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遠征-6

現れやがったか。

リコの報告を受けて、いち早く反応したのはリースだった。


「大変! 外にはミロが!」


悲壮な表情を浮かべ、今にも外へと飛び出して行きそうなリース。

その時、ノエルとティナは席を立った。


「大丈夫よ 私達が直ぐに蹴散らして来るから!」


頼もしい発言をするティナに、負けじとノエルも続ける。


「リースさん達はここにいて 後は私達がなんとかするから!」


2人はやる気に溢れていた。

報酬によってモチベーションが上がっているだけはある。

これくらいの士気があれば、俺がいなくても“餓鬼”≪ゴブリン≫ぐらいの掃討は2人だけでもできるんじゃないか?

まぁ、そう楽観もしていられないか。


「ほら! カズも行くよ!」


「よし分かった」


俺達が家から出ようとした時。


「あの!」


リースが呼び止めた。


「なんだ?」


「気を付けて下さい 皆様に“ニルヴァーナ”様の加護があらんことを……」


どうやらリースは俺達の身を案じて、何かを祈ったらしい。

“ニルヴァーナ”ってのは確か、ニルバニアが信仰している神だったか。

ってことは、リースは神頼みをして俺達に祝福を施したって事になる。

神か……。

実に下らんな。

俺は神を信じない、かといってリースの心配してくれている気持ちは無碍に出来ない。


「あぁ 直ぐに片付けるよ ありがとうな」


俺はそれだけ言って、“餓鬼”≪ゴブリン≫を倒す為に宿屋から外に出た。

宿屋から外に出た時、辺りはすっかり暗くなっていた。

既に日が落ちて夜だ。

その為、“ルぺス村”の住人は皆家の中に入っており、出歩く人は居なかった。

夜になり鎮まり返る筈の村だが、どこからともかく異様な騒がしさが聞こえてくる。

ここが地球だったのなら、素行の悪い連中が夜更かしをして馬鹿騒ぎでもしているのだろう、と思っただろうが……。

ここは地球じゃない。

そして……。


「11時の方向! 多数の生命反応を確認!」


なによりリコの発言がそれの存在を裏付けていた。

魔物の存在を。


「行くぞ!」


俺はノエルとティナに呼び掛けると、小銃を装備して指定された場所に急いだ。


「カズに言われるとなんだか違和感あるわ」


「本当ね 一番やる気がないくせしてさ」


2人はぶつくさ文句を言いながらでも、俺の後に続いた。

いや、文句は余計だろ。

黙って付いて来い。

走りながら、俺は2人に重要な事を伝える。

戦闘をチームで行う上で重要な事だ。

それは……。


「いいかお前等 これより作戦を伝える」


そう、作戦だ。

チーム戦闘で、仲間に好き勝手に動かれるのは困るからな。

戦闘において一番の脅威は敵ではない。

無能な仲間だ。

だからこそ俺は2人が最大限に機能し優秀な味方になってくれる事を願った。


「お、たまには兵士っぽい事言うのね」


「良いわ どんな作戦か言ってご覧なさい」


ノエルは茶化して、ティナは上から目線で返答してきた。

妙に癪に障る言い方だが、まぁいいか。

俺は作戦を伝えた。


「ティナは後衛で魔術を行使し敵の牽制

ノエルはティナの護衛をしつつ、敵の足止め

俺はリコの索敵に従い前衛で敵の掃討 何か異論は?」


「特にないわ」


「私も大丈夫」


よし、俺がちょうど作戦内容を説明し終えた時。


「間もなく目標と会敵します!」


リコが報告をした。

それを受けて、俺も2人に呼び掛ける。


「総員戦闘準備! これより“餓鬼”≪ゴブリン≫の駆逐作戦を開始する!」


そして……。


「ギャオオオ!」


“餓鬼”≪ゴブリン≫の群れと会敵した。

“餓鬼”≪ゴブリン≫の数は、昼間見た時の凡そ倍を確認できた。

悠長に数えている暇がないから明確な数は分からなかったが、だいたい10体程だ。

多いな。

だが所詮は烏合の衆。

なんとか倒し切れるだろう。

俺は小銃の先端部分にナイフを取り付けた。

これにより小銃は銃剣となり、ナイフ単体での弱点だったリーチを補える事ができる。

要は槍だ。

銃剣術も自衛隊の訓練で散々やってきた。

扱い方は体に染みついている。


「作戦開始!」


俺の合図と同時に、“餓鬼”≪ゴブリン≫の群れも俺達に襲いかかってきた。

先ずは1体目の“餓鬼”≪ゴブリン≫の胸に銃剣を突き刺した。

すると“餓鬼”≪ゴブリン≫の動きが止まり、俺は跪く“餓鬼”≪ゴブリン≫の肩に足を置き、その足で蹴ると同時に銃剣を抜き取る。

“餓鬼”≪ゴブリン≫は吐血し、倒れ、それっきり動かなくなった。


「先ずは1体」


と、撃破通達をする間にも次々と“餓鬼”≪ゴブリン≫は迫って来る。


「マスター! 6時の方向に横斬撃後そのまま2時の方向へ銃撃し牽制

その後は10時の方向を警戒!」


リコの索敵しサポートしてくれるが、正直しんどいな。

体の反応が遅れそうになる。

流石に数が多いか……。

2人は大丈夫か?

