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落ちた家名を仲間と共に再興します!~学園内乱編~

はじめまして、アユトと申します。この話は自分がストレス解消を目的に書いた?話ですので皆さんの暇潰し程度になれば幸いです。後自分は絵が苦手なので乗せる予定はありません。ご了承下さい。

キャラクター紹介

無双龍護→今作の主人公。10年前の襲撃のさい行方不明(死亡の可能性大)とされていたが隠れ里である孤里に匿われ修行を積んでいた。黒髪短髪の優男でパッと見弱く見えるため絡まれる事がたまにある。

悟空良→隠れ里孤里出身の黒髪ショートホブで半妖半人である妖人種の女の子。6年前の出来事が切っ掛けで自分のある感情を殺しながらも龍護の侍女になった。自身の能力を活かし龍護の修行を手伝う。

椎名月詠→龍護ラブな金髪ショートヘアの女の子で年齢の為家督を継げないだけの椎名家の事実上のトップであり主人公達の通う学園の生徒会長。ただストレスが溜まりやすいのか発散を兼ねて菫とアリナと一緒に(強制連行)クエストに向かい新技等を試す悪癖がある。

暁アリナ→代々無双家に仕えてきた諜報部隊の隊長、身長は月詠と同じく低めだが月詠より胸がでかくよく月詠をからかっては菫に怒られる。本人にこだわりはないため肩まである黒髪は日によって菫が変えている。趣味はゲームで土日は自室に菓子と飲み物を持ち込み引きこもる。

仙道菫→無双龍護のいとこで鴎外錬の婚約者。趣味は自作の衣装を可愛い女の子に着せることでよく月詠とアリナが被害にあうが完成度が高いため寮主催のフリーマーケットでは二時間足らずで完売するほど人気がある。

鴎外錬→無双龍護の幼馴染の一人で仙道菫の婚約者。人を動かすのがうまくまた自分もそれを理解しているため仕事をうまく回りに振り分けてはよく生徒会室でサボっている。

真野正太→龍護達の通う闘魔学園の三年生で前生徒会長。月詠にボコられてからは極力生徒会に関わらないようにしている。六芒の一角である真野家の次期頭主。

剛磨飛鳥→龍護達の通う学園の三年生で前風紀委員長。任期はまだ有ったものの最低限の引き継ぎを済ませると生徒会の代替わりを理由に引退。自他共に認めるシスコンで近隣では美人姉妹として有名。六芒の一角である剛磨家の次期頭主。

剛磨楓→龍護達の通う闘魔学園の新入生。性格は引っ込み思案だが姉である飛鳥には無遠慮で飛鳥のストッパー的な役割をしている。必殺技は満面の笑みで放つ「おねぇ、大好き!」である。

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周囲の至るところから火の手が上がり家屋や人を焼く臭いが充満するなか目の前の人はこう伝える。

「今からお前を無双家に縁がある修行の地に飛ばします頑張って技を習得しどうか我々の仇を!」こう言って顔の半分を自らの血で染めた老人は術を発動させる。その時自分がなんて言っていたかは覚えていない。

「…。…様。…護様。……なかなか起きませんね。」そこには電車に揺られ寝こける少年とそれを起こそうとする制服姿の少女がいた。「もうすぐ目的の駅ですのに仕方ありません、あまり気乗りしませんが、妖心術・乱心・死獄」少女が少年の額に手をかざしそう唱えた瞬間、少年は顔面蒼白になり叫び声をあげながら目を覚ます。周りを見渡し犯人がわかった少年は少女に涙目になりながら懇願する。「空良、その起こしかたはやめてって何回も言ってるじゃん。何でそんな嫌がらせをするの?俺のこと嫌いなの?」空良と呼ばれた少女はそれに対して冷徹な笑顔を浮かべ微笑みながら伝える。「侍女の私ごときが主様を嫌うなどと恐れ多い。それに失礼ながら再三起こしたにも関わらず寝こけている龍護様が悪いかと思いますが?」と言われ「うっ」と喉から呻き声を漏らすが「それならせめてもう少し術のランクを[下げたら龍護様には通じないので]下げて…」と反論しようとするも食いぎみに言葉をぶつけられては尻すぼみになってしまい何も言えなくなってしまう。駅に降りた龍護はぼそりと「10年立てば景観が変わるのは当たり前か」と呟くのを空良は聞き流しながら、この後の予定をメモ帳を見ながら説明する。「この後は一度寮に行き手荷物を置いてきましょう、その後に少し町を散歩しましょうか。本格的な荷ほどきは明日、荷物が届かないと出来ませんし。」と告げと二人はこれから過ごす事になる闘魔学園学生寮への道を雑踏紛れて行くのであった。

ここは二人が通うことになる学園、闘魔学園の生徒会室である、今この中には三人の人影があった。「な~ん~で~、ここにいる必要のない風紀会委員長がここにいるの!しかも私のケーキを食べながら!」怒気を露にするのは生徒会会長そして召喚術の名門椎名家現頭主代行である椎名月詠である、「なんでって婚約者の護衛兼お前をバカにしに?」と何言ってんの?とでも言いたげな顔をしながら返したのは風紀会委員長であり霊然術の名家鴎外家の頭主筆頭候補鴎外錬であった。「まぁまぁ二人も私達しかいないからってケンカしない。ヨミちゃんも少し休憩してケーキ食べよ?」と優しく声をかけるのは付与や結界術の名門仙道家の長女仙道菫でありこの三人ともう一人ここにはいない人物を含めた四人は幼馴染であった。ちなみに錬の婚約者であり嫁入り予定のため菫には仙道家の頭主継承権はなく弟の紫水が筆頭候補である。月詠は手を止め錬や菫がいるテーブルまで移動する。そのタイミングを見計らってか、ところでと錬が月詠に話かける「なんで入学レクリエーション前日にお前らは登校してんの?」と真面目な顔をして聞いてきた錬の問いに月詠と菫は顔を見合せ同時にため息をついた。「錬君なんで入学レクリエーションって単語が出てるのにわからないの?」と菫が少し哀れんだ目を向け「そもそもあんたも無関係じゃないでしょうが!」と声を大きく月詠が怒鳴った。「確かにレクリエーション1日目は関係ないけど2日目にやるレクリエーションバトルはあんたもあんたん所の副委員長も出るでしょうが!その調整のためにこっちは休日出勤してんのよ。それを婚約者の護衛だぁ~?少しはこっちの仕事を手伝えアホ錬」と捲し立てた。それに対して悪びれもせずに「そういっためんどうそうな事はその副委員長である昌磨に丸投げしてるから忘れてたわ。」とハハハって笑いながら話していると菫がなにかを感じ取ったのか錬と部屋全体に結界を張る。次の瞬間錬が壁までふっ飛んだ。それは怒りに身を任せ月詠が呼び出した武具精霊の戦鎚を振り切った瞬間である。「何しやがる、菫が結界張ってなかったら死んでたぞ!」と声を荒ぶらせ錬が月詠に食って掛かるが月読は気にせず席に着き、「あんたがアホなこと言うのが悪い。」と言うとケーキを食べ始める、それに対して錬も椅子に座り直しながらも月詠にぎゃーぎゃーとわめき散らすが月詠は気にしない、その様子を見ながらまた始まったと呆れながら菫は張っていた結界を解く。前はもう一人の子も仲裁に入り宥めるのが楽だったのだが10年前から菫はこのやり取りを1人で仲裁するようになり今では慣れてきたためどちらかが周りを壊す前にそしてどちらかが怪我をする前に結界を張れるようになった。ちなみにその結界のお陰で両者ある程度の手加減はするものの遠慮なしでやりあうので悪循環であることは否めない。そして10年前は楽だったと菫が考えながらまだ口論をしている2人を宥めるため話題を反らす。「もう1年たつんだよねぇ、ヨミちゃんの暴挙に巻き込まれてから。」と呟く菫に、うっと苦虫を噛み潰したような声を上げる月詠、「あれはしょうがないじゃないの、あいつが私達の思い出を馬鹿にするから。」となんとか弁解を図る月詠だったが「まぁあいつは確かにムカついたけど今思えばあれはやり過ぎだったよなぁ」と錬も悪のりした手前ハハハとばつが悪そうに笑う。ちょうど1年前あることをきっかけに月詠の怒りを買ってしまった当時の生徒会会長はレクリエーションバトルで月詠に完敗、その後1週間のうちに生徒会メンバーをそう入れ換えといった前代未聞の大事件を起こし月詠は1年生ながら学園生徒の長になった、ちなみにその時の暴れっぷりを知る同級生やら先輩方がその時の月詠を(暴虐姫)と呼び月読の総称となっている。懐かしいなぁ~と錬は呟きながらカップに口を着ける。「それから俺は風紀委員会に入って1年たたずに代替わりして俺が委員長だしなぁ」と言葉を溢す、「そういえば飛鳥先輩は何で代替わりしたのよ?普通はもう少し後じゃない?」と月詠が錬に訪ねると錬は菫におかわりをお願いしながら「いやぁ、俺もそう思って聞いたんだが飛鳥先輩が言うには[生徒会長も新しくなったんだし私も隠居するわ]って言って俺に委員長の席を2学期が始まるのと同時期に譲って、たまに風紀会室に来てはお茶を飲みに来るようになってた。」と言ってきたのだ。それを聞いた菫が、その巻き添えで昌磨君が副委員長になったのねと呟いた。そこからは他愛のない話をしていると突然ドアがノックされ月詠達が慌ててケーキの残りを片付けていると返事も待たずにドアが開かれた。「相変わらずお前らは仲がいいなぁ」と入ってきたのは見た目は中学生と言われても信じてしまいそうなほど幼い現学園の理事長である無双唄である。唄は近くの椅子に座りながら菫にケーキと飲み物をお願いする。それで理事長は、と月詠が話し掛けた時唄が「今は私達だけなのだろう?ならそんな畏まって話さんでもよい。」と告げ、それならと月詠達も口調を崩す。「それで何かようですか?唄さん」と月詠が訪ねたとたん「ん?」と様子が不機嫌になる。あまりにも突然の事に月詠達が慌てていると唄が月詠に「前にも言ったが私の事はおばあちゃんと呼べと言っておろうに」と言ってきた。唄は見た目こそ幼い印象があるもののその正体はセイレーンと人魚のハーフでありながら無双家2代目頭主と大恋愛の末に結婚を果たし実年齢は600を越えていると言われている無双家の生き字引なのである。その唄の言葉に月詠はけど、と反論をしようとするも唄が「お前は龍護の元婚約者だ。元とは言え1度は婚約者になったんだ、婚約は龍護の死亡により無しになってしまったが私の孫と言っても過言では無いのだからおばあちゃんとお呼び。」と強い口調で言われてしまう。時にヨミちゃんやと唄が呼び掛けると月詠がなんでしょう?とカップに口を着けながら聞く体制をとる「ヨミちゃんも高校2年生なんだし、そろそろ好い人はいないのかい?なんならお見合い写真でも持ってくるよ?」と3人が3人とも驚きを示す。おばあちゃん!と声を張る月詠を制して唄が続ける「ヨミちゃんが今でも龍護を思ってくれているのは十分知ってるし有難いとも思ってる。でもね、すでに死んでる人を思うよりは新しい恋を探した方がいいと思うのよ?何よりヨミちゃんの人生はこれからだ、死んでしまった龍護に囚われてるのは黙ってられないんだよ?」と唄は心配そうに月詠を見る。月詠は「確かに今でも龍ちゃんは好きですよ。」と言う。唄がそれだと、と声を掛けるも今度は月詠が制して続ける「そもそも私が龍ちゃんと婚約したのは私より強かったからです。確かに当時はまだ幼く対人経験は訓練でもなかなかありませんでしたが私を負かしたのは後にも先にも龍ちゃんだけです。私は私より弱い人の元に嫁ぐつもりはありません。今後私を負かせるだけの実力がある人となら婚約はするかもしれませんが今のところはいませんね。まぁ龍ちゃんが仮に生きていたとしても今の私なら勝てる自身がありますし。もし負けてもそのまま婚約が元に戻るだけなので私としてはありですが、むしろ私が勝ってそのまま婚姻届提出なん……でもありません。」と少し慌てて伝えると呆れながらも唄は「それならヨミちゃんはいまだに龍護の事が好きなのかい?10年もたっていて何の音沙汰もなく、ほぼ死亡が確定なのに。」と訪ねると月読ははっきりと好きだと伝える。それを聞いた唄は突然笑いだしながら床に置いておいた鞄から封筒を取り出す。「これにはレクリエーションバトルの対戦者のリストが入っている」と封を開けると2枚のリストをテーブルに滑らせる。「3位が剛磨楓3年の剛磨飛鳥の妹だ、4位が鴎外天馬、錬お前さんの弟だ」と言って封を再び閉じる。「もしヨミちゃんが龍護の事を諦めているならこの場で明かしてもよかったがそうでないなら残りの1位と2位は当日のお楽しみってことで」と告げると皿とカップに残こしていたケーキと飲み物を残さず食し生徒会室を後にした。残された3人は顔を見合せながらなんだったんだと考え一人は確信を残り2人は全くわからずにその日はレクリエーション2日目の調整に戻るのであった。

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2日開き今日はレクリエーション1日目である。またも強引に起こされた龍護はやや不機嫌になりながらも学園の講堂に空良や他の新入生と共に集まっていた。1日目のレクリエーションは学園の役割の説明や10年前に起こった悲劇それに付随して当時五芒会と呼ばれていた組織がなぜ今の六芒会になったかの説明、その後各個人に教科書及び制服や学園指定のジャージ各教室がかかれた紙が配布され解散となった。「しかし龍護様あの歴史は事実とはかなり違うんですね?」と空良が訪ねてきた。あの歴史とは10年前に起こった悲劇「無双家襲撃事件」である。歴史では当時最強とされていた無双流本家に大量の妖魔が襲撃、あまりの妖魔の数に対応しきれなくなった無双家の人達が蹂躙され当時6歳だった龍護もろとも全滅、死体が残らないほどで唯一学園にて仕事をしていた無双唄のみが生き残ったという事であった。「そうだな実際は陸さん。空良の父親が調べた事実とはかなり違ったもんな。」と龍護も驚いていた。「陸さんは唄ばーちゃんに椿さん、清隆さんや春人さんに伝えたって言ってたんだけどね。」と龍護もわからないと言わんばかりに肩をすくめた。「まぁ明日のレクリエーションバトルが終わったら唄ばーちゃんの所に集まるように言われてるからその時にまとめて話でもすんじゃないのか?」と龍護は告げる。明日のレクリエーションバトル参加者の残り2人は龍護と空良の両名なのだ。「明日は一緒に戦えないけど負けるなよ?」と龍護は空良に言うと「龍護様の前座として恥じない戦いをして見せますよ。」と空良は笑いかけるのであった。

日は上り空良はもう6年も続け日課になっている龍護を起こしにいく。「さぁ、今日はどんな術をかけましょうか。」と笑みを溢しながら龍護の寝室に入っていく龍護に仕えるようになって早6年、空良の密かな楽しみの1つである。しかし龍護はすでに制服に着替えていた。空良の入室に気づくとおはようと声をかけてくる。「珍しく早起きですね。」と空良が声をかけると龍護は嬉しそうな顔で「もうすぐ錬にぃや菫ねぇ、ヨミ姉に会えると思うとな、全身の血が沸騰するみたいに高揚して早く目が覚めたんだよ。」と伝える。事実この3人とは幼なじみであるものの10年前の事件で一切の連絡をたっていた龍護にとっては10年越しの再開(1人は違うが)であるため仕方がない。まぁ菫ねぇとは直接会うのはもう少し後だけど、と龍護が呟くと「それでは龍護様の幼なじみである菫様にみっともないところを見せないようしっかりと戦って参ります」と空良は淑女のするように綺麗なカーテシーをして見せる。龍護は期待していると告げると空良の用意した朝食を食べそれぞれの控え室に向かうのであった。

4

控え室前で別れるとき龍護は空良に負けるなよと激励を送り空良もそれに対して御武運をと龍護に返し空良は控え室に入っていった。控え室に入ると中にはすでに人がいて空良に気づく「俺は鴎外天馬今回は一緒に頑張ろうぜ!」と熱血漢のように熱く赤髪の少年が声をかけてきた。空良はぶっきらぼうによろしく。とだけ返事を返し瞑想を開始する。それに対し天馬はコンビネーションの練習をしようとか使える技は?とか色々聞いてくる普段は何事にも冷静な対応をする空良だったが瞑想中なのが悪かった。「私は今レクリエーションに向けて集中したいのです、邪魔しないでもらえませんか!」と口調を荒げだいたい初対面なのにコンビネーションもありはしないでしょうと捲し立ててしまった。口調を荒く返された天馬も「なんだその舐めた言葉は!俺は六亡の一角、名門鴎外家の1人だぞ!」と権力を笠にきた物言いをしてしまう。さらに食って掛かろうとする天馬に面倒くさくなった空良は術を使い行動、言動の一切を封じてしまった。それから空良が瞑想をしてしばらくした頃突然扉が開き生徒会会長椎名月詠と風紀委員会委員長の鴎外錬が入ってきた、錬は行動の一切を封じられのたくっている天馬の様子を見て何やってんの?とでも言いたげな顔をして月詠と共に恐らく天馬を行動不能にした原因に声をかける。「初めまして、俺はそこに転がっているやつの兄貴で錬ってんだ、こっちは椎名月詠、次の試合で戦うことになっているんだよ。それと出来れば弟の拘束を解いてくれるかな?」と外行きの様相で話しかける。空良は手を胸の前で叩き術を解除し錬に挨拶を返す「初めまして1学年次席悟空良と申します、お2人の事は我が主よりお聞きしておりますのでどうぞいつも通りの口調で構いませんよ。」と言葉を告げる。月詠が主に疑問を持ちそれを問いただそうとする前に怒号がとんだ。「おい!さっきはよくもやってくれたな!」と天馬が左手を空良に向ける。天馬は左手に霊力を集め攻撃を仕掛けようとする。対し空良が迎撃をしようと構えるが二人の間に物凄い衝撃があり二人はそちらに気がそれた。それは月詠が召喚し投げた戦鎚だった、月詠は戦鎚を戻すと2人に、「これから共に戦いに行くのだからそこで決着を着けなさい!」と小柄な見た目からは想像できない圧力で2人を睨む。空良はその月詠に対し主から聞いた通りだと言葉を投げ掛ける。「主はあなた方と戦うのを心より楽しみにしておられました。その前座として恥じぬ戦いをご覧に入れましょう。」と空良は月詠と錬と言葉を交わす。すっかり茅の外になってしまっている天馬はその様子が気にくわなかったのか空良に「人の話も聞かないあげく術を使って拘束をする。お前みたいなやつをメイドにするならその主もたかが知れてるな!」と挑発まがいに言った瞬間天馬の頭に拳骨が落ちた。拳骨を落とした錬はいつからそんな偉そうなこと言えるようになった?と高圧的な睨みを聞かせる。空良は無言で天馬に術をかけようとしていたところを月詠に落ち着きなさいと諭されていた。そうこうしているうちに入場時間になり天馬と空良は会場に向かう。2人を送り出した月詠は錬にあの空良って子かなりヤバいわよ。と告げる、「多分だけど去年卒業した海美先輩の妹よ。霊力がとても似てた。」と告げる。それを聞いた錬は「ならあの子も化け物じみて強いのか?」と聞く。「止めなければあんたの弟、下手打てば死んでたわよ。」と帰ってきたのであった。

