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新しい日々に向かって【二章・完結】

 ライリラウンには花から造った聖なる宝飾品を、選んでもらい贈った。

 完全に死霊が駆除されたことが確認でき、久々に城門が開く。それと同時に、ライリラウンは聖王院からの迎えの転移で姿を消した。

 鑑定士は、専任が近日中にくるらしい。ライリラウンほどの異常な鑑定実力ではないけれど、正しい鑑定が得意な少し年配の方だと聞いた。

 

 キーラは、マティマナに言語の付与だけでなく、付与役を増やせる権利を与えてくれている。

 

「ベルドベルの言葉は不要だとは思うけど、一応、付けとくわね」

 

 人間界の言葉と、ガナイテールの言葉、ベルドベルの言葉が対象だ。

 何かと必要になりそうだ。法師の代わりに就任する異界通路の案内人には、早速(さっそく)付与する形になると思う。

 

「ありがとう、キーラ! 本当に、とても、お世話になってしまったわね」

 

 キーラは、キーラの羽から造られた武器はひとつだけだが、花から造られた品は、いくつも持ち帰ることにしたようだ。寂しくなるけれど、品を気に入ってもらえたのがマティマナはとても嬉しい。

 

「とてもエキサイティングで愉しかったわよ」

 

 エキサイティング? あ、でも、なんとなく意味がわかるかも?

 キーラの紡ぐ秘文字の一種だという不思議な言葉たちは、共に過ごす間に結構な数が身についた。

 

「言語は、本当に助かったよ。また、協力願いたいことがあるかもしれない。そのときは宜しく頼む」

 

 ルードランが別れ間際のキーラに声を掛けてる。

 

「もちろんよ! じゃあ、また来るわね! ふたりの結婚式には、ぜひ招待してね?」

 

 キーラは、半ば冗談めかしたように囁きながら笑う。

 

「あ! ぜひ! 招待状送ります!」

「ぜひとも、来てくれ! 大歓迎だよ」

 

 マティマナとルードランは、ほとんど同時に応えた。

 

「ふふふん。名残惜しいけど、じゃあ、またね? 聖女マティに、ルーさま! ぜひ、カルパムにも遊びに来て~!」

 

 キーラは、いつの間にか、ルーさまと、呼んでいたようだ。

 声が響いた次の瞬間には、キーラは小さな鳥の姿で弾丸のように突き進んで姿を消していた。

 

 

 

 ルードランは、マティマナと手を繋ぎ広間へと歩いて行く。

 

「何も制約がなかったら、マティマナは何がしてみたい?」

「そうですね……、叶いにくいとは思いますが、ルーさまと、旅……ですかね?」

 

 ライセル家に嫁いだら、お役目が増える。城から出るのは、視察や、王宮での行事くらいになるはずだ。

 

「旅、いいね! ぜひ、実現させよう」

「あ、でも、城を留守にするのはまずいのでは?」

「方法は、色々あるから。最初から諦めるのはダメだよ?」

 

 やりたいことがあるのに我慢するのもダメだよ、と、言葉が足された。

 

「はい! ちゃんと何でも相談します! そうですね、わたし、お役に立ちたいです。特に、ルーさまの」

 

 いつも誰かの役に立ちたいと思っていた。特に今は、ルードランの役に立ちたい。

 それは強い衝動のようなものだ。

 

「それなら、マティマナが心から楽しいと思うことを、してほしいな」

 

 ルードランはマティマナの言葉を聞きながら即答だ。マティマナの腰に手を触れると、広間で軽く踊り出す。

 

「楽しいこと? ……ルーさまと過ごすことです! 後は、魔法……ですかね」

 

 ルードランと一緒にいられたら、それだけで楽しい。だが公務も増えるルードランと、四六時中一緒に居ることは不可能だろう。

 

