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新たな鑑定士と通路の案内人

 マティマナが魔法の品々を造るための工房が、居城の二階に新たに作られた。

 広々とした空間に、以前よりもずっと大きな卓が用意されている。

 ある程度、人の出入りは自由になっていた。とはいえ、ライセル家の方々や、法師、家令、執事たちといった限られた者たちではある。

 

 もちろん、マティマナの世話をする侍女たちは付いてきていた。

 マティマナが品を造る度に、飾り棚へと移動させてくれる。明らかに同じ品は、同じ場所に。少しでも違いのあるものは、専用卓の上に鑑定待ちとしておかれていた。

 

「マティさま、魔法が使えたのですね」

 

 飲み物を運んできてくれながら、メリッサがコッソリと呟いた。

 そういえば、メリッサの前で魔法を使ったことはない。いや、雑用魔法はこっそり使っていたから、気づかなかったのだろう。

 

「そうね。数年前くらいからかしら。品が造れるようになったのは極最近だけど」

 

 魔法の布と呼ばれる雑巾のたぐいは以前から造ることができたけれど、宝飾品めいた物まで造れるようになったのは触媒となる鉱石が手に入った頃からだ。

 特に、元となる品があれば思いがけない魔法の品が造れてしまうことも多い。

 

 だから変わった魔法の品を造りたければ、元となる品を用意する必要があった。大抵は、異界から持ち込まれた花を使っている。異界からの来訪者の多くが、マティマナへの土産として花を持参してきていた。そうした花がマティマナの工房に届けられ、飾られている。

 

「マティマナ、鑑定士が着任したよ」

 

 ルードランに連れられ、落ち着いた雰囲気の青年が工房に入ってきた。短めな焦げ茶の髪に、金色の眼。質素ながら上等な長衣を身に付けている。鑑定士は年配と聞いていたが、見た目は若い。魔法の力が強く働くユグナルガの国は、不老長生。年配といえど老人は少なかった。

 

「鑑定士のダウゼ・ミディアルクです。どうぞお見知りおきを」

 

 落ち着いた声で鑑定士ダウゼは、丁寧な礼をする。マティマナは慌てて立ち上がり、礼を返した。

 

「マティマナです。鑑定してほしい品がだいぶ増えてしまったから、待ちかねていました!」

 

 内職めいた感じで、マティマナはさまざまな聖なる品を造り続けている。異界での取り引きに使える品ということもあるが、何より造るのが楽しいのだ。

 

「強烈な聖なる気配に包まれた部屋ですな」

 

 ダウゼは気配に呑まれたように呟き、巨大な工房のなかを見回した。

 

「話には聞いておりましたが、これほどのものとは」

 

 鑑定士ダウゼは金色の眼を輝かせ、ふるふると指先を震わせている。

 

「ダウゼは、マティマナ専任の鑑定士だよ。魔法の品の研究も専門だから、色々質問してみるといい」

 

 ルードランは、マティマナへとそんな風に告げた。

 何か知恵を貸してもらえるかもしれない、というのは心強い。ふたつの鉱石の使い道なども、訊いてみたいところだ。

 

「すばらしい。とてもやり甲斐がありそうです!」

 

 ダウゼは心底嬉しそうな表情で、マティマナへと礼をした。

 

 

 

 鑑定士の部屋は用意されているが、当分はマティマナの工房であふれた品の鑑定をすることになった。

 ダウゼは、一品ずつ丁寧に鑑定してくれている。工房内に仲間がいる雰囲気は良い感じだ。

 

 マティマナが仕事をしすぎないように、メリッサがお目付役のような役割を担っていた。

 

「お茶をお持ちしました。少し休憩いたしませんか?」

 

 メリッサは丁寧な所作で、大テーブル横の卓へと茶を置いてくれる。軽食なども可能な小振でお洒落な卓だ。

 

「ありがとう、メリッサ」

 

 さすがに、ちゃん付けは止めていた。

 良い香りのする熱々の茶で、ホッと一息。メリッサは盆を一旦片づけると、大卓の上に出来上がった品を整頓してくれる。

 

「いつ見ても、うっとりしてしまいます」

 

 メリッサは、こっそり呟きながら丁寧に、そして嬉しそうに品を扱ってくれていた。

 

「マティマナ、新しい異界の案内人が到着したよ。早速(さっそく)、言語を付与してあげてほしいのだけど、良いかな?」

 

 ルードランが迎えに来た。

 

「はい! もちろんです。喜んで!」

 

 立ち上がり、ルードランに手を取られながら歩き出す。

 途中から法師が合流し、転移で異界棟へと入った。

 

「初めまして! 新米法師のドイルト・ハービンです」

 

 聖王院の者である証の質素な緑の長衣を身につけ、丁寧な礼をした。

 

「法師になりたての頃は、さまざまな仕事を請け負います。異界関連の仕事ができるのは幸運なことです」

 

 法師ウレンが言葉を足してくれた。聖王院から派遣の形らしいから安心して任せられる。

 

「では、異界の二種の言語と、人間界の言語を異界の者に付与する方法、異界の二種の言語を人間界の者に付与する方法を、授与しますね」

 

 マティマナは、キーラから貰った言語の力と、それを伝えるための技をドイルトへと授けた。

 ドイルトは言語を使いこなせるようになり、授与も可能になっている。

 

「ありがとうございます! これは、素晴らしいですね!」

「かなり稀少な技ですよ」

 

 ドイルトの言葉に、ウレンが応える。

 

「これからドイルトを連れて異界へと赴き、通行証の発行許可を取得する手続きをして参ります」

 

 法師ウレンはマティマナとルードランへと告げた。

 

鳳永境(ほうえいきょう)のガナイテール国には伝えてあるから、すぐに取得できるはずだよ」

 

 ルードランが応える。第二王子へと直接、通行証の手配を申し込んだようだ。

 

「ありがとうございます。一刻も早く、異界通路の案内人をこなせるように努力いたします」

 

 恐縮したようにドイルトは応え、丁寧に礼をする。

 法師ウレンはドイルトを連れて異界通路を渡る前に、マティマナとルードランを主城へと転移させてくれた。

 

「ドイルトが案内人を務めるけれど、もう一人、交代要員が来ることになっているよ。そのときには、また付与してあげて」

 

 ルードランの言葉にマティマナは頷く。ひとりでは、休む間もなく大変すぎるから、交代要員は必要だろう。

 

「そのかたも、法師なのですか?」

「いや、法師ではないね。都の魔法師のようだよ」

「そうですよね。そんなに何人も聖王院から派遣してもらえませんよね」

 

 それに法師を派遣してもらうとなれば、なりたての法師でも巨額の費用がかかるはずだ。

 

「ドイルトのように修行先を捜している者がいれば、何人でも大丈夫なのだけど。今回は、急いでいるからね」

 

 ルードランの言葉から察するに、費用は問わず機会の問題のようだった。

 

 

 

 法師と共に異界へ出かけたドイルトは、直ぐに帰還した。

 順調に通行証の発行許可を得ることができたらしい。ルードランからの頼み、ということもあり、第二王子は喜んで条件なしで授与してくれたらしい。

 これで、安心して異界通路を任せられる。

 マティマナは、少し安堵した心持ちだった。

 

 


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