「さぁ今年もやって参りました、新入生歓迎兼学園の実力者御披露目会。レクリエーションバトルの開催です!」と放送席から高らかに宣言される。空良は後ろから睨んでくる天馬には目もくれずに反対側の通路にいる見知った顔に意識を割いていた。「さぁそれでは学園副長コンビの入場です。まずは学園ランク6位風紀委員会副長真野昌磨選手です、昌磨選手は2年でありながらすでに風紀委員副長の地位に座り実技、座学共に優秀な生徒ですね、しかし委員長が自由奔放という噂も聞くため内情は恐らく気苦労が絶えない苦労人でしょうか?」と司会役の生徒から面白可笑しく紹介が入る。ふと天馬の方に視線を向けると恥ずかしそうに顔を手で覆い何やってんだあの馬鹿兄貴はと呟くのが聞こえた。会場入りした本人も気まずそうに空笑いを浮かべ、その後ろを穏やかに微笑みながら女性が出てくる。「続けて出てきたのは生徒会副長にして暴虐姫の手綱を握るぅぅぅ~」とここまで言ってなぜか放送席が沈黙した。「えぇ先程の子はなぜか倒れてしまったため変わって紹介をさせて頂きます、改めて生徒会副長そして公私共に会長を支える存在。仙道菫選手の入場です。菫選手は学園ランク3位、その戦いかたは結界術や付与術をメインに自身も体術や武具術を使う戦略範囲がかなり広い生徒ですね、今日はどんな戦い方を見せてもらえるのか私、非常に楽しみです。」と変わった司会役の子が話を続けた。空良はずっと菫を見ていたため気づけたが極少量の霊力で何かをしたことしかわからなかった。ただ遠距離攻撃。しかも対象を視認していなくても出来るほどの攻撃手段があることに気付きより一層警戒を強める。「続いては新入生の入場です。入試総合4位、あの風紀委員会委員長の弟君です。彼は私達にどんな霊然術を見せてくれるのか期待しましょう。鴎外天馬選手の入場です。皆様入学おめでとうそしてこれから3年間頑張れの意味を込めて盛大な拍手でお迎えください!」そう司会役の子が言うと会場が震えんばかりの拍手が鳴り響く。その中を天馬はお先にと空良に手を振り入場していった。「さぁ続いての紹介の前にサプライズ、学園長である無双唄理事長が放送席に来ております。何でも入試1位と2位は理事長が紹介してくれるとの事らしいのでお願いします。」とマイクを変わった唄が挨拶を入れる。「紹介にありました、理事長の唄です。まぁ私の挨拶を聞いてもつまらんだろうから早速紹介に移るよ。入試2位は悟空良。去年いた悟海美の妹だこれから頑張るんだね。」と先程までとは打って代わって短い紹介の後空良が入場する。そして一部の客席からは動揺が走りざわついた。空良が気になり聞き耳をたてると『拷問官の妹』だの、『ドS悪女の血縁』だのと色々聞こえてくる。それを聞いた空良もあの姉はと額に手を当て呆れていると放送席からガタガタと少し慌ただしくノイズが入ったと思った時聞き覚えのある声が聞こえてきた。その声の主はざわついた一部の生徒達に「今ドSとか拷問官とか口走った奴覚えたからな?」と低い声で脅しをかける。「いきなりマイクをとらないでください!えぇ~少々不穏な言葉を言われましたが本日2人目のゲスト卒業生の悟海美さんです。卒業時には学内ランク2位ハンター資格はAランクでの卒業というかなり優秀な成績で卒業されました。」「空良ちゃん、ちゃんと応援しててあげるから頑張れ~」と先程とは打って代わって穏やかな声で空良に話しかける。「本日は理事長である唄先生と卒業生の海美さんそして司会役の私、放送部2年凪響子でお送り致します。会場の皆様レクリエーションバトルの2試合よろしくお願いいたします。尚会場外周には結界が張ってありますが万が一がございます。結界には近づきすぎないようにご注意下さい。そしてすでに選手の皆様には配られていると思いますが胸につけているバッチは戦闘不能になるか自分で起動させると自動で救護室に転送してくれるものなのでくれぐれも外さないようにお願いします。それでは早速第1試合、新入生代表悟空良選手&鴎外天馬選手VS.在校生代表真野昌磨選手&仙道菫選手の対決、バトルスタートです!」そう宣言しコングが鳴り響くのであった。

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コングが鳴り響くのと同時に空良は胸の前で両手を合わせ術を展開する。「霊妖術・心域解放、妖心術・静心・眠調」そう呟くと空良以外の3人は意識を手放したように地面に倒れこむ、が相手の方が1枚上手のようで倒れながらも「遮音結界発動・効果反転・響爆結界」と菫が結界術を発動した、爆音が響いたため耳を押さえながらも昌磨と菫は眠らずにすんだ。「流石は菫様、この程度では倒れませんか。」と空良は予期していたように呟いた、それに比べと天馬の方を向くとぐっすりと深い眠りに落ちている天馬に左手を翳す。「霊妖術・心層解放、妖心術・乱心・廻夢悪道」そう呟いた途端天馬は脂汗を浮かべうなされ始める。それを見た空良は何事もなかったように菫達に仕掛けるための準備をする。「妖心術・心撃・嫌悪感打」そう呟いた空良は急加速をして昌磨の懐に入り込む。「付与術、鎧纏・金剛」昌磨が攻撃を受けそうになった瞬間菫が術を発動し昌磨が受けるダメージを軽減しようとしていた。しかし空良は菫の付与を気にせず昌磨に触れる。次の瞬間には昌磨は壁際まで吹き飛んでいた。[無双流体術・双波発剄]昌磨を吹き飛ばしたその技は菫にとって馴染みのある技であり[無双流体術]は一緒にいたであろう人物を考えると使って当然だと思えた。昌磨が吹き飛ばされた後菫は攻勢に出ようとするも昌磨の様子がおかしいことに気づく。壁際まで吹き飛んでいた昌磨はおもむろに体のある部分を掻きむしっていた、そこは空良が昌磨を吹き飛ばすため一瞬だが確かに触れた鳩尾の辺りであった。暫く声にならない悲鳴をあげながら鳩尾を掻きむしっていた昌磨であったがそのうち糸がぶつりと切れるように地面に倒れ伏した。「今の何をしたの?」と菫が技の探りを入れようとする。あの技にあそこまでの異常性を出すような効果はないことは菫がよく知っていた。そうなると此方に踏み込んでくる際呟いていた言葉が正体であることも解るが対策がわからない。「対戦相手にわざわざ答えるとでも?食らえば解るかも知れませんよ?」と半ば挑発気味に空良は答えを返す。「さぁ早くお互い本気でやりましょう。そのために不純物を取り除いたのですから。6年前とは違うところをお見せしますよ。」とさらに挑発を掛けていく空良に対し答えるように菫は術を発動する。「式神武装・紫胞の羽衣、鎧纏・金剛、付与・反射。お待たせ、一応これが攻防一体の私だよ。これで満足かな?次は空良ちゃんが見せる番だよ。」と菫は羽衣に触れれば毒を鎧に触れれば攻撃の衝撃をそのまま反射する付与を、現時点で最も優れたコンボを発動した。それを見た空良は「ありがとう。これで全力を尽くせます。」そう言うと着けていたブレスレットをおもむろに外す。その行動に菫が疑問を持つがその答えはすぐに知ることとなった。「妖術・妖化解放、雷虎戦姫」その言葉と共に空良は姿を変えていく。頭と顔には雷でできた耳と左右対称の3本の髭が、両手両足は雷でできてはいるものの本物の虎様になっていた。しまいにはお尻の真ん中少し上、尾てい骨の辺りから空良の足元まで伸びる雷でできた尻尾も生えていた。「どうですか?修行を頑張りコントロール出来るようになったんですよ。6年前とは違うでしょ。」そう言うと空良は菫の腹部を鎧の付与を無視して殴り、駆け抜ける、当然付与の反射は発動するがそれが逆に空良の方向転換の一助になっていた。「どんどん行きますよ!」空良は切り返しては羽衣がない部分、腹部や足元を器用に攻撃する。「速度上昇付与・韋駄天」攻撃を受けていた菫が呟くと空良の攻撃を素早い動きで回避する。「このままじゃ駄目ね……紫胞の羽衣形態変化攻式・紫胞の蝕腕そして速度上昇付与・韋駄天」次の瞬間にはただ纏っていただけの羽衣が左手から左腕、肩、右腕、右手に纏うように形を変えていきそこに韋駄天が付与される。空良は韋駄天の付与の理由が分からずに止まっていると、すきだらけよ、と今度は菫が攻勢に出るその踏み込みの速度も速いが連撃の速さが異常だった。空良が韋駄天の理由に気づく頃には防御不可能な打撃により形勢が逆転していた。空良は避けながらも反撃の機会をじっと待っていた、避けながらマーキングはしている。後は機が熟すのを待つだけである。「何時までも逃げれないよ!」その時今まで腕に巻き付いていた羽衣が開き空良の回避先を潰し空良を包み込んだ、瞬間、大量の毒針が注入される。「今回はレクリエーションだからね少し動けなくなる程度の麻痺毒だよ。」と、毒が注入された。菫は空良を地面に解放する、その時菫は気が付かなかった。空良の髭は無くなり尻尾が短くなっていることに、そしてその見落としが空良最大のチャンスになることに。空良は今しかないと反撃に出る。「妖陣解放・千迅万雷」その瞬間、地面、壁そして空中に紫電を纏った魔方陣が大量に展開される。不味いと思ったのか菫は結界の内部と外部を隔離するため拒絶結界を張る。結界の展開がなんとか間に合ったと思った時菫は初めて自身の体にも無数の魔方陣が着いているのがわかった。慌てて結界を解除しようとするも一足遅く紫電が弾ける。それは会場の結界内部を天井まで埋め尽くす自らを巻き込む大量の紫電だった。やがて紫電は収まり拒絶結界も解除される。中から出てきた菫は自らの結界で逃げ場をなくし、雷撃をまともに受けとてつもないダメージをおっていた。それでも響子は菫の勝利を告げない。すなわち空良も立っている証拠である。菫は空良を探すため周りを見渡す。そして見つけたのは無傷で立ち尽くし紫電を纏う空良がいた訳も分からずにどうして無傷なのかを訪ねる。「この技はいわば前準備です。更なる大技のためのね、妖術・建御雷神、反芻・右腕、展開、妖術奥義・雷虎爪壊」と言葉を並べると空良の右腕に纏っていた紫電が増大し巨大な爪となった。次の瞬間、菫に向かい特攻をかける。空良はこの瞬間、勝利を確信した。しかし菫も諦めてはいなかった。「五重結界・柔鱗」そう唱えると右腕を空良に向かい突き出すと菫と空良の間に5枚の結界が表れる。空良は簡単に壊せると思っていた。だがこの結界は壊れなかった、そもそも結界とは術者を守る盾であるため硬いはずだった、しかしこの結界、柔鱗はその逆で柔軟性があり空良は4層届くか届かないかで止まってしまう。それでも尚諦めない空良に菫が言い放つ。「止まった時点で空良ちゃんの敗けだよ。効果反転・五重結界・剛燐!」次の瞬間、伸びていた結界はすごい勢いで元の形に戻っていた、結界3枚分の加速が着いた空良を弾丸の様に壁にうち放ち。さすがの空良も立ち上がることはできず響子が菫の勝利を告げた。

6

時は少し遡る。コングがなるのと同時に私はマイクの電源を切る。これは出場者の術の秘密を大々的に公表しないためである。「あ、今天馬選手が倒れた上になんかうなされ始めましたよ。なんでですか?」と私はゲストの二人に問いをぶつけた、「多分心域と心層を使ったんでしょ。術は多分眠調と悪心の強化かな?」と教えてくれたのは空良選手の姉、海美先輩だった。「何ですかその心域とか心層って?」と続けて質問する。当然だ、今まで聞いたことのない術なのだから。「その説明をするなら霊妖術から説明するね。まず私達みたいな半人半妖は人間の持つ霊力と妖魔が持つ妖力の二つの力を持って産まれてくるのは知ってる?」と聞かれ私は頭を縦に振る。「その二つは成長するにつれ通常はどちらか一つ、血が濃い方が残るの、人間の血なら霊力、妖魔の血なら妖力ってね。だけど何事にも例外があるわ、幼少期からどちらかではなく両方を満遍なく鍛えれば二つとも使えるようになる。とても難しいけどね。」と告げた海美先輩に私はふとした疑問を持つ。「そもそも妖力と霊力って何が違うんです?」という問いには唄先生が教えてくれた。「厳密な違いはないね。強いて言うなら霊力は形質変化、妖力は性質変化に適しているってとこだろうね。ただそれも微々たる物で大した違いはないよ。」「では鴎外家の方々がよく使う霊然術は?」と疑問に思ったことを呟くと「それは霊力を種火に自然エネルギーによる霊力の膨張をコントロールしてやってるんだね。この時の霊力に属性を付与していればその属性の自然エネルギーに変換できる。因みに同じ事を妖力でやってくる妖魔が入るけど妖力でやられると高威力の術を際限なしに撃ってくるから厄介だよ。」「話は戻すけどようは霊妖術ってのは霊力による形質変化に何らかの妖力とかを付与したものだね。基礎が霊力だから攻撃能力はないけどその分サポートに特化してるの。」「なるほど霊妖術とかはわかりましたが結局心域とか心層ってなんなんですか?」「心域は技の効果範囲の拡大と無条件発動を可能にするわ。空良の能力は協力な分発動条件が厳しいの、だから能力的には後衛なのに体術とかの前衛の技術が必要になる。心層は単純に技の強化ね、まぁそれだけじゃないけど。」と最後の方は聞き取れなく聞き返そうとした時窓の外が紫色に光輝き次に聞こえてきたのは落雷の凄まじい音だった。「お前ら2人が話に夢中になってる間に勝負はもう終盤だよ。」窓の外を見ると空良選手が自らに向かって雷撃を放ち、右腕をでかくしていた。次の瞬間、空良選手は菫ちゃんに向かって踏み込んでいた、それに答えるように菫ちゃんは5つの盾を展開して受け止め空良選手を壁に弾いていた。土煙が晴れ、弾かれた空良選手は意識を失い転送された。それを見た私はマイクの電源を入れ試合終了のコールを入れたのであった。

「実に見事な試合を有り難うございました。会場の皆様も戦った選手に大きな拍手をお願いします。それとただ今から10分間の休憩を設けますので皆様も今のうち少しばかりのご歓談と考察をお楽しみ下さい。」

拍手の雨を浴びながら菫は控え室に向かう通路へ足を向けるとそこには月詠が立っていた。「お疲れ、結構苦戦したんじゃないの?」と月詠は少し煽るような口調で言葉をかけ控え室に戻る菫と一緒に歩く。「まぁ実際に苦戦したね~。まさか6年前の力をものにしてるどころか発展させてるとは思わなかったよ。これもあの子のお陰なのかなぁ~?」と体を伸ばしながら菫は月詠に返す、「菫は空良って子と知り合いだったの?」「うん、6年前に家で使う薬草を取りに無双家縁の半魔の里に行ったんだけどさ、そこで一悶着合ったんだよね。」まぁあの時とは形どころか属性すら違ったのが気になるかな?と菫は心の中で続けた。「なるほどだから私の口調を知ってたのね。」と月詠は菫の言葉に反応する、菫はどうゆうこと?と頭に?マークを浮かべながら月詠の言葉を待つ。「いやぁ、私と錬で控え室に激励に行った時に余所行き用の口調を使ったんだけど私の素を主から聞いているとか言ってたのよね。菫がその主なら納得だわ。あれ?でも私と戦うとか言ってたような?」と月詠は1人呟いていた、「残念だけど外れ、空良ちゃんの主様は私じゃないよ、そもそも私が主なら月詠、あんた前もってわかるでしょ?私の家に何回も泊まりに来てるんだから。てかそこまでヒントを貰ってまだ気付かないの?」と菫は呆れ顔で月詠に問いかけた。「なら最終ヒントをあげる。まぁヒントって言っても状況整理だけど、ヒント1、唄理事長が内緒にしたこと。ヒント2、空良ちゃんが言っていた主が戦う事を楽しみにしているってこと。ヒント3、空良ちゃんの出身が無双家縁の土地であること。これだけあればわかるでしょ?私は空良ちゃんのお見舞いに行くからわかってないもう1人と試合開始まで話をしたら?」と菫は告げると空良が転送された救護室に向かう。月詠は1人の少年に考えがたどり着くが嬉しい反面あり得ないという気持ちがあり錬と話をするため自分の控え室に向かうのであった。

「うぅん。ここは…?」と働かない頭を働かせ状況を知ろうとする空良に声をかける人がいた「目、覚めたか?惜しかったけど負けっちまったな?」空良が声のする方に顔を向けると主である龍護が座っていた。「申し訳ありませっ……」龍護を見た空良は体を起こそうとしたが痛みで苦悶の表情を浮かべた。「まだ休んでろ。凄い勢いで壁に叩きつけられたんだ暫く寝てろ。先生に言ってここからでも次の試合を見れるようにしてもらったから絶対に動くなよ?」と龍護に釘を刺されたときドアが開き1人の女の子が入ってきた。「空良ちゃん凄い勢いだったけど体は大丈夫?」と菫が横になっている空良に声をかける。龍ちゃんも来てたんだね。と声をかけ近くの椅子に腰を掛ける。「いやぁ、あそこまで雷をコントロール出来るようになっているとはビックリしたよ。それにあの体術との会わせ技、あれは龍ちゃんのアイデアかな?結構えげつない事を考えるね。」と菫は龍護と空良に話をふる。「そのえげつないのを受けてもケロっとしてる人に言われたくないのですが?」と横になっている空良がゆっくり体を起こしながら不貞腐れたように返事をする。「まぁ私自信にしか付与できない術だけど普段から色々掛けてるからね。それのどれかが防いでくれたんだよ。」と菫は持ってきたケーキや水筒に入れたココア等を空良の布団の上に持ってきた小さなテーブルの上に広げていく。何のつもりですか?と空良が聞くと菫は1人じゃ退屈でしょ?と空良と一緒に次の試合を見る事を伝えた。「龍ちゃん。龍ちゃんも強くなっているんだろうけどヨミちゃんや錬君もあの頃より強くなってる。ヨミちゃんなんかお父様を実力で捩じ伏せて龍ちゃんを探すためだけに頭主代行にまでなったんだから。」代行なのは年齢的な問題があるだけだしと呟くと、菫は龍護に言葉を続ける。「私はたまたま6年前の知ることが出来たから今冷静に話せてるけどヨミちゃん達は多分冷静に受け止められないはず、しっかり受け止めてあげてね?」と菫は龍護に自分の思いを伝えた。それは長い間隣で悲しみにくれる幼馴染みを見続け、同時に話しては行けない秘密から解き放たれた今素直な思いだった。「わかってるよ菫姉。だから次の試合は全力でやるし手加減なんかしない。10年間の修行の成果を見せるさ。」と龍護は菫に笑いかけ試合の準備をするために部屋を後にする。そして部屋を出る際菫に「6年間も俺の事を黙ってくれてありがとう。」と声をかけ自分の控え室に向かって行った。

7

「いやぁ~すいませんねお二方突然唄理事長が海美先輩を連れて[客が来たから後抜ける。紹介任せた。]とか抜かして応接室に行ってしまったので困っていたんですよ。」と響子は突然消えてしまった唄の代わりに多少強引ではあったもののたまたま近くを歩いていた3年で先代の風紀委員長、剛磨飛鳥と生徒会長の真野正太だった。「連れてこられた理由はわかったけど私たちじゃろくに解説できないと思うよ?」と飛鳥が少し困ったように言うと「そもそも俺はあの凶暴女に関わりたくないんだけど」と膨れっ面で正太は文句を言う。1年前生徒会会長だった正太は見事に月詠の逆鱗に触れレクリエーションバトルでフルボッコにされたあげく傷が癒えていない内に生徒会総入れ替えを賭けにした学内決闘で更に追い討ちを掛けられたため月詠に対してかなりの苦手意識を持っていた。「いやぁ~だからこそですよ!1年前辛酸を舐めさせられた正太先輩だからこそ月詠ちゃんが何をしたかわかるかも知れないじゃないですか!それに飛鳥先輩は錬君の上司ですし、何か気づけるかもしれないですし。」と響子はここから離れたがっている2人をなんとか説得する。唄が離れる直前に「もし1人になるようならお前も応接室に来なさいね。」と言われていた。ここで2人が離れると響子にとってためになるかもしれないがお偉いさん方に囲まれるという息が詰まること間違いなしの空間に行くはめになるため響子はどうしても2人に残ってもらう必要が合った。「それに後少しで試合が始まりますし今から戻るよりはここにいた方がいいと思いますよ?1位と3位の人のプロフィールは手元にありますので進行も筒がなくできますし。」とここまで言うとしょうがないなぁと飛鳥が折れ、飛鳥が残るならと正太も折れてくれたことに胸を撫で下ろす。「ところでお2人はどちらに行ってたんですか?逢い引きですか?」と響子は時間まで雑談を始めた。「違うわよ!楓の所だよ。3位が楓だったから激励に行ったんだ。1位の子には会えなかったけどね。因みに楓の気合いを入れるために私とお揃いの髪型にしたの、いつもは嫌がるんだけど今日は素直にやらせてくれてね。」と飛鳥が優しく嬉しそうに答えたのを見て響子はあぁ噂は本当なんだなと確信する。「いない所か楓のやつも姿を見てないらしいから緊張でばっくれたんじゃねぇか?」と正太が楓がまだ会っていないと言っていたことから逃げ出したのではないかと言ってきた 。「いえそれはないですね。朝の時点で唄理事長が霊力探知で全員が登校しているのは確認しているので。」と言いながら響子は唄から預かっている封筒を開封していく。「その中に1位と3位のプロフィールが入ってるの?」と飛鳥が聞いてきたので響子は「そうですね。3位が飛鳥先輩の妹さんである楓さんってネタバレをくらいましたが1位の人については知らないみたいなので。」と少し嫌み混じりに言うと顔の前で手を合わせごめんねと可愛く謝る飛鳥を尻目に3位である楓のプロフィールをだし1位のプロフィールを見たとき響子は自らの目を疑った。なぜならそこにはこの学校に通う人間なら絶対に知っている事実が間違いであるという可能性を持つ人間の名前があったからだ。「響子ちゃん、どうしたの?なんか固まってるけど大丈夫?」と響子の異変に気づいた飛鳥が問いかける、そして響子の返答を遮るように休憩の終了を告げるチャイムが鳴り響くと響子は2人に「もしかしたら私たちはある意味衝撃の瞬間に立ち会えるかも知れませんよ。」と告げるとマイクのスイッチを入れる「さぁ大変お待たせ致しました。皆様トイレ等は済ませましたか?ここからは元長コンビのお2人、剛磨飛鳥先輩と真野正太先輩をお招き致しました。そして我が学園ランク1位、2位の夢の共闘、入試試験1位と3位の共闘です。ここからは瞬き厳禁の見とり稽古です。準備はいいですね?これよりレクリエーションバトル第2試合を開始致します。」

