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イハナ家の洗浄

 呪いが残存しているイハナ家の城へは、法師ウレンが転移で近くまで連れて送ってくれた。だが、呪いが酷く法師は城には入れないので外で見張りだ。

 マティマナは、まず庭を含めた城全体に魔法を撒いた。

 

「魔法の範囲が、ものすごく拡がりましたね」

 

 法師が驚いている。低めの城壁で囲まれたイハナ城は、ルルジェの都にある城のなかでも有数の敷地面積の広さを誇る。聖女の杖の効果だろう。その全体に薄く魔法は拡がって撒けた。

 幸いにも城の外では、呪いの痕跡は見つからない。

 

 だが、城の中は、全く勝手が違っていた。

 マティマナはルードランに手を繋がれながら歩き、魔法を撒きはじめる。呪いを探すのは久しぶりだ。

 

「あ、なんだか懐かしい感じですね」

 

 魔法を撒きながら、見つかった呪いの品を一点ずつ魔法の布で拾って包み、籠に入れる。

 

「確かに、久しぶりだね。良い状況じゃないけど、マティマナと一緒の仕事は楽しいよ」

 

 呪いの残存の酷さには心を痛めている様子だ。布に包んだ品を入れる籠を運んでくれながら、ルードランは応えた。

 城が丸ごと呪いに汚染されているようなものだ。だが、手を繋いでもらえているから安心して進むことができる。

 

「あ! 呪いの品と同等に呪いが染みついた場所があります!」

 

 撒いた魔法が床や壁に反応している感じだ。建物の一部が、呪いの品と化している。

 

「それは、厄介だね」

 

 取り外して持ち帰るわけにもいかない。

 

「取り敢えず、魔法の敷布を貼っておきますね。呪いを少しずつ消せると思います」

 

 強い呪いの範囲に雑用魔法を混ぜて何度も浴びせた。そのくらいでは効果はないので、魔法の敷布を魔法の洗濯糊で貼り付けた。除去には時間がかかりそうだ。

 

「貼り付けておくのは、良い考えだよ。糊から魔法がにじんで効きそうだ」

 

 魔法を撒きながら廊下を進み、一部屋ごとに魔法で満たす。呪いの品が見つかれば魔法の布に包んで回収。城内を歩きながら、どんどん魔法を撒いた。

 

 

 

 ロガが使用していた書斎は、改めて入ると全体が呪いの品になっているような気配だ。こんな場所に飛び込んでしまって、良く無事に帰還できたと、今更ながら蒼くなる。

 書斎からは、膨大な数の呪いの品が見つかったので、ルードランに持って貰っている籠を大きくした。持ち手は付いているが、相当な重さになっている。

 

「当分、イハナ城は閉鎖だね。マティマナに無理をさせたくはないし」

 

 全部の回収は終わっていないが、一区切りだろう。何度も通うしかない。

 

「あちこち、呪いで汚れた場所には敷布を貼りましたし、じわじわと浄化されるのを待つ感じですかね」

 

 それでも呪いの除去は聖王院からも任された仕事でもあるし、ルードランと一緒なので作業するのは嬉しい。

 敷布だらけになったイハナ城は、誰も入れないように、しっかりと封印した。

 帰りも、回収し封じた呪いの品の籠ごと、法師が転移してくれた。

 

 

 

「ロガの行方(ゆくえ)は、全く追えていないようです。指名手配されているのに目撃情報もないらしく」

 

 ライセル城へと戻ると法師は溜息交じりに告げた。

 法師の部屋の大きな収納箱へと回収した呪いの品を入れ、マティマナは魔法を振りかける。

 

 王宮から指名手配されると、結晶化を身につけた者には対象者が光って視えるようになるらしい。ロガの指名手配は既に組み込まれている。

 

「身体を入れ替えても、指名手配は有効なんでしょうか?」

「イハナ家当主の身体ではなく、ロガの魂と、半解凍の悪魔を指名手配にしていますから、別の身体に入っても有効ですね」

 

 王宮で指名手配にする際、呪いの品に込められた呪いから、ロガの魂の有り様と、半解凍の悪魔の存在が特定できたらしい。

 

「次に逢うことがあれば、僕やマティマナには姿を変えていてもロガが分かるんだね?」

 

 とはいえ、さすがに指名手配されたことは悪魔憑きのロガも分かっているだろう。迂闊(うかつ)な行動はしないはずだ。

 

「そうです。結晶化で捕らえられると知ったでしょうから、近づいてはこないと思いますが」

 

 指名手配されたからには何か対策はするだろうし、大っぴらには動かないだろう。

 

「聖王院から、招待状が来ているようだね」

 

 ルードランは話題を変え、法師へと確認するように訊いている。

 

「ええっ? 早速(さっそく)、お招きなんですか?」

 

 まだ大夜会から、そう何日も経っていない。

 

「はい。ルードラン様と、マティマナ様を、小式典にお招きしたいとのこと。おふた方には、ぜひ奉納舞いを、とのことです。転移で私が、お連れします」

 

 馬車での移動ではないことに、マティマナは少しホッとした。ライセル家の馬車は乗り心地は最高なのだが、聖王院のあるカージュガイの都は、王都の隣でそこそこ遠い。

 神獣などで空の移動が最近は一般的になっているが、一度も乗ったことがないから、それも怖い。

 

「修道院が本格的に始動するのも合わせての式典です。聖女育成のための修道院ですから、ぜひともマティマナ様とルードラン様にご出席いただきたいとのことです」

「衣装は問題ないし、移動手段も確定しているなら、後は踊りの練習くらいかな?」

「あああっ、頑張りますっ!」

「食事会なども無しの軽い式典ですから、気楽に参加なさってください」

 

 気楽に、と言われても、聖王院は元々女人禁制の場だ。

 修道院ができ、女性の法師である聖女の育成に入ったという経緯(いきさつ)はあるにしても、緊張するなというほうが無理がある。

 それでも、聖女を目指す女性たちに逢えるらしいので、マティマナは愉しみな気分にはなっていた。

 

 

 

「ルーさまは、どのような衣装になるのですか?」

 

 空き時間に、広間で踊りの練習をしながらマティマナはルードランに訊いた。奉納舞いの曲は決まっているが、同じ曲ばかりでは退屈だろうと、ルードランは色々な曲を演奏させている。

 

「本来、貴族には正装はないからね。だけど、王宮や聖王院へ出向く用の衣装は常に整えられているよ」

「それは、とても愉しみです!」

 

 ライセル家が王宮や聖王院に出向くときには、他の王族由来の大貴族たちも勢揃いすることが多いだろう。

 そういう場でのルードランの衣装となると、マティマナは想像力が追いつかない。

 

「マティマナの正装をまた見ることができそうで嬉しいよ。今回、僕はマティマナの正装に合わせた衣装になるはずだよ」

 

 ゆったりとした、ふたりで踊り続ける曲に合わせて身体を動かしながら、会話が弾む。

 ルルジェの都を視察して回るより先に、都を越えて聖王院へと出向くことになった。

 だいぶ緊張はするけれど、ルードランと一緒の旅だ。ルルジェの都から出たことのないマティマナにとっては、わくわく感のほうが強い感じではあった。

 

 


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