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雑用魔法の謎

 ライセル城に連れ込めば、邪教に染まった者が正気に戻るという噂が拡がった。教団に入り浸りになった家人を、強引にライセル城へと連れてくる件数は日ごとに増えている。

 連れてきてもらえば正気に戻るので、ライセル城は端から受け入れた。といっても、敷地に入るだけで解消だ。ただ元の教団に取り残された者はいる。その都度、場所を聞きだし騎士たちが対処に向かった。

 

 あちこちの根城は、暴かれると教祖らしき美女は戻って来なくなるようだ。ただ祀られていた黒い石は、いつの間にか消えているらしい。

 黒い石に、何か秘密があるのだろう。

 

「ああ、レュネライさま!」

 

 正気が戻りにくい者もいて、教祖の名前らしきを切望するように呼びつつけている。

 選ばれ与えられた魔法で多数の信者を連れ込むと、【堕天】という魔法が褒美として与えられるらしい。その快楽が病みつきになっている。他の者たちも、羨み、黒い石へと祈り、【堕天】を得ようと努力しているようだ。

 

「レュネライ様、レュネライ様……!」

 

 ずっと夢見るように、絶世の美女だといわれる教祖の名前らしきを繰り返しているのは、【堕天】を与えられた者たちのようだ。ライセル城に入っただけでは、正気が戻らない。

 連れてきた家人たちは、絶望感に泣き崩れている。

 

 邪教の魔法がかけられているなら、聖なる魔法で打ち消せるかな?

 マティマナは状況に心を痛めながら、思案する。黒曜教へと引き込まれただけの者は、ライセル城に働く魔法で浄化されていた。

 

「魔法、あびせてみても、いいでしょうか?」

 

 ルードランへと意を決して訊いた。勝算はないが、聖なる魔法は人にあびせても安全なものだと思う。

 

「ぜひ、試してほしいな。このままでは埒があかないし、マティマナの魔法に危険はないから」

 

 頷きながら、ルードランは促してくれた。

 正気に戻らない者が三名ほど。マティマナは、清めるような聖なる魔法を三人に何度かあびせてみた。光が降り注ぎ、魔法の影響で正気を失っている者へと渦巻きながら集中して行く。

 

 きらきらきらきら、何度か魔法をあびせる。何かに憑かれたような異様な表情が少しずつ和らぐ。やがて三人から、何か暗い影のようなものがボコっと身体から抜け出したように視えた。暗い影は、直ぐに霧散して掻き消えている。

 

「……ここは? 私は何を……?」

「城……?」

「一体、何の騒ぎです?」

 

 三人は、一気に正気に戻ったようで、困惑気に周囲を見回した。城壁の内側にいるのは分かるだろうから、徐々に慌てた表情になっている。それぞれの家人が走り寄り、ある者は抱きしめ、ある者は手をとり、正気に戻ってくれたことを泣いて喜んでいた。

 

「マティマナの魔法、有効なようだね」

「はい。良かったです。ホッとしました」

 

 犠牲者たちは、騎士たちに誘導され城を出る。再度、黒曜教に巻き込まれないように祈るばかりだ。

 

「この分だと、マティマナの魔法を使ってもらう機会が増えそうだね」

 

 黒曜教の実害は、まだほとんど分かっていないが魔法で正気を失う者が多いだけでも大問題だと思う。早く、教祖を捕らえるのが良いのに違いない。

 

 

 

 鑑定士は、マティマナの雑用魔法についても調べてくれていた。

 その都度、色々と質問されて応えていたが、それを整頓し説明してくれている。

 

 雑用魔法として始まった聖なる魔法。

 雑用に特化しており、使える雑用魔法の種類は多い。

 それぞれが、使うほどに進化している。

 

 繕いが、裁縫的な要素や刺繍を可能にし、服飾品を造り変え魔法の衣装にする。といってもまだ簡素な外套程度だ。

 修繕は、片づけや探し物などと連動して、修復、そして復元に。

 掃除は、清めや呪いの除去に。

 

「最初に使えた魔法だけでは、雑用魔法と言うに相応(ふさわ)しいように思えたでしょう。ですが、進化を続けることで、万能系の魔法に近くなるのだと思われます。しかもマティマナ様の特性として、聖なる属性が付いている」

 

 鑑定士ダウゼの言葉を聞きながら、マティマナは首を傾げた。

 

「ライセル家由来の耳縁飾りからの魔法ですし、聖なる力もライセル家の物なのでは?」

 

 マティマナが訊くと、ダウゼはゆっくり首を横に振って否定する。

 

「ライセル家は、聖なる、というよりは、光の属性ですね。ですから、聖なる力は、マティマナさま独自の属性でしょう」

 

 雑用魔法自体は、本来聖なる魔法ではないってこと?

 マティマナは混乱気味に瞬きする。

 

「そうなんですか? ログス家に、そんな要素は全くないような気がするのですけど」

 

 マティマナは吃驚(びっくり)して問い返す。第一、ログス家の者は、ほとんど魔法が使えない。一般の者が極自然に使う、火を付けたり火を消したり、家を護るための力は、皆、自然に発動している。だが積極的に魔法を習いに行ったりしないから、その程度だ。

 

「マティマナ様の聖なる属性は、かなり強烈なもののようですね」

 

 生まれついてのものなのか、ライセル家と関わることになって発動したのかは謎だった。

 

 厨房の洗い物、しみ抜き、洗濯、片づけ、掃除。磨いたり、探し物をしたり、落とし物の持ち主を捜したり。

 身支度を整えたり、卓の上を整えたり。

 色々と魔法でできることを捜してきた感じだ。

 

「耳縁の飾り、外せないので他の方で試すことはできませんが、聖なる属性が付かなかったら普通に雑用魔法だったのでしょうか?」

「いえ。万能魔法に育って行くことは同じでしょう。ただ、できることは、もっと少なかったかもしれませんね」

 

 小物やゴミを片づけたり石拾いする力は、小物の転移を可能にした。確かに、できることが多くなりすぎ混乱気味だ。

 

 何より造ることが楽しすぎる。ライセル家では片づけや掃除は不要になってしまったから、その分、マティマナの比重は自然に造ることに偏っていた。

 

 雑巾、布巾、敷布、枕の袋。その辺りをたくさん造っていたから、鉱石の助けもあって色々造れるようになったらしい。

 万能魔法っぽいのだから、まだまだ使える魔法は増えるかもしれない。ちょっと怖いくらいだ。

 

「また、何か変わった魔法がでてきたら報告しますね」

「ありがとうございます。ぜひ、引き続き研究させてください」

 

 鑑定士ダウゼには話していないが、死霊使いと呼応する部分が聖なる魔法にはあった。

 認めたくはないが、死霊使いがより高度な技を繰り出すたびに進化するような、そんな印象。真逆な性質のはずのマティマナをシェルモギが欲していた理由も、その力の逆転作用のなかにあるのかもしれない。

 

 マティマナは、謎の多い雑用魔法について思案しながら、自分でも少し整頓して考えてみようと決めていた。

 

 


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