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メリッサの救出、リジャンの奮闘

 シェルモギたちが遁走(とんそう)すると、廃墟に法師が現れた。

 

「邪の気配に紛れて探すのに手間取っていました。不意に、邪が消えましたもので」

 

 法師は申し訳なさそうに告げた。

 

「シェルモギとレュネライが消えたからだろうね」

 

 ルードランが応える。

 

「やはり、シェルモギが……?」

 

 法師の表情が驚きに曇る。

 

「子供になっていました」

「成長し直しているようだね」

 

 ルードランとマティマナの言葉に、法師は思案気な表情を浮かべた。

 

「シェルモギの場合、普通の成長とは違い、大量の魔気を使うのでしょう。調達を止めねばなりません」

 

 レュネライが膨大な量の魔気を収集していることから推測したのだろう。

 完全復活してしまうまでに、どのくらいの刻が残されているのか。マティマナは落ち着かない気持ちだけれど、急いで何か手立てを考えないといけないことは分かった。

 

「できることは、なんでもします!」

 

 マティマナは、不安な表情を抑え込みながら決意めいて呟いた。

 

 

 

 全員まとめて法師の転移で戻った。メリッサが連れ去られた、城の門の近くだ。リジャンにはバザックスとギノバマリサが着いていてくれた。

 ひとり取り残してしまって心配していたので、ホッとする。メリッサが抱っこして連れていた雅狼(がろう)が、喜び勇んでリジャンに飛びつき、魔石のなかへと消えて行く。

 

「雅狼ちゃん、大活躍だったわよ!」

 

 マティマナは、リジャンへと感謝の気持ちを込めつつ告げた。

 

「はい! 頼もしかったです! ありがとうございます、リジャンさま!」

 

 メリッサは蹌踉(よろけ)けながらリジャンに駆け寄り、躊躇(ためら)いもせずに抱きついた。叫ぶような声は、喜びにあふれている。

 リジャンは突然のメリッサの行動に吃驚(びっくり)した表情ながらも、しっかりとメリッサを抱き留めていた。

 メリッサは、そうとう怖かったはずだ。マティマナを護るために自分を犠牲にする覚悟だった。

 

「良かった。メリッサが無事で。みんな戻ってくれて。本当に……」

 

 リジャンは安堵の響きの声を響かせる。

 メリッサは聖なる髪飾りが効いたようだ。聖なる空間に包まれているようで邪の魔法にかかりはしなかったし、邪教の鎖を掛けられても操られることもなかった。

 

「姉上、ルードラン様、法師様、メリッサを助けて下さって有り難うございます! 雅狼の眼で、全部見てました」

 

 リジャンは残されてしまったけれど、瞬時に雅狼をマティマナたちに付けた。凄い判断力だと感心してしまう。雅狼の眼を通じて、状況が視えていたようだ。リジャンの魔石の凄さを垣間見た思いだ。

 

「雅狼ちゃんが頑張ってたのは、リジャンが遠隔で指示してたのね?」

 

 納得しながらも確認するようにマティマナは訊いた。リジャンは頷く。

 

「ありがとうございます! リジャンさま!」

 

 徐々に落ち着きを取り戻しながら、メリッサは遠く離れたところからリジャンが自分を護っていたことを知ったようだ。声は感動に満ちて響く。

 

「バザックスさま、それにマリサ、リジャンを支えてくださって感謝いたします」

 

 マティマナは丁寧な礼とともに伝えた。

 雅狼をつけたとはいえ、リジャンはひとり取り残されて心細かったろう。しっかりしているように見えるけれど、まだ十四になったばかりだ。

 

「いや、リジャンは、なかなか素晴らしい奮闘ぶりだったよ。魔石がずっと輝いて、とても美しかった」

 

 バザックスは絶賛してくれている。

 

「リジャンさまが、雅狼ちゃんを通して状況を伝えてくださったの。みなさま、ご無事でなによりです」

 

 ギノバマリサもホッとした様子だ。リジャンからの言葉を聞きながら、気を揉んでいたことだろう。

 

 

 

 メリッサは聖なる髪飾りを身につけることで、邪の魔法を弾いていた。

 領民たちを護るには、聖なる品が必須かもしれない。とはいえ、行き渡らせるには余りに大量の品が必要だ。そして行き渡らせる方法もマティマナには見当がつかない。

 

「聖なる品を都に普及させたいのだけど、一点ものじゃ、値段のつけようがない気がするのよね」

 

 色々と持ち込まれた小さな素材を、聖なる品へと造り変えながらマティマナは呟いた。

 使った素材と、できあがった品を記録しているメリッサは言葉を聞きながら頷く。

 

「確かに、雑貨屋で売るとしたら同じ商品が必要です」

 

 メリッサは応えた後で、一点物なんて畏れ多いし管理が大変すぎて、と言葉を足した。何より、高額品は窃盗の危険があるのが雑貨屋で売るには難点となりそうだ。

 メリッサは商家の娘なので商品管理はお手の物のようだった。マティマナの造るものの記録をつけながら、話相手にもなってくれている。

 

「なんとか同じ品を大量に造る方法を考えてみなくちゃね」

 

 やはり、同じ素材から造るほうが、同じものになりやすい気がする。異界からの注文品は、大量に造れていた。ただ、あれは聖なる力の付与用だった。

 マティマナは同じものを造らねばと思いながらも、無造作に素材を手にし、聖なる品を造っている。

 

「あら? これ、前にも造れたことあったわね?」

 

 手にした品を見ながらマティマナは呟いた。手首に装着する、透き通った赤の腕輪だ。

 

「はい! 小さい宝石を使ったときですね!」

「でも、同じ物を使っても、別の物ができてたわよね?」

「そうですね。あ……、もしかしたらですけど、鉱石の比率が違っていたのかも?」

 

 メリッサは、マティマナが魔法を使うときに鉱石の使用状況も若干分かるようだ。分かるときは記録してくれていた。それは「造る」とは、別の能力らしい。

 

「あ、そういえは、鉱石はいつも直感的に分量を変えてしまっているかも。同じ品で、同じ比率なら、同じ物になるかしら?」

 

 もう、鉱石を別々に使うことは、ほぼなくなっていて必ず混ぜている。ただ、確かに混ぜる比率はバラバラだった。

 

「比率の固定なんて、可能なのですか?」

 

 メリッサは驚いている。マティマナが余りにもいつもばらばらな比率で混ぜているから、それが普通と思っていたのだろう。

 

「固定するのは簡単よ。変わった物が造りたくて、つい比率をかえてしまうけど。良く比率になんて気づいたわね!」

 

 逆に同じものを造ろうとしているのに、同じ比率で造ることを考え付かなかったことを、マティマナは我ながら不思議に感じていた。

 同じ品を、同じ比率で鉱石効果を混ぜて造ってみるわね、と、小さく呟きながら、たくさん手に入りそうな貝殻草を選び、半々の比率で触媒にし、聖なる魔法をかけてみた。

 

 さり気なく美しい地味めな指輪ができている。琥珀色っぽく、貝殻草の花びらの特徴が彫刻飾りのように刻まれている。

 これは、わりと普及させやすいかな? 男女問わず身につけられそう。指の太さにかかわらず丁度に嵌められる。

 思案しながら、同じ物を同じようにして魔法をかけた。

 

「あ! 同じ物ができてます!」

「本当ね! 違う品ができるのは、比率が違っていたからなのね!」

「同じ物、大量生産できそうですね!」

「色の違う貝殻草は、どうかしら?」

 

 試すと、同じ形の貝殻草の指輪。ただ、色違いにはなっていた。

 

 


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