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三家の処分とログス家

 マティマナは地味目ながら威厳のある衣装を着せられ、薄茶の髪は半結いでさり気なく飾りが付けられた。

 迎えに来たルードランも、威厳の感じられる装束だ。華美ではないのに、もの凄く麗しい。

 

「三家の処分が決まったのでね。僕が告げる。マティマナは僕の付き添いだよ」

 

 マティマナの手を取って歩きだしながらルードランは、そっと囁いた。

 

「あ、それで。こういった衣装なのですね」

 

 厳粛な場に合わせた衣装が、マティマナの分まで用意されていて驚いた。

 

「そう。マティマナ、とても良く似合っているよ。お揃いで嬉しいな」

 

 緊張してるマティマナへ、にっこりと笑みを向けてくれる。ルードランに任せておけば何も心配はないのだと、そんな気持ちにさせてくれた。

 

 

 

 広間に入ると、イハナ家、ジェルキ家、パーブラ家と、富豪貴族の三家の面々が勢揃いしている。

 イハナ家は、姿の変わってしまった当主ポレスと夫人のロージニア、令嬢ケイチェル、妹のティルット。

 ジェルキ家は、当主夫妻と牢から出されたマティマナの元婚約者ザクレス、その弟。

 パーブラ家も、当主夫妻と、年若い兄弟がふたり。

 

 そして、なぜかログス家の者達も勢揃いだ。マティマナの父母、他家へ嫁いだ姉は夫と、年の若い弟もいる。

 

 四家が広間の中央に配された椅子に、それぞれ塊をつくるように座っていた。

 

 他には、ライセル家の家令と執事たち、法師。軽く武装した騎士たちも脇に立って多数控えている。

 

 三家のものたちは少しざわつきながらも、ルードランとマティマナが正面に立つと緊張した面持ちで黙った。

 

「では、次期当主であり、当主代理のルードラン・ライセルより申し渡す」

 

 早速(さっそく)本題のようだ。ルードランの声は、朗々と綺麗に響く。

 

「呪いによるライセル家乗っ取りに関しては、悪魔憑きのロガが関わる事案で不可抗力だったと判断し情状酌量、イハナ家、ジェルキ家、パーブラ家を罪には問わない」

 

 ロガが遁走したことで、三家の者たちの記憶は、特に呪いに関する部分で曖昧になっていた。取り調べでも、呪いに関わっていた自覚はあるが何をしたのかは覚えていなかったらしい。呪いで操られていた部分はあるのだろう。

 

「ただし、イハナ家、ジェルキ家、パーブラ家の者達よ。過度の重税とかどわかしの証拠はあがっている。イハナ家にしても重税に関してはロガが来る以前からの所業だ。そして奴隷売買は王家が禁じている重罪である。処分として、三家とも下級貴族に格下げ、城と領地、資産は取り上げる。代わりに都境にそれぞれ邸と領地とを用意した。即座に移動してもらおう」

 

 呪いの案件を除けば、妥当な処分だろう。マティマナはホッとする。これで、三家の領民は、重税を課され続けた過酷な生活から解放されるはずだ。それは、マティマナがずっと望んでいたことだった。

 とはいえ、次の領主が良い統治をしてくれる必要はある。

 

「そんな……! あんまりです!」

 

 パーブラ家の当主が叫んだ。身分を格下げされ領地と資金の取り上げとなれば、富豪貴族としてふんぞり返っていた者たちにとっては痛手どころではないだろう。

 

「かなりの温情ですよ。本来であれば、身分剥奪の上、都外に追放か、牢獄行きです」

 

 控えている法師が静かに告げる。確かに、身分は下がっても貴族であることは許された。

 

「冗談じゃないぞっ!」

 

 ザクレスは処分に不満たらたらな様子で、暴れるような仕草で騒ぎ立てているが父母に止められている。こんな場で騒げば追加の処分を申し渡されるかもしれないのに、往生際が悪すぎる。

 

 ケイチェルはぎりぎりと歯がみするような気配で無言だが、もの凄い形相でマティマナを睨みつけていた。

 

「君たちの城の荷物は、早々に新たな邸へと移動が完了している。この沙汰の後には、それぞれ新たな邸と領地とで暮らすが良い。今度こそ、良い統治をしてくれ」

 

 ルードランは、無表情に告げた。

 荷物の移動が完了しているというなら、皆が馬車でライセル城に向かっている間に、法師が荷物を選定しつつ丸ごと転移させたのだろう。

 

 ルードランは、視線をログス家の者たちへと移し、笑みを浮かべた。

 

「続いて、ログス家の者に申し渡す。現在の領地に加え、ジェルキ家の領地と城はログス家のものとなる。良き統治を頼む。なお、イハナ城は閉鎖。イハナ家の領地はパーブラ家の領地と合わせ、当面、ライセル家の直轄とする」

 

 え? あのジェルキ家の広大な領地を、ログス家が統治するの?

