消失ー6
その光景は、まるでスローモーションの様に、俺の瞳に写っていた。
幾何学的な金属片。
基盤の欠片。
配線。
ひび割れた液晶。
等々が、俺の目の前で舞っていた。
一瞬の出来事だったが、俺にはその全てが見えていた。
その直後。
まるで時間が再び動き出したかの様に、俺はうつ伏せに倒れ込んだ。
「ぐっ……!」
直ぐに顔を上げると。
ガシャン、と金属製の音を立てて俺の目前になにかが落ちてきた。
なんだ……?
――!!
まさか……。
「リ、リコ……?」
直ぐには分からなかった。
だってそのリコは、液晶画面に無数の亀裂が入り、封入ケースが割れ、中から破損した基盤やら、千切れた配線などがむき出しになっていたからだ。
リコは、みるも無残なガラクタと化していた。
そうなった原因は分かっていた。
リコが体を張って、光波から俺を守ってくれたのだと。
リコは俺の身代わりになっていた。
リコの行動には、ウォーレンも驚いていた。
「まさか、体を張って主を守るとはね 本当に素晴らしい使い魔だ
残念だけど、その損傷具合からして、僕の回復魔法を以てして助ける事は手遅れだろう
最期のお別れを言う時間くらいは、設けてあげるよ」
言って、ウォーレンは立ち上がった。
くそっ!
ウォーレンのやつ、もう動けるのか。
自らに回復魔法でも施したのか?
ちっ……。
反撃の好機の逃した。
いや、そんな事より。
「リコ、大丈夫か!?」
俺はウォーレンの言っている事など無視して、リコに応答を求めた。
すると。
「マ、マス……ター…… 良か……った…… ご無……事……で なにより……です」
一応反応は見せたが、音声が途切れ途切れになっている。
明らかに大丈夫じゃないな。
おいおいおい。
まじかよ。
「リコ、しっかりしろ!」
「……申し訳、ざい……ま、せん マ、ス……ター 私、もう……動けそうに…… な、で……す」
音声がどんどん聞き取り難くなる。
これはもう駄目かも知れないな。
俺がそう思った時。
「マスター…… 実は私、とある❝夢❞があったん……です」
リコが何か喋りだした。
は?
夢だと?
リコのやつ、なにを言ってんだ?
部品が欠落した事によっておかしくなっちまったのか?
「リコ……? お前、なにを言って……」
俺が困惑している時でも、リコは喋り続けた。
「私の夢は絶対に、叶う筈のない夢なんですけど……
最期に……どうしてもマスターに聞いてほしくて……」
「なに?」
「実は私、❝人間❞になりたかったんです」
「は?」
「ふふっ…… 笑っちゃいますよね 機械の私が、人間に憧れるなんて…… でも、本気だったんです」
「な、なんで?」
「本当の意味で、マスターと肩を並べたかったんです
時には笑いあったり、ケンカしたり…… 普通の女の子として、マスターと一緒に過ごしたかった……」
「…………」
「でもそれは、絶対叶うはずのない夢でしかない
だから私は、せめて全力でマスターのサポートに徹しました
それが私の存在意義だった でも…… でも…………」
「お、おい…!」
「申し訳ありませんマスター 私はもう、マスターをサポートする事ができません……」
「リコ!!」
「マス……ター…… 御武運を……」
その言葉を最後に、リコの液晶画面は光を失った。
破損した箇所からはパチパチと微弱な電気がはじけ、断続的にショートを繰り返している。
ショートによって生じた火炎から、黒い煙がモクモクとリコから立ち上る。
…………。
まじか……。
リコが死んだ……。
いや、壊れたか。
最後に言っている事の意味は、なんかよく分からなかった。
まぁ、発言内容から明らかに回路が正常に働いていなかったな。
くっそ……。
あんな便利な道具を失うとは……。
かなりの痛手だ。
だがまぁ、俺の命には変えられないか。
リコは俺を護るという自分の役割を全うしたに過ぎない。
形あるものいつか朽ちる。
リコの場合、それが今だったって話だ。
所詮道具を壊されたからといって、いつまでも愚痴る俺ではない。
「まぁ、いいか……」
俺は一言、そう呟いた。
リコが壊れてしまったのは仕方のない事だった。
俺はそう悟りきった。
その筈なのに……。
それなのに……。
なんだ?