8

開始のアナウンスが流れ通路では錬と月詠が反対側の通路をじっと見ていた。「本当に龍護が出てくるのか?」と錬は戸惑いながらも月詠に聞く、「私だってわからない、ただ菫がくれたヒントを考えるとその可能性があるってだけよ。まぁそれも1年生が入ってくればわかることよ。」と月詠は菫に教えて貰ったヒントを錬と共有、答えを考えてる内に龍護が出てくる確率が高いことを予感していた。ただ心の中ではその考えを否定している自分もいるのがわかっているため答えを出すのではなく待つことを選んでいた。「ほら、入ってきたわよ。」と月詠の言葉に錬は会場の方に目を向けた。「まずは入試試験第3位、元風紀委員長にして学園ランク第3位、剛磨飛鳥先輩の妹さんです!お姉さん曰く戦闘スタイルはかなり違うとの事だったのでそこも期待、入試試験第3位剛磨楓選手の入場です。皆様あたたかい拍手でお迎えください。」とアナウンスが流れると会場に降り注ぐ拍手のなか眼鏡をかけ、見た目虫も殺さないような女の子がオドオドしながら入ってき少し歩いたところで何もない所で躓き転んでしまう。「えぇ~っと…楓さ~ん、大丈夫ですか~?」と響子も戸惑いと心配しながら声で楓を気に掛ける、楓は慌てながらも起き上がり大丈夫なことをアピールするようにその場で小さくジャンプをして見せた。それが可愛らしかったのか客席からぼそぼそとあの子癒し系みたいで可愛いな的なことを言う人が出てきたのとそれを鋭い睨みで黙らせた姉がいたことを楓は知らない。「楓~お姉ちゃんがついててあげるからいつも通りやんなさい!リラックス、リラックス!」とアナウンスから姉の声が聞こえると楓は放送席の方を見て満面の笑みで手を振った。「飛鳥。お前相変わらずシスコんだな?妹に彼氏が出来たらどうすんだ?いい加減妹離れしたら?」と隣にいる正太がマイクに声が入らないように小さい声で耳打ちしてきたが飛鳥のエルボーを鳩尾にくらい「うっ…」と鈍い声をマイクが拾う。響子は呆れながらも「さぁ続いては入試試験第1位、私は手元の資料を見ても確信が持てなかったので真偽の判断は会場の皆様に任せます。出て来て貰いましょう。その名前は本物かはたまた語る偽物か!無双龍護選手の入場です。」とアナウンスなり会場が静まり返る。そして闘技場に片足が見えたとき反対側から物凄い勢いのある塊が出てこようとした人物を通路へ押し戻していた。会場からは何が起きたと?マークを浮かべるものが多く響子も余りの事に何が起きたかわからずにいた。「あぁ~皆様、家の姫様が申し訳ない。代わりに今から出てこようとしていた人間の身元は俺が保証するよ。」と風系統の術を使い声大きくしながら出てきたのは現風紀委員長の鴎外錬だった。「錬さん、今身元は保証すると言いましたがということは彼10年前に死んだとされる無双家の長男、無双龍護本人で間違いないと言うことですか?」と響子は興奮ぎみに錬に声をかけた。それに対して錬は「俺と月詠、2人で霊紋鑑定をしたから間違いないよ。今から2人を連れてくるから少し待っててね。」と言い残すと錬は2人が消えた通路に入っていった。「なんと死んだと思われていた無双龍護が生きていた。これは現最強の椎名家と旧最強の無双家のバトル勃発です。皆様本当に瞬き厳禁ですよ!」とさらに会場の熱を上げようとしていた。その中錬は龍護を巻き込みながら通路の奥に飛び出していった1人の女子に声をかける。「月詠、龍に会えたのが嬉しいのはわかるけど首締めはやめたげな。」と声を掛けられ月詠は手を離す。目元は少し赤くなっており鼻を啜りながら音信不通だったのが悪い!と錬に反抗していた。「10年間私とっても心配してたんだよ?龍ちゃんを探すために頭主になったけどやりたくないことをやりながら探したり、それでも見付からなくて諦めそうになったけど菫や一応錬も励ましてくれたり、だから私も頑張って頑張って…伝えたいことが多過ぎてうまく話せないよ……。」とまた涙を流しながら龍護の胸を力無く叩き続けていた。「ごめん。俺も本当はもっと早く会いたかったし会おうと思えば会えたんだ。」その言葉を聞いたとき月詠よりも錬が反応し龍護の胸ぐらを掴み声を荒げる。「ならなんで会いに来なかった!この10年俺もそうだがそれ以上に月詠や菫がどれだけ悲しんだと思ってる!」と月詠ですら見たことが無いくらいに声を荒げ怒りを露にしていた。その問に対し龍護は「この試合が終わったら皆で唄ばーちゃんの所に集まるはずだよね?そこで俺が会えなかった理由を話すよ。今は会場に戻ろう。剛磨さんが心配そうにこっちを見てるから。」と龍護に言われ錬は怒りを抑えた。戻る途中錬は「龍。すまんかった。」短く、簡潔な言葉を放つ。「いいよ。10年間連絡してなかったのは事実だしね。それにさっき菫ねぇに会ったとき言われたんだ。」とここまで言葉にすると龍護は錬の方をむく。「10年分の言いたいことがあるだろうから受け止めてってだから俺は何を言われても受け入れるよ。それに俺は何も10年間無駄に過ごしていた訳じゃないよ、錬にぃや菫ねぇ、もちろん詠ねぇも強くなっているんだろうけどそれでも俺はもう何にも負けないよ。」と言葉を放つ。錬は言い回しに少しだけ疑問を覚えたが「それならお互いに全力で。取り敢えず今はお帰り。」と返事を返し手を叩きあった。「さぁ皆様月詠選手と錬選手と共に出て参りました。入試試験1位無双龍護選手です。私は今だに信じられません。現最強である椎名家頭主、月詠選手を破り返り咲くのか、はたまた旧最強は出る幕がないと月詠選手が返り討ちにするのか、私とても楽しみです。さぁ選手各員戦闘準備はよろしいですか?レクリエーションバトル第2試合開始です。」この合図ともに動き出したのは錬だった。錬は雷属性を付与した霊力の種火を掌に作ると楓に向かって解き放つ。「悪いけどこれから旧友との時間を楽しむんだ。部外者は早々に退場願うよ。」と攻撃を仕掛ける。しかしこれは龍護の読み通りでもあった。龍護は錬の性格から恐らく楓を初めにダウンさせると考えある作戦を授けていた。「剛磨流仙闘術・魔視開眼、雷纏、包閠」楓は試合開始と共に術を展開、楓の得意とする柔拳を用いた動きで錬の雷を掌に纏めそれをそのまま錬に放つ。「剛磨流仙闘術・壊砲・御雷」雷は錬に向かって真っ直ぐ放たれた。錬は慌てて回避行動を取りなんとかかわす。それを見ていた月詠は腹を抱え笑っていた。「あんなにいきってたのに技を返されるとか」言っていて月詠は限界に達したのだろう、目尻にうっすら涙が滲むほどに大きな声で笑いだした。黙って見てろと錬が返すと今度はただの属性を付与した自然エネルギーではなくちゃんとした技を使う。「鴎外流霊然術・疾風迅雷」そう呟いた瞬間にはすでに楓の懐にいた。そのまま目にも止まらぬ筈の速さで仕掛けた錬の攻撃は全て楓により受け流された。「魔視開眼、飛鳥先輩は相手の弱点や正体を見抜く看破の瞳と数秒から数時間先の未来を見る未来視だったけどもしかして楓ちゃんは違うのかな?」と錬は攻撃の手を休め訪ねる。楓は馬鹿正直に「はい、違います。」と答えるが答えを教えることはなかった。そして楓は胸にあるバッジを起動しようとする。「おいまだ始まったばかりだぞ。」と錬は止めようとしたが楓の顔を見て驚愕する。楓の右目からは凄まじい量の血涙が流れていた、楓はそのままバッジを起動させ自ら消えてリタイアしたのであった。

9

「錬君容赦ないなぁ、女の子にいきなりぶちかまして。いやぁ~親の顔が見てみたいですねぇ~。」と海美はおどけながら錬の父、鴎外春人の方に視線を流す。ここは唄が海美を連れてきた応接室で中には錬の父で現鴎外家頭主、春人と椎名家相談役にして月詠の父、清隆そして菫の母親仙道家頭主代行仙道椿が中にいた。「戦場にたったら男も女も関係ないだろ、げんにそこにいる今だに娘離れしてない親バカの娘は戦場にたってるしな。」と今度は清隆に話をふろうと振り向くとなぜか大泣きしていた。なんで泣いているのかを聞くとようやく再開できた喜びと娘が親元から離れるかもしれない悲しみとで泣いていたらしい。「てか、ヨミちゃんと龍君全然動きませんね。」と椿が漏らした。それに対し先程まで泣いていた清隆は「とうぜんだ!10年越しでやっと再開できたんだ。2人でかたりあいたいんだろう。」と言う答えに対し、「初デートが学校行事、しかもレクリエーションバトルか。物騒だな。」と春人がわざとらしく身震いをしてみせる、そのわざとらしさに清隆がツッコミを入れようとしたその時いきなり扉が開かれた。「遅れてすいません。剛磨家頭主、剛磨浪及び真野家頭主、真野正一只今参りました。」と浪と名乗る女性が肩で息をしながら入ってきた。「遅かったな。まぁ座れ、今お前の娘が春人ん所の連撃をいなしている所だぞ。」と遅れてきた2人に唄は優しく声をかけたがそれを聞いた浪は慌てて窓際による。そこから見えた光景を見た浪は心配そうに娘を見ていた。「娘さん優勢に見えるのにどうしたんですか?」と海美は自分の隣まで来ていた浪に問いかけた。浪は見てればわかりますよと簡潔に答えた。海美は疑問を浮かべるも視線を戻した瞬間にその答えがわかった。楓の右目から遠くからでもわかるくらいの量の血涙が流れていたのである。「ちょ、楓ちゃんどうしたんですか?」慌てた様子で海美は浪に問いかけるとすでに隣には誰も居らず後ろから扉の閉まる音が聞こえてきた。「話は聞いてたけど、楓ちゃんの魔視の能力は不完全らしくてね、少しでも使おうものならあのように血涙が流れ出るらしいわ。そのせいか楓ちゃんが魔視の能力に目覚めてからは家の点眼薬が欠かせないらしいのよ。」と浪に代わり説明をしてくれたのは椿であった。椿も聞いただけなので詳しくはないらしいが本来両目で開眼する魔視を片目でしか開眼できてないらしく負荷がひどいとの事だった。そして会場では月詠対龍護、新旧の最強同士の戦いが今まさに始まろうとしていたその時闘技場の外から巨大な爆発音が鳴り響いたのが聞こえてきた。唄は即座に携帯を取り出しどこかに連絡を取った。少ししてから電話を終えると、「今この学園が武装集団とモンスターに襲われているらしい。やつらは特徴的なキメラの刺繍をいれている物を身につけているんだと。」と回りに告げた。「キメラの刺繍ってことはテロ集団、アビスの連中ですか?また性懲りもなく月詠ちゃん達を狙ってきたんですかね?」と海美が反応する。事実月詠達が入学してからは度々命を狙って襲撃をかけてきていた、ただし襲撃犯は例外なく月詠達に返り討ちにされてきているが。「まぁどのみちレクリエーションバトル処の話ではないさね」と唄が告げると、「妖声術・風声伝々。只今を持ってレクリエーションバトルは中止!観客席にいる生徒は近くにいる教師の指示に従うように!それと今から呼ばれる奴等は大至急応接室に来るように!まず…」と迎撃の準備を進めるため一度応接室に呼び掛けるのであった。

10

「集まって貰ってすまんね。今の現状を説明するよ。」と唄が集まった面々に話を始める。今回唄が招集をかけたのは月詠、龍護、錬、飛鳥、正太、響子の6人で元々応接室にいた唄を含めた5人の計11人が応接室に集まっていた。「毎度の事ながらアビスの連中が学園に侵入してきた、観測班からの連絡だと侵入経路は4つある門から約500ずつの計2000弱の奴等が侵入してきている、今は学園防衛システムの結界が作動しているが壊されるのも時間の問題だ、これからここにいるメンバーには闘技場を守る組と迎撃に出る組それぞれ二人一組で行動をしてもらう。」と唄が説明をしていると扉が開かれた、そこには戦闘後という事で呼ばれていなかった菫と菫に肩を借りながら立っている空良がいた。「もし敵の生け捕りが必要なら私の能力は役に立つと思います。私も参加させて頂けないでしょうか!」と立つのもやっとといった感じの空良が唄に語りかけた、唄は断ろうとしたが龍護と菫の推薦そして菫が必ず守ることを約束し今回の作戦に参加が決まった。その時会場にいる教師から唄に連絡が入ったその連絡を受けた唄は指示に変更を加える。「結界が破られたみたいだが北側校舎方面には行かんでいい、西側グラウンド方面は菫と空良、南側裏門は月詠と龍護、東側部活棟方面は錬と飛鳥、残りは闘技場内にいる生徒の防衛に回れ」その指示を聞いた龍護が疑問を抱く、「なんで校舎の方には誰もいかせないんだ?まさか建て直しの口実に校舎を破壊させるのか?」等とふざけたことを宣った龍護は唄に拳骨を落とされた。「アホなことを抜かすな!すでに北側方面は制圧完了だそうだよ。学園の眠り姫によってね。」とここまで口にすると月詠が納得していた。「その眠り姫って強いの?」と海美が訪ねると、月詠は「生徒会書記暁アリナ、寝ている時はとても面白い子ですよ起きているときは私と同等の戦力ですがね。」と告げたのに対して海美の顔が青ざめたのは暴虐姫の危険度を身を持って体感した1人だからだろう。

時は少し遡り、結界を破ったアビスの連中は校舎の中に侵入する班と闘技場を目指す班とで2つに別れて行動をしていた。そして校舎の中に侵入していった奴等は誰もいない教室の中に只一人大量の机をくっつやたらモコモコした物をベッドにして寝ている女子生徒を見つけた。アビス構成員の1人が声を荒げ、起きろ!と怒鳴るが起きる気配がなかった。「こんな騒ぎのなか呑気に熟睡とは、ある意味大物だな。」と発見した小隊8名が高笑いしていると「ふぁ~うるさいなぁ~」と少しYシャツがはだけて豊満な胸元が見えかかっている状態で女生徒は目を擦りながら周りを見渡す。「おい、起きたなら降りてこい!殺されたくなけりゃ俺ら全員を楽しませて貰おうか。」と構成員の内1人が下卑た薄ら笑いを顔に張り付かせながら女生徒に告げた。しかし次の瞬間にはその女生徒の雰囲気が一辺していたことに気づく。「お前らが私の安眠を妨害したのか。万死に値する。」とただの女生徒とは思えない殺気を放つ。「なんかヤバイ!こいつは殺せ。」と構成員達は一斉に攻撃を仕掛けた。しかしそれが女生徒に届くことはなかった。なぜなら女生徒の周りには敷き布団の代わりに使っていたものと同じ綿がいつの間にか出現しており攻撃を通さなかったのだ。そしてその綿は攻撃をしてきた奴等に絡み付いた。「サイン・マジック・アリエス、綿雲縛り、動けば動くほど、力を使えば使うほど締め付けが強くなるよぉ~何もしないことをオススメしますぅ~。」と先程の殺気は身を潜めどこか間延びした口調で語り掛ける。「嘗めるな!それならば我らを締める前に貴様を殺す!」と息を荒げ尚女生徒に襲いかかる。しかし次の瞬間には綿雲はワイヤーのように固くなり身動き一つ出来なくなっていた。その事に驚いていると「だから言ったのに、動けば動くほど、力を使えば使うほど締め付けが強くなるよって」と女生徒の顔を見ると怪しげな笑顔を浮かべていた。「我々動いていなかったではないか!どういう事だ!」と構成員の1人が声をあげる。「まぁ死に行く君達に冥土の土産だ。君達は動いていない、力を使っていないと言うが生物である以上心臓は勝手に動き呼吸をすれば肺は動く。そして意識して閉じないと霊力は僅かだが漏れ出ている。この綿雲はそういった小さいものすら関知して締め上げるんだ。こんなに人数がいれば一瞬で縛りあげるさ。さて君達は誰の命令でどんな目的があって今回来たのか教えて貰おうか。」そう言うと女生徒は綿雲を操作して更に締め上げる。「敵に情報を流す馬鹿が何処にいるんだ!こんな綿、焼き払ってやる。」拘束を解こうと声を荒げた奴は霊力を練り上げ火属性の霊術を放つ。しかし次の瞬間、女生徒を巻き込みながらの大爆発が起こった。その爆発音を聞いた他の階にいたアビス構成員が1階廊下に集まるとそこは煙が充満していて何も見えない状況だった。「このままだと何も見えないので風系統の霊術で煙を飛ばします。」と構成員の1人が告げ、術を発動させると爆心地であろう場所には数人が何もない空間に吊るされておりその中心には煤まみれの卵形の球体がぽつんとたたずんでいた。構成員達が慎重になりながら近づくとその卵形が解かれ中からは女生徒が咳き込みながら出てきた。構成員達は先程の爆発の原因が女生徒であると思うや否や数人が襲いかかるがその攻撃が彼女に届くことはなかった。なぜなら襲い掛かっていった奴等は誰1人漏れることなく細切れの死体に変わり果てたからである。「一応忠告しときますがそれ以上私に近づくとそこら辺に転がっている細切れみたいになりますよ。」と女生徒は新たに現れた奴等を見ずに告げる。それが癪に触ったのかアビスの連中は一斉に遠距離からの攻撃を繰り出した。だがそれでも女生徒は冷静で「サイン・マジック・アリアス、繭雲」と唱えると先程と同じ卵形の雲が女生徒を覆った。アビスの構成員は女生徒を覆った繭を壊そうと攻撃の手を休めることはなかった。「いい加減うっざいな~、よし殺そう。サイン・マジック・グランデ・アリアス・怒れる羊群」と唱えた瞬間地面に魔法陣が展開されそこから際限なく羊毛を赤く染めた羊達の群が飛び出してきた。羊達はアビス構成員に目を向けると一斉に襲いかかる。「絡まっているの以外は食べていいよ。校舎の外にもいると思うから外のも食べて来てね。」と足元にいた1匹を抱き抱えながら女生徒はいい放つ。アビスの構成員は最初こそ抵抗していたものの数に圧され1階に集まっていた奴等は軒並み食べられていった。出てきた羊達は他の獲物を探しに校舎の上階や外に出ていった。「貴様は本当に学生か、悪魔みたいな女め、さっさと解放しやがれ!」と捕まっていた1人が怒鳴り声を上げた。他の奴等より装備が良い所を見るとこいつがこの小隊の隊長格と思われた。「へぇ~あの爆発や攻撃の雨の中をあんた生きてたんだ。あんたがこの部隊のお偉いさん?」と女生徒は首をかしげ可愛らしい仕草で聞いてみた。しかし捉えられている男はその動作一つ取っても隙がなく逃げるのは難しい、下手したら殺されるといった恐怖が脳裏を過る。「あぁそうだ!殺すならさっさと殺せ!俺はどんな拷問をされても如何なる情報も漏らすつもりはないぞ!」と覚悟を決めたのか強気な姿勢を取っていた。そんな様子に女生徒は唖然としながらも「いやいや、こんないたいけな美少女が好き好んで拷問をするはずないだろう?そういえば自己紹介がまだだったね、私は暁アリナ、一応生徒会書記っていう肩書きはあるが君には関係ない事だね。」とそこまで言うと「いたいけな美少女?聞いて呆れるな。いたいけな子があんな恐ろしい羊をだすか!」「そこは正当防衛だよ。あぁそうだ!その拘束を解いてあげるから僕がさっきした質問を答えてくれないかな?」とアリナと名乗る女生徒は再び質問を始める。「さっきも言ったが俺は仲間を裏切らない。どんな拷問をされてもな。」と男の決意も固かった。「それならば拘束を解いた後人を殺さない事を前提に君がすることを1つ見逃す。と言ったらどうする?」とアリナは意味が分からないことを言い出した。これには男も理解が出来ないようすで困惑しているとアリナはおもむろにYシャツそしてスカートを脱ぎ出し下着姿になっていた。「自分で言うのも何だがこう見えてエロい身体をしていると思うんだ。胸はFカップと大きめだと思うしくびれとある、お尻も安産型でいいと思うが君はどう思う?って聞くまでもないみたいだね。君の息子は僕に反応しているよ?」下着姿のまま新しく出した綿雲に座り足元で大人しくしている羊を抱いた。アビスの構成員と言っても男だったのだろ欲には逆らえないようで「情報を話したら殺し以外黙認するだな?」と訪ねてきた。「あぁ。僕が拘束から楽にしてあげたら自由にするといいさ。」と言ったことを切っ掛けに男は知り得全ての情報を話始める。「まとめると今回の作戦は以前の上司の「狐玖理」ってのじゃなくて「狸亜」ってやつが指揮を出してターゲットは菫、錬、月詠の誰か1人でも殺すことか、いつもいつも無理難題をご苦労様で……」と呆れながらアリナはまとめた。「ただ今回の作戦を始める数分前に追加の指示が来たんだ。」と男は口にする。アリナは喋るように促すと男は寝ていたアリナが知り得ないことを語り始める。「他の3人より無双龍護を最優先で殺すこと。やつが生きているのは我々アビスの恥でしかない。って指示がメールで来たんだが添付写真があるわけでもなく誰がターゲットなのかわからんから俺達はスルーすることにしたんだ。そもそも本当にいるかどうかすら怪しいからな。さぁ知っていることは話したぞ。拘束を解け!」と男は醜悪な笑みを浮かべながらアリナに怒鳴り散らす。アリナは男の醜い欲望が手に取るようにわかった。そもそもが情報を吐かせるために自分で誘ったのだから。「あぁ、約束は守るよ。今楽にしてあげますとも。」そう言うとアリナは右手を自分の胸の前に持ってくると指を鳴らした。その瞬間先程まで喋っていた男を含め縛られていたアビス構成員は全員が細切れの死体に変わり果てた。「女である私が自分の身体に何かしようとしてるやつを大人しく解き放つわけないだろうに。メェちゃんここにある細切れ肉食べちゃって。」と抱き抱えていた羊を床に放った。「さぁ~て、面倒だけどヨミちゃんに連絡しないと、それに本当に龍護様が戻っているなら理事長と母様にも連絡しないと。やること多いなぁ~、本当に面倒臭い。」とぶつぶつ文句を垂れながらも最低限の仕事をするため動き出すアリナであった。

