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決闘ー1

視点を変えれば不可能が可能になる。

byハンニバル・バルカ

やっとこさニルバニアに帰ってきた俺達。

門の前にやって来た時、大勢の人だかりが目に入った。

なんだこの集まりは。


「一体なにがあったんですか?」


ノエルがその人だかりの1人に声をかけた。


「あぁ ルぺス村が魔物に襲われたみたいでな 今から復興の支援に行くところだ

獣人の兄ちゃんがルぺス村を代行して依頼してきたんだよ」


なんと、これは驚いた。

俺達がやろうとしていた事を既に済ませておいてくれた人がいたらしい。

その人物は、ほぼ間違いなくガルムだろうな。

一足先にニルバニア帰って来てルぺス村の現状を報告してくれたのか。

なかなか気が利く野郎だったのな。

これで幾分か時間短縮もされたし、助かった。

その人だかりが出発したのを見送って、俺は思っていた事をノエルに話す。


「ガルムが報告してくれていたみたいだな 手間が省けたよ」


「まぁ馬鹿でもそれくらいの事は気が回るみたいで安心したわ ただの戦闘狂でもなかったみたいね」


帰還にかなり体力を消耗したし、もう一仕事は面倒だったからな。

俺とノエルはともかくとしても、ティナの疲れ具合は尋常じゃなかった。

行きの時も相当疲れていたし、帰りも当然疲れるのだろう。

それに加えてティナは❝自身強化魔法❞の反動で筋肉痛まで併用させているらしい。

これは早く拠点の家に帰った方が良いかな。

そう思ってノエルに聞いてみる。


「ルぺス村の事は取り敢えず一件落着したみたいだし 先ずは家に帰るか?」


「そうね 任務報告は別に明日でもいいし ほらティナしっかりしなさい」


「こ、これくらい………はぁ よ、余裕……はぁ、なんだから………」


うん、全然余裕そうに見えない。


「ほら肩貸してやるから しっかり歩け」


流石に見てられないので、俺はティナに肩を預けさせて歩く。


「悪いわね」


「お、珍しく謙虚だな 気にするな仲間だろ」


「仲間といえば、後1人も見付けないとね」


「そうね でないといつまで経っても仮パーティのままだもんね」


「じゃあ、当分の目的は❝メンバー探し❞って事になるのか?」


「えぇ」


「ま、明日ギルドへの任務報告もあるから、そのついでにメンバー募集の張り紙でも出してみましょう」


ノエルの提案に、取り敢えず明日の予定は決まった。

特に任務に行くわけではないらしいので、久々に楽できるかな。

なんて、話ながら街を歩いていると、なんだか街の様子がいつもと違う事に気付いた。

なんだか、妙に賑やかというか、浮足立っているというか。

街中が楽しそうな雰囲気に包まれている。

その雰囲気を感じたのか、ノエルは思い出したかの様に言う。


「あ、そうか 今年もこの季節になったのね」


「この季節?」


俺が尋ねると、どうやら❝それ❞を知らないのは俺だけらしく、ティナが答えた。


「❝ニルバニア祭❞よ」


❝ニルバニア祭❞?

あー、そういえばガルムから、その単語を聞いた気がするな。

なんでも、俺との決闘をニルバニア祭の催しの1つとして行うとか。

ありがたいね、まったく。

それはそうと、どこの世界にも祭りってものはあるものなんだな。


「どんな祭りなんだ?」


「ニルヴァーナを崇める祭りよ この世界を創造した事への感謝祭ね!

といっても具体的な事はやらず、ただ街をあげて騒ぐだけだけどねー」


また神か。

信仰国め。

まぁ、祭りってものは須らく神絡みだからな。

今回はあまり邪見するほどでもないか。


さて、ニルバニアについてまた1つ分かった頃、俺達は拠点へと辿り着いた。

取り敢えず各自休む。

ふー。

自室で一息ついている時。

俺はある事を考えていた。

ガルムとの決闘についてだ。

正確には、決闘を逃れる為の手段だが。

うーん……。

俺が悩んでいると。


「マスター? どうされたんですか?」


リコが俺の悩みを察して話し掛けてきた。

そうか、リコは❝醜鬼❞≪トロール≫に電撃を与えた時、その反動でしばらくスリープモードに移行していたな。

今になってようやく内部電力が戻ったんだな。

つまり、リコにはガルムが絡んだいざこざを知らないわけか。

よし、リコに説明して、助言をしてもらおう。

そう考えた俺は、リコに説明を始めた。


「実はな――……」


そしてガルムに決闘を申し込まれ、それを回避する為の手段について助言を仰いだ。

するとリコは。


「ふむふむ……」


「何か良い案あるか?」


「そうですねー 私の見解はマスターにとって不本意かも知りませんが」


「と言うと?」


「その決闘は受けるべきです」


リコの助言は、俺にとって予想外なものだった。

決闘を受けるべきだと?

