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お忍びで骨董市

 魔法の練習をしてみようか、というルードランの提案で、比較的地味な衣装を着せられ中庭に誘われた。

 ルードランの衣装も上品ながら目立たない雰囲気になっている。

 

「ルーさま、どんな衣装でも、とてもステキです!」

 

 却って美貌が引き立ちすぎてしまう感じはした。

 

「マティマナこそ! 何を着ていても本当に綺麗だよ」

 

 いつもながら手を繋ぎながら中庭の中央辺り。

 

「どんな魔法が使えそうなんですか?」

 

 転移の他にも、試してみていることはあるようだ。だが、どれもマティマナと手を繋いでいるときに発動しそうな感じらしい。

 

「試してみたかったのは、これ!」

 

 特に、どんな、とは言わないままだが、ルードランと手を繋いだまま身体が浮かび上がって行く。

 

「あ、これ、ルー様が? ああ、凄い、どんどん浮いていきます!」

 

 ふわふわと浮かび上がって行くが、足元に見えない床がある感じだ。城の二階、三階、四階、と、見る間に上がって行き、やがて城を見下ろす感じになった。

 

「自由に飛べる感じではないのだけれど。やはり浮かべたね。ちょっと手を離すよ」

「え? 手を離して大丈夫なんですか?」

「浮いて止まっているときは、たぶん平気」

 

 たぶん、との言葉が少々不安ではあったが、繋いだ手が離れても浮いたままだった。ルードランは、見えない床が、どのくらいの広さなのか足先で探るような仕草だ。

 

「わりあい広いみたいだね。でも、端まで行っても落ちはしないみたいだ」

「凄いです! きっと、何かに必要なんでしょうね。遠くまで見渡せて、気持ち好いです」

 

 今は塔の最上階よりは低いけれど、きっともっと高くまで上がれるのだろう。

 手が繋ぎなおされ、ゆっくりと下降して行った。

 

「じゃあ、次は転移を試してみようかな?」

 

 ルードランは手を繋いだまま笑みを深める。

 ルードランの転移は、ロガの事件以来だ。あのときは、マティマナの魔法をつけたロガを追いかけた。

 

「転移の行き先って、好きに選べるのですか?」

「行ったことのある場所には限られるみたいな感じだよ」

 

 そう囁くと、ルードランは早速(さっそく)マティマナと手を繋いだまま転移していた。

 

 

 

「あら? ここは?」

 

 城の外、というか、かなり賑わう場所の近くだ。

 

「ああ、上手く転移できたようだね。今日は、骨董市が開かれていると聞いたから、マティマナと来てみたかったんだ」

「ルーさま、骨董市、来たことあったんですね!」

「旅にでたとき、丁度、ここでの骨董市を見たよ」

 

 マティマナの知っている骨董市よりも、規模は大きそうだ。

 地味な服装は、骨董市にお忍びででかけるためだったのかな? と、気づいた。ふたりの衣装は、周囲の雰囲気からさほどに浮いていない感じだ。

 

 広大な空き地に、処狭しと茣蓙(ござ)を敷いたり、低めの卓を用意したり、各自工夫しながら様々な品を並べている。手を繋いだまま、ルードランはゆっくりと歩いて行く。

 骨董品のなかに光って視える品が、あちこちにあった。

 

「ルーさま、なんだか不思議な品がたくさんあります」

「そのようだね。マティマナの眼には光って視えているようだ」

(あ、光った石が……)

 

 小振りな石だ。色合いは綺麗だけれど、置物にするには地味かもしれない。でも、どうして光っているんだろう? マティマナは神々しい光が気に掛かって足を止める。『ご自由にお手にとってご覧ください』と、書いてあるので軽く膝を曲げて低い卓から光る石を手にしてみた。

 

(私は空鏡の魔石です! マティさま、買い取って私を所有してください! 骨董市は居心地が悪すぎます)

 

 手に取った途端(とたん)に語りかけられた。

 名前を呼ばれて驚いたが、声は出さずにいる。ルードランには、心の驚きは伝わったろう。

 しかし、空鏡の魔石? 魔石というからには何か魔法が使えるのだろうが、どんな魔法なのやら見当もつかない。

 

「ああ、じゃあ、その石を買おう」

 

