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緑の正装【一章・完結】

 緑の正装を身につけ、ルードランに連れられて再登場すると、ざわめきが起こった。見たことのない形の衣装だろう。マティマナも初めてみた。

 天からの指定である【仙】と、それに準ずるもののみが身につけることが許された代物だという。

 手に持たせられている聖なる杖からは、相変わらず魔法があふれだしていた。

 

「ああ、マティマナさま、なんて美しいんだ!」

「これは神々しい……強烈な神聖なる力!」

 

 次々に、感嘆する声が聞こえてくる。

 

 薄絹が重ねられた襟の胸元は結構、露出している。重ねの一番上の布の素材は、堅めに織られている緑の艶絹で、同色での豪華な刺繍が施されている。

 胸の下からは幅広の刺繍帯、帯より下は、重ねられた薄衣が美しく流れ大きく拡がっていた。

 ふわりとした表面の薄絹には、緑色の小さい宝石がちりばめられている。

 

 長い袖は柔らかい素材と、宝石あしらいの薄衣の重ねで、手首に近い方の広い縁は艶緑の糸で華やかな装飾が施されていた。

 

 頭に乗せられているのは、女性用の冠らしい。金細工で真ん中に大きな緑の宝石がきらめく。同じ大きな宝石が、揃いの豪華な首飾りの中央にも飾られていた。衣装にも冠にも、全体にきらめく大量の小ぶりな宝石もちりばめられている。

 

「この装束はドレスというのだそうだよ。この冠は、ティアラと呼ぶらしい」

 

 聖王法師ケディゼピスの前まで歩み寄って行くと、そんな風に告げられた。天上よりの賜り物であるという衣装は、とても軽く、身体に優しく沿ってくれている。

 

「このように立派な品……畏れ多いです」

 

 飾られた大きな宝石だけでも、値段の付けようもない価値だろう。

 

「雑用魔法は、聖王院の基礎たる神聖な清めの魔法だ。マティマナ殿は、聖なる力を強めて使いこなしておられる。これこそ聖女たるに相応しい力である!」

 

 聖王法師は、マティマナの隣に立つと高らかに宣言した。

 拍手と喝采とが、轟音のように響き渡っている。

 雑用魔法は、聖王院認定のものとして大々的に評価されていた。

 

 

 

 ざわめきが続くなか、大夜会に楽団の音楽が戻った。聖王院の院長来訪で中断されていたが、踊る者たちも増え、歓談しながらの豪華な食事を愉しむ者もでてきている。

 

「マティマナ殿のお陰で、修道院での教育に良い影響がありました」

 

 そろそろ会場から去ろうとする聖王法師は、マティマナへとにこやかに告げた。

 

「修道院?」

「ええ。女性の法師、すなわち聖女育成のための、施設となります」

「わたし、修道院で学んでませんが、大丈夫なのでしょうか?」

「マティマナ殿は、修道院で学ぶ必要など全くありません! 講師になってほしいくらいです」

 

 え? 講師? 掃除や片づけくらいしか教えられないかも?

 マティマナは心でぐるぐると考えてしまった。

 

「それこそが聖王院の基本! 素晴らしい!」

 

 心を読まれたらしく感動した調子の言葉をかけられた。

 

「マティマナ殿とルードラン殿の結婚式にも、ぜひ、出席させてくれたまえ」

 

 優しい笑みを浮かべて院長は告げる。願ってもないことだ。

 ライセル城は、とても美しい、と、聖王法師ケディゼピスは清められた状態に感心した表情を浮かべ転移で消えた。

 

 

 

 ルードランに連れられて挨拶回りをするうち、ログス家の一角へと辿り着いた。ルードランは丁寧に挨拶をした後で、マティマナをそっと家族のほうへと押し出す。

 

「たいへんだろうけど、重税はダメよ?」

 

 領地が増えたログス家。マティマナは、父母に向かい小さく囁いた。

 

「あらあら。マティの力が働く領地で、不正なんてできるわけないでしょう?」

「でも、広大な領地になっちゃってたいへんね」

「お前の姉夫婦が手伝いに戻ってくれるそうだ」

 

 大夜会にも、姉夫婦は参加してくれている。今までのログス領を任せることにしたらしい。それにログス家を継ぐ弟は聡明だ。程良く育ってきているから、きっと役に立ってくれるだろう。

 

 

 

 そっと大夜会のざわめきから抜け出して、マティマナはルードランに誘導されながら歩いていた。

 人のいない廊下を、豪華なドレスで進む。裾が歩く度にふわふわと拡がり、ルードランの足元も掠めている。

 不思議と踏まれず、マティマナ自身も踏みそうで踏まずに済んでいた。天上よりの品ならではの機能なのかもしれない。

 

「マティマナ、本当に綺麗だ……! 今度、そのドレスと似た形で、新しいドレスを造らせるよ」

「まあ? そんなことが可能なんですか?」

「聖王院から形の許可は貰えたからね。後は、衣装係が奮闘してくれるだろう。きっと、都で流行(はやり)のドレスになるよ」

「このドレスのままでは踊るの怖いですから、嬉しいです」

「ん? 王宮での奉納舞いと、聖王院への奉納舞い……マティマナはそのドレスで踊るんだよ?」

 

 え? このドレスで、しかも王宮や聖王院で踊るのぉぉ?

 困惑して動揺していると、声が届いてしまったのか笑みを向けられた。

 愉しみだなぁ、と、ルードランは夢見るような表情をマティマナへと向けてくる。

 

 

 

 少し歩き、ルードランは塔へと入って行く。

 魔方陣から一気に最上階。

 

「ここなら、ようやく、ふたりきりになれるかな?」

 

 夜の塔は、最上階に点る灯りが淡い。遠くの暗い夜景が仄かに見えていた。

 

「とても素晴らしい賑わいの大夜会ですね」

 

 どきどきしてしまい、マティマナはついつい見当外れの言動になってしまう。

 ルードランは向かい合う形で、マティマナの身体を抱きしめてきた。マティマナは反射的に腰へと軽く腕を回す。

 

「もう、ずっと、抱きしめたくって、うずうずしてたよ」

 

 少し身体が離され、片手の指におとがいが捉えられていた。顔が近づき、唇が淡く重なる。

 甘いキスの感触に、めまぐるしすぎた大夜会での緊張感が一気にほどけた。

 

「ルーさま……」

 

 囁きながら、うっとりと青い眼を見詰める。もう一度、キスが届けられた。

 

「マティマナ、愛してる」

 

 不意に囁かれ、瞳をみはり、マティマナの心は慌てすぎて大騒ぎだ。

 

「あ、ぁゎゎっ……わたしも……愛してます!」

 

 嬉しすぎ、言葉を失いそうになりつつ、マティマナは必死で告げた。

 真っ赤になっているけれど、暗がりだからきっと分からないだろう。

 

「ああ、早く結婚したいなぁ」

 

 ルードランはマティマナを抱きしめながら、しみじみと呟いた。

 

 

 

                 (一章・完)


(あとがき)

一章・完結しました!

ここまでお読みくださり感謝です!

 

少しでも面白いと思っていただけましたら、ぜひ評価してくださいませ!

執筆の励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

数日休んで、二章に入ろうと思ってます。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「この装束はドレスというのだそうだよ。この冠は、ティアラと呼ぶらしい」 え…ドレスとティアラの存在が珍しい世界だったんですか!?洋風の世界観なら有るのは当然と思ってましたが…ドレスが…
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