「さぁ結界が破られているんだ所定の位置まで急ぐよ。」と唄が号令を出すと月詠のスマホが鳴った。誰から掛かってきたのかを確認すると月詠は電話をスピーカーモードにして話始める。「今あなたの話をしていたのよアリナ。私達はこれからそれぞれの防衛担当に向かうから手短によろしく。」「あいあい、それなら誰の指示かは後で話すとして目的は作戦当初はす~ちゃん、れんれん、ヨミちゃんの3人の内誰か1人でも殺せればそれで良かったみたい。」と告げたアリナに月詠は「当初ってことは今は撤回もしくは追加の指示が来ているってことね。」と聞き返す。アリナは嬉しそうに手を叩き「花丸大正解だよヨミちゃん、追加の指示は突如現れた無双龍護を最優先で殺すこと。彼が生きているとアビスの恥らしいよ。ただ指示は出されたけど顔写真とかはなくて文面のみでの指示だったらしいから突入してきた奴等は誰も信じてはいなかったらしいね。斯く言う私も信じてはないんだよね。本人そこにいる?」と偽者の疑いを掛けられた龍護は軽く挨拶をかわす。「君が本人なら暁天正もしくは暁雅信ってわかるよね?」と訪ねられるそしてこの2人の人物は龍護に取って肉親にも近い存在だった。「あぁ知っている。雅信は俺の教育係、天正は俺を隠れ里である孤里に送った人間だ。」とここまで口にするとアリナは嬉しそうに「あぁ、本物なんだ。良かった。」と心から安堵していた。「あぁ~話を戻して貰えると助かるんだけど、いいかな?」と海美が訪ねると「話は終わりだよ?多分知っているだろうけど4方向からの無意味な突貫、ターゲットが4人こんだけ。じゃあ後は頑張ってね。校舎側は一掃できてるはずだから僕自身は皆が居るところへ、後は各方面にメェちゃん達を放して置いたから活用してね。あぁ、後理事長。預けたもの後で返して頂きますね。」とここまで言うと一方的に会話を終了させた。 「とりあえず北側は大丈夫みたいだな。それではこれより作戦を開始する。現場にはアリナが出した羊達が居るはずだ。それらをうまく利用し侵入者を殲滅せよ!」と唄が出した号令を合図にタッグを組んだ組は指定の場所へ向かい残りは闘技場の防御を固めるのであった。

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「こちら西側グラウンド方面仙道菫及び悟空良元着しました。現状はアリナの召喚した羊の群のお陰でグラウンドから出られてないみたいです。これより空良の術を用いて捕縛に入ります。」と菫はグラウンドに着くなり唄に連絡を入れていた。それを聞いた唄は危険だと判断したらすぐに下がるように指示を出し電話を終わらせる。「それで空良ちゃん、私はどうすればいいのかな?」と菫は空良に問いかけると空良は今すぐまともに動けるようにして欲しいと頼んできた。実際に応接室からここまでは菫におぶられた状態で来たためまだ満足に動けないでいた。「わかったよ回復術・浄回、おまけで付与術・鎧纏・剛燐、これであの集団の真ん中に行っても空良ちゃんは傷一つつかないよ。」と付与術まで施してくれた。空良は礼を言うとアビス構成員達の目の前に降り立った。「おい、女だぞ。生け捕りにしてこの作戦が終わってからのお楽しみにしようや。なんなら奥にもう1人こっちのと比べて胸がでかいやつが居るから2人捕獲して孕み袋にしようぜ。」と1人の男が空良と菫を見て笑う。それに対し菫が怒ろうとした時、恐ろしいプレッシャーを感じる。発生源を見ると先程までは淑女の言葉がぴったり当てはまるほど大人しめの女の子の周囲が霊気で歪んで見えた。なんなら幻覚で般若の面相が浮かんで見えたほどである。「誰が誰を孕み袋にするって?あっちに居る女は既に婚約者がいる、私は身も心も捧げた相手がいる、てめぇらに指一本触れる隙間も細胞の一欠片すらも触れる資格はないんだよ!本当は全員の生け捕りが目的だったけどもういいや。頑張ってショック死しないようにしてね。」とここまで言うと空良は胸の前で印を組んだ。「こけおどしだ!構わねぇヤっちまえ!」と男達は我先にと空良に襲い掛かっていった、全てが手遅れなのにも気付かずに。「霊妖術・心淵解放、乱心・心去」と呟いたとたん男達は糸が切れたように倒れていった。「空良ちゃん、何をしたの?この人達ピクリとも動かないんだけど…」と降りてきた菫は空良に尋ねる。「ゲス共に感情は不要と判断したんで心を無理矢理引き剥がしました。」とあっけらかんに伝えてきた空良に菫はさすがにやり過ぎなんじゃないの?と空良に告げ目的は生け捕りだったでしょと少し空良を責めるような感じになってしまう。「本当は臨死体験をさせる死獄を使うつもりでしたが、つい怒り巻かせにより強い技を使ってしまいました。」と空良も少し反省していた。「ちなみにこいつらにかけた術の効果ってなんなの?もしかしたら再起させることが出来るかもだし教えて欲しいのだけど。」と菫が尋ねると蘇生は無理だとはっきり告げたのち術理を語り始める。「この心去はその名の通り心をある場所から離す術です。心とはすなわち感情、有り体に言えばこの男達は術に抵抗できていない限りこのままゆっくりと死ぬと言った術ですね。」とすっごくざっくりとした説明をされた菫は詳しく解説をお願いした。「生物は無意識で心臓を動かし呼吸をします。これは潜在意識として{生きたい}という感情があるからだと私は思っています。この術はそんな潜在意識の感情すら切り離し対象をただ死ぬのを待つだけにするための術です。まぁ妖力の消費量が他の術より激しいのと精神的苦痛にある程度耐性があると効き目が薄いことがあるのであまり使用しませんがね、多分生きている人は何人かいるはずですので回収して戻りましょう。」と少しふらつきながら空良が歩み出したとき上から何かが飛来した。砂ぼこりを払うため菫が術を使い飛来物を確認した瞬間空良に急いでここから離れるように伝え、菫は戦闘体勢に入る。しかしその状態は空良と戦った時の兵装ではなく自身に身体強化と身体硬化を施すだけの簡易なものだった。「あいつは人形型霊式兵器、通称スピリット・マギナ、戦闘タイプの高級ランクだと空良ちゃんは相性が悪いから今すぐ引いて誰か呼んできてくれないかな?」と空良に手短に説明していると飛来した人形から音声が流れ出した。「コレハコレハ、ターゲットノヒトリ、スミレジョウトオミウケイタシマス。ソノイノチ、アビスダイニセントウブタイタイチョウ、ドールマスター・アイズガモライウケル。」と言った瞬間右手部分を刀剣に変形させ菫に斬りかかる。菫は何とか受け流すとカウンターで裏拳を叩き込む。しかし「ちっ。やっぱりオリハルコンとミスリルの合金か。硬いし痛いわね!」と裏拳から流れるように腹部に発勁を食らわせ人形兵を吹き飛ばす。「空良ちゃん、何をモタモタしているの!このままだと2人ともヤバイわよ。早く救援を呼んで」と話をしている菫の脇腹を何かが掠めた。そして菫の脇腹を掠めた飛来物は空良の腹部を貫通し空良は崩れ落ちてしまう。「イマキュウエンヲヨバレルワケニハイカナイ。マズヒトリ、ツギハオマエダセンドウスミレ。」と人形兵は左手を変形させ作り出した銃身を菫に向けると射撃を開始する。「近遠距離の両刀型ってますます最悪じゃない!とりあえず霊然術・剛土壁」と土壁を作りだし空良を連れて身を隠す。「待っててね、今治すから。治霊術・回天」と空良に回復術を施し何とか傷口を塞ぐことに成功した。しかし安心したのもつかの間で作った土壁からどんどん嫌な音がし始める。壊されるまで時間がないと判断した菫は空良に遮断結界を施し土壁から出て攻勢に出る。土壁を壊し切った人形兵はその勢いのまま菫に射撃を再開する。菫はなかなか近づけずけないため手頃な石を拾い霊力込めては人形兵に投げつけるを繰り返していた。「コンナモノ、キサマナンノツモリ」と投げられた石を全て撃ち抜いていると突然辺りを閃光が包み込む。それを合図に菫は土を圧縮し硬度を鋼鉄以上まで固めた刀を持ってアイズに斬りかかる。しかし菫の斬撃が届くより先にアイズの右腕が菫の身体を切り上げていた「レイリョクタンチヲキカセテイルニキマッテイルダロウ。ナメラレタモノダ、ダガソノマンシンガキサマヲシヘミチビク。」そう言葉を紡ぎながら仰向けに倒れている菫に近づき右腕を上段に構える。「コレデオワリダ。キサマヲコロシタアトデケッカイノナカニイルヤツモコロシテヤルカラアンシンシテイクトイイ」そう言うとアイズの凶刃が菫に振り下ろされる。だがその凶刃が菫に届くことわなく、硬い金属にぶつかる音と共に阻まれた。「あんた、家の一人娘になにしてんの?その体切り刻んでやるから覚悟しろよ。」そこに立っていたのは菫が作り出した土の刀を結界で覆い降りかかる凶刃を防いでいた母親、仙道椿であった。「オヤオヤ、マサカコンナオオモノガクルトハネ。ツイデニアンタノクビモモライウケルヨ。」ミスリルの特徴である霊力吸収で結界を消し刀を破壊したアイズは左腕の銃身を椿の頭に狙いをつけ右腕の刀剣で首を狙う、しかしその左腕は弾かれさらに椿は右の脇腹を蹴り飛ばす。「間に合って良かったわ。あなたに渡していた共鳴石が砕けたから急いで来たけどギリギリだったわね。」と椿は声をかけながら菫に回復術を施して行るとアイズが激昂しながら椿に斬りかかる「キサマ、ワタシノカラダニナニヲシタ!」アイズの体は蹴られた腹部は砕かれ霊力が抜け出ていた。椿は何処からか刀を取り出し右腕を打ち払いアイズが体制を崩した隙を突き菫を連れて距離を取る、アイズが体制を整え椿を見て驚愕する。正しくは椿が取り出した武器を見てだ、何故ならその武器は存在してはならない、存在していたとしてもそれは突入作戦の少し前に追加で回ってきた指令内容の人物、無双龍護が本物でもしかしたら持っいる可能性がある程度だったからだ。「ナゼキサマガムソウケノカモンガハイッタブキヲモッテイル、ソレニソノキンニカガヤクトウシンソレハムソウリュウホンケノニンゲンノミガモツトサレルヒヒイロカネノブキダ。ナゼセンドウケノニンゲンデアルキサマガモッテイル!」その問いに対し椿は菫を庇うように前に立ちながら「さっきから何故何故何故何故うるさい人形だね。そんなの私が仙道家に嫁入りしたからに決まっているでしょうがあなた馬鹿なんですか?まぁ敵討ちの相手が見つかって今は少し気分がいいので色々教えましょうか、まず私が仙道家の頭主の理由は単純です、1年を通して家に数回しか帰ってこない旦那より家にいる私が頭主になっただけ、そして私は嫁入りしたと言いましたが私の旧姓は無双あなた方が殺した10代目頭主無双龍呀は私の弟です。そして無双流本家の人間である私が家紋付きの武器を持っていてもおかしくないし本家の人間のみに伝承される無双流闘霊術の技、霊打を使ってあなたの体を壊したってのがあなたの質問に対する答えですね。理解しましたか?木偶人形さん。」と小馬鹿にしたような笑みを浮かべアイズを挑発する、「バカニシヤガッテ、ムスメトモドモアトカタモナクキエサレ!」と怒鳴りながら胸の前でアイズは両手を椿達に向け刀だった右腕が左腕の銃身と合体し大砲に変化させると巨大なエネルギー弾を椿が右に避けやすいようにわざとずらして放つ。アイズは椿が菫に結界を施し右に避けるように仕向けた、当然エネルギー弾も細工してあり触れた霊力を分散させる特殊弾にしてある。アイズの狙いとしては結界を施された菫を特殊弾にて先に始末し椿に絶望を味わわせてから殺す算段を立てていた、アイズは両腕を刀剣に変形させると椿が回避するであろう場所に駆けていた。しかし椿が回避先に来るとこはなくエネルギー弾が当たることもなかった、椿がエネルギー弾に何かをしたのかエネルギー弾は遥か上空に消えていった。「あんな粗末なものいくら撃っても私には当たりませんよ。」と不敵な笑みを浮かべながらゆっくりとしかし確実にアイズとの距離を詰めていく。そんな椿を見て恐怖心に駆られたのかアイズは両腕を刀剣から銃に変え椿に向かって乱射を始める。だがその弾は椿より後ろに行くことはなかった。「無双流斬術・柳流、そら、この粗末な弾はあなたに返しますね。」アイズが椿に向けて放った弾を椿は全て受け流し逆に利用し徐々に距離を詰める、アイズはたまらず両腕を合わせ大砲に変えると地面に向けて砲撃、目眩ましになればと砂ぼこりを巻き起こす、「面倒掛けやがって大人しく殺されろっての。」と椿は不満を漏らすと間髪入れずに霊術で風を巻き起こし砂ぼこりを払う、「面倒事の次は人質か、まともに戦えないのか木偶人形が!」アイズを見つけた椿は怒声をあげる、アイズは砂ぼこりを巻き起こした時に両腕を銃に変え空良と菫の大体中間の位置で2人に狙いを定めていた。「ナントデモイウガイイ、キサマミタイナバケモノニカツニハコウスルシカナイノダ!サァジツノムスメトモウヒトリドチラヲエラブ?キサマガミステタホウハシッカリトコロシテヤルヨ!」とアイズは椿に向かい宣言をする、椿自身先程の弾がただの霊力の塊出はないことは気づいている、そして恐らく何らかの方法で結界を無効可出来ることもそれでなければ2人を同時に人質に取る理由がないからだ。「ドウシタ、ハヤクドチラカヲエラベ!サモナクバリョウホウコロスゾ!」自分の立場が逆転したと確信したアイズは椿を急かす、しかし椿は慌てた様子は少しも出さなかった。「これは疲れるから嫌だけどそうも言ってらんないか、無双流闘霊術・霊鎧闘気・雷帝」そうして術を発動させた椿の体は雷でできた鎧に全身を包み込まれていた。椿は持っていた刀を雷でできた鞘に納めるとアイズに向かって前傾姿勢で構える。「撃てるもんなら撃ってみろ。それよりも速く私の刀があんたの両腕を落としてやる。」と宣言した。アイズはそれを挑発と受け取ったのか2人に向けてエネルギー弾を放とうとした。「無双流斬術・雷の業・雷速・閃光」しかし宣言通り椿にその両腕を切り落とされる。「最後に少し自慢話を、弟である龍聖の方が総合的な能力が高く頭主になりましたが刃物の扱い、その一点に関しては姉である私の方が弟より勝っていました。ですので悔しがらずにくたばりやがれ!無双流斬術・雷の業・雷速・八閃」とアイズを切りつけたのであった。「お母さん、相変わらずその刀握ると口調変わるよね。」と刻んだアイズを回収している椿に空良に肩を貸しながら近づいてきた菫が少し引き気味に声をかける。「いやね、普通の刀なら何ともないのよ、ただこの刀はお母さんが10歳から使ってきてるからふとした瞬間に昔の口調が出てくるだけでね。」と慌てながら弁明をする。無双家の子供は10歳になると見届け役と2人で敷地内にあるヒヒイロカネの鉱石が取れる鉱山へ赴くといった試練が与えられる。鉱山の最奥には守護者がいて戦い認められると採掘を許される、もちろん命を落とす前に見届け役が試練を中止させることもあるが試練は一生で一度しか行えない決まりであり鉱石を取っ手これなかった場合は半端者として無双家の跡目争いには参加できない決まりである。取っ手来た鉱石は自分でやるのもよし、鍛冶師に任せてもよしで自分が一番得意な武具を作るという伝統だ。菫も椿の娘、つまりは無双家の娘としてこの伝統に挑み自身専用の武具を作ってはいる。因みにこの伝統に挑むのに椿が屁理屈を捏ねて守護者に菫の試練を認めさせた時、菫は申し訳ない気持ちでいっぱいだったらしい。「ところで菫ちゃん、あなた武具を使ってなかったけどどうしてつかわなかったのかしら?」と急に椿から菫にかかるプレッシャーが増した。「武具があればあの程度の雑魚には苦労しないと思うのだけど?それともお母さんが菫ちゃんの実力をちゃんと把握してないだけかしら?」と顔はにこやかな笑顔なのにプレッシャーが増していく。「いやあのね、どうせ今日はレクリエーションバトルだけだと思ったからメンテナンスに出してたのを受け取ってなくて。」と尻すぼみに言葉を吐き出す。「それなら予備の武具は?まさか予備の武具までメンテナンスに出しているって訳じゃないわよね?」「まとめ出した方が安くてすむからまとめて出しました。」ここまで聞いた椿は呆れたのかわざとらしく大きなため息をつく、そして少し大きな声で菫の名前を呼ぶと「今日から1週間修行メニュー3倍ね。それじゃ空良ちゃんが捕らえた方々を連れて戻りましょうか。」と笑顔で菫の心に刃物を突き刺し、捕虜と菫、空良と共に皆の所に戻っていくのだった。

