表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/124

復讐ー3

ニルヴァーナは俺達人間を滅ぼす為だけに生まれてきた存在なのだから、人間特有の魔力である❝闇❞に耐性があるって事か。

確かに筋が通った理屈だが……。

だったら、俺はニルヴァーナに対抗する手段がないじゃねぇか!

くっそ……。


「弱体化してたんじゃなかったのかよ」


俺が、思わずそう呟いた事にニルヴァーナは反応した。


「余が弱体化しただと? どこで、それを聞いた?」


「ミキだ てめぇなら知ってるだろ? あの王様気取りのネズミだよ」


「ふむなるほど 獣の統治をしておった者か

そういえばいつからか気配が消えてしまったな」


は?

こいつ、今更何を言ってんだ。


「ミキなら俺が殺した あいつの存在は邪魔だったからな」


俺がそう告げると。


「! ……そうか 通りで……」


ニルヴァーナは、僅かに眉をぴくっと動かした。

何か気に障ったか?

まぁ、無理もない。

ミキに❝玉璽❞である❝統導❞を授けたのはニルヴァーナだという話だったしな。

自らの家臣が殺されて、少し心が痛んだみたいだ。

良い気味だ。

ざまぁみろ。

ニルヴァーナは続けた。


「残念だ ミキは、人間のおぞましさを知る数少ない貴重な存在だったのだが」


「だからだよ ミキは転生者だった 人を恨んでいたネズミがその正体だ

手始めにラロの民を皆殺しに程度にはその身に憎悪を宿していた」


俺のその発言に。


「なに?」


ニルヴァーナは意外そうに尋ねてきた。

あ?

こいつ、なにも知らねぇのか?

簡単に説明しておいてやるか。


「言葉通りの意味だよ

てめぇ等がミキを転生者なんぞにしなければ、ラロの民は殺されずに済んだんだ」


俺の説明に、ニルヴァーナは。


「ふん 馬鹿馬鹿しい……

それはなにか? 余が罪無き民を大量虐殺したと言いたいのか?」


何故か事実を認めようとしなかった。

こいつ……。


「それが事実だろ

てめぇ等がなにを思ってミキを転生者にしたのかは知らんが、やつは人を殺したんだ

お前が殺したも同然だ」


「余を愚弄するか 穢らわしい人間よ」


「だから、それが事実だって言って――」


俺が、そう言っている最中。


「黙れ」


ニルヴァーナは、一言そう呟いた。

瞬間。


「ぐっ!?」


俺は胸に衝撃受けた。

見ると、俺の胸にニルヴァーナの右腕が貫通していた。


え?

