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捻れた闇が死霊を増やす

 ルードランが移動させている空間は、マティマナの魔法が付与され聖なる結界になっているようだ。

 シェルモギが放った空を舞う死霊蟲たちは、空間に触れことごとく消滅して行く。だが、シェルモギは数にものを言わせるように、懲りずに連続で大小さまざまな甲虫めいた死霊蟲を投げつけてきた。

 

「ああっ、すごい数の死霊蟲ね」

 

 数打てば、小さな一匹くらい届かせられると考えているのだろう。

 もしくは、刻をかせいで別のことを企んでいるのかしら?

 

 空間に当たる前に、ほとんどの死霊蟲は、マティマナの撒く鉱石を触媒にした魔法で消滅して行く。

 

「こんなに小さいと武器での攻撃は難しそうだ」

 

 今のところ、マティマナに向けられているので、他の者たちは小さな死霊蟲とは戦わずに済んでいるようだ。だが、マティマナ以外の者が身代わりにさらわれる危険性はある。

 その上、小さすぎて、マティマナの撒く魔法以外では倒し残しがでそうだった。

 

「魔法撒き続けるしかないですね」

「魔気切れにならないかい?」

「今のところ、余裕です。ライセル城の力に助けられています」

 

 鉱石を触媒に雑用魔法を混ぜた魔法は威力がある。広範囲、高機能、凄絶な聖なる力に、地上を埋め尽くす死霊蟲も大量に消えて行く。

 

 異界棟の屋根に立つシェルモギの表情は、仮面に隠れて分からない。

 ただ、バザックスの魔石から放たれる弾や、法師やライリラウンの法術がシェルモギを狙うのだが、少しも痛手を受けてはいないようだ。

 

「どんなに強化しようが、聖なる力の源は把握している」

 

 シェルモギは気味の悪い声を響かせ、騎士たちを脅すように煙幕めいた闇を放った。

 マティマナの魔法で回復した騎士たちの体力が、まとわりつく闇に奪われる。闇を払うように、強化した魔法を撒く。

 何気に拮抗していた。

 

「ちょっと押され気味かしら……」

 

 マティマナは呟きながら、魔法を強める。

 互いに、工夫し、破ると、破られる。

 闇と光が互いに侵蝕しあう光景は、悪夢のようではあるが幻想めいて異様だ。

 

「……死霊は数に限りがあるはずだ」

 

 ルードランは、マティマナを勇気づけるように囁く。

 だが、シェルモギは、大量の小さい死霊蟲をマティマナに向けて放ちながら、今度は次々に死霊化した吸血蝙蝠らしきを放ち始めた。

 

「一体、どれだけ死霊を用意してきているの?」

 

 転移で取り寄せることはできないから遠隔で操り、ベルドベル国から異界通路へと雪崩込ませているのだと思う。

 

「ベルドベル国には、きっと生者は存在しないのだろうね」

 

 吸血蝙蝠は、騎士たちの回りに漂う闇と共に生気をすする。骨だが、ひらひら舞いながら、啜った生気を闇に変えて吐き出していた。

 

 

 

 死霊の核は余程でもない限り、視える状態になっているので、次々に攻撃を受けて消滅して行く。

 するとシェルモギは、ライセル城にあふれた死霊たちにねじれたような闇を浴びせる。とたんに死霊は倍化するように増え始めた。

 

 闇を吐く死霊が、異界棟からどんどん出て来る。シェルモギはその闇を吸収してから放つ。死霊を倍加させたり、合体させて宙を飛ぶ骨騎士に変えて量産したり、滅茶苦茶な造成になっている。

 

「ふははははっ! いいぞいいぞ!」

 

 シェルモギは敵地に乗り込んできた状態なのに、俄然(がせん)優勢だと感じているようだ。

 マティマナは、何か、別の武器が必要だと切望する。

 何より、シェルモギには全く何の攻撃も効いていない。マティマナの魔法も、時々投げつけているのだが、すべて近づけないままに消滅した。

 

