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食材庫の暗がり

 翌日、入り口を閉鎖してもらった鬼火の出た棟へとマティマナは出かけていった。

 ルードランは、鬼火のいた部屋で拾った埃まみれの品を持って、お抱え法師の元へと向かっている。

 

 鬼火の棟は、夜見たほどの埃の惨状ではなくなっていた。呪いの品を除去したことで、ライセル家に本来働く魔法が機能しはじめたらしい。

 

「あ、これなら思ったより早く綺麗になりそうね」

 

 一階の広間全体に軽く魔法をかけ不浄なものを片づけようとすると、一気に拭き清めまで完了した。

 

「あら、ライセル家の魔法の効果が強まったのかしら?」

 

 不浄なものを見つけて片づける魔法だけで、広間の床は埃除去と拭き清めまで終了して、マティマナはちょっと驚いた。

 

 窓帷や壁、柱、天井、と、次々に魔法を掛けて埃を払い、小部屋などは丸ごと魔法で清め、一階は終了。

 階段も魔法で包みながら進んだ。

 

「とっても順調ね」

 

 丁度、探し物の魔法を撒いて回っているから、この棟にも同じように魔法を撒いておく。

 呪いの品を仕掛ける者が、ふたたび仕掛けることはあると思う。

 

 階段は、手摺りや飾りの美しい柵も、魔法で綺麗さを取り戻した。埃が貼り付いて薄汚れた感じになっていたのが、真新しく美しい。

 マティマナは愉しい気分になり、どんどん魔法を掛けつづけた。

 

 昨夜片づけた鬼火の部屋は、綺麗さを保っている。

 残りの部屋は、扉は閉まっていたが埃は入り込んでいた。マティマナは少しずつ掃除を続ける。少しずつだが、最終的に一棟丸ごと魔法で綺麗にすると、すっかりスッキリした気分になっていた。

 

 

 

 呪いの元を探すことに加えて、幽霊探しも日課になっている。

 何気に実家に帰らず、ライセル家に連泊だった。

 

 呪いの品を探すのは、探し物の魔法の応用だ。なので地道に歩きながら魔法を撒く。希望の品があれば、撒いた魔法に反応してくれる。品が後から転がってきたときにも、反応して場所がわかる形だ。

 探し物の魔法は薄らと、マティマナには視えていた。まだ魔法をまいていない場所を捜して広いライセル城の敷地をひたすら歩く。

 

 マティマナが、あちこち掃除していると分かっているので、使用人や侍女たちはとても好意的だ。

 そうでなくても、裏方の手伝いをしていたから顔見知りも多い。

 

「食材庫の奥が、どうも怪しいらしいのです」

 

 そんな感じで、情報をくれる侍女や使用人も増えていた。

 

「あら? 幽霊がでたりするの?」

「幽霊はいないです。ただ食材庫の奥が、真っ暗になっていて怖いみたいで」

「暗くなっちゃうなんて珍しいわね」

 

 呪いの品があるのかもしれない。呪いの品は、一貫した影響ではないようだ。

 法師のところから戻ったルードランと、厨房近くで合流した。

 普段着姿といっても、そのまま夜会でも違和感ないほどに整えられた服装で、ルードランは相変わらず麗しい。

 

「呪いの宝飾品だったよ」

 

 ルードランは少し眉根を寄せ、溜息交じりにマティマナに告げた。法師のところで埃を除去した品を見たのだろう。

 

「同じ品が仕掛けられているわけじゃないのね。それで、場所によって違う状況になるのかしら?」

 

 石に、石人形、こんどは宝飾品。埃にまみれているけれど、宝飾品ならば拾い主が埃を落として自分のものにする可能性がある。呪いの品など直接身につけたら、どんな障りがあるか怖すぎる。

 

「見つけにくいように、色々な形のものを使っているのだろうね。でも、強烈な呪いが掛けられた品だったよ」

「仕込まれた呪いの種類も違っているのですかね?」

 

 部屋を汚すのは共通だが、病人を出したり、幽霊がでたり。

 

「手当たり次第に呪いを詰め込んだような品らしいよ」

 

