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伝承ー7

俺に関心が逸れた事はいいんだが。

できればずっと俺に構わないでいてもらいたい。

そんな俺の思いなど誰1人理解しようとせずに、戦闘は始まろうとしていた。


「ラン君は、妹とそこの人間をお願い!!

僕達が時間を稼ぐから、その間に退避を!! さぁ皆いくよ!!」


男の合図で、一同の攻撃が開始される。


「攻撃魔法――魔術❝昇岩撃❞!!」


ゴツい叡人の男が杖を地面に突き刺してそう叫んだ。

すると、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫の真下の地面が盛り上がり、円錐形の岩が飛び出した。

❝土属性❞の魔法か。

円錐形の岩が❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫の腹を貫く。

……事はなく、黒獄獣はその場を跳んで回避していた。

駄目じゃん。

続いて。


「まだまだ!! 攻撃魔法――❝水切❞!!」


叡人の女が、水を纏わせた杖を振るい、水の刃を❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫に向かって投げた。

ウォーターカッターの要領か。

どうやら❝水属性❞の魔法みたいだ。

しかし。


「グァア!!」


❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は吠えるだけで、その水の刃の形状をかき乱した。

だだの水が、地面を濡らすだけだった。

駄目じゃん。

次は?


「僕に任してくれ!! 拘束魔法――❝電磁縛❞!!」


人間の男が、杖を❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫に向けてそう叫んだ。

すると。


「グゥゥ!?」


❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は体中に電気をパチパチと帯電させて、動きづらそうにしていた。

痺れているみたいだ。

❝雷属性❞の魔法だな。

ようやくまともに効いたのか?

そして続けざまに。


「よくやった! 食らいやがれ!! 獣術――❝強爪撃❞!!」


「うちもいくわ! 獣術――❝強脚撃❞!!」


獣人の男と獣人の女が、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫に接近攻撃を仕掛けていた。

が。


「グァア!!!!」


❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫が少し暴れただけで、帯電していた電気がバチンっと弾けて消えた。

まぁ所詮は人間の放つ魔法などこの程度だろうな。


「な!?」


驚く獣人の男と獣人の女をよそに、自由になった❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫はその場で体をぐるんっと回した。

そして、黒獄獣の振り回した尻尾に、獣人の男と獣人の女が激突。

そのまま吹っ飛ばされた。

あらら……。

まぁ、あの程度ならタフの獣人なら大丈夫だろう。

だが……。

こいつ等とことん弱ぇな。

いや、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫が強いのか。

流石は危険度Sランクの魔物だな。

やはり、こいつ等に任していてはいくら経っても❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は倒せない。

俺の獲物なのだから倒されたらそれで困るんだがな。

そんな戦力差がある事を知ってか知らずか、それでも連中は諦めていなかった。


「まだだ……!! 我らには、ニルヴァーナ様が付いてる!!

決して諦めるな!! なんとしても、この村を護るんだ!!」


「おぉー!!」


「えぇ!」


「勿論だ!」


連中は戦いを再開した。

大したダメージを与えられずに。

それでいて、魔法を放つ際に生じる詠唱の影響で、連撃ができていない。

ただでさえ与えるダメージが微々たるものなのに、それを補うダメージソースも稼げていない。

それにも関わらず、こいつ等のやる気だけは下がる事がなかった。

そのやる気はどこからくるんだよ。

そんな気概では、いつしか死人がでるぞ?

なんて思った時。


「さぁ、デゼル! 皆が❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫の関心を逸らしてくれている内に、ここから離れるわよ」


ランが俺にそう言ってきた。

いやいや、ちょっと待て。


「断る だからさっきから言っているだろ 俺に任せろって」


だが、そんな俺の言い分も聞かず。


「はいはい もうその話はいいから」


ランは杖を掲げて続けた。


「自身強化魔法――❝風の助力❞」


すると、ランの周りを風が覆っていた。

ランは、俺の腰を掴むと、ひょいと持ち上げた。

な!?

風の力で俺を支えているのか?

これが、気絶した俺を運んだ魔法だったのか。

俺を肩に乗せて、軽々と抱えるラン。


「さぁ、デゼル行くよ! リンちゃんも私に離れない様に付いてきてね」


ランは足早に、その場から離れようと歩を進めた。

ちょ!

俺が無様過ぎるんだが?


「おい、ラン!! 俺を離せ!!」


俺は必死に訴えるが。


「だめよ あんたみたいな弱そうなやつが、あの❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫をどうにかできるとは到底思えない

知ってる? 勇敢と無謀は違うのよ」


ランは、俺の言葉など聞く耳を持たなかった。


くっそ!

偉そうに抗弁を垂れやがって。

その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。

っていうか……。


「おい!! まじで離せ!!」


俺は大声で叫んだ。

すると……。


「グルルル……」


❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫がこちらを向いた。

俺の声に反応したみたいだな。

あれ?

っていうか……。

これ、やばくね?