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菫達が戻ってくるとそこには既に他の所に行っていたメンバーが戻っていた。「あらあら、龍護君達はかなり早かったのね。」と椿が驚いていると唄が半ば呆れながら説明を始めた、「其奴らが早かったのは敵を全員殺したからだ。椿が応援に言った後浪と清隆にもそれぞれの応援に向かわせたのだが既に終わってたらしくてな、錬・飛鳥組は馬鹿でかい電撃をキャッチボールの要領でお互いに増幅させながら敵を殺しつつ最後に地面に向けてドカンで止め、龍護・月詠組は龍護が作った砂地獄内部を一粒一粒全てを乱回転させて巨大なミキサーを作り出し、月詠の召神・月読ノ命の転移能力を使って敵を落とすを繰り返していたそうだ。」話をしながらも唄は終始呆れていたが菫は唄の態度はどうでもよく「皆のところにはスピリット・マギナを操っていた敵の幹部、アイズとか言うやつは来なかったの?」と戸惑いながら二組それぞれに聞いていた。「あぁ、なんか雷が全く聞かないやつがいたけど飛鳥先輩が看破の瞳を使って脆いところから削いで行った奴がいたけど多分そいつかな?」「あぁ、なんかいたね、数秒で終わったけど。一応素材にはなりそうだったから持ってきてるよ。」と錬・飛鳥組は錬が足元に置いていた大きな風呂敷を菫に開いて見せて話をしていた。それに対し龍護・月詠組は「そんなやついた?全部削り殺してたからわからないや。」と龍護が言うのに対し「それってもしかして材質がミスリルだったりする?」と言う月詠の質問に菫はそれそれと首を縦に振る。「それなら命の転移を無効可してきたから万砕きで穴に直接叩き込んだわよ。」と事も無げに言う月詠に菫は地面に経たり混み(私の苦労って一体なんだったの。)と少しだけ目尻に涙が滲んでいた。「あらあら、それだと龍君達は素材を手に入れられてないってこと?少し勿体ないわね。」と椿が訪ねてきた。「いえ、龍ちゃんの話によるとミキサーにかけたやつは素材別に取り出せるみたいなのでこの後取りに行く予定です。」と龍護の代わりに月詠が答えた。そしてその答えに興味を持ったのか椿が合金も分離できるのかと訪ねて来たので龍護は可能だと答えると「それなら今ここでやってもらってもいいかしら?今回のスピリット・マギナなんだけどアダマンタイトとミスリルとの合金でこのままだと錬成が面倒なのよ。お願い龍君、お駄賃あげるから、ね。」と顔の前で合掌し龍護に頼み込む。それを龍護はお駄賃なくてもやりますよ。と了承し、ついでに錬達の分も合わせて分離させたのであった。因みにこの時どんな感じで削れるのか気になり近付けたミスリル片が触れた所から何の抵抗もなく削れ消えていくという不思議な体験をしたのは言うまでもない。その夜、闘技場内で今回の防衛で召集された人間の関係者が集められ防衛成功と無双家の復活を祝いささやかな宴が開かれた。唄が皆の前で乾杯の音頭をとり今は各々が話に花を咲かせていた。「龍護君試合開始前のアドバイスありがとうね、お掛けで少しは戦えたよ。」と救護室で休んでいた楓が龍護に話しかけた。「おい、アドバイスって何のことだよ。」と錬が龍護に訪ねると「錬にぃって昔から初手で大抵雷をぶっぱなしてくるイメージがあったからそれを伝えたら案の定だったんだよね。それにしても、アドバイスを聞いたとしても剛磨さんの能力があってこそだからちゃんと自分を誇っていいと思うよ。」「まぁ課題としては片目じゃなくてちゃんと両目で魔視を使えるようになることね。」と楓の姉飛鳥が話に混ざってくる。「やあやあ君が龍護君か初めまして、僕は剛磨飛鳥学園ランクは5位でハンターランクはB+だ、短い間ではあるがこれから学園生として先輩後輩の間柄になるからよろしく頼むよ!」と勢いよく龍護の背中を叩く。「ちょっと先輩、口調。素が出てますよ、いいんですか?」と錬が飛鳥に話かける。「いいんだよ。クラスメイトもいないんだし今は仕事中でもない。こうゆう時は猫かぶりはやめるさ。」と持っていた少し怪しいジュースを飲み笑いながら答える。飛鳥の変貌ぶりに月詠や菫が困惑していると「姉はこっちが素の性格なんです、錬先輩が知っている所を見ると風紀会室では素を出していたみたいですね。母に言われて普段は女の子らしい話し方にするように気を付けているんですが。」楓が姉である飛鳥の口調について教えてくれた。「なるほど、私達といるときのヨミちゃんみたいなものね。」と菫が呟くと飛鳥が月詠に詰め寄り「何々ツキちゃんも猫かぶってるの?私と同じじゃん!なんか嬉しいなぁ~、私の事姉として頼っていいからね。」と月詠の頭をもみくちゃにし始める。「ちょっと菫!余計なこと言わないでよ!あ~も~飛鳥先輩も落ち着いて下さい!私は猫かぶりをしているんじゃなくて公私を分けているだけなんで。も~誰かお酒混ぜた?この人止めてよ~」と頭を撫でる手を頑張って押さえていると「はいはい、お姉ぇ、いいこいいこ。取り敢えずお休み。」と後ろから膝を崩させた楓が姉の頭を撫でながら姉を締め落とす、そうしてのびた姉を別で飲んでいた正太と昌磨を呼び回収すると「うちの姉が申し訳ありません、今日は私達このまま部屋に戻りますのでまた後日。龍護さん本日は本当にありがとうございました。」と軽くお辞儀をすると別のところにいた浪と正一を連れて帰っていった。それを横目で見ていた唄が手をはたき注目を集める。「さて、そろそろあんたらを呼んでいた理由を話すよ。これはここにいる奴等以外には聞かれるわけにはいかない話だからね、他言無用で頼むよ。」と前置きをし部屋に結界を張ると本題を語り始める。「さて、まずは今回の防衛戦よく戦ってくれた。場所によっては苦戦したところもあるみたいたが戦いに出た全員が誰1人欠けることなく戻ってきてくれたのは喜ばしい限りだ。さて元々レクリエーションが終わってから話す予定だった話をしようと思う。この話は剛磨、真野の両家がいるところではしたくない話だったから遅くなってすまなかった。単刀直入に言おう、我々旧五芒の人間もしくは新しく追加された2家のいずれか又は両方にアビスと関わっている人間がいる。」と唄の爆弾発言に話を聞いていた全員に同様が走った。ここからは私が、と唄に代わり海美が話を切り出す。「10年前無双家が襲撃を受けてから数週間したあと私の父と姉が現場を調べに向かいました。結果として内側から結界の一部破損を父が確認、姉が現場の血液から襲撃時の映像化に成功しましたので後程見て頂きますがかなり凄惨な映像です。耐性がない方は見ないことをオススメします。」「今内側からと言っていたがもし我々の中に内通者がいた場合どうするおつもりですか?」と清隆が唄に鋭い睨みを聞かせる。「もちろん報復するが、この中にいないのは確認済みだ。それについては無双家御用達の諜報部隊夜鴉の頭主様に報告してもらうよ。」そう言うと唄の後ろから忍装束に身を包んだ暁アリナが姿を表した。話を聞いていた海美、菫、錬が驚きの声を上げる中アリナは気にすることなく話を始める。「我々夜鴉の秘術により当日無双家にいた人間全ての霊力を探査したところ3名を除き全ての人間が死んだことを確認。その3名もすでに特定しており1人は龍護様、2人目は現六芒の一角剛磨家現頭主剛磨浪様そして3人目も同じく六芒の一角を担う真野家現頭主真野正一様と判明致しました。そして秘密裏に各頭主を調べていますが怪しい所は見えどアビスとの繋がりはいまだに確認出来ず情けない限りです。」と話を終える。「待って、話以前にアリナちゃんの正体が衝撃的過ぎて内容が入って来なかったんだけど。ヨミちゃんは知ってたの?」と菫が驚きを隠せない3人の代表的な立ち位置になり月詠に疑問を投げる。「当たり前じゃない、じゃないと生徒会に引き入れるわけないでしょ。まぁ直接知ってた訳じゃなくて家に出入りしてる夜鴉の人に聞いたんだけどね。」「そうですね、あの時はいきなりだったのでびっくりしましたよ。話した事もましてや会った事もない椎名家頭主代行からいきなり[貴方が夜鴉の頭主・暁アリナね。突然だけど私が率いる生徒会に入りなさい!]ですもんね、正体がばれたとかや情報が漏れてるとかが頭を過りましたよ。聞いたら教えてもらったってだけで安心しましたがね。」とアリナは月詠を軽く睨む。「いやいや、何でそんな大事なこと教えてくれなかったの?てかそもそもアリナちゃんを連れて来たとき面白い子を見つけたからスカウトしてきたって言ってたよね?」「だから面白い子でしょ?私達と同じ歳ですでに1つの部隊を率いてるんだから。」と月詠が言ったことに大して面白いってそうゆうことかと肩を落としていた。「てっきり私は催眠聴取とか自動書記とかが書記の役職に向いてて面白いから連れてきたのかと思ってたよ。」「そんなんで選んでたら菫あんたに副会長と会計、2つの役職を任せるわけないじゃない。」「というよりは私的には海美先輩が知らないのはしょうがないとしてもお2人が知らないのは以外でしたよ。」とアリナは菫と錬が自分の正体を把握してない事に驚いていた。「ちょっと待て、それって俺達の家にも夜鴉の人間が出入りしてるってことか?」と今度は錬がアリナに問い詰める。「出入り所か無双家崩壊以後夜鴉は各六芒のトップに私兵として潜入していますよ。」「なるほど月詠は椎名家頭主代行だから知っていたのか。けど何でまたそんな事してるんだ?話を聞いた限り無双家が絡んでることはわかるが。」と錬はアリナに気になったことを聞くことにした。「我々夜鴉は無双家初代様無双巌龍様に仕えてきた暁高尚という人間が起こした諜報部隊です、これは無双家の頭主が大々的に軍を動かせないとき用で設けられた頭主専用の独立部隊ですね。まぁ中には無双家頭主に見初められて婚姻を結んだ先祖もいますが。」とアリナが話していると唄がアリナに何かを投げ渡す。「ほら、お前から預かっていた儀礼刀だよ。とりあえず今までお疲れ様。これは返すけど時折は力を貸してくれよ?」「それは勿論です。10年間預かっていただきありがとうございました。」とアリナは唄に対し深々とお辞儀をする。「アリナ今渡された刀なんなの?」と月詠が気になったのか問いかけた。「これは我々夜鴉が無双家頭主に忠誠を使うときに用いてきた儀礼刀ですよ。ただ10年前無双家が崩壊してからはいずれ無双家が復活することを祈り唄理事長に期限付で預かっていただいていたんです。皆様の所に入る夜鴉の人間はこれからも自由におつかい下さい。」とここまで言うとアリナは龍護の元に寄ると片膝を付き刀を自身の前に寝かせる「龍護様、貴方がもし父と祖父である雅信と天正を忘れていたのなら私は貴方を主として仕えることはありませんでした。ですが貴方はこの10年間2人を覚えていてくれた。これは夜鴉隊長ではなく肉親としてお礼を申し上げます。そして貴方が戻ってきたことにより唄理事長と結んでいた契約が終了致しました。故に今ここに宣言致します、我々夜鴉一同は無双龍護様、あなた様を無双家頭主とし忠義を捧げます何卒我々をあなた様が自在に扱える兵として活用下さることを我々は心よりお望み申し上げます。」しかしここに待ったをかける人間がいた。「アリナ、あなたの話は私の話が終わった後にしてくれない?もしかしたらあなたが仕える人間が変わるかも知れないからね。」と月詠は意味がわからないことを言い出した。アリナもそれを追及しようとしたが続く月詠の言葉に黙るしかなかった。「皆も私が突然こんなことを言い出して驚いていると思うけど詳しく話すから一旦場所を移動しましょう。」と言うと月詠は召神月読ノ命呼び出す。「おやおや改めて久しぶりだの無双のガキンチョ。お前がいない10年こいつは荒れて大変だったんだぞ。ストレス解消に妖魔狩りとかに行ったり、長期連休に入るとギルドに入り浸ってなぁ、お陰でついた二つ名が鏖殺姫だ、早いとこ嫁に貰ってやってくれこのままだと生涯独身を貫きそうで不憫でならん。」と呼び出された命は月詠には目もくれず龍護の元に飛ぶと首に巻き付きながら耳元で囁いた。「命!あんた龍ちゃんに余計なこと言うなぁ~!」と月詠は戦鎚を呼び出すと命を追いかけ始める。「ほっほ我はおんしの心配をしとるのよ。このまま生娘のまま生涯遂げるのではないかとな。所で呼び出した要件はなんなんかえ?」と息を切らし肩で呼吸をしている月詠に後ろから抱きつく命に月詠は自分が所有している中で一番デカイ無人島に『大窓』を開いて欲しいと伝えると命は了承したと返事をするとなにもない空中に黒い空間を作り出す。「ここを通ると誰もすんでないただただ広いだけの無人島に繋がります。ここにいる全員に証人になって貰うため着いてきて欲しいの。後命は後でお仕置きね。」と笑顔を投げ掛けると月詠が空間の中に入っていきそれに続くように全員が入っていくそして最後に龍護が入ろうとした時命が話かけてきた。「うちのお転婆姫はねこの10年間、口ではあんたの死を認めていたが心ではあんたが生きていると信じていた。だからあんたが戻ってくるまで誰にも負けないようにと鍛練を惜しまなかった。それどころかあんたを守れる位強くなると鍛練をしていたよ。そんな少し不器用な子の一種のけじめだ最後まで本気で付き合っておくれ。」そこまで言うと命は龍護の背中を押し自らも大窓の中に入っていた。

13

大窓を抜けるとそこは遠くに山が見える程度で後は草原が一面に広がる大きな陸地だった。「ここは私が新しく色んな事を試すときによく来る場所でストレス解消に菫やアリナを誘っても来る無人島です。私はここで龍ちゃん、貴方に私との結婚をかけて勝負してもらうわ。龍ちゃんが勝ったら私が龍ちゃんに嫁ぐし私の裁量の及ぶ範囲なら何でもしてあげるわ、ただし龍ちゃんが負けたら私の元に嫁いでもらう。」と龍護にビシっと人差し指を向けると高らかに宣言した。ただこれに反論を出す者が1人いた。「お待ち下さい月詠様、それでは無双家本当の意味で途絶えてしまいます。どうか再考しては頂けないでしょうか!」と空良が月詠に懇願するも月詠は「そんなの私の知ったこっちゃないわ、私はこの10年間龍ちゃんを探すためなら手段を選ばなかった。それは龍ちゃんが好きだから、龍ちゃんと会ってちゃんと結ばれたかったから。私はね私より弱い人と結婚はしたくないの。龍ちゃんと初めて会って無双家が崩壊するまでは大体10ヶ月位しかなかったけど会うたびに勝負を挑んでは私が負け越した。龍ちゃんがいなくなってから今日まで私は一度も敗北しなかった。それこそ椎名家を継ぐためにお父様と勝負をした時でさえね。でも私だって無理矢理は嫌だから龍ちゃんが負けたとき条件次第では譲歩してあげる。それで龍ちゃん、この勝負受ける?受けない?どっち。」と月詠はある意味究極の選択を迫ってくる。条件付きの譲歩はすると言ってはいるが負ければ事実上無双家は途絶える事に変わりはない。「龍護様!こんな条件下での勝負など受ける義理はありません!冷静にお考え下さい、貴方はこの10年何のために修行を重ねてきたのですか!この勝負で負ければ今までの積み重ねが無駄になるのかもしれませんよ!」空良は声を荒げながら龍護を諭そうとする。「そうだね、確かにこの条件下で勝負を受けて万が一負けたら今までが無駄になる可能性もある。」龍護の言葉を聞いた空良は思い止まったと思い安堵する、そして月詠は同時に少し悲しそうな表情を浮かべた。しかし2人の反応は次の龍護の言葉で全く違うものとなる。「でもな空良、俺はこの10年何も御家復興の為だけに生きてきた訳じゃない。それこそヨミ姉、菫姉、錬兄にまた会いたいと思っていたからこそあの辛い修行を頑張れた部分もある。そして菫姉にも言われたけど会えなかった10年間の思いの丈を受け止める義務が俺にはある、いや受け止めなきゃいけないんだ!だから空良には悪いけど、ヨミ姉!その条件で勝負を受けるよ。ただ俺も修行は重ねてきたんだ、負けてやらないからな!」と龍護は月詠に言い放つ。それを聞いた空良は呆れながらため息を吐き、月詠は満面の笑みを浮かべ命を呼ぶ。「久しぶりに全力で行くわよ、命。」「ほう、清隆以来じゃな?嬉しいのう、全力で行きましょうぞ。」そう言うと月詠と命はお互いに向き合い両手を握り額を合わせる。「我、汝の真名を知るもの。」「我、汝の寵愛を受けし者。」「我、汝の楔を解き放とう。」「我、汝との境界を乗り越えよう。」『今、我等心身一つに。椎名流召喚術・召人融体』祝詞を唱えた二人を眩い光が包み込む。そして光が収まるとそこにいたのは月詠の金髪が命と同じくらいまで伸びており瞳は左右で色が変わっていた、そして服装も月詠が着ていた制服ではなく命の和装をより動きやすくしたような格好だった。「まだまだ行くわよ、武具精霊召喚・知天使の冠・熾天使の鎧・力天使の籠手、真名統合・天使長の六翼、憤怒の胸甲・真名解放・ラース・ハート、万砕き・真名解放・砕衝悉滅、お待たせ、これが今の私の最強よ!因みにね天使長の六翼は思考領域拡大・思考加速・未来予知・自動回復・状態異常無効・自動反撃・身体能力倍加・身体硬化の権能があってねラース・ハートは使用中と攻撃を受ける度私の霊力の回復と総量の増大っていう権能があるのよ!砕衝悉滅は戦いながら考えてね。さぁ、次は龍ちゃんの本気を見せてよね!」全ての準備を終えた月詠の姿は白く綺麗な六翼を背中に生やし、左胸には黒い炎の様な禍々し胸甲が、そして月詠の体躯には似つかわしくない大きな打突面と大きな戦斧が付いた大鎚を左手に携え満面の笑みを浮かべながら龍護に呼び掛ける。「わかったよ、無双流闘霊術・霊鎧闘気・双帝・嵐焔、お待たせ、それじゃ始めようか。」と龍護は刀を構える。龍護の見た目は刀を含め風の影響で荒々しく燃える炎が鎧として形をなしている異様な光景だった。霊鎧闘気は月詠に無双流を教えていた椿が使っていた為月詠もどのような術かは知っていたがこの鎧気は初めて見るものだったが月詠はあまり気にしていなかった、これから始まる10年越しの思いのぶつけ合いに比べれば些細な事だからである。「龍ちゃん始める前に聞きたいんだけど、10年前に私達がやりあう前に言ってた口上覚えてる?『我々闘士は~』ってやつなんだけど?」と月詠の質問に龍護より早く反応する者がいた。「ちょっと!月詠さん?お前よそ様の家でその口上言いまくってた訳じゃないよな?」と清隆が額に汗を浮かべながら月詠に聞くと言ってたけど悪い?と何ら悪びれもせずに意味が分からないと言わんばかりに清隆に返答していた、その言葉を聞いた清隆は(黒歴が~)と呻きながら膝を折り地面にうずくまる。それを見ていた龍護は覚えているけど清隆さん倒れてるけどいいの?と月詠に問いかけると「私の知ったこっちゃないわ、それに今の私は頭主代行、代行とはいえお父さんよりは立場は上だから止められないわ。」と月詠は胸を張って宣言する。龍護が横目で清隆を見てみると春人と椿に慰められるなんとも情けない姿が見えた。「それより、覚えているなら話が早いわ。あの口上と共に始めましょう。その方が私達らしいわ。」と月詠が言いながら龍護に近づく。龍護もそれに答えるように月詠に近づくとお互いが触れるか触れないかの距離で背中合わせになる。そして月詠の合図でお互いに口上を述べる『我々闘士の決闘は、全身全霊全力で望むべし!』とお互いに歩みながら述べると向き合い武器を構え残りの口上を口にする。二人の表情は子供が新しい玩具を買って貰った時のように輝き、そしてそれが合図となり戦いの火蓋がおとされた。『手加減したらぶっ殺す!』初手は龍護が間合いの遥か外からの上段切りだった、月詠は特に警戒することなく真っ直ぐに龍護に近づいていたが刀が振り下ろされる瞬間、月詠は突如右斜め前に飛んで回避する。そして龍護が刀を振り下ろすと月詠がさっきまでいた、場所には龍護の刃先から真っ直ぐに黒く焦げ付いた後が残った。龍護は深く踏み込み返す刀で月詠に切り返す、月詠も無理に飛んだせいか、体制が整っておらずかわすことは不可能だった、周りや龍護自身捕らえたと思っていた。そして刀が月詠を捕らえた瞬間月詠は『瞬窓』の一言と共に姿を消すその直後龍護は後ろから強い力で殴り飛ばされる。龍護が振り返ると先程消えた月詠がそこにいて追撃を仕掛けようとしていた、「まだまだぁ!」龍護は大声をあげ自らを鼓舞すると月詠に切りかかる。しかし刀が当たる瞬間再び瞬窓の一言と共に姿を消す月詠になすすべもなく龍護は殴り飛ばされる。「龍ちゃん、私はこの10年間椿さんに稽古をつけて貰ってたの。だからその形態は解らなくても霊鎧闘気の事はある程度知っているつもりよ、それを前提で言うけど私は椿さんの雷帝にしっかり対応出来てるのこのままじゃぶり殺しにされるだけそれにね、この精霊武具はお父さんが龍聖さんが使うある技に対抗するために作った物、正直に言わせてもらえば霊鎧闘気に対して開発するものじゃなかったわ。だから早く出してくれないかな、無双流頭主のみに継承される技『神霊闘気』だったっけ?まぁ出来ないなら出来ないで構わないわ。この戦いが終わって生けていたら私がお世話してあげる。」とここまで言うと月詠は再び龍護に肉薄する。しかし龍護はあろうことか霊鎧闘気を解いてしまう。それを見て月詠の表情には落胆の様相が見て取れた。「いいわ、そんなに死にたいなら跡形もなく消してあげる!今日が本当の意味で無双家の消滅よ!リミットブレイク・10%・レイ・ディヴァウア」その掛け声と共に月詠の持っていた大鎚が淡く光る、そしてその光は龍護を容赦なく喰らった。喰らったように見えた。しかし月詠はギリギリ視界の隅で捕らえていた、龍護が刀で優しく受け流しその勢いを利用してこの技を逃れた事を、そして月詠が龍護の方へ体を向けると大気中に存在する霊力や自然エネルギーが視覚化するほど龍護を中心として渦巻いていた。「まさかヨミ姉が『神霊闘気』を知っているとは思わなかったよ。この技はね無双家二代目様が霊力が少ないなりの戦い方を考えた末に出来たんだって。今からやるからすぐに終わらないでね!」と微笑む龍護を見て月詠は感じた直感を信じ行動に移す。『反射盾亀展開』月詠は龍護に近づきながら大鎚を囲むように作った四枚の盾に大鎚を当てる。そして龍護の目の前に迫った時、大鎚に刻まれていた椎名家の家紋が突如光始める。それを待っていた月詠は「リミットブレイク・オーバーロード、レイ・ディヴァウア!」先程とは全く質の違う攻撃が龍護に襲いかかる。しかし大鎚が龍護に触れるか否かの瞬間龍護の姿が消え月詠の後ろに現れる。「お待たせ、これがお望みの無双流闘霊秘術・神霊闘気だよ。今回は椿さんとの比較のため雷神にしてみました。さてとここからが俺の本気だよ、無双流闘霊秘術・雷の技」そう言った龍護は右手を空にあげ小さい電流流すし上空に雷雲を作り出すと上げていた右手を振り下ろす「壊刃万雷!」その一言と共に空には急に大きな積乱雲が作り出されそこから月詠目掛けて無数の雷が落ちてくる。月詠も回避は諦め右腕を空中に翳すと『大窓』を自分の上部に展開し雷を回避する。「ヨミ姉甘いよ!そんな一方向からしか出来ない攻撃を俺がするはずないだろ!」龍護は叫びながら両手で雷を操ると上から下への一方向だったものが月詠を目掛けて曲がりだし月詠を狙って雷が向かってくる。「龍ちゃんが操ってるならまだまだ勝機はある。『窓繭』」次の瞬間には上部を覆っていた黒い靄は月詠を覆い尽くし綺麗な球状に変わる。龍護はそれを打ち破ろうと夢中で雷を当て続ける。しかし次の瞬間には龍護の体は後ろから強い力と衝撃で殴り飛ばされる、「どうして俺の体に触れれるの?この体は弱点になる攻撃しか受け付けないのに。」と龍護はゆっくり月詠の方へ体を向ける。「簡単な話よ、純粋に霊力でただ殴っただけ。それよりも私からも質問よ、何でこいつで殴られて平気なの?今のこの大鎚は触れたものを容易く粉微塵にしまうほどの衝撃波を常に纏っているのに。」 と言うと月詠はゆっくり地面に大鎚を近づける。すると大鎚が触れた所はどんどん砂に変わっていった。「どうやらこの形態でも衝撃波は逃がせるらしいね。て言うか霊力で殴るってどう言うことよ?霊力は質量がほとんど無いから無理でしょ?実際に無双流闘霊術の一つに武具を作り出す物は有るけどあれは属性を付与するか性質変化で鉄とかに変えて初めて使い物になるものだし、霊力そのままの状態だとろくにダメージは与えられないよ?それなのにエネルギー体である今の俺にダメージを与える処か吹き飛ばすとかどんな原理よ?」「ふふ、聞いて驚きなさい。この大鎚は元々ヒヒイロカネで作ったただのトンカチよ。それに年単位で霊力を込めていって完全に霊物質化させた武具精霊がこれの正体よ。因みに武具精霊のヒントは古都の方でたまに発見される呪霊具に着想を得たらしいわ、あれも長い年月人のありとあらゆる思念を吸収してきた物だからね、それを人為的にやれないかって試した成功例が武具精霊よ。だったよね、お父さん!」と月詠は今だにまともに顔をあげられていない清隆に声をかけるとどうにかして立ち上がり肯定する。「てかあんな大技いきなりだしてよかったの?龍ちゃん霊力の総量あまり多くなかったよね?」と月詠は尋ねると龍護は「それは自分で体感しなよ、無双流闘霊秘術・雷の技・千速御雷」と龍護は先程よりも速度のある雷撃を自身に当たるのを無視して月詠に当てにいく。「今度は相討ち覚悟とか、昔とは戦いかたが全く違うね!」と月詠は自身に降りかかる雷撃を黒窓を使い全てを龍護に返す。「そんなに自爆したいなら雷撃全部返してあげるわ!」返ってきた雷撃は龍護に命中すると爆煙が上がり龍護を隠す。それでも月詠は自らの装備の権能により龍護が微動だにしていないことを理解していた、そして雷撃がやむのと同時に月詠が仕掛ける「これで終わらせてあげるわ!ルイン・ディヴァウア」月詠の持つ大鎚が月詠の霊力を吸収し黄金に輝く。普段から月詠と手合わせをしている清隆や普段狩りに同行(強制連行ともいう)している菫はこの一撃が月詠の持つ技の中でも最上位に位置している事を理解していた。だから2人は月詠の勝利を確信した、月詠が大きく弾かれるまでは。「ヨミ姉本当に強くなったんだね、正直驚いたよ。まさかこうも攻撃が通らないとはね。」と歓喜の表情を浮かべ龍護の姿は先程とは大きく変わっていた。「無双流闘霊秘術・鬼神雷装。少しだけ神霊闘気の本領を見せるね。」そう言った瞬間龍護は姿を消した、そして瞬きをする暇もなく月詠の体が弾かれる、さらに月詠は龍護の連撃の嵐に捕まってしまい瞬窓を使っても龍護が避難先に素早く回り込みまた連撃に捕まるの繰り返しだった。「少し本気を出しただけでもう終わりか?だったらあっけないよ、ヨミ姉!」と龍護は攻撃の手を緩めることはなく月詠に問いただす、しかしそれも束の間、次の瞬間には月詠を中心に大爆発が巻き起こった。

