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ふたつの鉱石の使い道

 ぱさぱさと小鳥の羽音が聞こえたかと思うと、驚愕(きょうがく)したような声が響きわたった。

 

「さすが聖女マティ! 魔気の回復が早いわね!」

 

 何度か見舞いにきてくれたキーラは、人型になると瞳を見開いて、何度もマティマナを見る。

 そうだ、キーラは魔気量とか視えるんだったわね、と、マティマナは思い起こしてホッとする思いだ。

 

「完全に元に戻ったのかしら?」

「元々凄まじい回復力だったけど、この戻りかたは異常ね」

 

 完全復活よ! と、言葉が足された。

 

「ああ、良かった! これで一安心だ。とはいえ、護りを固めないとだね」

 

 声を聞きつけてマティマナの部屋へと飛び込んできたルードランは、改めて決意した表情だ。

 

「主城から出なければ、大丈夫じゃないですかね? 魔法を弾く肩掛けもありますし」

 

 のんびりしたマティマナの言葉に、ルードランとキーラは同時に首を横にふる。

 

「これだから。少しも目を離すわけにはいかないよ」

 

 ルードランは、めっ、と子供に諭すように言った。

 マティマナは瞬きしながら、少し驚く。

 囚われの恐怖が消えたわけではないが、魔気が復活したら気持ちはすっかり晴れやかだった。

 

 あれ、信用ない? っていうか、わたし、そんなに危なっかしいのかしら?

 

 色々と無自覚なことは多いと最近わかってきたが、まだまだ自分ではよく分かっていないことがあるらしい。

 

「魔気が完全に戻ったなら、雑用道具造るのは構いませんよね?」

 

 それまで止められたら、退屈すぎて無意識のうちに外にでてしまいそうだ。

 

「勿論だよ。ただ、マティマナが気が散らないならだけど、人目の多いところで造ってもらってもいいかな?」

 

 本当は、僕がずっと見張っていたいのだけど、と、言葉が足された。

 

「大丈夫です。あ……でも、一緒にいてくださるかたに、失礼では?」

「それは心配しなくて大丈夫」

 

 誰が一緒にいてくれるのか、マティマナはちょっとドキドキだ。だが、道具造りは止められなくて良かった、と、しみじみ思った。

 

 

 

 主城に客人を招いたときの食堂が、マティマナの作業部屋に設定されていた。調度類の配置換えが済んでいる。

 ライセル家の面々が食事する場所と繋がっている扉が開け放たれていた。

 マティマナの作業用に巨大な卓が設置され、少し離れたところには寛ぎ用のふかふかな長椅子と低い卓が置かれている。

 

 軽食が可能な卓と複数の椅子という塊が、何カ所かに置かれていた。

 ずっと離れたところに、簡易の椅子と机が、ちょっと不自然に並ぶ。

 

 基本、ライセル家の方々が、休憩の名目で立ち寄る部屋となっていた。

 ライセル家の方々がいないときは、法師やら、家令やら、執事やら。それでも、足りなければ侍女頭あたりまでは、マティマナの監視のために訪れるらしい。

 

「こんな広い卓、ひとりで使ってしまって良いんですか?」

 

 ルードランが座り心地の良さそうな椅子へと導いてくれる。マティマナは座り込みながら見上げて問いを向けた。ルードランは、斜め隣に椅子を持ってきて座る。

 

「いや、これでも広さが足りないかな、という気がしているよ?」

「さすがに、そんなには造らないと思いますけど」

 

 マティマナは、バザックスが部屋に持ってきてくれた霊鉱石と灰鉱石を卓の上へと置きながら呟く。

 鉱石はどちらも水晶の原石のような塊で、軽く手のひらに握れる大きさだ。

 

「不思議な輝きの鉱石だね」

「触媒の使い方は謎ですが、試してみますね」

 

 片手に持ちながら魔法を使う感じなのかな? と、霊鉱石と呼ばれたほうを左手で握った。

 軽く魔法を撒く感覚で、マティマナは魔法を放つ。

 パアアアッっと、目映(まばゆ)い光が霊鉱石からあふれ、部屋中に拡がった。

 

「あああっ、ちょっと待って、そんなに拡がらないでぇ」

 

 マティマナが慌てて叫ぶと、光は呼応したように卓の上へと集結してきた。光の粒のようなものに次々変わって行く。淡い紫色の小粒の宝石めいてキラキラ光り、卓へと積み上がった。

 

「綺麗だね! 何を造ったのかな?」

「……えと、分からないです。なんでしょうね、これ」

 

 マティマナは、小箱を出して納めようとするが、また派手に霊鉱石が光った。

 収納のための平凡な箱を造ったはずが、豪華な宝石箱めいたものができている。

 

「そんなに魔法を使って大丈夫?」

 

 ルードランが心配するほど、立派な宝石箱だ。こんなものを普通に造るなど、どのくらい魔法を注げばいいのか全く見当はつかないが、たぶん、収納箱をつくる程度しか、今は使っていなかった。

 

「いえ、たいして魔法は使っていないし、それに、造ろうとした物と全く違うものが……っ」

 

 マティマナは一旦、霊鉱石から手を離して、収納箱を造った。

 

「この小粒の石を入れようと、これを造ったはずだったんです」

 

 収納箱と、宝石箱を手にしながら、マティマナは困惑している。

 

「この小粒の宝石は、何を造ろうとしたんだい?」

 

 ルードランは困惑したマティマナを落ち着かせようとしている口調だ。

 

「なんとなく。いつもの癖で周囲に撒く感じでした」

「じゃあ、清める効果があるのかな? こっちの、宝石箱も何か効果がある品なのだろうね」

「困りました。なんだか造れてしまいますが、効果が全くわからないです。使用方法も」

 

 途方に暮れたようにマティマナは呟いた。

 

「鑑定する方法が必要ね。なにか良い方法があるといいのだけど」

 

 ふわふわと舞いながらマティマナの監視に加わっていたキーラが思案気に呟く。

 

「でも、何らか効果はあるのだから、次々に造っておけば良いのじゃない?」

 

 しかしキーラは直ぐに、そんな風に言葉を続けた。キーラは思考を巡らせる雰囲気ながら、マティマナには色々造ることを勧めている。

 確かに、色々考えるよりも、どんどん造ったほうが良いのかも?

 

「ありがとう、キーラ! 造れるだけ造ってみます!」

 

 雑用に使う道具とは違う、綺麗なものが出来上がってくるのは興味深い感じだ。

 どんなものが造れるのか見当もつかないので、若干不安はあるが、不思議で綺麗なものが造れそうで、わくわくした気分のほうが上回ってきた。

 

「どんなものが出来上がるか、楽しみだよ」

 

 ルードランも興味深そうにしている。

 

 頷くマティマナの脳裡を、一瞬、ベルドベル王シェルモギの姿がよぎった。

 落としてきてしまった魔法結界の結晶のことが、とても気掛かりだ。自分でもよく分かっていないのに、聖なる力の手がかりを敵の手に落としてきてしまったように感じている。

 

「ガナイテール国は、ベルドベル国と戦時でしたよね?」

「一方的に、ベルドベルが攻めてきているようだけれどね」

「ガナイテール国を護れる品が良いですよね。それって、ライセル城も護れることになりますし」

「そうだね。何よりマティマナを護りたい」

 

 ルードランが切実そうに呟く。

 造ってみます。と、マティマナは静かに呟いた。

 

 


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