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爵位

 鳳永境(ほうえいきょう)の市場でルードランが選んでくれた小窓に良さそうなガラスを、法師が出してくれた。

 確かに、丁度良さそうな窓枠がある。マティマナは窓枠とガラスを見比べながら思案していた。

 

「もしかしたら、修繕で設置できるかも」

 

 建具屋に木枠を作ってもらうのが良いのかもしれないが、余りにピッタリにガラスが嵌まりそうだった。

 窓枠の修繕感覚で、いけそうな気がする。

 

「それは、良さそうだね。試してみるといいよ」

 

 ルードランの言葉に頷き、元からの木枠は分解掃除するときの要領で外した。

 そしてガラスを宛がってみると少し隙間はできるが良さそうな大きさだ。魔法を撒きながら固定し始めるとガラスと石造りの穴の隙間を、装飾を描くように修繕用の粘土が取り巻いて行く。

 

「あ、綺麗に嵌まりそうです!」

 

 何度か魔法を撒き、綺麗な位置に嵌め込んだ。ガラスの周囲を漆喰的なものが綺麗な模様となって取り巻き接着している。魔法で固定したが、外すこともできそうだ。

 

「ああ、これは綺麗で面白いね」

「開け閉めできる方がよければ、扉状の木枠に嵌めて窓扉にすると良いかもしれないです」

 

 ちょっとピッタリすぎて木枠は無理かもしれないが、一応、提案しておいた。

 

「ここは、これで良いよ。ガラスの周囲がとても綺麗な模様になっているし」

 

 ガラスの使い勝手が皆に分かって良い感じかもしれない。

 

 

 

 一籠の果物は、侍女頭に頼んで厨房に運んでもらい、少しずつ試食できるように手配してもらった。

 個数の多いものは、調理人と仕入れの者も試食して異界への買い付けの計画を立てるようだ。

 

「魔法の道具造りに便利らしいの」

 

 霊鉱石と灰鉱石は、そんな風に告げバザックスに渡した。一緒にいたギノバマリサも、興味津々だが、宝石魔法に使えるものとは少し違うようだった。

 ドレスは、侍女たちの手でマティマナ用の衣装部屋へと丁寧に運ばれていった。

 

「また、異界で買い物してみたいです」

 

 ただ、物々交換のために雑巾以外の良い品がないものか、その辺りが気掛かりで、マティマナは少し思案顔だ。

 

「品が豊富すぎるから、少し調査してもらうほうが良さそうな気がするよ」

 

 ルードランは思案気に呟いた。確かに異界の者には平気でも、人間界の者には違う効果をもたらす品が混じっていそうな感じはしていた。

 

「物々交換に良い品も、何か見つかると良いですね」

「その辺りも異界で試して貰おうか」

「異界の市場の調査だと、転移が必要ですよ?」

「人を臨時雇いしてみようか。家令に手配させよう」

 

 毎回、今回の一行(いっこう)で行くわけにはいかないから、確かに専用の者を雇うほうが良さそうだ。

 

 

 

 当主への報告など適宜済ませ、城での寛ぎ着に着替えさせられた後でルードランに呼ばれた。

 キーラの他に、家令が控えている。

 

「爵位、キーラに教えてもらいながらルルジェの都での配置図を作ってみたよ」

 

 キーラは、ガナイテール国の爵位を把握したように、ルルジェの都の上級貴族の順列が即座に把握できたようだ。

 公爵家がふたつ、どちらも姓はライセルで分家なので領地名で呼ばれることになる。

 ディアートの両親の領地であるク・ヴィクの街は、ク・ヴィク公爵家。

 ルードランの祖父母の領地である、ドヴァの街は、ドヴァ公爵家、という形だ。

 

「ああっ、実家(うち)は、本当に侯爵家になるんですね」

「それは、もう。当然でしょ」

 

 キーラが胸を張る仕草で言い切った。

 