この胸の奥につっかかっている様な感覚は……。
心の奥底から煮えたぎってくるこの感情は……。
一体なんだ?
俺はリコを失った事により、なにかを心の中で感じていた。
その時。
「カズ君…… 君はそれでも人なのかい?」
なんかウォーレンが俺を責めていた。
俺の呟きを聞いての反応らしいが……。
なに言ってんだこいつ。
「は?」
「リコ君は本当に素晴らしい使い魔だった
健気に君に尽くして、いつも君を一番に考えていた
魔物という立場ながら、カズ君を愛するが故に、人間になりたいという夢をも抱いていた
そんな存在の消失に、君はなんて言った?
❝まぁ、いいか❞だって?
やはり君は、人として大事ななにかが欠落している様だ」
…………。
またむちゃくちゃな倫理観を展開しやがって。
リコはただの機械だ。
命のない仮初めの人格だ。
その辺を理解してもらいたいな。
まぁ、理解される筈もないからあえて言わないが。
っていうか……。
「お前がそれを言うのか……? おい、ウォーレン!!
リコを殺したのは、てめぇだろうが!!!!」
おっと、つい声を荒げてしまった。
らしくない。
なんで俺はこんなに感情的になってるんだ?
❝壊した❞ではなく❝殺した❞なんて表現もしてしまっているし……。
リコの進化し過ぎた人格に触れる内に、あいつを生き物と錯覚していたのか?
俺もヤキが回ったな。
俺の思わぬ激昂を受けて、ウォーレンは。
「――! そうだ それでいい
君にも人としての心が僅かながら残っていた様で安心したよ」
何かを察した様な表情を見せると、分かった風に言ってきた。
そしてウォーレンは続ける。
「でも、僕は謝らない」
は?
「あぁ!?」
「カズ君 リコ君の消失は、君が招いた事だからだ
僕の言うことを素直に聞いていれば、こんな事にならずに済んだんだよ
ニルヴァーナ様への反逆と魔人との関わり 全てカズ君が悪いんだ」
こいつ、本気で言ってんのか?
俺はウォーレンの身勝手な発言に沸々と怒りがわいてきた。
イラッ……。
イラッどころじゃねぇな。
カチンときた。
気付くと、俺は拳銃を取り出していた。
両手で構えて、ウォーレンに照準を合わせた。
その単純な行動をとる事は、今の俺には容易くなかった。
傷だらけの体は痛みが収まらず、❝反動❞によって満足にも動けない。
俺は、うつ伏せのまま震える両手を必死に駆使して、拳銃を握りしめていた。
体こそ使い物にならねぇが、俺は気迫だけで今の行動を成していた。
「それ以上、くだらねぇ事を言ってみろ! 痛いだけじゃあ済まさねえぞ!!」
俺の脅しに、ウォーレンは。
「ふむ それを使うつもりかい?
それが凄まじい威力を発揮できる事は知っているけど……
❝活性❞を発動中の僕には、そんな軌道の分かりきった術は当たらな――」
なんかウォーレンが自らの偉大さを述べている時。
「うるせぇ」
俺はウォーレンの発言を遮った。
刹那。
パンッ!!
と、発砲音が響き渡った。
あれ?
一瞬、なにが起きたのか分からなかった。
見ると、俺の両手には拳銃がなかった。
辺りに目をやると、横に落ちている。
その拳銃の銃口からは、硝煙がたっていた。
それを見て、ようやく俺は把握した。
拳銃が暴発したのだと。
その衝撃によって、拳銃が離れたのか。
今の俺には握力がないからな。
そんな不安定な状態で拳銃を握っていれば、不意に引き金に当たっても不思議はない。
ちっ……。
最後の一発を無駄にしてしまったな。
そう思った時。
「ぐぅ……!!」
俺の前方から、うめき声が聞こえてきた。
ウォーレンか?