どうやら❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は、声のする方へ関心が向くらしい。

一時戦線離脱を図るランとリン、そしてランに抱えられている俺。

❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は、その方向を眺めていた。

つまり、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫の標的が俺達に切り替わっていた。


「グァア!!」


突如、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫はすごい勢いで駆け出し、俺達に迫ってきた。


「なに!?」


「大変だわ!!」


「ちっ!!」


連中が焦っている。

それもそうか。

自分達の役割が果たせず、一般人を危険にさらしてしまうのは許容できる事ではない。

だがまぁ、俺1人なら願ってもない好機なんだが。

ランとリンが付近にいる状況で来られるのは、確かに困る。

まじで危ない。


「おいラン!! まずいぞ!! ❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫がこっちに来た!!」


俺は警告した。

するとランは。


「えぇ!? 全く、あんたが大声出すからでしょ!!」


文句を言いながら杖を構えた。

そして唱える。


「防御魔法――❝緩衝風包❞!!」


言った瞬間、俺達と❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫の間に風が吹き荒れた。

風は、なにかを包み込む様に渦を巻いていた。

次第に風が包み込んでいるものが理解できた。

空気だ。

空気を風の力で圧縮して、壁を形成しているのか。

衝撃を和らげる為に用いる緩衝材――通称プチプチの巨大版みたいなイメージだな。

なるほど。

これで身を護ろうというわけだな?

ランのやつ、なかなかやるじゃねぇか。

と、少し安堵したのも束の間。


「グァア!!!!」


❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は、お構いなしに角を突きつけて突進してきた。

ふむ。

空気抵抗を抑えて突進してくるつもりか。

確かに、風を受けるには打撃ではなく刺突が有効だ。

風船を針で刺せば簡単に割れる。

その要領か。

❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫のやつも、なかなか考えるな。

いや、考えてるわけではなく本能による行動かな?

いずれにせよ、大したやつだ。

うん。

おかげで、ランの展開した風の壁が簡単に突破されたぞ。

つまり、やばい。

まじで、やばい!

超、やばい!!

俺達の目前に、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は大口を開けて迫っていた。

普通に戦ったらこうも苦戦するものなのか。

あー、これは本格的にやばいんじゃないか?

このままだと食われるぞ?

俺は流石に危機を感じた。

ランとリンが危ないと。


「おい!! 俺を囮にしてさっさと逃げろ!!」


俺の自己犠牲とも取れるその発言にランは。


「分かったわ!!」


了承した。

よし、それでいい。

さっさと俺を離せ。

と、俺は囮になる気満々だった。

これで俺も回復できて、ランとリンも助かって一石二鳥だ。

だが、ランは続けた。


「なんて言うわけないでしょ!! 黙ってあたいに任せなさい!!」


…………。

その一回乗っかるノリなんなんだよ。

期待させといて落とすんじゃねぇ。

ってか、任せろって言われてもこの状況をランは好転できるのか?

疑念しかなかった俺をよそに、ランは杖を振るった。


「攻撃魔法――❝突風❞!!」


言った瞬間、俺達の周りに風が吹き始めた。

弱い風だ。

おいおい、なんだよこの魔法は。

俺の疑問を感じ取ったかの様に、ランは説明を始めた。


「これはあたい自身の魔力よ

魔力を放出する事で、純粋な風を生み出す事ができるの

詠唱を必要としないから発動も早いしね」


ふーん。


「で? こんな弱い風でなにができるんだよ?」


「弱い? これでもそんな事が言えるの?」


は?


「なにを言って――」


ランの言っている意図が分からず、尋ねようとした時。

突然。

ごうっと、突風が吹いた。


「うお!?」


驚く俺。

ランは続けた。


「この風は細かい操作をする必要がない分、とても強い力を生み出す事ができるの それも突発的にね」


なるほど。

だから❝突風❞か。

つまり、これで❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫を吹き飛ばすわけだな?

だが……。

ん?

❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は突風をものともせずに迫っていた。

駄目じゃん。


「おい!! ❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫には効いていないぞ!!」


俺は事態を把握して警告した。

だが。


「知ってるわよ 誰が❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫を吹き飛ばすって言ったのよ?」


ランが予想外な発言をした。

なに?


「どういう事だ?」


疑問を感じて俺が尋ねたすぐ後。

再び突風が吹き荒れた。

今度は凄まじい威力だ。

こっちまで吹き飛ばされそうだぞ?

…………。

ん?

まさか……。


「ごめんねリンちゃん 少し痛いけど我慢してね」


ランはリンに謝罪を述べた。

瞬間。

俺達は、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫から離れる様に吹き飛んだ。

まじかよ。

ランのやつ、最初から俺達を飛ばすつもりだったのか。

確かにこれなら、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫から一気に離れられる事ができる。

緊急脱出には使える魔法だ。

だが、少し強引過ぎじゃないか?

