーティの目的にも近付くだろ?」


「なるほどね」


「なかなか、考えてるじゃねぇか」


ノエルとガルムも理解したみたいだな。

ティナはどうだ?


「なにか異論はあるか?」


「いいえ パーティ名と実力のギャップで、私達の評価を上げようって魂胆なのね 納得したわ」


よし、どうやら3人共俺の提案したパーティ名を受け入れるみたいだ。

俺が弱そうなパーティ名を提案した、本当の理由を知らないまま……。


実は、ある目的の為に敢えて劣称を付けられた物体が地球上には存在していた。

旧ドイツ軍が開発、製造した、世界最大級の戦車。

軽戦車、中戦車、重戦車と分類される戦車の中で、その戦車だけ❝超重戦車❞という枠組みで分類されていた。

当時、戦車の限界重量とされたのは凡そ70トン。

俺の搭乗していた10式戦車は、比較的軽い部類で重量約40トン。

ところが、この超重戦車は、なんと重量190トンにもなる。

世界最大と言わしめるだけあって、なにもかもが規格外だった。

しかしこの戦車、車体の風貌とは裏腹に付けられた名称が実に慎ましかった。

その名も――❝マウス❞

ドイツ語で❝小さき者❞の意。

要は鼠だ。

では、なぜ世界最大級の重量を誇る戦車に、その様な似つかわしくない名称が付けられたのか?

理由は単純且つ明快。

情報の秘匿性を図る為だ。

❝マウス❞という名の戦車が製造されているという情報を得た時、敵国はどう思うだろうか?

人は思い込む生き物だ。

恐らく、拙攻目的の軽戦車が製造されていると推測し、その対策を立てるだろう。

だが実際は、どの戦車よりも巨大な規格外な戦車が造られている事になる。

対策が無駄に終わるわけだ。


話を戻す。

つまり、俺がパーティに弱そうな名称を提案した本当の理由は、周囲に俺達は弱いパーティだと意識付ける事だった。

こうする事で、俺達は期待されなくなる筈だ。

期待される事によって任される危険な任務の依頼が少なくなると思う。

これが俺の本当の狙いだった。

俺達は決して強いパーティじゃない。

だったら、❝禁足地❞を目指すなんて不相応だ。

俺達は、慎ましやかに生きるべきなのだ。

だって俺の❝強さ❞はいずれなくなるのだからな。







パーティ名

パーティを表す名前。 ギルドでは色と象徴を組み合わせる場合が多い。


名前の持つ力とは大きく、それは互いを縛る枷にもなり得る。

❝名は体を表す❞と言うが、偉大な名に合った体裁を保つにはとても大変だ。

ならば慎ましい名前を持つ方が、いかほどか楽に過ごせるというものだろう。

名付け親よ肝に銘じておけ。名前は永劫を共にするものだ。よく考えて名付ける事だ。

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