俺は声の聞こえた方向を確認してみた。
そこには。
「はぁ……はぁ…… うぅ…………」
ウォーレンは相変わらずうめいており、だらんと垂らした右腕を左手で押さえていた。
衣類は真っ赤に染まり、右腕からはおびただしい量の血を垂れ流していた。
ポタポタと地面に血溜まりが広がっていく。
その右手に、杖は握られていなかった。
見ると、ウォーレンのすぐ側には、真っ二つに折れた杖が転がっている。
ふむ。
なるほど。
さっき暴発した弾丸が、ウォーレンの杖を破壊して、そのまま右腕に貫通していたのか。
ほう……。
くくく……。
なんかよく分からん内に戦況が好転したな。
やったぜ。
俺の持ち物を壊したんだ。
お返しに、ウォーレンの杖も壊してやったぜ。
くくく……。
あっははは!!
ははは……。
はぁ……。
ダメだ。
全然、気が晴れねぇ。
くそっ……。
イライラする。
さっきから感じているこの憎しみにも似た感情はなんだ?
もっとウォーレンを痛めつけないと気が済まないのか?
いや、よそう。
銃で人を撃ったのなんて初めてだ。
感情的な憎悪を感じる反面、それに対抗するかの様な言い知れぬ罪悪感が俺を苛んでいた。
ウォーレンは以前悶えている。
なんだか俺の方が外道みたいじゃねぇか。
俺は追撃をしたいという衝動を抑え、ただただウォーレンの苦しむ姿を眺める事しかできなかった。
まぁ、気持ちを抑えきれなかったとしても、どのみち俺は動けないんだけどな。
そんな時。
「はぁ……はぁ…… 油断していたわけじゃないんだけど……
一瞬たりとも反応できなかったよ」
ウォーレンは息を整えて言ってきた。
っていうかウォーレンのやつ、拳銃の銃撃を反応する気でいたのか?
無茶言うな。
至近距離の銃撃に対処するなんて芸当ができるわけねぇだろ。
「いくらなんでもそれは無理だ さぁ、これで分かっただろう?」
「はぁ……はぁ…… なにをだい?」
「その右腕は重傷だ 回復手段の杖もない
そのままでいると出血多量で死んでしまうぞ さっさと止血をして医者に診てもらってこい」
「………… なにが言いたいんだい?」
「勝負はあった 俺の勝ちだ もう俺に構うな さっさと去れ」
俺は勝負の決着を告げた。
だが、ウォーレンは。
「僕が負ける? それは有り得ない事さ」
負けを認めなかった。
往生際の悪いやつだ。
「その状態で闘いを続行する気か? まじで死ぬぞ?」
俺は警告をするが。
「ふむ 確かにこの傷は放っておいていい様な傷じゃないね 杖がないと回復は不可能だ」
「だったら――」
「でも、僕は運がいい」
俺の発言を遮って、ウォーレンは続けた。
「どうやら、環境は僕の味方みたいだしね」
は?
どういう意味だ?
俺はウォーレンの発言の意味が分からず、困惑していた。
するとウォーレンは、自らが背を預けている木から、枝を一本へし折った。
その枝を見せびらかし、言った。
「これは❝魔樹の枝❞ 杖に成り得る特殊な木なんだ」
なんだって!?
❝魔樹の枝❞だと!?
その名称は聞いた事がある。
その特性もな。
確か、ノエルが使っている杖だ。
魔力を引き出すという特性上、魔力量の少ない人間が使うのに相性がいい杖。
その一方で、魔力量が高い叡人が使うと、魔力を杖に吸収されてしまうので向いてないらしい。
まさか、その杖の大元である木がその辺に生えているとは思わなかったな。
❝魔樹❞っていうのは、希少な木だったんじゃねぇのか?
運にまで恵まれているとは……。
ウォーレンのやつ、相変わらずの主人公補正だな。
だが……。
「その杖なら知ってるぜ 叡人のウォーレンが扱うには相性が悪いってな」
そう、運良く杖を手にしたといってもだ。
❝魔樹の枝❞は、その特性上ウォーレンにさっきまでほどの強さをもたらさない。
俺はそうふんでいた。
しかし。
「よく知っているね でも、そんな事些細な問題さ」
言ってウォーレンは、❝魔樹の枝❞を構えて詠唱を始めた。
「回復魔法――魔術❝大回復❞」
言って、淡い光を纏った❝魔樹の枝❞を、ウォーレンは傷口に当てていた。
すると……。
ぐちゃぐちゃと、いやらしい音が聞こえてくる。
見ると、ウォーレンの傷口には肉片が生成されていた。
そして、あっという間に。
「うん まぁまぁかな」
ウォーレンは右腕をぐるんぐるん回して、肩慣らしをしていた。
回復完了かよ。
ウォーレンも十分チートだな。
「なっ……!! だ、だが…… その杖では、満足に魔法を使えない筈だ
俺に勝てる理由にはならない」
俺は絶望しながらでも、強気で言ってみる。
が。
「まぁね でもカズ君を行動不能にする事くらいはできるよ」
ウォーレンは俺に❝魔樹の枝❞を差し向けた。
「は?」
「どういうわけか、君は動けないみたいだしね ニルバニアまで運んであげるよ
あ、でも急に動かれても困るから、足の1本は覚悟してくれよ」
え?
