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呪いの仕掛け人

 マティマナは、ディアートの部屋を掃除しながら見つけた不浄な塊を、魔法の布に包んだままルードランに手渡した。

 

「たぶん、ディアートさまの病気の原因はこれだと思います」

 

 汚いのだが、得体の知れない小さな塊は埃に包まれたままにしておいた。とりあえず魔法の布に包んであるのでルードランに悪影響はないと思う。

 

「これも、調査してもらおう。やはり悪意ある何者かがいるのだね」

 

 少し布を開いて嫌な感じがしたのだろう。ルードランはすぐに布に包みなおし、お抱え法師の元へと向かった。

 

 

 

 マティマナは、気になって裏方の厨房へと向かう。

 

「あらあら、ログス令嬢、だめですよ、こんなところに出入りしちゃ」

 

 ルードラン様の婚約者なんですから、と、裏方の手伝いをする際に世話になっていた侍女頭が、慌てて飛んできた。侍女頭といっても若く、テキパキとした気の良い人だ。

 

「ディアートさまを担当なさってる侍女さんって、ずっと同じ方? あ、バザックスさまの担当もどうかしら」

「あ~、どっちも、気難しくて担当はしょっちゅう変更になってるわね」

 

 侍女頭は、悩みの種、といった表情になっている。更に言葉を続けてくれた。

 

「以前は、どちらも専任がいたのだけど。そういえば、時期は違うけど、どちらの専任も怪我で帰省してしまったの」

 

 それ以来戻らないわね、と、不意に思い出したようで、思案気にしつつ侍女頭は呟いた。

 

「まあ、そうでしたの。いつ頃だったか分かります?」

「ディアート様の専任は去年の今頃ね。バザックス様の専任はふた月ほど前だったかしら。専任の侍女がいなくなった辺りから、ふたりともより気難しくなったわね」

 

 呪いの品が放り込まれたから、専任の侍女が怪我をしたのか、悪意あるものが専任の侍女を狙って怪我をさせたのか、その辺りは謎だ。ただ、その後、専任は頻繁に変わるから最早(もはや)専任とはいえない状態になっていたようだ。

 

 ディアートは呪いを受け一年間じわじわと蝕まれていったのだろう。

 悪意ある者が呪いの品を放り込んでいるのだとすれば、今後、他の者も被害にあう可能性がある。

 

 

 

 マティマナが用意されている客間へと向かい歩いていると、法師の元から戻ってきたルードランが近づいてきた。

 

「ディアートの部屋から見つかった塊は、小さな石人形だった。やはり強烈な呪いの品だそうだよ」

 

 埃に包まれた塊が石人形だったと聞いて、マティマナは寒気を感じた。埃を払って見なくて良かったとしみじみ思う。

 

「ライセル家のお抱え法師は定期的に城全体を探査しているのだけど、異常は見つからなかった。どうやら、例の呪いの品は埃にまみれると、法師の探査を逃れてしまうらしいね」

 

 ルードランは、更にそんな風に言葉を続けた。

 

「法師さまに見つけられないものを、どうして雑用魔法で見つけることができたんでしょう?」

 

 マティマナは吃驚(びっくり)して問う。

 

「マティマナは、片づけと掃除をして、不要物を見つけた。呪いの品を見つけようとしたわけじゃないよね?」

「あ、それはそうですね」

 

 違和感は、拾う間際で感じた。嫌な感じは覚えたけれど決して呪いを察知していたわけではない。

 

「父に許可を貰えたから、ライセル城の点検を密かに始めることにしたよ」

「広いですよね、ライセル城。別棟も多いですし」

「今のところ、使用人の部屋などは問題なさそうだけれど、あまり人の出入りのない場所が危うい気がしてね」

 

 ルードランは声を潜めてマティマナに告げた。

 

「異変のある部屋が見つかったら雑用魔法で片づけます!」

 

 呪いの品のある部屋は、普通に掃除しようとすれば怪我をする可能性がある。

 侍女頭から聞いた内容は、ルードランに伝えておいた。

 

「悪意ある者を突き止めなくてはいけないね」

 

 ルードランは決意した表情で呟いた。

 

「呪いなど……何がしたいのでしょう?」

 

 目的が皆目分からずマティマナは首を傾げた。ルードランはそんなマティマナへと優しい眼差しを向ける。

 

「こっそり、ライセル家の全ての者に呪いをかけたら、家は大混乱だ。原因がわからなければ流行り病と判断されて家が潰されていたかもしれない」

 

 ルードランは真顔に戻り、最悪の事態を想定したように呟いた。マティマナは驚きに緑の瞳を見開く。

 

「まさか! ライセル家は、王家由来の五家ですよ?」

 

 王家由来の五家しかない大貴族を潰してしまうなど、想像だにできない。

 

「だが、やむを得ないときはある」

 

 マティマナが思っているよりも事は深刻なようだ。

 

「呪いの品を持ち込んでいる者を、探しましょう」

「何か、良い魔法あるかい?」

 

 ルードランは期待に満ちた眼だ。

 

「探し物をする雑用魔法ならあるんですけど、人を探すのは……」

 

 マティマナは使えそうな魔法を思い出そうと必死だったが、適当そうなものがない。

 

「探し物ができるなら、呪いの品を探すのはできるのかな?」

 

 思案していたルードランが、ふと思いついたように呟く。

 

「あ、そうですね。ふたつ見つけましたから、類似の品は見つけられます」

「仕掛ける前には、所持するはず」

「確かに。呪いをかけた品を持ち込むわけですから」

 

 雑用魔法を働かせることで、既に仕掛けられた呪いの品と、持ち込もうとしている品を持つ者、うまくすれば両方見つけることが可能かもしれない。

 

 

 

 探し物をするための魔法を掛けるため、マティマナはライセル城のあちこちを歩き回りはじめた。

 探し物の魔法は、地道な魔法だ。隈無く魔法を撒いて行く。ライセル城は広いが、敷地の全てを魔法で埋め尽くす必要があった。

 

 内密にライセル家の当主からの許可が得られたので、たいていの場所に出入りできるようになっている。

 時折、点検して回っているルードランと鉢合わせになった。

 

「本当に、ライセル城は広くて素晴らしいですね」

 

 歩きながら、淡い魔法をまき散らしている。所作としては何もないので会話しながらでも問題ない。探し物は、バザックスとディアートの部屋から見つかった呪いの品の類似品を見つけるように設定してみた。

 全く違う形の呪いの品だと引っかからないかもしれないが、類似の呪いを発していれば、まき散らしておいた魔法が反応してマティマナに知らせてくれる。

 

「マティマナの魔法は、優しい雰囲気だね。とても良いよ」

 

 ルードランは時に一緒に歩きながら、マティマナの魔法の気配を愉しんでいるようだった。

 たくさん歩き回らないといけないが、一旦仕掛ければ何日間か継続して探し物をしてくれる魔法だ。

 探し物は、元より忍耐力のいる仕事ではある。とはいえ机の下などに潜り込んだりしなくていい分、魔法での探し物は苦にはならない。

 

 同じ場所も継続的に魔法をまけば、長い期間、探し物を続けてくれる。

 

「早く、呪いを持ち込むものが特定されてほしいですけど、ちょっと怖いです」

「魔法で何かわかっても、ひとりで行動しちゃ駄目だからね?」

 

 ルードランは、怖がるマティマナに念を押すように告げる。

 

「あ、はい。必ず、ルーさまにお知らせしてから行動します」

 

 呪いがとても怖いから、何かあったとき単独行動はできそうにない。ルードランの言葉に、マティマナは勇気づけられ、必ず頼ることにすると心に誓った。

 

 


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