「ゲホ、ゲホ、ありがと椿に菫ちゃん、2人が瞬時に結界を張ってくれてなければ我々も吹き飛んでいたよ。しかしあの爆発は一体なんだ?月詠を中心に起きていたように見えたが。」と2人が戦っていた場所から大分離れていた所まで来た衝撃を仙道家の2人が結界を張ったことにより難を逃れられた事に礼をいいながら清隆は月詠が起こしたであろう爆撃に思考を巡らせる。「あれはラース・エクスプロージョン、ヨミちゃんの緊急回避の1つらしいですよ。」と清隆の思考を遮るように菫が口を開く。「菫ちゃんは今のがなんだか知っているのかい?」「あれはヨミちゃんが作り出した武具精霊、その中でも[シン・シリーズ]って呼んで区別している位に特別なやつです。私は新作ができる度に実地試験と言う名のストレス発散に付き合わされたので知っているだけですが。」「なるほど、さすが俺の愛娘だ!俺が考えた技術を応用発展させるとは大したものじゃないか、ついては菫ちゃん。今起こったことを詳しく教えてくれるかな?」と清隆に言われ回りの視線が菫に集まったところで面倒臭そうに溜め息を吐きながら菫は説明を始める。「まずあの爆発を起こしたのはヨミちゃんが胸に着けている鎧[ラース・ハート]の能力です。ラース・ハートの権能は3つ、1つ目は装備中霊力の総量をあげる能力、これははずした後総量は元に戻りますが装備中は増え続けます。2つ目は相手から本人が攻撃と認識した行為を受けると霊力が回復する能力です。この2つの能力がありなおかつ[天使長の六翼]の権能の1つである自動回復のお陰でヨミちゃんは半永久的に戦い続けることが可能です。」「う~む、我が娘ながらも恐ろしい物を作り上げたものだな、学園で[暴虐姫]とか呼ばれているらしいがその一端を垣間見た気分だよ。」と清隆が漏らした言葉に菫は「清隆さん、ヨミちゃんは学園でこ2つを併用したことはおろか使用したことも無いですよ。」との返事に清隆が絶句していたのは言うまでもない。「話はそれましたが[ラース・ハート]3つ目の能力それが『憤怒爆撃』です。ヨミちゃんは[ラース・エクスプロージョン]と言っていますが、内容は霊力の回復が霊力の総量を越えたとき、その越えた分の霊力を爆撃に変換するってものらしいですね、因みにこの能力は自動ではなく任意発動らしいので今みたいに連撃を食らっている時とかは本人が好きなタイミングで発動できるみたいですよ。」と菫の説明かま終わると皆の表情が青ざめていた。「え、ヨミのやつそんな恐ろしい物を作り出すほどストレス抱えてたの?今度から優しくした方がいいかな?」と錬が菫に問いかけると「いや、錬君をぶっ飛ばすのもストレス発散になってるらしいからそのままでいいと思うよ。」とさらっと酷い事を菫は口にする。「てか[ラース・ハート]はその[シン・シリーズ]ってやつの1つって言ってたよね?てことはまだ他にも何種類かあるってことかい?」「はい、清隆さんの想像通りです、ヨミちゃん曰く大罪をモチーフにしているらしく[ラース・ハート]は憤怒を表していて他の大罪をモチーフにしているやつも既に完成していますよ。」「それでも主様にはさほど効いてはいないみたいですよ、その証拠に大技の準備中みたいですし。それよりもあの技……」と空に指を指す、それにつられ全員が空を見上げると空をおおっていた雷雲がある一点を目指し渦巻いていた。「椿さんと菫先輩は全力で防壁を展開してください、他の皆様も全力で防御体制をお取りください広範囲攻撃が来ます、衝撃にお備えください。」そう言うと空良は椿や菫よりも前に出る。「空良ちゃん何やってるの!こっちに戻って防壁に入りなさい!」「妖術・妖化解放、雷虎戦姫。私が少しでも雷を吸収して衝撃を減らします。」そう告げると空良は自身の変身が解けないギリギリの量で防壁を張り今から来る雷と衝撃に二重の策で耐えようとする、しかし次の瞬間には空良は空中に舞っていて後ろに引き戻された。「全く子供なんだから少しは大人を信用しなさいな。」と椿が空良を戻すのに使ったであろう植物の蔦を撫でながら空良を諭す。「さぁて、大人の本気を見せますか。菫ちゃんは空良ちゃんの霊力を回復させてあげなさい。行くわよ~、霊然術・土郭楼、天蔦幕、仙道流付与術・避衝・放逃・雷、さてこんなところかしらね。土を圧縮生成したドームに蔦を巻き付けて付与術で衝撃を逃がすように細工、後は電気を地面に逃がすようにして完璧よ。これなら耐えられるでしょ?」と空良に向け微笑んだ、その直後凄まじい爆音と衝撃が空良達を襲った。

「龍ちゃん、今のは私じゃなかったら死んでたんじゃない?てか菫達を巻き込んでるわよ。」と口の端から流れる血を手で拭いながら月詠は龍護に話しかける。「向こうは椿さんが結界を張るから大丈夫でしょ。それよりも何で無事なのさ。今の一撃はAランクの妖魔位ならいくらでも灰にできるやつなんだけど、ヨミ姉どんな修行してきたの?体の固さ妖魔なみじゃん、人間の固さじゃないよ?」と龍護は顔を少しひきつらせながら問いを返す。「ん~答えてあげてもいいけど私からも質問。何で霊力回復してんの?回復系の技使う暇なかったよね?」「あ~、それは[神霊闘気]のオプションだよ。」と答える龍護に月詠オプション?と疑問符を浮かべる。「この[神霊闘気]は『弱点となる属性は倍以上のダメージを受ける』って言うデメリットがある代わりに『同属性の攻撃は自身の霊力に還元』する能力と『その他属性の属性攻撃無効』って言う十二分なメリットがあるんだよね。それに俺自身を霊力に変えているから物理的な攻撃も本来は無効なんだけどこっちに関してはヨミ姉の例が出てきたから過信しないようにしなきゃいけなくなったんだけどね。」と龍護が答えると月詠の脳裏にある考えが浮かぶ。それは自身も体力と霊力をほぼ永続的に回復する術があり、龍護に体力切れが無い場合決着をつける為の決め手がほぼなくなってしまうため千日手のような事が起こってしまうのではないかと考えてしまった。「龍ちゃん、念のため確認なんだけどその状態って体力切れの概念ってある?」と恐る恐る聞いてみると返ってきたのは月詠が今一番聞きたくない言葉だった。「霊力が切れればこの状態は解けるけど体力切れの有り無しで答えるなら無しになるのかな?」この返答を聞いた瞬間月詠は思考を巡らせる。武具を変えてれば属性攻撃はできるが今よりも攻撃の決め手がなくなり決着が遠退いてしまう。かといって武具を変えなければ変えないで決め手がないのに代わりはない。ここまで考えると月詠は龍護にある提案をする。「龍ちゃんがほぼ永続的に戦えることはわかった。実は私も龍ちゃんと似たような感じでほぼ永続的に戦い続けることができるのだから提案。お互いに次の一撃で勝敗を決めましょう。このままだと千日手みたいな事になりそうだしね、それに学園がなければ夜通しの戦闘もできたけど明日も普通にあるから夜通しはできないしね、どうかしら?この提案受けてくれる?」と月詠の提案に対し龍護も千日手の様な状態になる事、夜通しの戦闘が状況的に出来ないことを考え月詠の提案を了承する。「乗ってくれてありがと、それなら次の一撃がラストってことで。ラース・ハート、コネクト!」月詠の掛け声と共に大鎚が先程までとは一転して黒く鈍く輝きだし霊力が赤い閃光となり漏れだした。「ははは、さっきまでとはえらい変わり様だね。」と龍護は大鎚から漏れ出るプレッシャーに少したじろいでしまう。「今から放つのは私が現状で撃てる技の中でも一番強い技だよ。さぁ、龍ちゃんの本気もみせてよ!」と月詠は興奮した様相で龍護を急かす。「わかったよ。無双流闘霊秘術・神格解放・建御雷神」そう唱えた龍護の頭上に再び雷雲が発生し龍護に無数の雷が降り注ぐ。落雷が終え砂ぼこりが晴れると龍護の格好が再び変わっており雷でできた衣服を纏っておりどこか神秘的な様相をしていた、そして鬼神雷装の時と大きく違っていたのは龍護の右手には雷でできた十字槍が握られていた。「お待たせお互いに準備ができたみたいだしヨミ姉の合図でこの勝負、決着を付けようか。」そう言った龍護は十字槍を月詠に向け構える。そして十字槍を構えられた瞬間月詠は自身にかかるプレッシャーが増大したことを肌で感じていた。「ええそうね、これで決着よ。」そして大鎚を握り直した月詠は思いっきり振り上げ地面に叩きつける。「喰らいつくせ!ドラゴ・ディヴァウア!!」叩きつけられ地面をえぐった衝撃波は大鎚が放つ禍々しい霊力と融合し黒い龍となって龍護を襲い龍護を地面ごと喰らった。その衝撃音はまるで雷が落ちるようだった。

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「どうやら俺の愛娘の勝利で終わったようだな。」月詠が放った大技の様子を見ていた清隆は決着がついたであろう土煙の向こうにいる2人のもとに向かい歩き出す。「お言葉ですが勝ったのは主様ですよ。」と清隆の言葉を確信を持って遮る。「ほぅ、なぜそう思うのか参考までに聞いてもいいかな?」清隆は少し不機嫌になりながらもそれを面に出さずに問いかける。「主様が最後に放とうとした技の名前は『雲耀』。雷と同速で相手に突貫するだけの槍技です。これの真骨頂はただ真っ直ぐ突貫するため槍の先端から進行に合わせて雷が螺旋回転をする防壁を張るところです。主様曰く『この防壁を張ることで銃弾のように遠く離れている敵も貫ける』らしいですが、真偽のほどは分かりません。月詠様の技が主様に当たったとき雷が落ちたような音がしましたよね?あれは主様が『雲耀』を放った時に生じる炸裂音なんですよね。なので月詠様の技は主様には当たらず今頃遠くに吹き飛ばされていると思いますよ。」そうして周りの人達と会話をしながら進んでいると龍護達の話し声が聞こえてきた。「どうやら向こうのようですね、行きましょうか。」と空良を先頭に全員で話し声がする方に向かっていくと対面で座り込み何か言い合いをしている2人を見つけた。「お疲れ様でした、龍護様一応予想は付いていますがどちらが勝ったか教えていただいても?」「もちろん勝ったのは月詠なんだよな?そうなんだろ?」と空良の質問に和をかけ清隆は問い詰める「いや~それが大分微妙なんだよね。」と龍護は空良や清隆の質問にばつが悪そうに答えを返す。空良達が頭に疑問符を浮かべていると月詠が「だから私の負けだって言ってるじゃない!あんなのただの偶然だし、相討ちだったとしても致命傷を受けるのは武器の形状的にも私なんだから!」と龍護に詰め寄る。「だから偶然だとしても言え俺の勝利とは言えないでしょうが!それに運も実力のうちって言葉もあるでしょうに。」と再び言い争いを始める2人に「あの、詳しく教えていただいてもよろしいですか?」と空良は片手で顔を覆いながら説明を求めた。「いやね、ヨミ姉の最後の大技を正面から壊して喉元に槍の切っ先を寸止めだけど突き付けるまでは良かったんだけどほぼ同時で戦斧の切っ先が同じ様に俺の喉元に寸止めされてたんだよね。だから結果としてよくて引き分け。最悪は俺の負けだって言ってるのにヨミ姉が」「そんなのただの結果論じゃない!確かに『ドラゴ・ディヴァウア』を撃った瞬間、権能で破られる未来が見えたけどあれは振り上げたんじゃなくて一歩引くために浮かせたの、そうしたらたまたま喉元に行ったってだけだって言ってるじゃない!」と今にも掴み掛かりそうな勢いでお互いに捲し立てる。「なんとか折衷案は出せないのですか?このままだと数時間位余裕で言い合いをしていそうなんですが。」と空良は呆れながらも落としと頃を探れと暗に龍護に伝える。「わかったよ、ヨミ姉。それならお互いに何か1つ願いを言っていこう。そんで叶いそうなものを叶えるってのはどうかな?」「それなら私と結婚して、今すぐに!」「ごめん、それは無理。」と月詠の求婚を龍護はばっさり断る。「聞き間違いかしら?もう一度言うわね、私と結婚して。今、すぐ!」「いや無理だから。ヨミ姉はできるだろうけど俺はまだ出来ないでしょ年齢的に。」「龍ちゃんはハンター登録してないの?因みに私はAランクよ。」と少しどや顔気味の月詠に対し龍護は頭に疑問符を浮かべる。「Bランクのライセンスは持ってるけど結婚にはハンターかどうかなんて関係なくない?」「何で?関係大有りじゃないの。」と2人して会話が噛み合っていない状況に「龍護様、もしかしなくてもCランクに昇級するときの契約書ちゃんと読んでいませんね?」と空良が問いかける。「いや、目は通したよ、目は。空良が把握してればいいかなって思ってはいたけど。」と答えた龍護に「常日頃からちゃんと契約書関連にはきちんと目を通ししっかりと把握するように伝えてありましたよね?そんなんだから孤里のギルド職員に頭が空っぽとか脳筋単細胞とか言われるんですよ。ギルド職員に同情されるこちらのみにもなってください。」「なにそれ、俺初耳何だけど?そんな影口叩かれてんの俺!」「それよりも、月詠様が言いたいのはハンターライセンスを持っていて尚且つCランク以上の人は結婚を男女共に15からできるようにする制度の事だと思いますよ。」と空良は月詠が言いたいことそして龍護が理解していなかったことをずばり言い当てそして「まぁその制度があっても龍護様は月詠様とは結婚しませんがね。」と冷たく言い放つ。「あんた控え室の時とは大分感じが違うわね。私に喧嘩売ってくるなら遠慮なく買うわよ。」と少し月詠が威圧の意味を込めて敵意を空良に向ける。「ご安心を私は脳筋単細胞の方達とは違い無謀な事は致しませんので…っ!」と空良の話を遮る形で月詠は空良の左頬に平手を打つも龍護がギリギリで平手を止める。空良を見ると菫が掛けたであろう結界が張ってあった。「な、龍ちゃん止めないで!私は売られた喧嘩は相手が誰でも買うって決めてるの!それに私は一度忠告したのにこいつはそれを無視したのよ。だからこいつは今ここで絶対泣かす!」「それだとしても霊力を集中させた状態で平手打ちって下手したら空良が死ぬからやめてほしいな。」と龍護はそう言うと後ろから絡めた自分の腕をほどいた。「それに空良も少しは言葉を選びな、今の空良はどうあがいても月詠に勝てないのが自分で分からないほど馬鹿でも無いだろ?」 と龍護に諭され空良は下を向く。「まぁでも空良の言うとおりギルドの制度があってもヨミ姉とは結婚できないんだ。少なくても目的が達成されるまではね。」と龍護は申し訳なさそうに月詠告げる。「目的っていったいどんな目的があるの?てっきり私は修行が一段落したから私達に会いに来てくれたのだと思ってたんだけど。」とここまで静観をしていた菫は龍護に訪ねる。「そうだね、それももちろん目的ではあるんだけどあくまでついでかな。アリナさん、あの動画ってここでも見れる?」「えぇ、可能です。」とアリナは手短に答えると「そっか、それなら俺が戻ってきた目的を説明するついでに最初に言っていた動画をみんなに見てもらおうか、アリナさん準備よろしく。」と龍護が伝えるとアリナは動画の準備を始めるのだった。