まぁ、それほど事態が切迫していたってわけか。

無茶しやがって。

ランの放った突風のおかげで、俺とランとリンは、迫る❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫から一気に退避できた。

宙を吹き飛ばされたが、着地時に受け身を取る事は容易かった。


「ぐっ……!」


いつもの俺ならな。

こんな体ではまともに着地できるはずもなく、俺は不様に地面に激突した。

痛てぇ……。

ランのやつ、謝るならリンにではなく俺に謝れよ。

そういえばランとリンは?


「よっと……!」


「おっとっと……」


うまく着地したみたいだな。

だが、風の勢いが思ったより凄まじく、俺達は離れ離れになってしまっていた。

ピンチを脱したとはいえ、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫の索敵範囲内には違いない。

ランはともかく、リンを孤立させておくのは危険だ。

と、思ったのも束の間。


「リンちゃん!! ごめんね!! 大丈夫だった!? 怪我してない!?

もうあんな危ない事はしないからね!」


ランがものすごい勢いでリンに駆け寄った。

すげぇ反応だな。

愛が半端ねぇ。

恐怖すら感じるぞ。


「大丈夫だよお姉ちゃん でも……」


リンはランに応えながら、不穏を抱いていた。

その理由は直ぐに分かった。


「グルルル……」


❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫が、ランとリンに標的を定めて歩み寄っていた。

恐らくランのリンを心配する大声に反応したのだろう。

❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫の接近を、ランも察知していた。

ランはリンを護るかの様に自らの背後にかくまい、杖を構えて臨戦態勢を整えていた。


「リンちゃんには毛の一本も触れさせない!!」


いや、実際にリンを護っているんだな。

ランの覚悟が伝わってくる。


「ラン君が危ない!!」


「早く助けなくちゃ!!」


「ちっ! 間に合え!!」


連中はだいぶ後方にいるな。

急いではいるが、あれでは間に合わない。

つまり、ランとリンが絶体絶命のピンチ過ぎてまじでやばい。

これまで何度かまじでやばい場面には直面してきたが、今回のは本気でやばい。

かくなるうえは……。

俺は息を大きく吸い込んだ。

そして、大声で叫ぶ。


「おい、ごらぁ!!!! テメェの相手は俺だ!!!!」


俺が叫ぶと。


「グルルル……?」


❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は歩を止め、俺の方へと振り返った。

よし。

やっぱりだ。

さっきから観察していて判明した事だが、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は声のする方向へ反応するみたいだ。

だったら、俺が声を上げて❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫の関心を奪ってしまえばいい。

これで、❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は俺の方へと来るはずだ。

俺は、こちらの様子を窺っている❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫に向かって叫び続けた。


「そうだよ!! てめぇの事だよ!! この木偶の坊が!!」


すると。


「グゥヴ……」


❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫は俺を睨みつけ、向かってきた。

くくく……。

それでいい……。

さっさと来い。

俺の方へと着実に歩を進める❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫。

そんな様子に、辺りがざわついていた。


「な!? デゼル、あんたどういうつもりよ!?」


「デゼルさん!! 本当に大丈夫なの!?」


と、ランとリンが驚きを露わにしており。


「どうしちゃったのあの人間!? 正気!?」


「いや、どうみても正気じゃねぇ!! 完全にイカレてやがる!!」


「とにかく助けなくては!!

彼にはニルヴァーナ様に対する暴言を悔い改めてもらうまで死なれてはいけないからね!!」


連中が騒いでいた。

…………。

なんか色々言われているな。

俺を心配してくれているのは、リンだけかよ。

まともな反応をしてくれるのは、いたいけな少女だけか。

他の連中は、完全に俺をトチ狂ったイカレた野郎だと認識してやがる。

まぁ、無理もないのかも知れないが……。

不愉快極まりないな。

そんな連中を無視し、俺は❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫に向かって叫び続けた。

魔物相手に挑発なんて効果があるのかどうか分からないが。

気持ち的に煽ってみる。


「おい!! ちょっと見た目が厳ついからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!!

こちとら、お前の仲間をもう何回も殺しているんだからな!!」


ヒャッハァー!!

これじゃあ俺が悪者みたいじゃねぇか。

なんて、調子に乗って煽っていたら、いつの間にか❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫が俺の目前にまで迫っていた。


「グゥヴ!!」


ふん。

願ってもない。


「やれよ」


言った途端。


「グァア!!!!」


❝黒獄獣❞≪ヘルヴォルグ≫が俺の喉元に食らいつく。

瞬間。

血が、噴水の様に噴き出した。

攻撃魔法――魔術❝昇岩撃❞

土属性の攻撃魔法。 土を隆起させる。


地中の硬度の高い鉱物を集め、それらを土で固めた状態のものを一気に隆起させる。

土の形状を鋭利にさせる事で、より殺傷力を高められる。

土は比重が重く、扱うのにとても多くの魔力を要する上、発生速度も遅い。

当たれば強いが、当てるのが難しい魔法である。


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