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異界交易と聖なる品

 極少人数の選定された人々によって、異界とのお試しの交易が始まった。

 厨房の食材担当者が、転移のできる者や荷運びの魔法を持つ者と組んで出かける感じだ。その際には、ルードランか、マティマナか、法師が通行証と言語を与えた。

 

 色々なルルジェの都の特産物などを持たせ、物々交換可能か試しているらしい。

 

「魔法の布が、とても強く望まれているらしいよ」

 

 異界のお試し交易から戻った者と話をしたらしく、ルードランがマティマナに告げた。

 

「あの布、何に使用するのでしょう?」

 

 聖なる力が宿っていると分かるらしいから、清めに使う? でも、そんなに清めないといけない事態なんてあるのかしら?

 マティマナは、ずっと不思議に感じていた。

 

「武器の手入れに使うと、強烈な聖なる力が付与されるらしいね」

 

 ルードランは笑みを深めて噂を教えてくれた。

 雑巾なんだけど? でも、手入れなら使い道として合ってるのかな?

 瞬きしつつも、マティマナは少し納得した。

 

「そんな使用方法があったのですね」

 

 しかし、雑巾を所持して必要なときに武器の手入れをすることで聖なる力を付与する――?

 もう少し、見映えの良い何かにできないかしら?

 マティマナは真剣に考えこんでしまった。

 

 厨房で使うものや、掃除用具、片づけの際に使用する何か……。

 

 考えているうちに、「鍵束を帯に留める根付け紐」「匂い袋」「細い棒などを束ねるときの伸び縮みする輪っか」「紙挟み」「敷布や布巾を束ねる紐」「目印にくっ付ける紙の小片」そんな細々した品が、卓の上へとあふれた。

 

「変わった物があるね」

「魔法の布の代わりになるような品が新たに造れないかしら? と、思ったのですけど。普段に使っている品ばかりでしたね」

「ちょっと、片づけ待ってくれるかい?」

 

 マティマナが片づけようとすると、ルードランが慌てて留めた。

 はい、と、マティマナは頷き、手の動きを止める。

 

「普段、使っている物? 初めて見るよ。触ってもいい?」

「はい」

 

 目新しそうにしているのを不思議に感じたが、考えてみれば確かに、他の者が使っているところは見たことはない……かもしれない。

 

「マティマナが造るものは、どれも聖なる力があると思うんだ。これは、どうやって使うのかな?」

 

 輪っかを手に、伸び縮みすることに気づいたらしくルードランが訊いてくる。

 

「こういうのを束ねたり、筒にした紙とかも留められますね」

 

 いいながらマティマナは、根付け紐を二十本くらい出して輪っかを伸ばしながら留め、修繕用に使う紙も出して筒にしながら留めてみせた。

 

「あっ、マティマナ、この紐みたいなのも、紙も、今造ったのかい?」

「え? あ、そうですね。造ってます」

「これ、全部、聖なる効果が付いてるよ、きっと」

 

 ルードランは端から品の使い方を訊くので、簡単な説明をしながら無意識に使い勝手を見せるための品も造っていた。

 

「こんなに色々なものが造れたんだ!」

 

 確かに、ルードランと一緒に城中を回っていたりした頃は、雑巾や布巾や敷布のような、魔法の布っぽいものばかりを使っていた。

 

「そういえば、こういうのも出せましたね」

 

 買い物籠のたぐいや、小振りのゴミ箱の類いも、造っていたと思いだし、造ってみる。

 

「ああ、これは見たことがあるよ」

 

 少しホッとしたようにルードランは呟いた。

 棚を整頓するときのりや、小物整頓用の小箱も出せる。とはいえ、雑巾を出すのが最も楽ではある。

 

「無意識に、色々造ってたんですね」

 

 マティマナは何気に自分で驚きながら呟いた。

 

「この小さな、貼り付く紙とか、聖なる効果が付くなら便利そうだね」

 

 ルードランはかなり高揚した気配だ。ただ、マティマナ自身では、聖なる力が付いているのか良く分かっていない。誰かに確認してもらう必要はありそうだ。

 

 

 

 法師に確認してもらうと、マティマナが造った品々は洩れなく強い聖なる力が働いているとのことだった。

 使い道が正しいかはともかく、武器に付けることで聖なる力の付与ができるらしい。

 伸びる輪は、剣のつかの根元に簡単に巻けるし、根付け紐は柄の飾りとして付けやすい。とかで。試しに異界での物々交換に使用したところ、小さいものでもかなりの買い付けが可能だったそうだ。

 

「需要があるとはいえ、マティマナに聖なる品を造らせ続けるのはどうかと思うんだ」

 

 ルードランは悩ましげに呟いた。

 

「わたしは構いませんよ? 片づけしているのと変わらないです」

「何しろ、他の特産物では、まったく物々交換ができないようだからね」

「そんなに需要があるって、不思議ですけど?」

 

 聖なる力を武器に付与する必要が、そんなにあることが奇妙だ。聖なる力の使い手が居ないのだろうか?

 

「やはり、隣国からの侵略に備えているのではないかな? ときどき、死霊系が迷い込んできたりしているのかもしれないね」

 

 憶測だけれど、と、ルードランは呟き足した。

 

「それは怖いです。ベルドベル国の死霊に、そんなに効果覿面(てきめん)なんですかね?」

「実際、マティマナの魔法を少し浴びただけで、死霊蟲が消えていた」

 

 そういえば、マティマナがいるだけで、ひれ伏す兵士もいた。

 鳳永境(ほうえいきょう)の者たちは、聖なる力を敏感に察するのに、聖なる力の扱い手はいないのかもしれない。

 とはいえ、マティマナ自身は、聖なる力を使っている実感などないのだが。

 

「ガナイテール国のお役にたてるなら、何より交易に有利なのでしたら、いくらでも造りますよ?」

 

 内職感覚だ。ちょっと楽しい。

 

「委託もできないし、品に魔法を浴びせただけだだと徐々に力は弱まってしまうし。マティマナに造ってもらうしかないかもしれない」

 

 困惑した表情のルードランに、マティマナは笑みを向けた。

 

「歩いて魔法を撒いていたのと、あまり変わらないですよ?」

「歩くのなら、一緒に回るのだけどね」

「こうして時々、一緒にお話できたら、わたしは嬉しいです」

「話をしていたら、気が散ったりしないかい?」

「ルーさまとお話できるなら、もの凄くはかどりますよ!」

 

 倍くらい造れます! と、マティマナはうきうきしながら告げた。

 

 


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