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異界の墓地荒し

 鉱石を触媒に使って品を造るのは、魔法の力をあまり使用しない。

 マティマナは先に収納箱をたくさん造ってから、鉱石を使って品を造りはじめた。

 

 まずは、霊鉱石。淡い紫がかった鉱石を握り、小粒の宝石を造ろうとして魔法を撒いた。

 キラキラと魔法が広い卓の上に拡がり、集約する感じでマティマナが意図した収納箱に入って行く。しかし、小さな宝石を造っているはずが、小振りの卵くらいの球形物体が出来上がっていた。

 半透明の宝石のようだが、二色の液体めいたものが中で動いてる。

 

「あら……? なんだか、造るたびに違うものができてしまうみたい」

 

 気にしていても仕方ないので収納箱が満杯になるまで同じものを造ってから、次の箱用に魔法を撒く。

 雑巾を造ったはずが、大きさは一緒ながら豪華金糸刺繍入りの花瓶敷きのような感じのものができた。

 薄手なので、収納箱のなかには相当な枚数が積み重なっている。

 

「まあ、なんて綺麗なの!」

 

 マティマナの監視役になっているギノバマリサが箱の中を覗き込んで声をたてた。欲しそうにしているが、効果が明らかになる前に手にすることは、ルードランに止められているようだ。

 

「使い道は、全く分からないのだけど、色々造ってみるわね」

 

 何気に少し動揺しつつマティマナが魔法を撒くと、今度は箒ができた。

 竹箒?

 特に飾り気はない。箱には入らず、卓へと凭れ掛かる状態で十本ほど。

 

 球状の物や、小さな宝石風のものが多いのだが、時々、奇妙に豪華な籠やら袋物、宝石箱なども出来上がった。

 

 灰鉱石は、くすんだ灰色のまだらな感じの原石風。

 触媒にして造ると、やはり同じように、球状の物や、小さな宝石風のものが多く造れた。

 

「鑑定ができる者を探してもらっているからね。すぐに見つかると思うよ」

 

 公務の合間に、マティマナの居る場所を通路代わりにしているルードランが告げて行く。

 

 「はい! ありがとうございます!」

 

 ルードランの声と姿が嬉しくて勢いづき、思わず多めに魔法を使っていたらしい。長外套のようなものができた。わりあい簡素な品だが使い勝手はよさそうだ。敷布以外の大きな布物は初めてだ。

 

 

 

 そうしている間に、異界への通路の開いた棟は、異界棟として改築された。

 異界から来たものは城の敷地へと出ることはできないが、上階で休憩したり、城の者や業者などと会議ができるようになったらしい。

 

 元々、接客のための豪華な造りの棟ではあるので評判は上々のようだ。

 

「ガナイテールから、頻繁にグウィク公爵からの使いが訪ねてきてるよ」

「交易希望ですか?」

「マティマナからの魔法の付与。何か良い方法がないか、という注文だね」

 

 魔法の布を手に入れた者たちは、その布で武器の手入れをすることで、聖なる力の付与が得られたらしい。根付け紐なども試しているようだ。

 布での手入れで、聖なる力がどのくらの長さで効くのか謎だ。手入れは何度もする必要があるだろう。

 

「あの布じゃあ、携帯には不便よね」

 

 雑巾だし、と、言葉を飲み込む。

 

「ルードラン様! マティマナ様! 鑑定のできる者、見つかりました!」

 

 法師がマティマナの居る作業部屋へと駆け込んできて告げた。

 

「早いね。とても有り難いよ」

 

 ルードランが嬉しそうに応える。

 

「助かります! でも、だいぶ大変でしょうね、これ……」

 

 なんだかんだで大きな卓の上に処狭しと品が並んでいる。

 

「大丈夫だと思います。聖女見習いのライリラウンが鑑定を習得しているそうです」

「あ! 嬉しい! ライリが来てくださるんですね!」

「数日かからず来るはずです」

 

 

 

