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決闘ー8

❝透化❞によって、俺の姿はガルムから視認されない状態にある。

それを利用してガルムに勝つ方法は……。

闇討ちか。

気付かれない様にガルムの背後に回り込み、後頭部を強打する。

そうすれば、いくら体の丈夫な獣人とはいえ、意識を奪う事くらいはできるだろう。

よし、そうと決まれば善は急げだ。

❝透化❞には制限時間があるからな。

早いところ勝負を決してしまおう。

作戦が決まった俺は、その旨をリコに伝える。

声を出してしまえばガルムに居場所がばれてしまう為、俺は隠密作戦で用いられる意思疎通法の❝ハンドシグナル❞を使った。


(リコ 対象の背後に回り込む 誘導してくれ)


するとリコは、液晶画面に文字を映し出し答えた。


(了解しました 勝つ為には卑怯且つ姑息な手段もいとわないマスターは流石です!

では、周辺をレーダーで感知した略図を照会しますので参考にして下さい)


うるせぇよ。

それはそうと、その文字は日本語だった。

異世界の言語が携帯端末機に用意されている筈ないので当たり前なのだが。

日本語を見たのは久々だったが、普通に読めるものだ。

なんて思っていると、リコの液晶には略図が表示された。

略図には、俺とガルムの位置が目印で示されている。

そして、ついでにというように、略図の下部には透化が切れるまでの制限時間がカウントダウンを始めていた。

その時間は残り❝02:48❞。

ふむ、もう3分を切っているな。

急いだ方が良さそうだ。

俺は足音で居場所を気付かれない様に、慎重に、且つ迅速に行動を開始した。

しかし直ぐに。



「はっ! なかなか考えたな! 俺を闇討ちでもする気か? きたねぇやつだ!」


ガルムは俺の考えを読んでいた。

だが、それは大した問題ではない。

分かっているからと言って、防げる様な攻撃ではないからな。

しかしなぜかガルムは自信に満ちていた。


「当てが外れて残念だったな! 俺にはてめぇの姿は丸見えだぜ?」


なに? はったりか?

なんて思った時、次の発言でガルムの言っていた事は本当だと俺は思い知る。


「匂うんだよ 獣人の嗅覚をなめるなよ人間!」


匂う?

嗅覚?

あ、そうだった。

ガルムは以前、透明になる事ができる魔物❝碧透鰐❞≪ガリアオス≫を惨殺していたんだった。

それを成せた理由は、嗅覚によって透明化した❝碧透鰐❞≪ガリアオス≫の場所を把握できたからだったな。

って事は……。

俺の姿を嗅覚によって把握している事になるわけか。

あれ?

透化した意味なくね?

まずい……。

俺が絶望に打ちひしがれていると、リコに表示されているガルムの目印が、俺に向かってきていた。

そして、その理由はレイナの実況によって理解できた。


『おおっと! ガルムが突然走り出しました! まるでカズの居場所を分かっているみたいです!

ウォーレンさん これはどういう事でしょう?』


『ふむ…… ガルム君は獣人ですからね 獣人の嗅覚は人間、叡人の100倍はあると言われています

恐らく、カズ君を匂いで察知しているんでしょう ガルム君だけでなく、会場にいる獣人はカズ君の居場所を把握していると思いますよ』


なるほど。

ガルムは俺に攻撃を仕掛けて向かって来ていたのか。

やべぇじゃん!

まずい、なんとか避けなければ。


…………ん?

いや、待て。

避ける必要あるか?

ガルムはあくまで匂いだけで俺の居場所を把握しているに過ぎない。

だったら……。

俺は土壇場である考えを思いつき、一か八かそれを実行する。

確かポーチに後1つ❝朱剛蜴❞≪エリサルス≫の爪が残っていたな。

俺はそれを取り出した。

そして、リコの液晶場面を確認する。

そこに映し出されているガルムの目印は、すごい速さで俺に迫ってきていた。

タイミングを見計らう。

そして、ガルムを表す目印が、俺の目印の目前まで迫った時。

俺は行動を起こす。

❝朱剛蜴❞≪エリサルス≫の爪を宙に投げる。

それを、俺は蹴る。

すると、俺の蹴りは❝朱剛蜴❞≪エリサルス≫の爪を捉え、そのまま何かに当たった。

その当たったものを俺は分かっていた。


「ぐぅ!?」


ガルムの腹だ。

俺の蹴りは、ガルムの腹部を捉えていた。


「な、なにが……!?」


ガルムにとっては、いきなり腹部に衝撃を受けた事になる。

膝を地面について、うずくまっていた。

その時。


「マスター 時間切れです」


リコの報告通り、俺の透化が機能を停止させた。

俺は視界を確保できたと同時に、周りからも俺の姿は視認できる様になっていた。


『おおっと! 一体なにが起きたのでしょうか!