えぇ!?
「ちょ、ば…… 止めろ!!」
「心配しなくてもニルバニアに帰ったら医術師に治してもらうよ
痛いのは今だけだ 安心してくれ」
あ、そう……。
治るなら、まぁ……。
って!!
安心できねぇよ!!
馬鹿じゃねぇの!!
ウォーレンは俺に近寄ってくる。
「止めろ!! 来るな!!」
「往生際が悪いよ 覚悟を決めるんだ」
言って、ウォーレンは❝魔樹の枝❞を振るった。
「魔術――❝魔力の刃❞」
刹那。
俺は足に激痛を感じた。
「ぐっ……!! ぐあぁぁぁぁ!!」
右のふくらはぎが斬られた。
くっそ……。
よくも……。
「ぐぅ…… はぁ……はぁ……」
俺は痛みを必死にこらえた。
額からは汗が滲み出て、手には、地面に生えている草を理由もなく掴んでいた。
なんとか耐え、息を整えていると。
「僕だって辛いんだ だけどこうするしかないんだよ 我慢してくれ」
ウォーレンが、滅茶苦茶な事を言っていた。
「この……野郎……!!」
俺は無理やりでも動かし、這いずる。
ウォーレンの足を掴んだ。
今、❝吸生❞が使えたら、と期待したが。
…………。
相変わらず、闇は出てこない。
ウォーレンは歩く動作だけで、俺の掴む手を引き剥がした。
そして。
「ふむ…… 傷が浅かったかな?
やはり❝魔樹の枝❞は僕にとって扱いが難しいみたいだ 今度は集中して……」
また詠唱を始めだした。
は?
今度はってなんだよ。
まさか……!!
俺が嫌な予感を募らせていると。
「念の為に左足も使えなくしておくよ 歯を食いしばるんだ」
ウォーレンのやつ、まだ俺を痛み付けるつもりか!!
案の定だくそったれ!!
「待て!! ウォーレン止めろ!!」
「駄目だ これはカズ君の為なんだ」
ちっ……。
聞く気がねぇのか。
だったら……。
「くそっ!! リコ!! なんとかしろ!!」
――はい、マスター!――
一瞬。
そう、聞こえた気がした。
無我夢中だった為、ついリコを頼ってしまっていた。
しかし、リコはもういない。
その事実を、俺は内心では悟り切れていないみたいだった。
だからだろうか。
それとも、全く別の理由なのか。
何故だかよく分からなかったが、壊れてしまったリコの残骸を見て、俺の目から不意に涙が零れ落ちた。
な、なんだ?
「――?」
俺は流れる涙を拭いながら、困惑していた。
その時。
「リコ君はもう死んだんだ カズ君、君のせいでね」
ウォーレンは言いながら、❝魔樹の枝❞を垂直に俺の左足に突き立てていた。
突き刺すつもりかよ。
くそっ!!
くそっくそっ!!
止めろ!!
まじで、止めろ!!!!
俺は叫びそうになった。
だが、ウォーレンは既に❝魔樹の枝❞を振りかぶっていた。
その時。
「止めろ」
俺は驚くほど冷静に、そう言っていた。
その言葉のトーンは、俺の心情とはかけ離れていた。
だが、俺が制止を訴えたところで、ウォーレンは止まらないだろう。
無念極まりない……。
俺は、これから襲いかかるであろう更なる痛みに対して身構えた。
だが……。
…………。
あれ?
いつまでも経っても痛みが襲ってこない。
疑問に思い、ウォーレンの様子を見てみた。
すると、そこには。
ん……?