 侯爵は、五家。その中に、マティマナの実家であるログス家も入っている。ログス侯爵家だ。

 裏王家からの一代限りのジュサートと呼ばれる王子を養子にしている上級貴族もここに含まれた。

 

 伯爵は四家。皆、富豪貴族。

 子爵と男爵は四家ずつ。ここには、富豪貴族ではないが、権威ある上級貴族が含まれていた。

 

 この爵位が取り入れられたら、実家は大騒ぎだろう。

 富豪貴族でも爵位なしの家も多いから、爵位を手にいれる方法が色々と取り沙汰されることだろう。

 

「マティの実家も、今はマティの姉夫婦がログス家の一員だから侯爵家ってことでいいけど、姉夫婦が独立するなら、別途に伯爵家なり子爵家なり賜る感じになるでしょうね」

 

 キーラが補足説明してくれた。

 

「父上から爵位に関しては一任されたので、まあ、僕の一存だね」

 

 ルードランは笑みを深める。

 ルルジェの都の貴族たちの序列が一気に明らかになったことで、落胆する者も多いだろう。

 

「爵位の解説と、爵位による配置図を急ぎ正式書類にいたします。爵位を取り入れるには王宮からの許可が必要です」

 

 家令は、そう言いながらも比較的愉しそうな表情だ。張り切って王宮を納得させる書類を作成するつもりなのだろう。

 

「王宮、認めてくれますかね?」

「王宮自体は取り入れないだろうけど、許可はでると思うよ? それに他の王家由来の貴族も取り入れるだろうね」

 

 ルードランは確信したような表情だ。長く続く今までの身分制度では、どこも不都合がでてきているということなのだろう。【仙】の管轄でも取り入れる可能性があるよ、と、言葉が足された。

 王家の統治が長くなり、いにしえの制度である現状のくくりのままでは、【仙】の管轄でも貴族をまとめて行くのに不便を感じるようになっているらしい。

 

「序列は大事よ!」

 

 キーラも勧める。

 

「先の話だけど、帰ったらカルパムでも、取り入れるように話してみようかしら」

 

 思案気に小鳥の姿で、手すりを歩きながらキーラはさえずっていた。尾羽振りつつ可愛い。考えごとを始めると、鳥の姿に戻るようだ。だが、キーラはカルパムの都で爵位が取り入れられると半ば確信しているようだった。

 

 カルパムの都は【仙】が管轄する城塞都市。

 

 ユグナルガの国には、王家が設定している身分制度の他に、その昔、天人の代理によって任命されたのが始まりの【仙】という存在が治める領地がある。独立した領地として王家も手出しはしない。しかし、王家の代理として各地を護る役割を担っている。

 特に、異界との厄介な通路を管理できる絶大な力を持つ雲の上の存在だ。

 

 今回、キーラは、そんな【仙】の元から派遣されてライセル城に来ていた。

 

 

 

 ライセル家からの鳳永境の爵位を取り入れたいという提案は、すぐに王都、王宮へと届けられた。

 意外にも、直後に了承されている。

 その際、驚いたことに、ライセル家は小国の王家という位置づけにされていた。鳳永境におけるガナイテール国と同じ扱いだ。

 

 詳細は、王家直系と呼ばれる五家と、すべての【仙】に通達された。

 五家と【仙】は、爵位を取り入れるなら、小国の王の扱いが許可される。だが、元よりの立場は変更なしだ。

 

「確かに、元々独立した自治の都なのだけどね」

 

 ルードランはだいぶ驚いている。東の辺境や、西の辺境で、時折、小国として独立を企てる都はあるのだが、それらは独立と共に王宮からの保護から外される。だが、今回の爵位を取り入れることによる小国は、王宮の保護を受けたままという破格さだ。

 

 うわぁ、王家に嫁ぐ形になっちゃったかも?

 マティマナは、日々刻々と変化して行く状況に目眩(めまい)を覚える気分だった。

 

 


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