突如ガルムが動きを止めたかと思えば、カズが姿を現しました!』


レイナを含む、会場からはそう見えていたのか。

ガルムは腹を押さえて、うずくまったまま俺を睨んでいた。


「てめぇ…… なにをしやがった!?」


「蹴っただけだ」


「なに!?」


「俺の居場所を匂いで把握できていたみたいだが、所詮はそれだけだろ?」


「どういう事だ?」


「つまり、俺の❝挙動❞まで把握できなかったわけだ」


それを聞いたガルムは、俺のとった行動を理解したかの様な表情を見せた。


「まさか……!」


「そう ❝カウンター❞だ」


「俺の動きに合わせて、攻撃してきたってわけかよ!」


「そうだ」


「はっ! だが、人間如きの蹴りをくらったくらいで、この俺がやられたなんて思ってないよな!?」


言うと、ガルムは立ち上がる素振りを見せる。

しかし。


「ぐぅ……!?」


痛みが酷いのか、うまく動けないでいた。

それはそうだ。

なぜなら……。


「無茶するな 俺の蹴りはお前のスピードによって相乗効果を生み、蹴りは並みの人間の比じゃないくらい強化されていた

それに俺は❝朱剛蜴❞≪エリサルス≫の爪を使ったから、その倍の威力の衝撃も加わっている

いくらお前がタフな獣人でも、体の内部まで響いた衝撃は耐えられない筈だ

内臓は筋トレでは鍛えられないからな」


俺の解説を聞き、ガルムは心底悔しそうにしていた。

恐らく図星だからだろう。

これは勝負あったな。

と思った時、レイナの実況で周りも俺の勝利を確信していた。


『ガルム立ち上がれない! カズの思わぬ反撃に動けません!

一体誰がこの様な展開を予測できたでしょうか! これは勝負あったか!?』


しかし。

ガルムの目はまだ諦めていなかった。


「まだだ…… 俺が、この俺様が…… てめぇみたいな人間如きに負けるわけにはいかないんだよ!!」


うお、すげぇ迫力だ。

俺がガルムの気迫に、気圧されている時。

ガルムはポケットから何かを取り出した。

え、なにそれ?

色は黒く、形状は丸い。

小さく、携行性優れた丸い物体。

一見すると飴玉みたいだった。


『おや? ガルムはまだ勝負を諦めていません! 何かを取り出したみたいですが……

ここからではよく見えません あれは一体なんでしょうか?』


『あれは……』


レイナの疑問にウォーレンが答えようとした時。


「てめぇはおしまいだ人間 俺に歯向かった事を後悔させてやる!」


言うと、ガルムはその黒い玉を口に含もうとした。

口に入れるって事は丸薬か?

ドーピングの類だろうか?

だとしたら、それってルール的にありなのか?

なんて思っていると。


それは突然だった。

観客席の方から、突如として白い光線が飛んできた。

光線はガルム目掛けて飛んでくる。

ガルムはその光線を受けると。


「うっ!!」


と、声を漏らし、そのまま倒れた。

丸薬らしきものはガルムの手から離れて、地面を転がる。

あまりにも一瞬の出来事で、なにが起きたのか分からなかった。

事態に気付いた俺は、慌ててガルムの容態を確認する。


「おい! 大丈夫か!?」


俺の呼びかけにガルムは。


「……zZ」


応えなかった。

っていうか寝ていた。

え、なんで寝てるの?

意味が分からないが、取り敢えず光線が飛んできた方向を確認してみる。

するとそこには。


『この勝負 僕が預かります!』


ウォーレンが杖を構えていた。

ウォーレン?

一体どうしたんだ?

あまりにも突然な出来事に、俺は勿論の事、会場中も困惑していた。


『ウ、ウォーレンさん!? なにをしているんですか!?』


レイナは会場中の思いを代表して聞いていた。


『驚かせてしまってすみません でも必要な事だったので、やむを得なかったんです』


『と、言うと?』


『僕がガルム君に施したのは❝状態異常魔法❞――魔術❝睡眠❞です

極端に体力が落ちている場合でないと効果は表れない魔法です』


『ん!? ……という事は……!?』


ウォーレンの説明を受けて、会場中の全員がガルムを見る。

俺も見る。

だが、ガルムは。


「…………zZ」


相変わらず寝ていた。

ウォーレンの説明通りだとすると、寝ているガルムは体力が極端に落ちている事になる。

それを周りも理解した様だ。


『するとガルムは既に戦闘不能だったというわけですね?』


『はい その通りです あのままガルム君が無茶をしていたら体を壊してしまっていたでしょう』


『な、なんと! ガルムが倒れたのはウォーレンさんのドクターストップだったんですね!』


『差し出がましい事をしてすみませんが僕の判断で勝敗を決めさせて頂きます』


『と、いう事は……』


レイナが言った後、しばしの沈黙。

その後直ぐに、ウォーレンは会場中に呼びかけた。


『今回の決闘の勝者は……カズ君です!!』


言った瞬間。


「うおおおおおお!!」


観客はかつてない程の盛り上がりをみせた。

あれ?

俺、勝っちゃたよ。

やったぜ。








状態異常魔法――魔術❝睡眠❞

状態異常魔法の1つ。 対象を眠らせる。


体力が極端に弱っている相手にしか効果がない。

魔物を討伐するのでなく、捕獲する際によく使われる。

睡眠とは回復する際の手段であり、生物には必要不可欠な要素である。

故に抗えず、体力が弱っている時程睡眠は効果的である。

しかし、睡眠を受けた対象はその間、体力が回復し続けるという付随効果もある。

使用する対象と、その状況はよく考える事だ。

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