なに、これ……。

あまりの状況に、思考が停止する俺。

見ると、見間違え様もなくニルヴァーナは俺を突き刺していた。

次第に痛みが俺を襲う。

激しい痛みだ。


「ごふっ……!!」


遂には、吐血をする始末。

俺が吐き出したのは単なる血ではなく、なんか色んなもの混じった血反吐だった。

その時。


「ふん」


ニルヴァーナは鼻を鳴らし、自らの右腕を俺の胸から引き抜いた。

ニルヴァーナの右腕には、血がべったりと付着していた。

その血は勿論、俺のものだった。


「ぐっ……!!」


その場に倒れ込む俺。


「うっ……! はぁ……はぁ……」


痛いし、痛いどころの騒ぎじゃねぇぞこれ。

ちょ……。

まじか……。

心臓を潰された。

これ、まじで死ぬやつじゃねぇか。

早く❝吸生❞を――。

いや、ニルヴァーナには闇術が通用しない。

まさに絶体絶命。


「て、てめぇ……」


俺は、かすれた声で言い、ニルヴァーナを睨んだ。

おびただしい量の血溜まりが広がっていく。

そんな俺を見て、ニルヴァーナは喋りだした。


「口を閉じろ 戯れ言は沢山だ 余を愚弄するとは万死に値する」


まじか、こいつ……。

ラロの民を間接的とは言え、惨殺した事を認めない気だ。

一方的に逆上して、なんの躊躇もなく、俺を殺しにきやがった。

が、人ってなかなか死なないものだな。

ニルヴァーナが喋っている声が、まだ聞こえてくる。


「確かに余は弱体化した それは、この世界で余の存在が必要ないからだ

余は悪と対峙する為に生まれてきた だが、この世界には悪がいなくなってしまった

やがて、余は消え失せてしまうだろう」


「そいつ……は…… 嬉しい……事だな」


「ふむ 確かに余を必要としない世界こそ望ましいものなのかも知れないな」


「だった……ら さっさ……と、くたばりやがれ」


「そう だが、それは裏を返せば余が存在する為には❝悪❞が必要という事なのだ

❝闇❞という❝悪❞がな」


「なん……だ……と?」


「皮肉なものだろう? 余は、汝を倒さなければならないが、汝がいなければ存在できない」


なるほど。

医者には病人が必要だというわけか。

なんというジレンマ。

っていうか、俺は今まさにてめぇに殺されかけているんだが?

その話だと、言ってる事が矛盾しているぞ。

っていうか……。

俺、なんで死なないんだ?

俺はニルヴァーナに心臓を潰されているんだぞ?

少しの間、意識があるといってもだ。

ちょっと、しぶと過ぎないか俺?

とりあえず、俺が死のうが死ぬまいがこの痛みは耐えられない。

気が狂いそうだ。


「ぐっ…… 闇術――❝鈍痛❞」


言って、俺は自らの痛覚を鈍らせた。

俺の体がどんな状況であれ、これでひとまずは正気を保てる。

俺がなんとか体を奮い立たせると。


「ほう…… その傷を耐えるとは大したものだ」


ニルヴァーナは、さほど驚く様子がなかった。

まるで、俺が死なない事を知っているみたいだ。

っていうか、まじでどうなってやがる?

俺は、今自分の体に起きている異変についてニルヴァーナに尋ねてみた。


「何故、俺はまだ生きている?」


すると、ニルヴァーナは。


「言ったであろう? 汝がこの世界から消えてしまっては困ると」


そう言ったが、質問に対しての答えとしては説明になっていなかった。

だが、ニュアンス的に汲み取ると。


「てめぇ…… 俺になにかしたのか?」


察して聞いてみると、ニルヴァーナは続けた。


「先ほど余が汝に施した❝祖術❞ それに関係がある」


ん?

そういえばなんかされたな……。

ひどく胸が痛くなった覚えがある。


「❝祖術❞?」


「うむ 余にしか扱えぬ❝祖術❞とは、世に溢れる森羅万象を司り操る術だ

汝に施したのは、❝生の拒絶❞ 文字通り、汝には❝生❞を拒絶する体にさせてもらった」


「❝生の拒絶❞だと?」


「そうだ ❝生❞と❝死❞は表裏一体

汝には❝生❞を拒絶してもらったと同時に、❝死❞をも拒絶する体にさせてもらった」


は?

え?


「それってつまり……」


「そう 汝は❝不老不死❞となったのだ」


…………。


「なんだって?」


「汝は世界の悪として人々の❝共通の敵❞と成り、人同士の団結に助力し、争いの抑止力となるのだ」


「…………」


「余が消えてしまうのを防ぐ為にも、汝には世界の❝悪❞として存在し続けてもらう

それこそ、世界が終焉を迎えるまでの限りなく永遠に近い期間をな」


…………。

おい。

まじでふざけるな。

俺が、❝不老不死❞にされただと?

❝不老❞なのかどうなのかは、確かめようがないが。

❝不死❞だというのは、どうやら本当みたいだ。

心臓を潰され、胸に大穴を空けられても、尚俺が死に至ってないのがなによりの証拠だ。

これが、❝不老不死❞?

ふむ……。

不老不死は、人類が長らく夢見ていた事だ。

それを俺は手にした。

ニルヴァーナの身勝手な行動によって得たものだとしても、死なないというのは喜ばしい事の筈。

それなのに……。

それなのに……。

何故だ?

