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耳縁飾りとお告げ

 ライセル城は、大夜会の準備で大忙しとなっている。とはいえライセル家に滞在しっ放しのマティマナは、ルードランの婚約者ということもあり、大夜会の準備とは今のところ無縁だ。

 なので、引き続き内密での呪いの除去を続けていた。

 

 ルードランは公務が増え、ときにマティマナを伴っての任となるが一緒の散歩めいた機会は減っている。

 

「もう、呪いの品はありませんし、残存している棘を捜すだけです。ひとりで大丈夫ですよ?」

 

 マティマナはにっこり笑みを向けて告げるが、ルードランは全く言葉を信用してくれない。

 

「見張っていないとマティマナは絶対無理をするからね」

 

 ときどき公務の合間に、的確に合流してきてルードランは囁く。

 耳縁飾り同士の連動が良く、ルードランはマティマナの居場所をすぐに見つけられるようだ。

 

「ちゃんと休憩しながら魔法撒いてますよ?」

 

 手を繋がれながら応える。ウソではないし、ウソをついたとしてもバレバレだ。

 呪いの棘は、ほとんど見つからなくなっている。呪いの除去をしないで魔法を撒くだけだから、さほどに疲れない。ただ、ついでなのであちこち魔法で磨いている。

 

「昼は、控えの間で一緒に食べよう」

 

 少し一緒に歩いた後で、ルードランはそう囁き残して次の公務へと向かった。

 繋いだ手の温もりで、すっかり元気になっている。

 マティマナは昼までの時間、張り切って魔法を撒き、床やら壁やら磨き上げた。

 

 

 

「兄上、義姉上(あねうえ)、ライセル家の身体は特殊なようですね」

 

 昼食を済ませた頃合いに、バザックスが通り掛かって控えの間に入ってきた。

 

「特殊? 何か、違いがあるのかい?」

 

 ルードランは、不思議そうにバザックスへと訊く。

 バザックスは、適当な椅子を引っ張ってきて座ると、夢見るような表情を浮かべた。

 

「ポレスの身体は、酷く窮屈だったよ。入れ替えられたばかりで馴染んでいない、というのもあったろうけど。思考が制限されてしまって参った。あれでは魔道も使い難いだろうな。この身体に戻って、いかに優秀な身体か思い知らされた感じだ」

 

 改めて礼を言うよ、と言葉が足された。

 バザックスはしみじみと、ポレスの身体から元に戻れたことを安堵している。

 

「ロガは、バザックスさまの身体を乗っ取ったとき、素晴らしい身体だと歓喜してましたものね」

 

 マティマナは思いおこしながら応えるように呟く。

 

 ポレスとバザックスでは、身体に余程の差があるに違いない。王家の血筋は伊達ではないのだろう。ポレスの身体であれだけの凶悪な魔道を使っていたのだから、バザックスの身体を完璧に手に入れられていたら、こちらには全く勝機はなかったに違いない。確実に、ライセル家はロガのものだった。

 

「ライセル家の身体が特殊かはさておき、バザックスの身体は優秀なのだね」

 

 ルードランはにこにこと笑みを向けながらバザックスに告げた。

 

「そうだ! 兄上と義姉上の耳縁飾り、古文書に記されていたよ! 当主の証として、ライセル家が王家から独立した際に天から授かった品だとか」

 

 バザックスは精力的にライセル家の歴史を調べている。その一環として古文書から記述を見つけたのだろう。やはり、とても古い物であると同時に、天からの授かり物などという、とんでもない品だった。

 とはいえ返却しようにも、耳から外れない。

 

「それは、凄いね! 今度その古文書を見せてくれないか?」

 

 ルードランも興味津々だ。

 

「あら、その耳縁飾り、そんないわれのあるものだったのね」

 

 控えの間を通り過ぎようとしたライセル夫人が、戻って部屋へと入ってきて告げた。

 

「母上、何かご存じなのですか?」

 

 ルードランの言葉に、ライセル夫人は笑みを深めた。

 

「何年か前ですが、祝いの夜会の直前に、お告げがあったのですよ。祝いの際に手伝いに来てくれた若い娘たちにライセル家の宝物庫から贈り物をするように、と指示されたの。マティの耳縁飾りが指定されていたのよ? 他の品は、お告げの話を聞いた夫が一緒に選んでくれたものだった」

 

 二、三年前の話だ。

 

「お告げだったんですか!」

 

 マティマナは驚いたように声を出し、夫人は笑みを深めて頷いた。

 夫婦で選定したという品は色々あったが、マティマナは真っ先に選ばされ、この極小の飾りを手にした。

 

「働き者のマティが、その耳縁飾りを選んでくれて、とても嬉しかったのよ」

「ああっ、恐縮ですっ!」

「僕の飾りも、お告げとマティマナのお陰で見つかったのだよ」

 

 ルードランは母とバザックスへと自慢するように、マティマナと揃いの耳縁飾りを示した。

 

 

 

 大夜会の準備は、凄い勢いで進められている。

 バザックスの婚約者であるレノキ家令嬢ギノバマリサは、だいぶ早くにライセル家へと来訪した。

 レノキ家の執事が大きな衣装箱とギノバマリサを連れて転移で現れている。もう、話は通っていたようで、衣装箱はギノバマリサの滞在する部屋の控えの間へと運ばれて行き執事は早々にレノキ家へと戻った。

 

「レノキ家は、退屈なの。お忙しい最中(さなか)で申し訳ないのだけど」

「いやいや。大歓迎だよ、マリサ」

 

 そわそわしているバザックスを、ちらっと眺めながらルードランは嬉しそうに応える。

 

「お義兄(にい)さま、お義姉(ねえ)さま、逢えて嬉しいです!」

 

 マティマナの両手を取ってはしゃぎながらルードランへも視線を向け、ギノバマリサは満面の笑みだ。

 そして、すすすっ、と、バザックスのそばへと寄って行った。

 

「バザックスさま、早く嫁いできたいです」

 

 バザックスに手を取られながらギノバマリサは切実そうに囁く。真っ赤になったバザックスは、それでも威厳を保ちながら、ギノバマリサを誘導して行く。早速、どこかに案内するのだろう。

 

「マティマナは、衣装の試着が待ってるよ。とっても豪華なものが用意できたはず」

 

 ひゃああ、ルーさまが豪華と言うなんて、一体どんな代物が?

 マティマナは、ちょっと身震いする思いだ。

 だが、聖王院の院長が来るというのだから、相応の衣装をまとう必要があるだろう。

 

「試着、なにやら怖いです」

 

 マティマナは、小さく呟いた。

 

 富豪貴族が三家も下級貴族へと降格したこともあり、今回の大夜会では下級貴族へも積極的に招待状を出している。三家は謹慎中なので大夜会への参加はない。

 だが側室狙いの令嬢たちは、こぞって参加希望するだろう。ルードランの弟バザックスが参加する、という噂も飛んでるからだ。大夜会がバザックスの婚約発表の場でもあるので、まだおおやけにされていない。

 大夜会での令嬢たちの失望は甚だしいものだろう。

 

「僕は、当日を愉しみに待つよ」

 

 マティマナは試着のために指定された部屋へとルードランに誘導されて歩きながら、すっかり癖になってしまった魔法を撒き続けていた。

 

 


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