 手を繋いでいたし魔石との会話は聞こえていたのだろう。ルードランは、売人と話をつけてくれている。無事に買い取れたらしく、紙に包まれて渡された。マティマナは、お使い用の買い物カゴをだし、紙に巻かれた品をおさめた。

 

「ルーさま、ありがとうございます!」

 

 歩きだしながら礼を告げる。

 

「魔石なら、普通、こんな金額じゃ買えないね。ちょっと余分に渡しては置いたけど」

 

 ルードランは悪戯(いたずら)っぽい表情で笑んだ。

 

「そうですよね。たぶん、店主さん、魔石だって知らなかったですよね」

「どんな効果なのか、だいぶ気になるね」

「バザックスさまの研究によいのかも」

 

 たくさんの店で、光る品は皆、それぞれに異彩を放っているが、付けられた値は、十把一絡(じっぱひとから)げだ。

 

(うわぁ、なんでこんな値段なの? ていうか、わたし、どうしてこんな査定ができちゃってるの?)


 雑用魔法の範疇(はんちゅう)ではなさそうに思うのだが。

 マティマナが頻繁に驚いているのが、ルードランには愉しいらしい。

 何やら色々発見しつつ、ずっと手を繋いだまま心で会話し買い物を続けた。

 

 

 

 ルードランとマティマナは、自分たちには、お揃いの宝石箱を購入した。少し埃をかぶっていたが、綺麗になるはず。その場で魔法を使うのはまずいので、城に戻ってから。

 義父母には小振りな置物を土産にした。なんだか良さそうな高級品の気配がしている。

 ディアートには、髪飾り。

 

「マティマナは目利きだね!」

「あ、えーと、なんだか光って視えてますから」

 

 光って視えているのは、ルードランも分かっている。価値がありそうなものほど、光は強く視えた。

 

「今度、宝物庫の謎の品とか、見てもらおうかな?」

「わぁ、鑑定なんてできませんよ?」

「でも、不当な扱いの品は、きっとわかるだろう?」

 

 何やら愉しそうにルードランは笑みを深めた。

 

 転移で城に戻り、主城内用の寛ぎ着に着替えてから、ルードランと一緒に買い物の品を吟味した。

 雑用魔法を混ぜて掛けると、どの品も汚れが綺麗にとれて真っ新な状態になる。

 少し薄汚れているほうが骨董品らしいかもしれないが、綺麗になりすぎて骨董品らしさは皆無になった。

 

「これは……どれも、一級品だね!」

吃驚(びっくり)ですね」

 

 骨董市の店主たちに申し訳なく思いつつも、良い品が手に入ったのは心から嬉しい。

 

「こ、これは! 高価だったのでは?」

 

 魔石を手にしたバザックスは、手を震わせて驚いていた。

 

「魔石だと店主は気づいてなかったようだよ。少し余分に支払っておいたけど格安だろうね」

 

 マティマナが見つけたんだ、と、ルードランは誇らしげにバザックスに告げている。

 

義姉上(あねうえ)素晴らしいものをありがとう。私が頂いて本当に良いのか?」

 

「はい! きっとバザックスさまのお役に立てる品な気がしました」

 

 どんな魔石なのか、そのうち教えてくださいね、と、言葉を足しておいた。

 

 ギノバマリサにも土産を届けた。掘り出し物の宝飾品と裸石の詰め合わせだ。マティマナは綺麗だから、という理由で土産にしたのだが、ギノバマリサは踊りあがって喜んでいる。

 

「まぁ、マティお義姉(ねえ)さま! 私が宝石魔法を使うって、ご存知でしたの?」

「ええっ! そうだったの? 綺麗で、マリサにピッタリだと思ったの」

 

 ギノバマリサは、お守りとして鎖に宝石飾りをつけて首にさりげなくつるしていた。他にも魔法のために宝石を揃えて所持しているようだ。ギノバマリサが使うのは、エルフたちが使う宝石魔法に似ているらしい。

 ライセル夫妻も、ディアートも、骨董市で購入の品をことほか喜んでくれた。

 

「また、骨董市が開かれたら出かけてみようか」

 

 ルードランは愉しそうに笑みを向けて囁いた。

 

 


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