今の俺の気持ちは、酷くどんよりとしていた。

まるで、終わりのない仕事を言い渡された気分だ。

ニルヴァーナは不意に続けた。


「元々汝は、この世界に適合していない存在だ」


「なに?」


「飯をろくに食えなかったのではないか?」


確かに、この世界で食う飯はどれも不味かったが……。


「それがどうした?」


「やはりか 汝は、既に世界から拒絶されていたのだよ

その、汝特有の人間らしさが、この世界では拒絶されていたのだ」


「なんだと?」


「❝生の拒絶❞ これは汝が背負うべき呪いだ 生きる事も死ぬ事もできない

汝は、生命の輪廻から追放されたのだ 恨むのなら自らが❝人間❞である事を恨むのだな」


「てめぇ……!!」


「汝、一切の望みを捨てよ」


この言葉……。

ミキが死に際に言っていた事だ。

ミキはあの時、俺に❝自分を殺した事を後悔する事になる❞などと言っていたが……。

まさか、この事を予見していたのか?

ちっ!!

くっそ!!


「俺を元に戻せ!!」


俺はニルヴァーナに飛びかかった。

ニルヴァーナにしがみつく俺。

だが、当のニルヴァーナは。


「それはできない相談だ」


何も反応せず、それだけ言った。

完全に俺を見下してやがる。


「ふざけるな!! 俺は、永遠に悪役を演じるなんざ御免なんだよ!!

四の五の言ってないで、さっさと元に戻せ!!」


俺が詰め寄ると。


「二度も言わすでない できないものはできないのだ

どうしても、汝が生命の輪廻に戻りたいと言うのなら余を倒すしかないぞ?」


ニルヴァーナは、なにやら解決案を提示してきた。

提示というか、これは単なる挑発だな。

俺に倒されるわけがないと、高を括ってやがる。


「望むところだ!! 今すぐぶっ殺してやる!!」


その挑発にまんまと乗ってしまった俺を、ニルヴァーナは。


「まぁ、それができればの話だがな」


言って、足を前に突き出した。


「ぐっ!?」


腹に凄まじい衝撃を感じ、俺の視界からニルヴァーナが遠ざかる。

蹴飛ばされたのか。

なんて、脚力だ。

地面をのたうち回って、転がる俺。

果てしなく不様だ。

こいつ強すぎる……。

だがな。

ただでやられる俺じゃない。


「――!? な、なんだ?」


ニルヴァーナも、自らの違和感に気が付いたみたいだ。

困惑しているニルヴァーナをそのままに、俺は起き上がった。

体にガタがきている為、フラフラしながら立ち上がる俺。

そんな俺の右手に掴まれている、あるものをニルヴァーナは凝視していた。


「貴様……!! まさか、それは!!」


俺の呼び方が、❝汝❞から❝貴様❞に変わったところをみるに、結構焦っているみたいだ。


「くくく…… やっと気付いたか、このマヌケ そうだよこれは――」


言いながら、俺はその掴んだものを得意げにニルヴァーナに見せびらかした。

そして、続ける。


「てめぇの❝翼❞だ 厳密に言えば、❝風切り羽❞だな これでてめぇはもう飛べない」


――風切り羽。

それは、鳥が風の揚力を利用する為に必要な羽。

つまり、鳥が飛ぶ為に必要な羽だ。

ペットの鳥が飛んで逃げてしまわない様にする為に、よくこの羽を切除する。

ニルヴァーナの言葉を借りれば、これも人間の悪行と言えるかも知れないな。

それは、そうと。

俺はニルヴァーナに近付いた時に、その翼から飛行に必要不可欠な羽をむしり取っていたというわけだ。

ニルヴァーナの翼は、羽毛の生えた鳥のそれだったからな。

形状が同じなら、その仕組みも同じ筈。

俺が、ニルヴァーナに一矢報いた瞬間だった。

が、所詮はその程度。

風切り羽なんてものは、しばらくするとはまた生えてくるものだ。

だが、ニルヴァーナの心を乱すのには十分な手段だった。


「ふん よくもやってくれたな 傷を負ったのは初めてだ」


「てめぇはしばらく飛べない ざまぁみろ」


「貴様はもはや許されん」


言って、ニルヴァーナは俺に手を掲げた。


「祖術――❝大地の大口❞」


その瞬間。

突然、地面が小刻みに震えだした。

――!?

