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貴族教育とディアート

 ディアートは王宮勤めをしていた頃の体験を交え、貴族として必要な知識と教養が身につくように教えてくれる。

 基本は、王家と五家の成り立ちと、【仙】という制度の導入だ。それは、下級貴族では到底知らされることのない情報だった。

 

「五家へは、王家の介入は有り得るけれど、【仙】の統治には王家の介入はできないの。ただ【仙】は国の守りのためにあるから介入は不要でしょうね」

 

 王家も五家も【仙】も、天上からの指示により始まっている。王家に仕える神殿巫女も【仙】であり、天上からの意思を受け取り伝える役割をしているという。

 神殿を美しく飾る、大きく豪華な水盤が天上からの伝令を映すらしい。

 

「現在ユグナルガの国には、八人の【仙】がいるの。マティが知るのは、聖王院のケディゼピスさま、キーラを派遣してくれたカルパムの大魔道師フランゾラムさま。挨拶に行くから、王宮の神殿巫女ルナシュフィさまにも逢うことになるわね」

 

 ライセル家の面々すら、雲の上の存在だと過去のマティマナは認識していた。それからすれば、【仙】などと言う存在は、想像も及ばないような、それこそ天上の者たちと似たような印象だ。

 しかし、マティマナはケディゼピスに逢い、聖女の認定を受けた。

 

「ドラシースの街の武道院はカルミッドさま、学術都市アーガラはギィランデさま、カーダランの都は仙人イフガルダさま、レビックの街の魔道院はルプラフトさま、エダリアルの街の薬師堂はテュエッカさま。名前までは覚えなくて良いですよ」

 

 ディアートは残りの五名の【仙】の名を教えてくれた。王都を取り巻くように【仙】の領地は配置されている。

 五家は、王宮に護られながら王家を守護する存在だが、【仙】の力は強大でときに王宮でさえ対処できない事態でも片づける。

 

「知らなかった……」

 

 リジャンが呟く。メリッサも同意の頷きだ。

 マティマナとしてもライセル家に嫁ぐことになる前は、五家に対する認識も曖昧。ましてや【仙】など存在も知らなかった。

 

「ログス家も、侯爵家ともなれば【仙】さま方と逢うこともあるのでしょうか?」

 

 マティマナはディアートへと問う。

 

「有り得ますよ。【仙】さま方には距離など関係ありませんから」

 

 笑みを向けてディアートは応える。

 マティマナは、下級貴族でザクレスの婚約者だった頃、狭い知識のなか狭い世界のなかで、もがいていた。

 今は小国の王家、という立ち位置のライセル家に嫁入りすることになった状態だ。緊張感はあるし慣れないことも多いけれど、色々と学ぶことができ未知の場所や事象に出会うことも増えた。

 格段に視界が拡がり、別の世界が見えてきている。

 

 ライセル家に嫁入りすることになり、とんでもない事態になったと怯えていた自分はいない。

 雲の上の存在である王家由来の貴族世界に囚われ、ぎちぎちの不自由生活になるのだと覚悟したのに、現実は逆だった。

 充実しているし、新しいことにどんどん挑戦させてくれる。取り巻く世界が広がり、愛するルードランと一緒に未来を築いていくのだという実感があった。

 

 リジャンにも、メリッサにも、そんな世界を知ってほしい。環境は違うけれど、ライセル家と縁続きになったことで、似たような世界を生きることになる、ふたりだ。

 

「ちょっと怖いけど、お姿拝見したいです」

 

 メリッサが期待に満ちた響きで呟く。

 隣でリジャンは、少し焦った気配だ。

 

「【仙】さまに関しては頭の片隅で軽く意識しておけば良いでしょう。皆、素晴らしい方々です」

「ディアートさまは、【仙】さま方々にお会いしているのですか?」

 

 マティマナは、ふと気になって訊いた。

 

「ええ。王宮の巫女見習いをしていましたから。丁度、第二王女ジナディルさまの婚儀のとき、王宮神殿に【仙】さまが勢揃いなさいました」

 

 それは、さぞ壮観な景色だったことだろう。

 

「王宮の儀式に参列しても、神殿まで入れることは滅多にないのよ」

 

 ディアートは言葉を続け、ただ五家であれば入る機会は有り得ますけど、と、足す。

 

「気掛かりは、神殿に今は神官さまがいないことね。神官さまだけが王族に命じることができます。もっとも神官になれるのは、ほとんど王族。それも王位継承権が必要なの」

 

 与えられるディアートからの知識は、どれも興味深く新鮮だ。

 

 神官は、巫女や法師と同じで清いことが第一だという。王位継承権があっても婚姻してしまったら神官への道は閉ざされる。第二王女ジナディルは、神官候補だったらしいが婚姻してしまった。

 今、王宮にいる王位継承権がある神官候補は、たった独り。ジナディルの長女で、まだ四歳くらいだ。

 

 

 

 王宮事情をディアートは折に触れて語ってくれるので、マティマナは王族に関しての知識も少しずつ身についてきていた。ただ、まだまだ秘匿されているような事柄は多いようだ。

 知識と並行し、ディアートは踊りの練習に力を入れている。

 メリッサもリジャンも、あっという間に踊りが上達した。もうライセル家の夜会でも充分通用しそうだ。

 

「まずは、ログス家で夜会を開くといいよ」

 

 ルードランは、リジャンへと提案している。確かに、メリッサのためには、いきなりライセル城での夜会ではなく、ログス家あたりで貴族の雰囲気に慣れたほうがいいだろう。

 

「はい。皆に周知させたいです」

 

 リジャンははっきりと断言した。

 

「ああ、でも、商家の娘と分かれば、リジャンさまの立場が危ういです」

 

 メリッサは、その点、とても気にかけている。マティマナはルードランに嫁入りが正式に決まったときの気持ちが甦る思いだ。

 

「気にしなくて大丈夫」

 

 リジャンはメリッサへと揺るぎない意志を伝えるように、笑みを向けて告げていた。

 ログス家の馬車でリジャンは戻り、メリッサは侍女見習いとして侍女頭からの指導を受けに向かった。

 

「メリッサの件。ちょっと手段を考えてみようか」

 

 ふたりになると、ルードランはマティマナにコッソリ囁いた。

 

「まぁ! 何か解決方法、あるんでしょうか?」

 

 マティマナのときは、ログス家を下級貴族から上級貴族へと格上げしてもらった。

 

「色々あるよ」

 

 ルードランは、愉しそうに笑みを深める。確信しているような表情だ。それなり手配が整うまでは言葉にできないのかもしれないが、勝算があるのだろう。メリッサにとって、そして、ログス家にとっても最良の手段を考えてくれているに違いない。

 貴族教育を受けているとき以外のメリッサは、楽しそうにマティマナのための仕事をしてくれていた。ぜひ、問題のない状態で、リジャンの婚約者としておおやけに認められてほしい。

 

「それと、各地で自警団が見回りを強化することになったよ」

 

 声を少し潜めルードランは告げた。

 墓荒しと、邪教の両方に対応するためだろう。

 

「それは心強いですね。被害がでる前に、解決できると良いのですけど」

 

 墓は都の外れに多くあるし、邪教の布教はあちこちで行われている。対応できる者を増やして行くしかないだろう。

 

「ライセル城からも、外の見回りを増やしてみるよ」

 

 城の護りを手薄にしない程度に、と、ルードランは言葉を足す。ライセル城は、魔法での護りが強いから問題はないと思うけれど、ルルジェの都を含んで護ることは難儀だとマティマナは感じていた。

 

 


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