 雑用魔法はライセル家由来で、ルードランとの絆のようなものでもある。片づけも、雑用も、大好き。楽しい。でも、それは魔法を使えるからだろう。

 マティマナの魔法は、とても良いよ、と、ルードランは笑みを深める。

 一緒にゆっくりと踊りながら、マティマナはうっとりとルードランの貌を見詰めた。

 

「ライセル夫人になることで、マティマナは自然にライセル家の守りの力として組み込まれる。だから、それだけで充分、都の者たちの役にも立つんだよ?」

 

 ルードランは諭すように囁く。

 つい夢中になってガシガシ働いてしまうマティマナが無理をしないように、気遣ってくれているとわかる。

 

 ライセル家に嫁ぐことになり、マティマナは全く異世界に来てしまったような感覚も味わっていた。ただ、誰もが温かく迎え入れてくれているから、緊張感はあっても、日々は楽しく快適だ。

 マティマナはルードランの言葉を心に刻みながら頷く。

 

「求められる役割は多いし、気の進まないこともあるだろう。だからこそ、楽しいこと、楽しめること、必要だよ?」

「楽しいと感じられることが、何より大事?」

「そう」

「……魔法……もっともっと、極めたいです」

 

 マティマナは少し思案した後で応えた。思ったよりも、魔法が心を占めている割合が大きい。ルードランとの絆を深めるためにも、雑用魔法の可能性を知りたい。

 

 最近、雑用魔法は、不安定ながら進化し続けている。変化が激しいけれど、それ故に、何か思いがけない発見がありそうで、密かにワクワクしていた。

 

「マティマナには、もっともっと自由に楽しんでほしいんだ。ライセル城が、君の家なのだから、好きなことして良いんだよ?」

「あ、えと、かなり自由にさせていただいている気がしますけど……?」

 

 ライセル城がマティマナの居場所なのだと、ルードランは強調する。

 

「マティマナが楽しければ、僕が幸せ」

 

 クルクルッと回転しながら、ルードランは極上の笑みだ。

 もっとまま言っていいんだよ? と、囁き足された。

 ルードランの腕のなかで、マティマナはいつも自由に踊らせてもらっている。そんな風に、ルードランと過ごすことで自由で楽しい体験が得られると思う。

 

「ルーさまが、楽しいと感じられることは何ですか?」

 

 今度はマティマナが訊く。

 

「僕は、マティマナと一緒にいることかな?」

 

 だから毎日が楽しくて幸せだよ、と、ルードランは即答だ。

 踊りの動きが止まり、抱きしめられた。

 

 ああっ、ちょっと、ここはそれなり人の出入りが……!

 などと思う間に、おとがいが捉えられ唇が重ねられた。

 キスの衝撃で、くらくらする。

 腕のなか、安堵感と幸福な思いがあふれていた。マティマナはルードランの背へと、そっと腕を回してしがみつく。

 

「ルーさまと一緒にすごせて幸せです!」

「嬉しいな。マティマナ、愛してるよ」

 

 囁きの後で、もう一度、唇が触れ合う。

 

「……愛しています。ルーさま、とてもとても愛しています」

 

 キスが解かれると掠れたような小さな声で、マティマナは必死に応えた。

 

「ああ、一刻も早く、式を挙げたいよ」

 

 吐息混じり、ルードランは切実そうに囁く。

 

「待ち遠しいです」

 

 どきどきしながらマティマナは応える。

 今でも充分幸せだけれど。想像もつかないような世界に足を踏み入れるのだろうけれど。それでも、式を挙げ、もっともっと幸せな日々を、ふたりで、そしてライセル城の者たちと一緒に築き上げて行きたい。マティマナは心からそう願っていた。

 

 

                 (二章・完)



(あとがき)

二章・完結しました!

ここまでお読みくださり感謝です!

 

少しでも面白いと思っていただけましたら、ぜひ評価してくださいませ!

執筆の励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

数日休んで、三章に入ろうと思ってます。



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