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アリナが用意していた動画は凄惨極まりないものだった。無双家の関係者を「獏」と呼ばれていた人型の妖魔が当時の無双家頭主であり龍護の父親でもある無双龍呀が自分自身を代価に発動させる封印術『互龍封監』を用いてようやくなんとかなるレベルの「理外」と呼ばれていた化け物、そして昼間アリナが敵構成員を尋問していたときにも出てきていた人物であろうと予測できる尾が四本ある狐人族の女性「孤玖理」と呼ばれているたった3人の人物に無双家は壊滅させられている動画だった。動画終わったのを見計らい龍護はその場にいる全員に自身が戻ってきた目的を語り始める。「まぁ、今見てもらった通りこいつらが無双家を壊滅に追い込んだ連中だ。破壊後から大量の妖魔に攻められたってことで伝わってるみたいだけど本当はたったの3人にやられた。俺は孤里での修行の合間にこの動画から得られた情報を深堀しようとしたけど全くと言っていいほどなんの情報も得られなかった。そしてギルドだけの情報網だけでは限界を感じ学園の情報網も利用すべくこっちに戻って来たんだ。戻れば確実に皆を巻き込む事になることを理解しながらね。」「それで、学園の情報網ってのは目的の為の手段でしょ?龍君の目的って何なの?」と菫が龍護に訪ねると龍護は「復讐だよ。」と言い放つ。「俺以外の家の人間全員が殺された。最初はギルドの情報だけでやろうとしたけど全く集まらなかった。そんな時にばーちゃんから学園が最近テロ集団であるアビスから襲撃を受け始めたって教えてもらったんだ。俺はすぐに学園に行くことを決めたよ。裏社会に生きる人間なら何か分かるかもって思ったからね。そしたら案の定入学初日に手掛かりを掴めたんだ。これからはアビスの連中を見つけ次第情報を吐かせて殺して行く、最終的にはアビスを潰すことで俺の復讐は完了するんだ。だからねヨミ姉は勿論他の全員を巻き込まないためにもこれからは俺との接触は控えて欲しいし結婚なんてしようものならヨミ姉まで俺の復讐に巻き込んでしまう。そんな事俺には耐えられないんだ。」とここまで黙って聞いていた月詠が声を上げる「その復讐って龍ちゃんだけでやる訳じゃないよね?協力者は誰?」「それを知ってどうするのさ?」と龍護は言うのを躊躇うが月詠は断固として譲らなかった。折れた龍護は「協力してくれるのはばーちゃんと空良、そして空良の父親を含めた孤里の村民数名だけど。」それを聞いた月詠はふ~んと言いながら父である清隆に近づく。「お父様、私にも本当の事を教えて下さいな。」と表情はとてもにこやかであるのに対し目は全く笑っていないというとても恐ろしい笑顔を清隆に向ける。「本当の事も何も龍護君が生きていたことを今日知った俺には何も分からないよ。」とわざとらしく肩を揺らしてみせる。「そうですか。お父様、私には嘘を見抜ける召神が付いてくれています。この意味を理解した上でもう一度答えてくださいね?嘘を付いていたらお父様が週一で深夜にこっそり通っている場所の全てをお母様に報告しますね。私にも本当の事を教えて下さいな?」と月詠の言葉を聞いている内に冷や汗だらだらになっていた清隆は月詠に土下座しながら全てを白状することになった。「申し訳ありません、龍護君が言っていた人間プラスで私、春人そして椿が協力することになっています。なんなら龍護君が行方不明になった後数ヶ月位で発見し、なんなら修行も手伝っていました!隠し事は全部話したので出来れば母さんには伝えないで貰えると助かります!」と何とも情けない姿を晒す清隆に対し「そっか~、お父様は龍ちゃんがいなくなって死んじゃったのかもと思って悲しんでいるのを知っていたのに龍ちゃんが生きていることを教えてくれなかったんだ。」と清隆を蔑みの眼差しで見下ろす。清隆は自分が余計な事まで言ってしまったことに気付き取り繕おうとするが時すでに遅しというやつで月詠は母親に報告する事を決めた。「さて、龍ちゃん。お父さんから言質を取ったらお父さん達もアビス掃討に参加するみたいだけど?」月詠は龍護の方に向き直り訪ねる。「そうだね。だけど清隆さん達が参加する理由は後継が、ヨミ姉達がいるから、ヨミ姉達がちゃんと育っているからって理由なんだ。そのヨミ姉達が参加したら清隆さん達が参加出来なくなってしまうんだよね。それに掃討するとは言っているけどまだ何処に本拠地やら支部があるのか全く分からないのが現状で遭遇戦とかがメインになってどうしても後手に回ることになる。そうなるとこっちは準備不足の中準備万端の相手と戦うことになるんだ、そうなった場合最悪死人が出るかもしれない。俺だって守れる範囲は守るけど俺自身まだまだ修行中の身だ、そんな中ヨミ姉達が参加してもし死んでしまったらって思うと堪らなく怖いんだ。また大切な人がいなくなってしまうあの感覚はもう味わいたくない、清隆さん達はそれを踏まえた上で参加してくれている。だから清隆さん達が後継としているヨミ姉達を参加させるわけにはいかないんだ。ヨミ姉と今すぐ結婚出来ないのも似た理由で俺自身死ぬつもりは無いけどいつ死ぬか分からないからね。」と龍護は清隆達が参加できる理由と月詠達が参加できない理由そして月詠と結婚できない理由を一度に伝えた「なるほどね、龍ちゃんの事情は分かったわ。でもね私達もアビスのターゲットになっている以上無関係とは言えないのよ。それなら龍ちゃん達と行動していた方がただ狙われるよりよっぽどましだわ。それに私達もまだまだ修行中の身よ、それなのに自分で同じ立場を主張している龍ちゃんに守られているだけなんてまっぴらごめんよ!それに私の性格上私達も参加させないと好き勝手に暴れるわよ。もし暴れているところにアビスのめっちゃ強いやつが来でもしたらそれこそ龍ちゃんが恐れていることになるわよ。」と月詠に捲し立てられた龍護は月詠が詰め寄るのに対し少しずつ後ろに下がるが月詠は霊然術を用いて龍護の背後に壁を作ると龍護に壁ドンをして一気に距離を詰める。「言っておくけどさっきも行った通り私はもう10年も待たされているの、これ以上待つつもりはないわよ。」「復讐に明け暮れて相手できないかもしれないよ?」「そうならないように色々連れ回すわ。」「守れないかもしれないし俺が先に死ぬかもしれないよ?」「それなら私が守れば良いし『瞬窓』を使えば一瞬で戦闘から離脱できるから大丈夫よ。」と間髪いれずに答える月詠に龍護はとうとう押し黙ってしまう。それを見た月詠は「これ以上ないなら覚悟を決めなさい。私はどんな事があろうともう二度と龍ちゃんを手離すつもりは1ミリたりともないんだから。」との宣言に龍護はどこか憑き物が落ちた様な表情をしながら「わかったよ、俺の負けだ。椎名月詠さん。改めて俺と結婚を前提にしたお付き合いをお願いします。」その言葉に周りからの惜しみ無い拍手の雨が2人に降り注いだ。

16

「え、嫌よ。」と周りから降り注ぐ拍手の中、月詠の発言は龍護を含め戸惑いが現れるのに十分な一言が発せられた。「え?いやいや、ヨミちゃん。あんなに龍君と結婚したがってたのに何で断ってるの?周りを見なよ、戸惑いが隠せてなくて放心状態になってるじゃない。」と菫が驚きのあまり月詠を龍護から引き離し両肩を掴み揺らす。「ちょ、や、やめ、揺ら、揺らさな、揺らすな!」と月詠は声を荒げるとともに菫の両肩を掴み揺らすのを止めさせる。「あんなに揺らされちゃ説明出来ないじゃないの、まったくも~。今からちゃんと話すから大人しく聞きなさい。」と菫を落ち着かせると菫は一言ごめんと呟いた。「龍ちゃんもちゃんと聞きなさい!いい?私がしたいのは龍ちゃんとの『結婚』であって『お付き合い』がしたいわけじゃないのよ。デートだって結婚してからもできるでしょ。私は龍ちゃんと名実共に夫婦になりたいの!彼氏彼女の関係になりたい訳じゃないのよ!さぁ分かったなら市役所に行って婚姻届だすわよ!」と自分の胸を張り、高らかに宣言すると龍護の腕を掴み命を呼び出す。。すると横から「黙って聞いていれば、さっきから我が儘ばかりいい加減にしなさい!」と清隆が月詠を怒鳴り付ける。「いくらお父さんでもこればかりは譲れないわよ。なんなら『万砕き』の錆びにしてでも言うことを聞かすわよ。」と月詠は龍護と対決した時を遥かに越えるもはや殺気に近しいレベルの敵意を清隆に向け右手に魔方陣を展開、何時でも襲えるように臨戦態勢に入る。しかし怯むことがない清隆に椿や春人、唄を含めた大人組は内心月詠の間違いを正すように祈っていたがその祈りは水泡に帰す事になる。「婚姻届の前に結婚式とか新居の事とか色々決めることがあるでしょ!」この発言を聞いた月詠は龍護の腕を離し 「確かに!私としたことが抜かっていたわ。神前式、人前式、仏前式と色々あるものね。家同士の繋がりって意味なら神前式何だけど今現在で無双家に縁のある人たちって何人位いるのかしら?それに新しく住む場所も決めないとね。いや、いっそのこと新しく土地を買って家を建てるのもありかしら?」「いや、先ずはどんな式にするかでしょ。確かに神前式もいいがお父さん的には月詠のドレス姿も見たいわけで…。」「あぁ~確かに教会式も憧れるわねぇ~」と話し出す2人を尻目に「こりゃ長くなるね。命様先に我々を応接室に戻して貰えませんか?いい加減に私達も腹が空いたもんで満たしたいのですよ。龍。あんたも来なさいあの2人がああなったら暫く誰の言葉も耳に入らんからね。」と唄が命に話しかける。命もそれを理解しているらしく快く『大窓』を開くと月詠と清隆を残し全員が応接室に帰っていく。因みに2人が気付き戻ってきたのは30分後になってからだった。「まぁとりあえず、婚姻届は出すけど挙式や新居は月ちゃんの卒業に合わせてってことで。」〝意義なし!〟と合流してからもずるずる話をしている2人に対し半ば強引に決定を出したのは椿だった。最初こそ文句を言ってきた2人だが椿がなにやら耳打ちをした瞬間に納得し大人しくなる。「さぁそろそろいい時間だ、今日はもう解散といこうか。」と唄が22時を回った辺りで集まりの終わりを告げる。「それなら最後に私から龍護様と言うよりはヨミちゃんに1つ提案というかお願いがあるんだけどいいかな?」と先程まで借りてきた猫の様に大人しかったアリナが手を上げ声をかける。「どうしたのよ、あんたが改まって、いつも通りずけずけ言ってきなさいな。」と笑っていた月詠だがアリナの次の言葉に戦慄が走る。「なら遠慮なく、龍護様。ハーレムを作りませんか?お家再興の為にも世継ぎは沢山いる方が良いと思いまして。ついでに言うとそのハーレムには私も参加させて頂きますよ。」ととても良い笑顔で物凄い発言をするアリナに龍護は何を言っているのか要領が掴めずに唖然とする。「な、そんなの認めるわけないじゃない!悪ふざけをするにしても言って良いことと悪いことがあるでしょ!」と月詠慌てながらもアリナの提案に反対の意思を即座に示す。「どうしてもダメ?」「絶対ダメ!」とアリナが月詠に確認を入れるとスマホを取り出し何処かに電話をかける。「あ、もしもし?私、アリナだけどヨミちゃんが龍護様と婚約しちゃってさ、ヨミちゃんにしょうがないからハーレムの提案をしたんだけど駄目だったからアレの準備よろしく。日時はそうね、1回目は今度の土曜日朝7時から日曜日朝7時までで後は妊娠出来てなかったら次々って感じでよろしく。あぁ後猿轡とか拘束具の準備もよろしくね。」とアリナが電話を切ったのに合わせ月詠がアリナに問いかける。「なによ今の電話、妊娠とか次々とか不穏なこと話してたけど。」月詠が戸惑いを隠せないでいるとアリナが「何ってただの掟だよ、お・き・て。」とアリナが答えると今度は龍護がアリナに「ハーレムを作らせようとしてるのと掟がどう関係するんだ?てかハーレムって作っていいものなの?」疑問に感じていたことを聞いた。「掟に関してはわかりませんがハンターライセンスがCランク以上の人は本人達の同意と正妻、この場合は月詠先輩ですね。先輩の同意があれば多夫多妻は認められています。なのでランクがBランクである龍護様は月詠先輩が認めればハーレムができる、できないで言えば出来ますよ。」と空良がギルドの制度について説明をするとアリナが「夜鴉の女頭主が無双家から寵愛を受けられなかった場合全裸で拘束された状態で男性が集まりそうな場所に24時間放置される、この状態で放置されていれば確実に犯されると思うからこれを妊娠するまで続けなさい。って掟ですよ。」とアリナが余りにも酷な事を平然と言う。「な、そんな事しなくてもいいじゃない!龍ちゃんじゃなくても好きに恋をして、好いた人と結婚すればそんな掟守る必要もないじゃないの!」それを聞いた月詠は声を荒げ意見をのべるが月詠の言葉に対しアリナは淡々と「夜鴉の頭主は代々無双家の頭主を主と定め使えてきたの。夜鴉の頭主は己の髪の毛一本から血の一滴までを捧げ無双家の頭主の為に心技体全てを鍛え磨き上げる、そして女頭主の場合は夜の奉仕も仕込まれるわ。そして主の為の技術を他の人に使うくらいならってことでこの掟が作られたの。まぁ精神崩壊はするだろうし出産後は尼寺に入る人がほとんどだったと思うけどね、それに夜鴉が経営している所の一つで尼寺があるし。あぁ、因みに私は処女だから安心してね。いくら奉仕を仕込まれていると言っても処女貫通まではしてないから。」とアリナがずれた事を言うので月詠を含め全員が呆気にとられる。「てか、龍ちゃんは何でさっきから黙ったままなのよ。龍ちゃんが主なら龍ちゃんが命令して止めさせればいいじゃない。」と月詠が龍護の方を見ると何やら一生懸命に耳の穴を気にしていた。「あぁ、この話は無双家頭主には絶対秘密なので掟の話をするに中って龍護様の耳は塞いでおきました。ですので皆様も他言無用でお願いしますね。もし破りでもしたらどうなるかわかりませんよ……」と不穏な笑みを浮かべ全員を威圧する。「あんたの覚悟は分かったからせめて考える時間を頂戴。さすがにこの場で答えを出せるだけの度量はないわ。」「あら以外、すっぱり拒否すると思ってたのに。」とアリナがわざとらしく口にすると「当たり前でしょ。あんたを認めたら最悪あんた以外のお嫁も増えるかもしれない。かと言って認めなければあんたが恐ろしい目に合うんだもの簡単にはだせないわよ。」「そっか、相変わらず優しいねヨミちゃんは。それなら気長に待つとするよ。龍護様もヨミちゃんが答えを出すまで保留って事で良いね?」とアリナは指を鳴らしながら龍護に話を振る。「よくわからないけどヨミ姉が納得したならそれで良いけどハーレムを作るほどか?」と龍護は当然の疑問を投げ掛ける。「もし万が一ヨミちゃんに何かがあって子供ができない状態になってからでは遅いでしょ?それにハンターってランクが上がるほど危険な仕事も増えるからその分子孫を残そうと性欲が大きくなる傾向があるのでヨミちゃんだけだと身体が持たない可能性もありますし。」とアリナがハーレムの必要性を説明する。「まぁとりあえずはヨミちゃんの返答待ちってことで、私からは以上です。」とアリナが強引に話を切ると「それでは他に無いな!解散!」と唄が改めて解散を告げる。そして帰り際アリナが空良に近づき回りに聞こえないように小さく「私が認められれば貴女も入れるわよ。良かったわね。」と空良の肩を軽く叩いては自室に戻っていくのであった。

エピローグ

寮の一室。この部屋の住人のスマホには1つの動画が送られていた。その動画は床を映しているところから始まり徐々に上を撮していく。そこには男の父親が磔にされ右腕が肩から切断。そして切断に使われたであろう刀が切られた右腕に刺さっていた。そして画面が暗転すると先程まで音声がなかった動画から濡れた肉同士が激しくぶつかる音と誰かがえずく音が黒い画面から聞こえてくる。そして徐々に明るくなっていく動画には中学校入学以降会えていなかった可愛い妹2人と厳しくも優しかった母親が人間は勿論、獣魔種のオークやゴブリンといった妖魔に慰みものされている所だった。それを見た瞬間、男は胃から込み上げてくる物を耐えきれず布団の上に嘔吐してしまう。そして男が落ち着いたのを見計らった様なタイミングでスマホが着信を告げる。かかってきた番号に見覚えが無いものの男には思い当たる事が合ったため電話に出た。「お前が狸亜か?」「おや、私の情報がすでに出てるとは驚きだね。改めて、始めましてアビス戦闘部隊副総長殿。私、アビス戦闘第一部隊部隊長、狸人族の狸亜と申します。以後お見知り置きを。」男が訪ねると電話の主、狸亜は少し上ずった声で挨拶をかわす。「そんな軽い挨拶はどうでも良い!親父は自らアビスに鞍替えした男だからどうでもいい、だが春菜と秋沙、お袋が何故慰みものになっている!俺がアビスに協力する時、孤玖理やボスと交わした契約は[親父を除き俺自身を含める俺の家族には一切危害を加えない事]だったはずだ、なのにこれはどうゆう事だ!」と男は声を荒げ怒りを露にする。「なに、何てことはない。これは今回の任務失敗の責任を取って貰っただけですよ。」と狸亜はクスクス笑いながら答える。「責任だと?ふざけるな!俺が在学中の間は学園には攻め入らない、任務も連絡がなければ関わらないって契約を孤玖理と交わしているのに去年から毎月のように攻めてきやがって、今すぐそっちに行っててめぇら全員細切れにしてやろうか!」と男は電話口でありながらも殺意を剥き出しにする。「その契約はあんたと孤玖理様が結んだものだろ、私には関係無いね。それにあんたの任務失敗の責任を取らされたのは父親だけだ。何もおかしいことは無いだろう?」「何だと?それなら何故妹達とお袋が慰みものになっているんだ!」「それなら順を追って説明するよ。まず孤玖理様はある2つの薬を作った功績が認められ開発局局長に就任した。結果として私が孤玖理様の後釜に就いた。その2つの薬は強育薬と強妊薬と呼ばれるものでな、強育薬の方は飲ませると胎児を1週間から10日程で戦闘可能な肉体にまで成長させる薬だ、そして強妊薬は雌に飲ませる事で100%妊娠させるって代物でなこの2つを併用することで去年からほぼ毎月学園に攻めいる事が可能になっている。因みに孤玖理が完成したオリジナルは副作用一切無しの安全な薬だがそれだとつまらんから強育薬の方は凶化するように、強妊薬は催淫作用と依存性を追加した改良型を与えているよ。お陰で部下の欲の捌け口にもなるし戦力は増えるしで良いことずくめだよ。」と高笑いを挙げながら狸亜は男に語りかける。「アビス関係無しで今すぐ殺してやろうかこのクソ狸!」とスマホを握り潰しかねない殺意を込めて男はいい放つ。「やれるものなら殺ってみたまえ、ただ君はこの家に近づけないがね。そういう催眠をすでにかけてる。なんの対策もしないでこんな話するわけ無いだろう?あぁ因みにこの家周辺には人払いと認識阻害の結界を張っているから誰かに連れてきてもらうことも不可能だよ。残念だったね。」と狸亜は再び男を嘲り笑う。男が悔しさで歯噛みしていると「さて君には任務を言い渡す。期日は学園に合わせて来月のGW、ターゲットは無双龍護を匿っていた隠れ里『孤里』及び孤里の守り神とされる霊獣『霧亀』の討伐だ。兵力はこちらでも用意するが君も万全を尽くしてくれ。それでは、おやすみ良い結果報告を期待しているよ。」と告げると電話が切れた。男は自分の吐瀉物で汚れた布団を洗濯にかけると浴室に入りシャワーを浴びる。浴室からは水の流れる音とは別に小さな泣き声が漏れていた。