なんだ!?

これは地鳴り?

いや、違う。

揺れは次第に、大きさを増していく。

これは、地震だ。

気付くと、地面は激しく揺れていた。

❝祖術❞なんてものはこんな事までできるのかよ。


「この化け物が――」


言っている最中。

俺は体のバランスを大きく崩した。

事態を把握する暇もなく、俺の視界は低くなる。

まずい!

俺、落ちてるじゃねぇか!

地割れか!

そう理解した時には、少し遅かった。

地面の亀裂に体を飲まれ、とっさに崖際を掴んで落下を免れたが。

俺は成す術がなく、ただただ落下してしまわない様に堪えていた。


「くっ……!」


そんな俺を、ニルヴァーナは。


「哀れだな 穢らわしい人間よ」


見下ろしていた。

っていうか、見下していた。

そして、この状況……。

ちょっとしゃれにならない。

なんとかよじ登ろうと、俺は腕に力を入れる。

が。

右腕だけでは流石にきつい。

いくら自衛隊の訓練で鍛えてきたこの体でも、そう長くは保ちそうもない。

❝闇の御手❞を使うか?

いや、ニルヴァーナに消されるのがオチだ。


「くっそ……」


俺が絶望に打ちひしがれている時。


「闇に堕ちた人間よ 貴様には奈落の底がお似合いだ」


ニルヴァーナはそう言って、崖際を掴む俺の手の上に足を乗せた。

おい。

その足をどけろ。

まじで落ちる。


「止めろ……」


俺の訴えも虚しく、ニルヴァーナはずるずると足を前に突き出した。

崖際に乗る俺の手の面積は、次第に少なくなっていく。

もう、指の第一関節ぐらいしか乗ってないぞ。

間もなく俺が落ちる事を察したのか、ニルヴァーナは語り出した。


「この地割れの底は、この世界のどこかと通じておる

貴様が落ちれば最後、二度と余と合間見える事はないだろう」


なんだと?

❝転送❞か。

この❝祖術❞には、俺がこの世界に連れて来られた方法と酷似しているみたいだな。

って!


「ふざけるな! せっかく、ここまで来たのにふりだしに戻るなんて冗談じゃない!」


「喚いたところで無駄だ 貴様一人の闇で、世界が平和になるのだ

甘んじてその咎を受けるがいい」


ニルヴァーナは、ぐっと踏みつける足に力を込めた。

くっそ……。

これは、まじで無理かも知れない。

無念だ……。

ならば、せめて……。

せめて、ニルヴァーナに一言言っておいてやる。

そう思った時。


「くくく……」


俺は笑いがこみ上げてきた。


「………… なにが可笑しい?」


「ふん てめぇは人間をなめすぎだ」


「なに?」


「俺一人を悪に仕立て上げたところで無駄なんだよ 人間は同じ過ちを繰り返す

いつの日か、再びこの世界も人間の手によって滅びていくだろうぜ」


「…………」


「てめぇもよく分かっている筈だ それが❝人間❞なのだとな

❝人間❞が存在する限り、❝闇❞はなくならない 俺以外の❝悪❞が必ず生まれる」


俺の捨て台詞を聞いて、ニルヴァーナは。


「ほざけ」


それだけ言って、俺の手を崖際から引き剥がした。

瞬間。

俺は落ちた。

暗く、深い、闇の中を、ただただ堕ちていった。

祖術――❝生の拒絶❞

神のみ扱えるという原初の魔法。 生命の輪廻から外される。


生きる事を拒絶され、それは老いる事も死ぬ事もできなくなる。

生きる事を拒絶された者は、もはや死ぬ事すら拒絶される。

生とは死ぬ事を目的とし、命を消費する。

目的を失った生は、ただただ停止する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