なんだ?
俺はウォーレンの様子に、違和感を感じずにはいられなかった。
なぜなら。
「…………」
ウォーレンは、ピクリとも動かなかった。
いや、ウォーレンだけじゃない。
周辺の様子も、違和感しかない。
木々が風で揺れる事もなければ、雲が動くわけでもない。
まるで、時間が止まってしまったかの様だった。
俺には、その光景が灰色に映った。
な、なんだ?
一体、なにが起きてやがる?
そう思った瞬間。
俺は、自分の目前になにかを見た。
❝なにか❞と表現したのは、それがなにか分からなかったからだ。
一言で表現するなら、❝煙❞。
どす黒い煙が、俺の目前でフワフワと停滞していた。
見ているだけで、不快な気分に陥るその煙。
この煙……。
どこかで……。
あ、思い出した。
俺は、その煙を知っている。
以前、数回程俺の夢に出てきた煙だ。
確か、内容は覚えていないが、ある事を俺に問いかけてきていた。
えっと……。
その時は、なにを聞かれたんだったかな?
まぁ、それは今いい。
問題は、何故その煙が今現れているのかということ。
そしてこの煙の発現は、恐らくこの止まってしまった時間とも無関係ではないだろう。
夢で会った煙と同種なのだとしたら、対話が可能な筈だ。
そう思い、俺は恐る恐る喋りかけてみようとした。
その時。
「よう 随分と久し振りじゃねぇか」
煙は、俺に喋りかけた。
その声は、男とも女とも分からない、なんとも表現し難い声色だった。
まぁ、煙の性別などどうでもいい。
それより、❝久し振り❞だと?
ふむ……。
やはりこの煙は、以前俺の夢に出てきたのと同じものらしいな。
だったら敵ではなさそうだ。
そして、対話が可能なら色々と聞くべき事がある。
俺は驚かず、普通に応答した。
「幾つか聞きたい事がある」
「なんだ?」
「この状況はどういう事だ? 何故、時間が止まっている?」
俺の問いに、煙は普通に答えてくれた。
「❝時間❞とは不可逆なものでな
決して、止まったりなんかしないし、戻ったりもしない」
が、言っている事がよく分からなかった。
「なに? ならこの状況をどう説明する?」
「止まっている間でも、時は動いている」
「??」
「例えばの話だ
❝10秒間、時が止まった❞という話の中で❝10秒間❞は時が動いている事になるだろう?」
「????」
「要するにだ 時間の流れなど、その者の感じ方次第でいくらでも変動するんだよ」
「つまり?」
「つまり、別に時間が止まっているわけじゃねぇ
お前は俺と話す事によって、時の流れを長く感じているんだ」
「それは…… 一体、どういう意味だ?」
「お前は今、自らの深層心理に潜り込んでいる
そこは、時の流れなどあってないようなものだからな」
…………。
俺の深層心理だと?
要は、今の俺は自分の心の中にいるって事か?
ちょっと待て。
だったらなんで煙が、俺の心の中にいるんだよ。
この煙……。
一体、なんなんだ?
俺は核心を尋ねてみた。
「正直、話についていけてないが、これだけは確認させてくれ」
「ん?」
「お前は…… 一体、なんだ?」
俺の核心に、煙は。
「その問いは、以前も聞かれたな その時に言った筈だ
❝それはお前が一番よく分かっている筈❞だと」
納得できる説明をしなかった。
ちっ……。
要領を得ないな。
「分からないから聞いているんだ 質問に答えろ」
俺が言うと。
「くくく…… 確かに、以前と同じ返答など芸がないな 答えてやるよ」
煙は語り出し、続けた。
「そうだな…… 俺の名前をあえて言うなら…… ❝デゼル❞だ
そろそろ、察してもいいんじゃねぇのか? なぁ、❝俺❞よ」
自身強化魔法 魔術――❝活性❞
自身を活性化させる。 あらゆる体力が強化される。
自身の血流に魔力を混ぜ、全身を巡らせる。
鼓動が早まる事により、敏捷が高まり、体力が上がり、反応速度や筋力なども強化される。
基礎体力が備わってない身体に用いると、身体が破壊されかねない危険な魔術。
魔術の性質上、他人への付与は不可能となっている。