いやいやいや、勝ち目なんかないんだぞ。

負ける事は目に見えている。

だったら痛い目に遭う事を回避する為に、俺はその決闘をばっくれたいのだ。

もしかして、リコは俺に勝機を見出しているのか?

リコは俺を買い被り過ぎてないか?

理由を聞いておこう。


「なぜそう思う?」


「単純に逃げてはいけないと思ったからです」


なんだと?

機械のくせに、感情論を唱えるとはどういう事だ。

それに❝逃げ❞は悪い事じゃない。

冷静に思考し、自らの力量で収束が図れない場合、❝逃げる❞という選択肢は十分有りだと俺は思っている。

そう、例えば。

日本が化け物に蹂躙され、成す術もなく俺が逃げ出した様に……。


「それが理由か?

残念だが感情論で言ってるのであれば、それは無しだな」


俺が否定的な反応を見せるとリコは。


「すみませんマスター どうやら私が言いたい事について語弊があるみたいなので、先ずはそこをご説明しましょう」


ふむ、逃げる事自体を否定していたわけじゃないのか。

リコは続ける。


「はい 先ずマスターが決闘を放棄した場合に考えられる損失を考えてみて下さい」


「どういう事?」


「マスターの自身の世間的評価の下落

ノエルさんやティナさんからの失望

そしてなにより、マスターに危害を加えがったそのガルムとかいう糞犬畜生獣人が納得しないでしょう」


お、おう。

リコのやつ、ガルムに対する暴言が半端ねぇな。

俺にかなり献身的なリコの事だ。

ガルムが俺に危害を加えた事が、余程許せないのかも知れないな。

それを鑑みても、流石に言い過ぎ感は否めないが。

まぁ、良いか。

ともかく、リコが俺に決闘を勧める理由は、なんとなく分かった。

逃げる事により、俺に対する不名誉な評価が、世間に定着してしまう事を危惧したのだろうと。

そして、逃げてしまってはガルムは納得せず、しつこく決闘を迫ってくる事も予測できると。

なるほど、確かにリコの言う通りかも知れない。

しかし、だからといってやっぱり決闘を受けた所で勝ち目は皆無なんだが。

それに対しての案はあるのか?


「なるほど だが、勝つ事は無理だぞ?」


するとリコは、きょとんとした雰囲気で言った。


「別に無理に勝つ必要性はないのでは?」


そのリコの発言を聞き、確かにと思った。

言われて見ればそうだよな。

負けたところで、俺が失う物は何もない。

そして、俺が勝ったところで得られる物もない。

ならば、決闘に負けても俺にとってはなんら問題はないわけだ。

痛い目に遭う前に、頃合いを見計らって降参でもなんでもすればいい話だ。

これは盲点だった。


「そうか……そうだよな」


「そうですよ まぁ私個人としては勝って欲しいというのが本音なんですが……」


だから、お前は人じゃねぇだろ。

❝個人❞という言い方に違和感を覚える今日この頃、リコは続ける。


「しかし悔しい事に客観的見解から、マスターがあのガルムとかいう糞犬(略)――に勝てる可能性は僅か20%程しかないんです」


ほう、信頼できるリコの分析結果からも、俺がガルムに勝てる可能性は皆無だと……。

いや、皆無ではないな。

20%は俺が勝てるみたいだし。

いや、低いな。

やっぱ皆無だわ。


「そうか まぁ逃げるよりは戦って負けた方が、俺への世間的な風評被害は少ない事は分かった」


「はい! くれぐれも怪我だけには気を付けて負けて下さい!」


「お、おう」


これは心配されているんだよな。

いまいち貶されていると錯覚する言い方だ。

ともかくこれで、ガルムとの決闘については方向性が決まったな。

決闘を逃げるのではなく、敢えて受けて立ち適当にガルムを満足させる勝負をして、負ける。

よし、これでいこう。


そして、時が経ち。

――翌日。






意思疎通魔法――魔術❝遠話❞

意思疎通魔法の1つ。 遠くの者と会話する。


会話とは人と対面し所作、仕草、などを含めて行うものである。

言葉だけで、文字だけで行う会話には、しかしどこか伝えきれないものがある。

しかし、遠方へと言伝を行う手段があるのであれば、それは会話の手段としては便利であり、

本来人の声が及ばぬ地域への簡潔に済ませられる依頼や報告などに、❝遠話❞は重宝される。

❝遠話❞には発信者と受信者が必要であり、大きな街やギルドには❝遠話❞を受信する為の人が常駐されている。

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