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リジャンと骨董市

 メリッサは髪飾りをつけたが、直ぐに魔法が発動できるわけでもない。

 眠るときには外すが髪を纏めるのに便利なので、起きている間はずっと身に付けているらしい。

 

「とても気持ちが穏やかになるから、眠るときにもつけたくなります」

 

 マティマナの造った品を運んで整頓しながら、メリッサは嬉しそうにコッソリ囁いた。

 とても、髪飾りを気に入ってくれているようだ。

 メリッサの所有になったためか、卓に置いたりしても変容した形のまま保っているらしい。

 

「とても黒髪に似合っていてステキよ。魔法は使う機会がないと、なかなか発動しないと思うけど」

 

 特に防御系の魔法であれば、ライセル城にいる限りほとんど必要ないだろう。

 他の侍女たちも、異界から攻められたときに渡した聖なる宝飾品を身につけている。さまざまな聖なる効果があるはずだが、通常は普通に宝飾品だ。なかなか華やかで良い。

 

「また、変容したらどうしようかと、ちょっと冷や冷やです」

 

 整頓作業をしながらも、メリッサは少し不安そうだ。

 

「気にしなくて大丈夫。別の品が変容したら、それもメリッサのために造られたものなのよ」

「畏れ多すぎます!」

「余りにも次々に変容するようなら、何か対策を考えましょう?」

 

 マティマナにとってメリッサによる品の変容は、なんだかとても楽しい出来事だ。だから、特に問題はないと感じていた。

 

「姉上、お邪魔します!」

 

 リジャンが工房へと入ってくる。きちんと整えられた服装だ。

 

「リジャン、いらっしゃい。今日は、教育はない日よね?」

「はい。ちょっと出かけたついでに……」

 

 リジャンは手に古びた品を持っている。箱のようなものと、小さな置物風の塊に見える。

 

「骨董品? 骨董市に行ったの?」

 

 瞠目(どうもく)して訊くマティマナの言葉にリジャンは頷く。

 早速(さっそく)、骨董市にでかけてきたようで、なかなかの行動力だと思う。

 

「メリッサに……贈り物」

 

 ちょっとずとリジャンは呟き、ぶっきらぼうにメリッサへと箱を差し出す。古びているが、造形の綺麗な宝石箱のようだ。おもむきがあるし時を超えてきた重みのような優しい色合いだ。

 

「まぁ、なんてステキ!」

 

 メリッサはパッと嬉しそうな表情になり、箱を受け取った。

 

「そのまま古めかしい雰囲気のままと、新品みたいに汚れを落とすのと、どっちが良い?」

 

 マティマナは訊く。雑用魔法で磨けば、汚れは綺麗に落ちる。だが、骨董品故の重厚さは消えてしまうと思う。

 

「少し綺麗になると、素晴らしそうなんだよね」

 

 リジャンはそんな風に感じながらの購入だったのだろう。その呟きにメリッサも頷く。

 

「マティさまの魔法に興味があります。魔法で新品のようにするのですよね?」

 

 メリッサは、期待のこもった灰色の瞳をキラキラさせて訊いてくる。

 

「まぁ、磨くみたいな? 汚れを落とすだけなんだけど……、やってみましょうか」

「よろしくお願いします!」

 

 ふたり同時に仲良く返事をしてくれたので、マティマナは汚れを落として磨く雑用魔法をメリッサの手にある宝石箱らしきへとかけた。

 マティマナの瞳には、きらきらと光が舞って箱を包み込むように視えているが、ふたりにはどうだろう?

 

「まあ、なんて綺麗!」

 

 魔法のヒラメキにか、手にした宝石箱が新品の美しさを取り戻したことにか、メリッサは歓喜めくような声をあげた。

 

「すごい! もしかして、本物の宝石が飾られていたのかな?」

 

 汚れの中に埋もれて輝きが霞んでいた宝石らしきは、きらびやかに光を反射し始めている。

 

「そんな、こんな高価なもの、とても頂けません!」

 

 ハッと一呼吸置いた後で、メリッサは驚きの余り困惑して恐慌(きょうこう)一歩手前だ。

 

「メリッサ、お願い。受け取って? やっぱり、思っていたとおり、メリッサにピッタリの宝石箱だったよ!」

 

 真ん中に大きな宝石を抱き、美しい細工が取り巻く。あちこちに小さな宝石もちりばめられた繊細な細工物だ。

 一辺が蝶番になっている宝石箱は、開くと高級そうな赤い天鵞絨(びろうど)張りだった。

 

「……いいのかしら」

 

 メリッサが呟く。

 ふたりの押し問答を、マティマナは微笑ましく眺めていた。

 

 

 

「その手にある、もうひとつも骨董品?」

 

 メリッサは説得されて宝石箱を受け取り、リジャンがホッとした表情になった頃合いにマティマナは訊いた。

 

「あ、これも骨董市で買いました。メリッサへの贈り物を探しにいったのだけど、惹かれてしまって」

「見てもいい?」

 

 マティマナは何気に興味津々で、犬を象ったような小さな置物風の品を受け取った。手のひらで包み込める程度の大きさだ。

 

「あら、なんだか可愛い。リジャン、こういうのが好きだったの?」

「珍しく、可愛い感じに、ちょっと惹かれたんだけど」

「この置物も、綺麗にしてみる?」

 

 なんとなく置物に催促されているような気がする。リジャンは、お願いします、と、頷いた。

 薄汚れた石の置物らしきは、軽く魔法を掛けると灰色っぽい翡翠のような風合いになる。メリッサの瞳の色に良く似ていた。

 

「ステキ。とても綺麗な彫刻が施されてたのね」

 

 マティマナは手の上で汚れがすっかり落とされ、細かい彫刻が文様が浮かび上がっているのを見て呟いた。

 リジャンへと置物を戻すと、驚愕(きょうがく)した顔になっている。

 

「なんか、頭の中に喋ってきた!」

 

 狼狽(ろうばい)したようにリジャンは声を上げながらも、誰かと会話するように頷いている。

 え? もしかして魔石だったの?

 

 余りにも即座に、リジャンは魔石を手に入れることができたようだ。マティマナの弟ではあるし、何か魔石に惹かれる要素があるのかもしれない。

 

「魔石だった……」

 

 しばらく魔石と会話していたのだろう。驚きに焦燥(しょうそう)しきったような表情でリジャンは呟いた。

 

「やっぱり魔石だったのね。何の魔石?」

 

 マティマナは催促するように訊く。魔石なら名乗っただろう。バザックスへと渡した魔石も、マティマナの頭のなかに話し掛けてきたときに名乗った。

 

雅狼(がろう)の魔石……って、言ってる」

「がろう?」

「みやびな狼だって」

 

 名前を聞いても、全くどんな魔石なのか分からない。バザックスに渡した魔石も、マティマナには全く分からなかった。

 

「それは愉しみね! 魔石なら、どんどん進化させるといいみたいよ?」

「そうみたいだ」

 

 メリッサも魔法を手に入れたし、リジャンも魔石が手に入った。馴染んだり使いこなしたりするには、時間がかかるだろうけれど希望通りになったようだ。

 きっと、ログス侯爵家を継ぐにあたって必要な品に違いない。

 先に魔法を手にいれてしまって困っていたメリッサも、ホッとしたような表情をしている。

 

「どんな進化をしたのか、ぜひ教えてね!」

 

 マティマナは、期待をこめてリジャンへと声を掛けた。

 

 


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