俺は心配して、後方支援しているノエルとティナの方を見てみた。

すると……。


「ティナ! 来たよ!」


「分かってる! 私に命令しないで “拘束魔法”――魔術“光輪の枷”!」


ティナは、“餓鬼”≪ゴブリン≫2体を同時に光輪で拘束していた。

ほぅ……。

なかなかやるな。


「それでいいのよ!」


言ってノエルは、拘束されて身動きの取れないでいる“餓鬼”≪ゴブリン≫2体に、氷が付与された直剣を突き立てる。


「やった! 流石は私!」


「喜ぶのは後! 次が来るよ!」


2人は“餓鬼”≪ゴブリン≫の退治を、危なっかしくも成功させていた。

ふむ……。

2体同時に倒す……か。

確かに敵が多いのであれば、まとめて排除する方が効率的だな。

あの2人なかなか息が合ってるし、結構やるな。

俺は2人に関心して、その戦いぶりからヒントを得た。

そして、ある作戦を思いつく。

しかしその作戦は俺だけでは成せない。

俺は2人を呼んだ。


「ノエル! ティナ! 作戦変更だ!」


俺は戦いながら後退し、2人のもとまでやってきた。

3人の会話が聞き取れる程度の距離にまで近付く事ができた。


「取り敢えず辺りを警戒し、そのまま聞け

これより作戦の変更内容を伝える」


俺達はお互い背中合わせになり、迫り来る“餓鬼”≪ゴブリン≫をあしらいながら会話した。


「一体どんな作戦なの?」


ノエルは尋ねながら、“餓鬼”≪ゴブリン≫を直剣で振り払った。


「うまくいけば一気に片付けられる作戦だ」


応えながら俺は、“餓鬼”≪ゴブリン≫の後頭部を銃剣の銃床で強打を与える。


「一気に? そんな事が可能なのかしら?」


ティナはそう疑問を唱えながら、杖から無数の光の矢を飛ばして弾幕を張った。

会話しながらでも、なんとか動けるものだな。


「理論上ではな それもこの作戦はティナの力にかかっている」


「え!? 私の!?」


驚きを露わにするティナに、俺はその理由を説明する。


「ティナ あの“光輪の枷”をもっとでかくできないか?」


そう、俺が考えた作戦とは、ティナの拘束魔法を使い、“餓鬼”≪ゴブリン≫の群れを一網打尽にするというものだった。

俺の問いかけに対してティナは……。


「できなくはないけど…… これだけの数の餓鬼を捕らえるとなると、詠唱時間が長くなっちゃうかも……」


ふむ……。

不可能ではないんだな。

それで十分だ。


「上出来だ 時間なら俺とノエルが稼ぐ」


「分かったわ ティナ頑張りなさい」


ノエルの励ましを受けて、ティナは杖を握る手により一層力を込めた。


「ふん! 私にかかれば余裕よ!」


そしてティナは、ぐいっと“魔給水”を一瓶飲み干すと、詠唱を始めた。

ティナが詠唱中。


「ノエル! 致命的な攻撃を狙わなくてもいい あくまでも時間稼ぎだからな」


無用な反撃をもらわない為に、攻撃に積極性を持たせない事を伝える。