オマケ1

「そういえばヨミ姉。」と龍護は応接室からの帰り際に月詠に話しかける。「どうしたの龍ちゃん?夜這いの宣言?」「違うよ。俺が付けている翻訳レンズとイヤーカフの調子が悪いのかこの町に着いてから読めない文字や聞きなれない言葉が聞こえてくるんだけど修理してくれるところって何処にあるか知ってる?」翻訳レンズとは獣人種や精霊種といった種族の文字から外国の文字に至るまで幅広く翻訳してくれるアイテムで現代に生きる生物に取っては無くてはならない物である。因みに耳につけるタイプは種類が広くアクセサリーとしても使えるイヤリングタイプやピアスタイプもあればハンター等の戦闘をこなす人たちに人気な伸縮性のあるシリコンのような素材でできた簡単には外れないタイプまで幅広くあるアイテムである。「う~ん、一応24時間やってる店行ってみる?店長が夜勤に戻ってきてればその場で見てもらえるし。」と月詠は自分が思い当たる店を想像しながら答える。「店長さん?今はいないの?」「うん。去年に子供を授かって育休取ってたみたいでね、去年から店長が居なかったから修理に出すと戻ってくるのに1日かかってたんだよね。」と月詠達の会話が聞こえていたらしく「『クリムゾン・リーフ』の店長の事か?だったら先週から復帰してるみたいだぞ。委員の奴等が世話になったって言ってたぜ。」と錬が月詠の話に混ざってくる。「あ、本当に?だったら今から行きましょう。空良!あんたのやつは大丈夫なの?」と月詠は行くことを決定し空良にも声をかける。「私は特に問題は無かったので大丈夫ですかね。それよりも昼間の事で疲労が溜まっているので私はもう寝ることにします。龍護様、明日も学園があるのですから帰りはあまり遅くならぬようにしてください。私は先に休ませて頂きます。」と空良は欠伸を噛み殺しながら自室に向かう。「空良にも釘を刺されたことだしさっさといきましょうか。」と龍護の手を取ると月詠は寮への道から外れていくのであった。

「それで今から行く『クリムゾン・リーフ』だったっけ?10年前は聞いたことがない店だけど。」「そうね、わりと新しい店になるのかな?そこの店長さんが凄腕でね、『翻訳レンズ』も『翻訳ピアス』も1時間もあれば修理してくれるんだから。」と自分の事のように月詠は自慢してくる。「そんな凄腕の職人がいるんだ、すごいね。」「実は前にAランクへの昇級試験の時に店長さんと飛竜種のレックス・ワイバーンの群れの掃討クエストに行ったことがあるんだけど試験官ってギルドの役員、もしくはSランクのハンターがギルドの役員として同行する決まりらしくてねその時に教えて貰ったのよ。ハンターランクがSを越えるとハンターの名簿から名前を消されて好きに依頼を受けられなくなるって、だから貴女はA+で留めときなさいってね。しかもそれだけじゃなくてね、夫婦共にハンターランクがSだからギルドからの指名依頼が無いときは副業をしてるんだって。それにね店長さんの霊術も面白くてね自身の血を媒介にする『血霊術』を使うみたいでね、同級生にも使う人がいるんだけど対して凄くないからって最初は無礼てたの、その時はお父さんにも勝ったばかりだったから天狗になってたのね、だけどいざ共闘してみたら『血霊術』の初歩中の初歩の技『血刀』一本で群を半壊させてたの、あの時の光景は今でも瞼に焼き付いてるわ!」と月詠は少し興奮気味になりながら語り出す。そして興奮冷めやらぬ月詠の話を聞いていると「あ、もう着いたわね。ここが言ってた所、ハンター達の何でも屋!『クリムゾン・リーフ』よ!さぁ入りましょうか。こんばんわ~店長居ます~?」と月詠が大声と共に扉を開けた瞬間月詠は何かをかわすようにその場にしゃがみこむと後ろの方から「ドゴンッ!」と鈍い音がする、龍護が振り替えると後ろにあった壁に複数の穴が開いていてその内の1つには真っ赤な刀が突き刺さっていた。

「こんな夜中に大声出すんじゃないよ、近隣に迷惑かかんだろうが。そんで?年頃の女が男連れてなんのようだい?ここはデートとは縁遠い場所だと思うけどね。」と店の奥から肩まで伸びている銀髪を後ろでひとまとめにした女性が肩に真っ赤な刀を携えて出てくる。「久しぶり~、元気だった店長!」と月詠は何のも気にせずに店長と呼ばれる女性に抱きつく。「いちいち抱きつくなまどろっこしい!でこんな夜中になんのようだい?」と月詠の顔面を鷲掴みにして引き剥がすと用件を訪ねてくる。「あぁ、紹介するね。こちら私の婚約者の無双龍護君。今日は龍ちゃんの翻訳機器の様子がおかしいから見てほしいの。」と月詠が龍護の紹介と用件を伝える。「へ~てことはなにか?お前さんお転婆娘に勝てるほど強いんか?見かけによらんねぇ、どれ。」と店長は龍護と視線を合わせたとたん瞳孔に変化が現れ龍護に対して強大な殺意をぶつける。龍護は向けられた殺意に反射的に『神霊闘気・雷神』を発動していた。「なるほどね、おいお転婆娘婚約者の紹介はいいけど彼に私の紹介はしてくれないのかい?」と龍護から視線を切り殺意を納めると月詠に声をかける。「それもそうね、こちらこの『クリムゾン・リーフ』の店長でクリム・ドラゴさん。まぁ本人曰く偽名らしいけどね。」と月詠が紹介を済ませると「さっきはすまんね、改めてクリム・ドラゴだ、殺意をぶつけたのは度胸試しみたいなもんだから気にすんな。」と笑いながら握手を求めてくる。「初めまして無双家新頭主、無双龍護です。こちらもいきなり構えてしまいすいませんでした。これからちょくちょく来ると思うのでよろしく。」と龍護も『神霊闘気』を解き握手に応じる。「さて、そんで今日は龍護君の翻訳機器の調整でいいのかな?そんならサクッとやっつけるから早速見せてもらおうか。」とクリムは龍護から翻訳機器を受けとると10分位で戻るから適当に店内を見てなと言い残し店の奥にある作業室に向かっていった。「いや~さっきはいきなり殺意をぶつけられてびっくりしたよ。ヨミ姉は知ってたの?」「何でも初めて来る人で強そうに思えた人やハンターには毎回やってるみたいよ、私達もやられたし。」と月詠や錬、菫も同じ目に合ったと言う。「理由は分からないけど噂ではギルドの職員から頼まれてやってるみたいよ、何でも最初のうちに強烈な殺意をぶつけることによって新米ハンターの死亡率を下げるためだって。」と龍護と月詠は会話をしながら店内を眺めていると店の奥からクリムが出てきた。「もう直ったんですか?」と龍護がクリムに訪ねるとクリムは首を横に降る。「君誰も来ないような山奥で暮らしてたりした?君が着けていた翻訳機器は今流通しているやつより古いタイプなんだけど、今のやつが開発されたときに和国の国民全てに新型が配られているの、この旧世代と交換で。だから結論から言うとこれは壊れてはいない、ただ古いだけだね。新しく新型を買うのをおすすめするよ。」とクリムは龍護から預かっていた物を返す。「因みに新しく買うとなるといくら位になるんでしょうか?」と龍護は少し戸惑いながらクリムに訪ねると「一般的なやつだと2つ合わせて1万リール位だがおまえさんハンターだろ?それだと一般モデルだとすぐ壊れるから戦闘型になるな。因みに値段は2つ合わせて5万リールだ。」とクリムはポケットから取り出した棒付飴を口にしながら答える。「龍ちゃん手持ちあるの?なんなら私も少し出そうか?」と月詠が耳打ちしてくるが「大丈夫だよ、ヨミ姉。すいませんギルドの口座からの支払いでも大丈夫ですか?」と龍護は月詠の提案を断り自分で支払いをすることに決める。「あいよ、ならライセンスカード持ってこっちに来な。」と龍護はクリムの案内に従い支払いを済ませた。「それで、物事態はいつ頃届きますか?届く頃に取りに来るので」と龍護はクリムに訪ねると「あぁ?んなもん10分で用意してやんよ。ほれ、この機械の中にどの指でもいいから入れてくれ。」とクリムはカウンターの下から真ん中に小さな穴が開いた黒い箱を取り出す。龍護が指を入れたのを確認したクリムが箱の上部を操作した瞬間龍護は穴に入れた指に激痛が走り急いで指を引き抜く。「あんたいきなり何しやがった!」と龍護は引き抜いた指を見てみるが激痛の割には目立つ外傷はなかった。「この機械だと血を変換するのは早いけど痛みが伴う、とありがとう少年また適当に時間潰しといてくれ、10分で戻る。」とクリムは龍護の質問を無視してまた奥に引っ込んで行った。龍護が指をさすっていると「あぁ~、龍ちゃんもやられたか。」と一部始終を見ていた月詠が声をかける。龍護が説明を求めると月詠はクリムの悪癖だと語る。「店長はエンジニア?としても優秀なんだけど効率化のためって言って作った自作の機械をそのまま客に試す時があるのよ。私もやられたけど私の時は指が粘液まみれになったわ。」と死んだ目でハハハと空笑いをしていた。少しすると店長のクリムが店の奥から出て来て龍護に小さな箱を渡す。「そん中にはハンターの連中が愛用してる高耐久の物が入ってる、まぁ壊れたりしたら持ってきないくらでも直してやるからさ。」そう告げたクリムは毎度ありと言うと龍護達を見送った。「なかなか個性的な店長さんだったね、色んな意味で。」と龍護が呟くと月詠が「まぁハンターをやっていくならこれからお世話になる所だから、本当は他にも色々案内したいけどそれは週末ね。それじゃ帰ろっか。」と月詠は笑顔を浮かべ帰り道を並んで帰る二人を見ながらクリムはスマホを取り出すと何処かに電話をかける。「もしもし、今ね無双龍護って子が店に来てたわよ、あなたには少なからず関係があると思ったから先に教えておこうと思ってね。詳しい話は家でするわ、じゃあね。ふふ、これからは楽しくなりそうね。」とスマホをしまいながら店に戻るのだった。

オマケ2

ここは闘魔学園のある輝闇町郊外にひっそりと佇むバー、そこにはバーには似つかわしくない少女の姿があった。「すまないね、大和。突然来て今日は貸し切りにして欲しいなんて頼んで。」「いえいえ、唄さんには100年前から色々お世話になっていますからこれぐらいはどうってことないですよ。ところで何か嬉しい事でもありましたか?貴方がハイペースで魔酒を飲むとは珍しい。」と唄は謝りながらグラスに注がれた酒を楽しんでいた。因みに店に着いてからまだ30分足らずで既に10杯目である。「ん~、いやね今まで孫当然のように思っていた龍護が旦那の技をまだ拙いながらも使っていたのが嬉しくてね。」とグラスの酒を呑みながら答える。「旦那と言うと無双龍郭様でしたっけ?あの方の技と言うと……あぁ『霊然一体』ですか。あれは厄介でしたねぇ、いまだに焼き貫かれた腹が痛みますもん。私に使わないように言い聞かせておいてくださいよ?」と酒場の主、大和と呼ばれた男は腹を擦りながら唄の空いたグラスに酒を注ぐ。「あの時の事はしょうがないよ。お互いにターゲットと誤解していたんだ。あんたもハンターを引退してもう長いんだ、龍護と戦う事はないさ。まぁ酒を飲みには連れて来るがね。」「あぁ、もう15は越えてるんですね、それなら最高の酒を用意しときますよ。あなた見たいに飲めるかはわかりませんがね。」と二人が笑いなが話をしていると乱暴に店の扉が開かれる。「あぁ、こんな所に飲み屋があったのか…おい!なんか適当に酒とつまみ持ってこい!」と見るからに酔っぱらいの男二人組が入ってくる。「お客さん、すいませんが本日は表の看板にもありますが貸切なんです、また後日お越し下さいませんか?」と大和が優しく追い返そうとするが、男達は唄がいることを理由に帰ろうとはしなかった。「ですから、本日はこの方の貸切なんです。申し訳ありませんが本日はお引き取り下さい。」「あぁ~、ふざけんな!なんでこんなガキがよくて俺らみたいな大人はダメなんだよ!おいガキ!この店は今から俺達の貸切だ。ガキは帰って寝てろ!」と唄にまで絡む男達を見て大和が少し怒気を纏う。「そこまで言うなら大人のお前さんらには私と同じ酒を飲んで貰おうかな。見たところハンターのようだし、ちょうどいい。大和、用意してやんな。」と大和が何かする前に唄がそう提案をした。大和が二人の前に酒を用意すると唄が酒の説明を始める。「この酒は少し特殊な酒でな、魔界に住むある一族が作る魔酒で銘を『酒極』と言って飲むのに霊力って言っても最近の若いやつには伝わらんか。魔力を込めて飲む酒でな、込める量と質で味が変わる別名『千変万化の酒』と言われているがもう一つ呼び方があってな『ふるいの酒』とも呼ばれておる。込め方を失敗するととてつもなく不味くなる魔力操作が重要な酒だ。お前らが飲めたら今夜はここを貸切といい、金も払っといてやる。ただし飲めなかったら今すぐ出ていきな。」と男達に言うと男達は唄の教えに従い魔力を込め酒を一気に飲み干しグラスをカウンターに置いた瞬間男達はそれって噎せ込み吐血する。「あぁ~やっぱり飲めなかったですね。この酒は込め方を失敗すると不味いだけじゃなく強すぎるアルコールのせいで喉が焼けるんですよ。お客さん達、今日は大人しく帰りな。」と先ほどまでは優男風だったはずの大和がどんどん筋骨隆々の上腕が四本ある鬼へと姿を変えていく。それを見た男達は我先にと逃げていった。「やっぱりこの姿は怖いですかね?」と先ほどまでの優しい声音から一変し低く腹に響くような声で唄に話しかける。「いや、あいつらが臆病なだけだよ。それよりその姿だとつまみ作れないだろ、早く戻りな。」と二人で笑いながら話をしていると再び店の扉が開く。「すいません、遅くなりました。別れた後スマホにここに来るようメールが来てたので驚きましたよ。」と唄の隣に座りながら清隆が唄と同じ酒を注文する。「それでわざわざ店を貸切にしてまで俺に聞きたかったことってなんですか?」と大和が用意した酒とつまみを口にしながら清隆が本題を切り出す。「あぁ、お前さんに教えて欲しい術があってな。」「教えられる範囲なら教えますが、俺が先生に教えられることってあるんすか?」「はっ、普段は私の事を『先生』なんて呼ばないくせにまた懐かしい呼び方をするじゃないか。」「まぁ、俺も大人ですからね。それよりも教えて欲しいことって?」「死者蘇生の召還術だ、確か椎名家の四代目夕月が使っていた術だ、それを教えて欲しい。」とここまで黙って聞いていた大和が恐る恐る声をかける。「あの、それって俺が聞いててもいいですか?」「まぁ、秘術って分けでもないんで大丈夫ですよ。それよりも結論から言いますと教えることは出来ません。あの術は『召神・伊邪那美命』の能力が関わっている事まではわかっているんですが過去に伊邪那美命、それも源神と契約出来たのは後にも先にも四代目の夕月だけなんですよ。しかも文献にも残してないみたいで目録に誰が何と契約していたか位の情報しか載ってないんですよね。」と清隆は唄に申し訳無さそうにしながら答える。「そうだったのかい、ところでその源神ってのはなんなんだい?私は初めて聞く言葉だが。」「あぁ~やっぱりですか。まぁ召還術を学んでなければしかも神や悪魔といった最上級に関わることがなければ聞かない言葉ですもんね。源神ってのはその名の通りの意味でその神そのものの力を扱うとても強力な個体の事です。そもそも召還術とは言え同じ神や悪魔を契約しているのに疑問を感じませんでしたか?そしてそれらが扱う能力が微妙に違っているのにも。」とここまで言われて唄はそう言えばと考える素振りを見せる。「それは源神の力を部分的にしか引き出せない分神を使っているからです。まぁ、源神にも分神にもそれぞれメリットとデメリットがありますが聞きます?」との清隆の問いに唄は間を置かずお願いと答えた。すると清隆はアルコールが入っているのもあるのかかけてもいない眼鏡を動かす素振りを見せ魔力で空中に文字を書き始める。「まず源神のメリットそれは能力が分神と違ってかなり強いってことですね。娘が使っているツキヨミで説明しますと私が把握してるだけで能力は3つ、1つは今日転移でも使っていた『大窓』あれは人型以上の大きさの物を転移させるのに使っています。まぁ、月詠は敵の攻撃を相手に返す防壁としても使ってますが。2つ目は『小窓』って言う能力です。これは人型以下のサイズを転移させるのに使っています。なんで複数いる敵の真上に小窓を大量展開してそこから重量物を落としたり1つの入口の連続で魔法を放って大量に作った出口から放出、なんかも可能です。そして3つ目『瞬窓』これは私も詳しい事はわかりませんが何でも月詠が見えている範囲なら何処にでも瞬間移動が出来るといった能力見たいです。とまぁ、これが月詠が契約している源神・ツキヨミの能力ですが分神となると今言った能力がどれか1つしかもランダムで得る事になります。まぁ、神によっては分神が人型のもあれば動物型もありますし、武器だったなんてこともありますが。続いては源神のデメリット、これは契約方法が不明瞭かつ契約者が死ぬまでは同じ源神とは契約出来ない点です。契約出来ない理由は同じ神が存在しないからですが契約方法が不明瞭なのは契約の時にその方法を記憶から消されるからとされています。これは俺が契約している源神・スサノオに聞いたので確かな事です。続いて分神のメリットこれは契約方法が簡単かつ何回でも契約出来る点です。特定のダンジョンをクリアすれば簡単に契約出来るんでダンジョンの難易度次第ではありますが契約自体は簡単です。その証拠に椎名家6代目夕華は源神とは一切契約していない代わりに分神との契約を5万ほどしていたと記されています。デメリットとしてはやはり源神と比べるとどうしても性能が劣ってしまう事ですね。以上が源神と分神の説明でした。」と清隆はわざとらしくお辞儀をするしかし「源神やら分神についわかったから伊邪那美命との契約場所を教えてくれよ。方法はわからんでもどのダンジョンに行けば出来るか位はわかっているんだろ?」と唄の返しに清隆は難色を示す。「あんな所ダンジョンなんて言いませんよ。あんなのは自殺志願者が行くところです。」と清隆は愚痴をこぼしながら話を続ける。「道中の魔物は雑魚ばかりなのにダンジョンボスはやたら強いしやっとの思いで倒しても意味がわからない腐蝕したものがドロップするだけ、だからといって道中のアイテムも腐蝕したものがほとんどでたまにまともな食い物があったなと思って口にするとたちまち腐り果ててしまう始末。あんな所に行く価値はないですよ。」と清隆がまくし立てる中を唄はそれでも行かなければならないから教えてくれと頼み込む。そんな必死な唄を見て清隆も折れたのかため息をつきながら唄のスマホにあるものを送る。「今送ったのは特別許可証とそこに行くまでの地図です。あそこは四代目が施した術の影響で迷いの森になっているのでその地図がないとたどり着けないようになっています。後森の入口にいる守衛にその許可証を見せれば入れてくれるはずです。一応気を付けてくださいね。あそこはダンジョンの中でも最高難易度のSSSランクダンジョン名『黄泉への入口』別名『自殺者の墳墓』生きて、いや五体満足で帰って来た人はほとんどいないんですから。」と清隆の言葉に唄は自信満々に「私だってまだまだ現役で身体張れるとこ教えてやるよ。さて久しぶりに『鳴無』の唄活動開始と行きますか。あぁ、私がいない間学園の事は頼んだよ。それと私と連絡が出来なくなっても心配はいらんからね。」と唄は軽快に店を後にする。しかしここから約半年唄とは連絡が途絶えるのであった。

最後まで読んで頂き誠に有り難うございました。この続きも不定期ではありますが書いていく予定ですのでそちらも読んで頂けたら幸いです。

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