「何か、何か造れないかしら? 少しでも、みなさんを助けられる品」

 

 マティマナは焦りながらも、満遍(まんべん)なく魔法は撒き続ける。撒きながら必死で思考する。

 触媒はあるが、変化させるべき品がない。雑用魔法を強化することはできても、決め手にはならなそうだ。

 

「危ないっ!」

 

 間近に巨大な死霊鳥が迫っていた。

 ルードランの矢が、近接で核を討ち抜く。

 弾けた骨のカケラが消滅する前に大量に接近してきた。

 

「きゃあっ!」

 

 ルードランの結界めいた空間のなかには入り込んではこない。だが、分かっていても、マティマナは反射的に払い落とすように魔法を投げつけていた。

 

 パワワワワッと、死霊だった骨のカケラが光を放つ。

 死霊を消滅させるための魔法を浴び、闇を内包した骨は変貌した。闇を打ち払える聖なる武器だ。無敵の武器がカケラの数だけでき上がり、魔法の光に包まれて宙に浮いている。

 

「あ……骨が武器になったみたい」

「面白い球体ね! どうやって使うの?」

 

 あちこちで騎士の補助をしていたキーラが接近してきて訊いた。

 

「手にしたり、武器の先につけて振りまわせば聖なる魔法攻撃がでるみたいです!」

 

 ライリラウンが遠隔で鑑定して声を響かせた。

 

「ひとつ貰うわ」

 

 キーラがひとつを手にし、振り回す。球は大きいのだが軽そうだ。

 光が撒き散らされ、針のような小さく鋭いものが次々に飛び出す。

 裁縫用の針?

 死霊に当たれば核を探し、生きている者に当たると光に分解され生気を与える。

 

「あ、いいわね。ルーさまにも、ひとつ。それと騎士さんたちに配ります!」

 

 マティマナは、ひとつの球をルードランの弓へと近づける。ライリラウンと法師の杖にも届け、他の宙に浮かぶ光の球は、片づけの魔法の応用で騎士たちの持つ武器の先へと次々に送る。

 全員には行き渡らないが、あちこちバラバラに配置された。

 

 ほわりと近づいてきた聖なる力に変換された球は、ルードランの弓に宿った。先端に付くかと思ったら弓の形を変えている。

 

「あっ! 弓が進化したよ!」

「まあ、なんて立派で綺麗な弓!」

 

 聖なる力で闇を駆逐する矢を放つ弓に進化したようだ。しかも、何十本も同時に矢が飛んで行く。

 余っていた光の球が、マティマナの杖にも飛び込んできた。

 

「あら、聖女の杖も進化したみたい」

 

 軽さが増し、大きさと威力も増している。闇に対する耐性がかなりついた感じだ。

 

「また、骨が砕けると良いのかな?」

「それ、良いですよね!」

 

 そんなに上手くいくとは考えにくいが、もし上手くいけば飛び道具になったり武器を進化させる品を配ることができる。

 城のあちこちで、マティマナから与えられた球による、聖なる魔法の針と光が飛び交っていた。

 

「来た! 巨大な死霊鳥!」

 

 マティマナの魔法を浴びて核が視えている。間際に引きつけてからルードランは核を打ち抜く。

 先程より大量の骨のカケラが飛び散った。

 マティマナはふたつの鉱石を触媒にした魔法を浴びせかける。

 

「ああっ、さっきと違うものができたみたい!」

 

 箒だった。だが以前に出来上がった箒とは、全く別物だ。見た目も豪華。

 振ると、光が舞い散る。

 光の飛沫が、核を狙い、生きているものには回復効果。と、ライリラウンの鑑定の内容が響いてきた。

 

 マティマナは、片づけの魔法の応用で、あちこちに箒を届ける。

 普通に地面を掃けば、地を這う死霊蟲が倒せるはずだ。

 

「どんどん巨大な死霊鳥を狩ろうか」

 

 ルードランは、真剣な表情で呟いた。

 

 


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