「分かった!」


「ただティナが拘束し易くする為に、なるべく“餓鬼”≪ゴブリン≫共を一か所にまとめる様に立ち回ってくれ」


「難しい事言うね」


「俺と協力すればできる リコの索敵能力があればそう難しくはない」


「そうね カズには何か考えがあるみたいだし、なんとかするわ」


「おう」


そして俺とノエルはティナを護衛しながら、“餓鬼”≪ゴブリン≫を相手にする。

リコに指示を仰ぎながら“餓鬼”≪ゴブリン≫を散開させない様に攻撃で誘導。

しばらくして。


「詠唱が終わったわ! いつでも放てるわよ!」


ティナの準備完了の報告を受けて、俺は状況を確認。

よし、いい感じに“餓鬼”≪ゴブリン≫がまとまっている。

状況を把握し、今が好機だと確信した俺は、ティナに合図を送った。


「よし、放て!」


「行くわよ! “拘束魔法”――魔術“光輪の枷”!!」


次の瞬間。

ティナの杖からは光状の紐が飛び出し、“餓鬼”≪ゴブリン≫の群れをまとめて拘束した。

多少取りこぼしてはいたが、それは大した問題ではない。


「長くは保たないわ! カズ頼んだわよ!」


やはりティナは今使っている杖と相性が悪いみたいだ。

詠唱時間の割に魔法に持続性がない。

早く片付けてやるか。

俺はティナの催促に応える為、そして“餓鬼”≪ゴブリン≫を一気に掃討させる為にある物を取り出した。

俗称レモンと呼ばれるそれは“手榴弾”だ。

俺は手榴弾の安全ピンを引き抜き、“餓鬼”≪ゴブリン≫が拘束されている箇所にそれを放り投げた。

それを見ていたノエルとティナは……。


「え……?」


「まさか作戦ってそれ?」


心底不思議そうな顔をして、戸惑いを隠せないでいた。


「カズ…… あんたまさかあんな石ころで“餓鬼”≪ゴブリン≫を一気に倒せる気でいるわけ!?」


ノエルは俺の行動が余程不可解だったのだろう。

俺に対して疑念の目を向けていた。

そして、それはティナも一緒だった。


「一体何を考えているの?

なにかすごい魔法を使うのかと思ったら、あんな石ころ当てたところで大したダメージは与えられないわよ!?」


石ころじゃねぇよ。

確かに見た目はそこら辺に転がっている石に見えなくもないが。

手榴弾は爆弾だ。

それも爆発まで時間の猶予がある遅効性の爆弾。

俺の行動でそれくらいの察しはつくと思うんだが、こいつ等爆弾を知らないのか。

いや、もしかしたらこのアストランには爆弾という概念すらないのかも知れないな。

だとしたら、この2人の反応も納得できる。


「心配するな 作戦の内だ だからお前等少し下がっ――」


俺がそう説明している最中。


「もうっ! カズに任せるんじゃなかった!

ティナの拘束魔法が効いている内に何体か仕留めないと!」


俺が期待外れの事をしでかしたと思ったのだろう。

ノエルはそう言って、“餓鬼”≪ゴブリン≫が拘束されいる箇所に突っ込んで行った。

って……馬鹿かあいつ!