 隣で聴いていたマティマナは瞠目(どうもく)するが、なるべく表情を変えないように必死だ。だが、ログス家の面々は、何気に無邪気な歓びかたで湧いている。

 まぁ、うちが統治するなら重税は課さないかな。

 マティマナは、少し安堵した。

 

「ログス家の荷物も、ジェルキ城に運び込んでおきましたよ。あ、ログス城になりますね」

 

 法師がニッコリ笑みを向けて告げ、ログス家の者たちは、あんぐりと驚愕(きょうがく)に声も出せずにいるようだ。

 

「ライセル家とログス家は、もうすぐ親戚になります。ライセル家のためにも、良い統治を望みます」

 

 ライセル家の家令が笑み含みに告げると、ログス家のものたちは何気に大慌てな気配でざわついている。

 娘のマティマナがルードランの婚約者になったというのに、ライセル家とログス家が親戚になる、という事態はピンときていなかったに違いない。

 

 ジェルキ城が、マティマナの実家であるログス城となる。ジェルキ城は元々ジェルキ家が他家から奪った城で、代々の城ではない。何気にとても良い城だ。

 

 

 

「マティマナが実家に行くときは、場所が違うからね? ライセル家からの馬車で、ちゃんと送るけど」

 

 広間を出るとルードランはマティマナと手を繋ぎ、そんな風に告げる。

 でも、ずっとライセル城に居てほしいな、と、囁き足された。

 

「ログス家は、大騒ぎですよ、きっと」

 

 慌てぶりが目に浮かぶ。きっと実家は多忙になるだろう。だが、富豪貴族と縁を結びたがっていた父としては、自らが富豪貴族になるのだから、喜んでくれていると思う。

 

 四家は、それぞれに先導するライセル家の使者と共に、馬車で新たな領地の城へと戻って行った。

 近隣だった三家の富豪貴族たちは、下級貴族としてみやこはずれの遠い地に、それぞれ離されて配置されたようだ。

 イハナ家は、直接的に呪いの品をライセル城に持ち込んでいて見逃せない重罪ではあったが、姿の変わってしまった当主を、ちゃんと慈しむ気持ちがあることに免じ、他家の処分と同等で済ませたということのようだ。お取り潰しにはならなかった。

 

「三家から、ライセル家に送り込まれていた侍女たちも、全員、送り返したよ」

 

 領地も住居も狭くなり、使用人や侍女の数は減らす方向性だろう。その辺り、ライセル家からの使者が調節するに違いない。直轄地にした二家分の城や領地、ログス家にも、使用人が必要だろう。

 

「そうだ! 聖王院の院長が挨拶にくるそうなので、大夜会を開くよ」

 

 ルードランは、不意に話題を変えて弾む声で告げた。

 

「聖王院の院長さまが! 御自(おんみずか)ら?」

 

 驚くべきことだ。マティマナは瞠目して訊き返す。ルードランはにっこりと笑みを浮かべて頷いた。通常であれば、どんな理由があろうと、ライセル家側から挨拶に出向かねばならないはずだ。

 

「やっと、夜会でマティマナと踊れるよ! 愉しみだなぁ」

 

 ルードランは、ずっとマティマナと夜会で踊るのを愉しみにしてくれている。

 

「ああ! 聖王院長さまがいらっしゃるなら、お掃除しなくっちゃ! いえ、ライセル城は魔法での掃除が行き届いてキレイなんですけど。万が一にも呪いが残っていたらまずいです!」

 

 呪いの残骸もほとんど無くなってきているが、念には念を入れないと! 

 

「じゃあ、一緒に城の敷地内を散歩しよう?」

 

 マティマナは「はい!」と応え、魔法を撒く気満々だ。当面は、ルードランと手を繋ぎ、せっせと魔法を撒く生活になりそうだった。

 

 


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