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雑用魔法無双

 ルードランが間近で倒す巨大死霊鳥の骨は、次々に魔法の品になった。自動的に城の敷地のあちこちに届けられている。

 骨から造られた聖なる武器が使われるたびに、光があふれる。

 

 雑用魔法の拡がりは、マティマナに別の視覚を与えてくれていた。

 魔法の濃度によって差があるが、そこかしこの景色が良く視える。

 

「光が満ちて城の色々な場所がハッキリ視えるようになりました!」

「あ、マティマナと意識を交わそうとすると、僕にも視えるよ」

「不思議な光景が……展開してますね」

 

 皆の攻撃から発した光が溜まる場所に、鉱石に強化された雑用魔法が降り注ぐと、光めいた雑用具が現れる。

 雑巾、布巾、敷布、壺、収納箱、紙。小さめの光の布は、死霊蟲を包み、収納箱は、大きさに合わせた死霊を閉じ込める。包み込まれたり、フタが閉まると死霊は消滅した。

 

「道具が自動的に、死霊を掴まえているね」

 

 大きな箪笥のような収納箱、もっと大きな収納棚。光りながら奇妙な動きで移動し、死霊騎士を飲み込んだ。扉やフタがパタンと閉まり、死霊を消している。

 

 小箱も、小振りの収納箱も、死霊蟲を閉じ込めた。

 光の食器類が飛び回り、死霊に激突して核を壊す。箒や塵取りも自動で動いている。

 

「何が起こっているの?」

 

 マティマナは雑用魔法を強化して撒き続けているだけだ。なので、なぜこんな状態なのかは分かっていない。

 

 死霊蟲たちに踏みつけにされていた庭園の花も、マティマナの魔法で甦った。花たちは、綺麗に咲き誇りながら聖なる光を撒き始めている。

 地面に聖なる光が積もって行き、浄化するように死霊蟲を弱らせ弾いた。

 

「ぐぬぬうっ。早く、マティマナを閉じ込めねば」

 

 シェルモギの焦ったような独り言も、城の敷地に響き渡って聞こえる。

 

「シェルモギ、覚悟せねばならないのは、君のほうだよ!」

 

 ルードランが声を響かせ、大量の光の矢を打ち込んだ。とはいえ、シェルモギには、どんな攻撃も効かない。

 

 ただシェルモギ以外の死霊たちは、次々に数を減らしている。

 光のたらいは、転がりながら死霊蟲の上に伏せた。

 運ばれる途中で放置され転がっていた野菜たちも、魔法を受け変貌し死霊を攻撃している。

 

 主城の壁に空いた穴からも、マティマナの魔法が雪崩れ込んでいた。

 

 燭台に蝋燭、花瓶や煉瓦、石材、壊れた壁の破片。

 柱や梁の飾りの中に埋もれるようだった人形めいた彫刻も、動き出している。飾りの中にある、よく分からない形の物も生き生きと魔法に踊る。

 

 厨房横の特別な巨大ゴミ箱は、光を発しながら、どんどん死霊蟲を吸い込み分解し消していた。

 マティマナは、魔法が届いた場所の状況を把握しながら驚愕(きょうがく)してしまう。

 

 魔法で出来上がっている品がある一方で、元々のライセル城の品々にも魔法の力が及んでいた。

 

「ああ、これって、元に戻せるのかしら?」

 

 城の調度類が、みな魔法で踊り出しているようだ。死霊を倒すために生き生きと動いていた。

 

「今は、後のことなど気にせず、どんどん魔法を撒くといい」

 

 ルードランは笑みながら促してくれる。

 雑用魔法は、雑貨が特に反応が良い。

 次々に攻撃をしかけている。

 多目の荷を運ぶための大箱は、死霊騎士に覆いかぶさりながら飲みこんでいった。

 靴は、踏みつけて攻撃している。帽子は包み込む。

 

「すごい、すごい魔法だ!」

 

 あちこちから歓声が聞こえている。

 

 洗濯物を運ぶ大きな袋が大口をあけた所に、衣装が長い袖で死霊を捕まえ放り込み消していた。

 良い連携だ。

 

 宝飾品も、呼応したように聖なる光を放っていた。

 椅子や卓も、近くに死霊がくれば反応している。

 鉱石を触媒にしたマティマナの魔法は、穴から入り込むだけでなく、壁や屋根をすり抜けて室内にも届くようになっていった。

 

 騎士たちの宿舎や、控えの場では、鎖、御者の鞭。馬車。警邏(けいら)用の馬車。転がっている石。そんな物たちも、強力な魔法を浴び、皆、動き出している。

 光は地上に満ち、異界棟を這い上った。

 

 シェルモギの異界棟を包み込む闇の外套の裾が、わずかに縮む。

 

 

 

 しかし、相変わらず、シェルモギ自身には打撃を与えていない。

 どんな攻撃も全く効かなかった。

 

 どうしよう……。

 

 マティマナは焦るが、良い方法は浮かばない。

 このままでは、死霊はすべて倒せても、最終シェルモギひとり残ってしまう。それだと持久戦の末、魔気切れで闇に飲まれ、ライセル城が落ちる可能性があった。

 

 自動的に聖なる光があふれ続けているこの好機に、シェルモギの弱点を探して倒さねばならないだろう。

 

「シェルモギにも、核のようなものがあるのだろうか?」

 

 ルードランが訊く。

 

「魔法が全部弾かれて、わからないです。でも、たぶん、死霊使いだけれど、生者ですよね?」

 

 闇の外套が短くなり始めているのは、光の影響もあるが闇の補給が少ないからに違いない。きっと、じわじわと弱ってはいる。

 

「この力の源は、何だろうね?」

 

 ルードランに訊かれ、マティマナはシェルモギへと魔法を放つ。届きはせずに闇に消されるが、少しずつ何かが視えているような気がする。

 皆の放つ光と、雑用魔法があちこちで混ざりあい、マティマナの感覚を強めてくれているようだ。

 

「核に似た……、でも、なんだか聖なる品の気配? 感じます」

 

 ……もしかして?

 

 シェルモギに囚われたとき、マティマナは聖なる空間に包まれて助かった。ルードランに助けられた後、空間は押し潰され不浄に包まれた物質と化している。

 

 まさか、それを身体に埋め込んでいる?

 

 そんな思考が巡り、ルードランにも伝わったようだ。

 

「多分、それだ!」

 

 ならば、きっと死霊における核のような状態になっているのだろう。それはマティマナ由来の力への対策だ。圧倒的な聖なる力で包み込まねば視えないだろう。何より、深い闇に護られているから、聖なる光は届かない。

 

 あれ? でもシェルモギは死霊ではないし……。圧倒的な聖なる力で包み込めれば、核を壊すまでもなく倒せるのでは?

 

 不意に、マティマナはそんなことを考えた。

 雑用魔法だけでは不十分だ。元より、雑用魔法に攻撃力などない。でも、ふたつの触媒を使い、強力な品へと付与すれば――。

 

「何か、方法ありそうかな?」

 

 ルードランは、マティマナの意識のなかで何かが形になりつつあると気づいたようだ。

 皆の協力があれば、きっと可能だ。

 確信めいたものが、マティマナのなかで大きくなっていた。

 

 


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