今、手榴弾を投げ込んだ場所に突っ込んでいくやつがいるか!

ちっ!

俺は直ぐにノエルの後を追いかけた。

俺の方は足が速かったのか、それとも余程必死に走ったお陰なのか、直ぐにノエルに追いついた。

追い付いたと同時に俺はノエルにしがみつく。


「ちょっと! カズ! あんた何をやって――」


しがみつかれて混乱するのは分かるが、もう説明している時間はない。

間もなく手榴弾が爆発するはずだ。

俺は叫んだ。


「馬鹿! 伏せろ!」


叫ぶと同時にノエルを地面に押し倒して、その上から覆いかぶさった。

次の瞬間。


どんっと、一際大きな音が辺り一面に鳴り響く。

手榴弾による爆発音だ。

“餓鬼”≪ゴブリン≫の群れは爆発音と共に一気に馳せた。

肉片やら贓物やら血飛沫やらが宙を舞っている。

汚ねぇ。

だが、これであらかた“餓鬼”≪ゴブリン≫共は一掃できたな。

ノエルもティナも無事みたいだし、取り敢えず作戦成功だ。

俺の着ている迷彩服は多少の爆発なら耐える対爆繊維で作られいる為、俺も無事だった。

俺は起き上がり、押し倒してしまったノエルに手を貸した。


「大丈夫だったか?」


これはイケメン行動だな。


「え、えぇ……」


俺の手を取り、立ち上がるノエルの表情は困惑に満ちていた。

そして。


「ちょ、ちょっと! 今のなに!?」


それはティナも同様か。

駆け寄って来て、起きた事の説明を俺に求めてきた。

なにって言われてもな……。

爆弾としか説明のしようがないんだが……。

それを説明したところで、銃の説明をした時みたく理解はされないだろう。

詳しく説明するのも面倒だ。

俺は今の爆発を2人が納得できる形で説明した。


「魔法だよ」


取り敢えず、なんでもかんでも魔法って事にしておけば良いだろう。

便利だな魔法。

2人の反応はどうだ?


「いや、魔法って言われても……」


「あんな滅茶苦茶な魔法なんて聞いた事ないよ?」


おっと、どうやら2人の疑問は払拭されなかった様だ。

流石に強過ぎたか。

しかし、それ以外の説明をする気はない。

面倒くさいからな。


「聞いた事なくても魔法だ魔法だ」


俺が頑なに魔法だと主張すると。


「まぁ 確かにカズは変わった人間だったしね」


「そ、そうね…… どんな魔法か見当もつかないけど……」


2人は渋々納得した。

まぁ、納得できなくても、異世界の武器だなんて見当もつかないだろうしな。

納得せざるを得なかったみたいだ。

さて……。

俺は、無残に横たわる“餓鬼”≪ゴブリン≫の群れに目を向けた。

ほぼ全てが絶命しているみたいだ。

だが幾体かは辛うじて息がある。

数えるほどしかいないが、ふむ……。

2体生き残っていたか。

しかし息があるといっても、虫の息だ。

手足を欠損し、のそのそと地面を這いずっている。

進む方向からして、既に戦意喪失して俺達から逃げているみたいだ。

不様だな。

その“餓鬼”≪ゴブリン≫に気が付いたノエルとティナは。


「あ、まだ生きてる 倒すよティナ!」


「だから私に命令しないで」


そう言って、“餓鬼”≪ゴブリン≫に止めを刺しに向かった。

だが……。


「待て2人とも」


俺にはある考えがあって、2人の行動を阻止した。













魔給水

魔力を回復させる飲料水。 仄かに光っており、無味無臭。


魔力を宿した回復薬。

魔法を行使すると魔力を消費する。

ならば、回復する手段は用意しておくべくだろう。

尤も回復する量に過度に期待はせぬことだ。 

戦闘中に魔力が枯渇するなど、それこそ死を覚悟するべき状況だ。



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