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戦闘に巻き込まれる

 市場(いちば)から転移で異界通路まで戻ってくると、通路のある広場で公爵家の家臣たちが騒いでいる。騎士たちは、地面方向に攻撃していた。

 

「何をしているんだい?」

 

 近くの騎士にルードランが訊いた。

 

「砦は無事です。ただ、小さな死霊蟲が、隙間から入り込んできてまして」

「まもなく退治おわります」

 

 騎士たちは、一匹ずつ剣で消滅させている。地道だ。

 

「今のうちに、お通りください」

 

 通路を下ることを勧められたが、足元に蟲が迫ってきていた。

 

 

 小さな、といっても、握りこぶし大くらいの昆虫が多い。ざわざわと広場を埋め尽くしつつあった。

 

 ひゃぁぁぁぁっ!

 足元に近づいてきている死霊蟲だという昆虫らしきに、マティマナは心のなかで悲鳴を上げた。黒に紫が混じったような色合いだ。

 

「全部、死体よ、これ」

 

 ふわふわ浮いているキーラが呟く。

 

「死んでるのに、動くの?」

 

 ざわざわと嫌な感覚に襲われながらマティマナは訊く。

 

「死体に魂魄擬(こんぱくもど)きを入れてるわね」

 

 悠長に話などしている状態ではなさそうだ。異界通路を下りろといっても、このままでは、きっとこの蟲は通路に入ってくる。

 

「きゃあああっ!」

 

 不意に、死霊蟲のなかでも小さめの黒いものが舞い上がって近くに来られ、マティマナは悲鳴を上げながら、無意識に魔法を撒き散らした。ふわりと魔法が降り、蟲に当たるとパアアァァッっと、発光する。

 まばゆい光に触れた死霊蟲は、爆発したように光って消えて行った。

 

「あ、雑用魔法が効くの?」

 

 吃驚(びっくり)しながらも近くの蟲が消えたのでホッとして呟いた。

 撒いていいかしら、と、ルードランへと訊いていると、お願いします、と、騎士たちが口々に唱えている。

 

「凄いね、マティマナ! 僕も、やってみよう」

 

 弓を使う機会なんて滅多にないからね、と、言葉を足しつつルードランは腕輪の武器を弓に変え、光の矢をつがえる。

 ルードランは次々に遠くの大きめな死霊蟲に当てていた。蟲は矢張り、光って消える。自動で当たるかのように、放たれた魔法の矢は全て蟲を消しながら消滅していた。

 

「私も」

 

 法師は錫杖型の杖をとりだし、稲妻のような技を繰り出している。細く枝分かれした光の先端が確実に蟲を消して行く。複数退治できて良い感じだ。

 歓声の上がるなか、マティマナは、広範囲に雑用魔法を混ぜて撒いた。何が効いているか、分からないので手当たり次第混ぜる。キーラは、空を飛び砦の方へと近づいて行く。

 空を高く飛ぶ敵はいなそうだ。

 

「砦に穴を開けられたようね。砦の修復はできたみたい」

 

 戻ってきたキーラは告げた。

 

「じゃあ、ここの広場のを片づければいいのね?」

 

 マティマナは魔法を撒きながら、徐々に砦側へと移動している。

 砦側では、騎士達が剣で足元の死霊蟲を、やりにくそうに退治していた。

 森のなかに逃げ込まれると厄介そうだが、死霊蟲は公爵城を目指していたようだった。ほとんどが石畳風の広場にいる。

 

「あ、剣に魔法が!」

 

 マティマナの魔法が剣に触れると、刃は綺麗に発光するようだ。その剣で死霊蟲に触れると、簡単に光分解して退治できている。

 

「すごい聖なる力の付与だ!」

 

 無差別に魔法を撒いていたので、かなりの人数の騎士の剣に魔法がついたようだった。

 

 

 

 マティマナの魔法と、ルードランの光の矢と、法師の稲妻が次々に死霊蟲を消して行った。騎士たちも頑張っている。

 広場から砦までは、荒れ地が拡がっていた。

 荒れ地にも魔法を撒き、砦の直ぐ間近まで来ている。

 砦は、高い岩場が避けたような場所に組み上げられた石垣だ。

 

「この砦の向こうは、ベルドベル国です」

 

 かなりの高さまで石が積まれているが、砦というよりは侵入を防ぐための壁に近い。

 一応、階段めいたものが作られているので、向こう側の監視はしているのだろう。

 

「砦にも、魔法、撒いておきますね」

 

 残った少しの死霊蟲をまだ追いかけている者はいるが、だいたい片づいた。マティマナが、砦へと魔法を掛けると、綺麗に発光する。

 

「おお。なんて美しい聖なる光! これならば、敵の侵入を防げそうです!」

 

 護りの騎士たちが、嬉しそうな声を立てている。

 何度か撒くと魔法は砦の石の隙間を修繕するように、粘土状のもので埋め強固なものとなったようだった。

 

「ベルドベル国の言語が手にはいったけど、どうする?」

 

 死霊蟲の退治が終了したあたりで、キーラが皆に訊く。

 

「あの蟲たちも言葉を喋るの?」

 

 ぞっとしながらマティマナは訊き返す。

 

「蟲は言葉は喋らないけど、人型に近いような死霊は喋るみたいよ」

 

 ちょっと眉根を寄せたような嫌そうな表情でキーラはさえずる。

 

「怖いけど、もらっておきたいかなぁ」

 

 マティマナは、いざベルドベル国の者と遭遇してしまったときを思うと、言葉が交わせるほうが良い気がした。

ルードランと法師も受け取ることにしたようだ。

 キーラは、三人へと光の粒を飛ばした。他の者に与えられるように、更に魔法を与えてくれている。

 

 希望する騎士にも、キーラは気前良く言語を渡していた。

 

「死霊蟲の退治へのご協力、深く感謝いたします」

 

 馬で駆けつけてきたグウィク公爵は、馬から下りると丁寧な礼と共に感謝の言葉を述べた。戦いに加勢してくれたのが意外だった様子だ。

 

「ベルドベル国の言語を、習得なさったのですか?」

 

 続けて小耳に挟んだのだろう、侯爵はキーラに訊いている。

 

「わたしは言語が専門よ!」

「ぜひ、私にも、分けていただきたく」

 

 小さなキーラへと、懇願するように丁寧な礼をしている。

 

「ええ、いいわよ! あなたには、他の者に与えられるようにしておくわね」

 

 キーラは、何度か光の粒を飛ばしている。

 ベルドベル国と交渉するとしたら、この公爵が担当だろう。

 今まで、ほとんど言葉を交わせないままに、隣国と戦闘状態だったということのようだ。ただ、隣国とはいえ、死霊使いの国だというし、通常の交渉が可能なのかは謎ではあるが。

 

 死霊蟲は死骸がないので、広場はすっかり元通りの景色となった。

 騎士たちと、グウィク公爵に見守られながら、マティマナたちは異界通路の螺旋階段を下ってライセル城へと戻って行った。

 

 


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