 ばたばたしているうちに、グウィク公爵自身が異界棟へと訪ねてきた。

 マティマナは着替えされられ、気が進まない表情のルードランと法師に連れられ異界棟の上階へと転移で入った。

 

「聖女マティマナ様、ガナイテールの第二王子の名代(みょうだい)として参じました」

 

 丁寧すぎる礼と共に、グウィク公爵は告げた。

 

「第二王子?」

 

 ルードランが不思議そうに訊いた。契約の際、王の側近として姿は見ている。美しい容姿の王子だったが、声も聞いていない。

 

「はい。第二王子のフェレルド・ガナ様が、ぜひともマティマナ様の聖なる品を大量に入荷したいとのことでして。いずれ、フェレルド様が直々に来訪いたします」

 

 えええっ、第二王子が、ここに来るの?

 

「取り引き用の品は、ガナイテールの王家の所蔵品でして。名代が扱うこともできません故」

「どのくらいの量が必要なのでしょう?」

「品にもよりますが、二万から三万といったところのようです」

「魔法の布のようなものを、二万から三万点……ということですか?」

 

 マティマナは余りの数に驚いて緑の瞳を見開いた。

 

「最近出回りの、小さな品で構いません」

 

 公爵は、小さな目印用の紙を貼り付けた小物を示しながら告げた。

 

「その数だと、一気に納品はできないと思うよ? それと、それに見合う品があるのかな?」

 

 ルードランは首を傾げながら訊いている。

 

「はぁ。納品は分割で構いませんです。それと、品は、たぶん問題ないかと……。何しろ、あの冷徹王子が断言しておりますので」

 

 少し冷や汗をかく気配で公爵は告げる。

 

「……冷徹王子?」

 

 マティマナは瞬きしつつ、つい訊いてしまった。

 

「ここだけの話ですが、第二王子は恐ろしいかたです。とても美しい姿なのですが、何の迷いもなく温情なき処罰をくだします。あ、勿論、異国の方には、誠意ある友好でございます故……」

 

 何やら国内で恐れられている存在らしい。その第二王子が、マティマナの魔法の品を大量仕入するつもりのようだ。王家の品を持ち出してまで。

 

「わかりました。数は揃えるようにします」

 

 マティマナには特に断る理由もない。しばらく内職めいて仕事が続くが、暇よりずっといい。

 

「大丈夫かい?」

 

 ルードランが心配そうに顔を覗き込んでくるので、はい、と笑みを向けた。

 

「最近、ガナイテール外の国で、大規模な墓荒しが続いているらしいのです。ガナイテール内でも、若干の被害がありまして……」

「ベルドベル国に動きがあるということかな?」

 

 ルードランは真顔で訊いている。

 

「フェレルド様は、そう思っているようです。それへの備えかと」

 

 公爵の言葉に、ルードランは頷いた。

 

「フェレルド殿は、人間界での交易交渉もご希望かな?」

 

 ルードランは確認するように訊く。

 

「急ぎはしませんが、希望はしております」

 

 

 

 公爵は異界へと帰り、マティマナはルードランと共に法師の転移で主城に戻った。

 

鳳永境(ほうえいきょう)の方々、エルフ系が混じっているのに死体が残るのね」

 

 同席したまま黙していたキーラは、食堂に入ってくるなり珍しいことらしく不思議そうに呟く。

 

「エルフは死体残らないんですか?」

 

 マティマナは少し驚いて訊いた。

 

「エルフは死ぬと、宝石のようなものだけ残して消滅するみたいよ」

鳳永境(ほうえいきょう)では、エルフ混じりだけれど人間的な要素のほうが強いのかもしれないね」

 

 ルードランはキーラへと声を掛ける。キーラは頷きながら舞っていた。

 

「墓荒し……気掛かりです」

「そうだね。ベルドベルの軍備増強だろうから」

「わたし、大量に魔法の品、造りますね!」

 

 少しでも多く造れば、鳳永境もライセル城も護りが固くなるはずだ。

 マティマナは、怖さを振り払うようにして気合いを入れた。

 

 


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