 魔法の布に包めば影響は出ないだろうが、法師の元にたくさんの呪いの品が集まって行くのも、ちょっと怖い気がした。

 

「あ、そういえば食材庫の奥が怪しいらしいです。真っ暗になってるらしくて」

「灯りが点らないってこと? それは、奇妙だね」

 

 ライセル家の王家由来の魔法は、城の敷地内全体を隈なく対象にしている。

 夜は人がいれば、自然に灯りが点るはずなのだ。

 

「ええ。呪いの品があるのでしょうね。これから行ってみるところです」

「それなら、僕も行こう」

「ありがとうございます! それは、とても心強いです」

 

 マティマナとルードランが厨房へ赴くと、食材庫が暗くて困っていた者たちに歓迎された。

 

「ルードラン様、マティマナ様、お手数おかけして申し訳ございません」

「君たちのせいじゃないし、気にすることないよ」

「わたし片づけしてみますね」

 

 呪いの品が城のあちこちに仕掛けられていることは内密だ。ただ、マティマナが片づけや掃除が得意で、城内の見回りをしていると、適当に理由はつけてくれていた。マティマナが片づけると奇妙な現象が収まることは、なんとなく知られ歓迎されている。怪しむ者が居るとしたら、呪いの品を仕掛けた本人だけだろう。

 

 厨房に併設の広い食材庫へと案内された。

 ルードランとマティマナは、ふたりで食材庫へと入る。広いが入り口近くは、それなり明るい。だが、少し歩くと床がザラついているのが分かった。

 

「あ、この床、砂埃でザラつきはじめてますね」

 

 ライセル家の魔法で清潔に保たれているはずの食材庫に砂埃など有り得ない。

 

「どこかに……っていうか、たぶん暗がりの場所に品があるんだろうね」

 

 歩いて行くと途中から薄暗くなり、やがて真っ暗になった。振り返れば、明るい入り口側が見えている。へんな闇だ。

 

「これは、みんな怖がりますね。異常ですよ」

 

 暗くて怖い。急に闇に包み込まれる上で、ちょっと寒気がする。嫌な感じだ。灯りが点らないというより、点っていても暗い。

 

「呪いの品、捜してみてくれるかい?」

「ええ。片づけてみます」

 

 マティマナはいつものように、まず全体から不浄な物を片づける。

 食材庫のなかには、呪いの影響か腐っているものが幾つか存在した。魔法で専用のゴミ箱行きだ。

 

 棚は、ライセル家の魔法で時が留められているから鮮度は保たれるし腐るなど有り得ない。

 呪いのせいで棚から食材が落ち、腐ったのだろう。とはいえ、ライセル城内にある食材庫のなかで物が腐るなど、本来有り得ないことだ。

 

 マティマナは一区画ずつ魔法を掛け、片づけ始めた。

 床は綺麗になるが、呪いの品が奥にあるためだろう。闇はそのままだ。

 

「先に、真っ暗闇のなかに、魔法掛けてみますね」

「ちょっと難儀そうだね」

 

 珍しくルードランが心配そうにしている。

 呪いの品を見つけるのを優先したほうが手っ取り早そうだ。

 一番闇の深そうな部分へと魔法を立て続けに掛けてみた。

 

「あ、何かあります」

 

 嫌な燐光のようなものが埃の隙間から見えている。

 マティマナは棚と棚の合間の闇に、目測で腕を伸ばす。魔法の布で摘まむようにして引き抜く感じ。

 途端(とたん)に、さああっ、と、光が射した。ライセル家の魔法での灯りが戻ったようだ。

 

「見つけたようだね」

 

 ホッとしたようなルードランの声を聴きながら、マティマナは魔法の布で塊を包み込んだ。

 これで一安心だ。

 魔法の布で包んだものは、ルードランが受け取ってくれた。

 

「良かったです。やっぱり呪いの品でしょうね」

 

 マティマナは片づけを続けながら呟く。

 仕上げに探し物のための魔法も撒いておいた。

 

 


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[一言] 捜し物の魔法は常駐型かぁ
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